- 公開日:2025/06/30
- 更新日:2025/06/30

坂田桐子氏は『女性リーダーはなぜ少ないのか?』(ちとせプレス)で、リーダーシップとジェンダーに関する最新の研究知見から、女性リーダーが少ない現状と関連する心理的・組織的要因を解説・分析した。女性リーダーが活躍する組織を作るための道筋を詳しく伺った。
- 目次
- 女性リーダーの少なさへの疑問・違和感が研究のきっかけ
- ジェンダー・ステレオタイプが管理職の男女差に影響している
- 本当は「個人差」の方が男女差よりずっと大きく幅広い
- 残業を高く評価する会社は本当の多様性を実現できない
- 女性管理職が増えれば論理的には業績も上がる
女性リーダーの少なさへの疑問・違和感が研究のきっかけ
私は1980年代に大学に入学したのですが、ゼミや部活やサークルなどのリーダーが男性ばかりなのを見て驚きました。高校までは男女の差などほとんどなかったのに、なぜ大学に入った途端、リーダーは男性が多くなるのだろうか。社会人になるとその差がますます広がり、企業の管理職にいたっては、男性が圧倒的大多数なのはなぜだろうか。私はそうした疑問をもちました。
働く女性のなかには、リーダー適性の高い人がたくさんいるはずです。彼女たちが管理職になっていないのはおかしいと感じたのです。私はその疑問や違和感をきっかけに、リーダーシップと集団、ジェンダーやダイバーシティをテーマにした社会心理学研究を始めました。すると、多くの人から「なぜ女性がリーダーになる必要があるのですか」と言われました。そのなかには女性も多く交ざっていたことにも衝撃を受けました。私はこうした疑問や違和感や驚きを大切にして、これまで研究を続けてきたのです。
では、なぜ日本はいまだに女性リーダーが少ないのでしょうか? その問いを突き詰めると、「ジェンダー・ステレオタイプ」に行き着きます。
ジェンダー・ステレオタイプが管理職の男女差に影響している
数多くの先行研究から、ジェンダー・ステレオタイプの内容が分かっています。男性ステレオタイプは、一言でいえば「作動性」です。作動性とは、人間が1人で独立して力強く生きていくために必要な特性のことで、強さ、積極性、行動力、決断力、独立性、競争心などのことです。女性ステレオタイプは、一言でいえば「共同性」です。共同性とは、人間が他者との関わりのなかで生きていくために必要な特性のことで、配慮、温かさ、思いやり、協力性、友好性、従順さ、養育性などを意味します。
そして、管理職やリーダーのステレオタイプは、男性ステレオタイプに類似しています。強さ、積極性、行動力、決断力、独立性、競争心。これらは男性と管理職の両方のステレオタイプなのです。男性と管理職のステレオタイプが近いから、管理職には男性が多いのだと思われます。ジェンダー・ステレオタイプは、このようにして管理職の男女差に強く影響を及ぼしています。
なお、これらのステレオタイプは、日本・アメリカ共に基本的には同じです。また、最近の研究を見ても、さほど大きな変化は起きていません。時代と共に、ジェンダー・ステレオタイプの明確さは弱まりつつありますが、「男性=作動性」「女性=共同性」という基本的な要素は変化していません。
ただし1つだけ、アメリカと日本には違いがあります。日本の女性ステレオタイプは、従順、繊細、愛想がいい、きれい好き、気遣いが上手などの言葉が前面に出てくるのです。つまり、アメリカでは男女が相補的であることが望まれるという意味で、対等な関係性と見なすこともできるのですが、日本の場合は男女の「上下関係」がより望まれているのです。だからこそ、女性管理職がアメリカよりも一層増えにくいのだと考えられます。
それ以外に、人間には自分と似た人に好感をもつ原則がありますから、男性管理職が多い職場では、引き続き管理職は男性が多くなりがちです。また、「システム正当化」の影響もあります。人間には無意識的に既存システムを正当化しようとする心の働きがあるのです。「なぜ女性がリーダーになる必要があるのですか」と言う女性には、システム正当化が起きている可能性があります。こうしたことも女性リーダーが増えない要因の1つと考えられます。
本当は「個人差」の方が男女差よりずっと大きく幅広い
一方で、パーソナリティやリーダーシップに関する能力が、男女で生まれつき大きく違うというデータは、実はほとんど存在しません。
いくつもの先行研究から分かっていることは、「本当は男性のなかの個人差、女性のなかの個人差の方が、男性と女性の間の差よりもずっと大きく幅広い」ということです。つまり、男女の違いでパーソナリティや能力を捉えようとすることそのものが間違いなのであり、あくまでも個人の多様性に目を向けるべきなのです。
企業や社会は、ステレオタイプに影響されて、最初から女性を「リーダーとしての育成対象」から外してしまい、リーダー経験を積めるような職務を与えない傾向があります。当然のことですが、女性のなかにも、決断力や行動力のある人がいます。彼女たちにリーダー経験を積ませれば、きっと立派なリーダーになるでしょう。実際にある研究では、男性リーダーと女性リーダーのリーダーシップ・スタイルにはあまり違いがないことが分かっています。
他方、管理職やリーダーのステレオタイプにも問題があります。当然のことですが、管理職にはある程度の共同性が必要です。周囲と協力したり、メンバーを気遣ったりするのも、管理職の大事な役割なのですから。最近では、部下に奉仕することを重視する「サーバント・リーダーシップ」という概念もあるほどです。つまり、効果的であることが実証されているリーダーシップには、女性ステレオタイプの要素が必ず含まれているのです。
以上のように考えれば、もっと管理職の女性が多く存在していても何の不思議もないはずです。しかし、日本社会では女性リーダーがいっこうに増えません。
残業を高く評価する会社は本当の多様性を実現できない
では、日本企業が女性リーダーを増やすためにはどうしたらよいのでしょうか。
まず重要なのは、ステレオタイプにとらわれることなく女性を「リーダー候補」と見なすことです。そして、「タフに残業する人」「長時間働く人」ほど高く評価される組織文化を変えることです。
今の日本社会では、子育てや介護を主に担当するのは女性であることが多いです。仕事と子育て・介護を両立しようとすれば、当然、残業はそれほど長くできません。一方で、長時間労働を評価する会社で出世できるのは、子育てや介護に多くの時間を割かない人だけになります。そうした組織構造では、女性リーダーが増えるわけがないでしょう。残業を高く評価する会社は、本当の多様性を実現できないのです。
女性リーダーを増やすには、残業以上に「仕事の効率性や質」を評価する必要があるでしょう。また、子育てや介護を経て、いずれ短時間勤務からフルタイム勤務に戻ることを考慮して、中長期的な評価や育成をする必要があるでしょう。もちろん、企業や職種によっては残業を避けられないケースもあると思います。しかし、そうでない企業や職種も多いでしょう。多くの企業は、女性リーダーを増やすためにできることがまだまだあるはずです。
女性管理職が増えれば論理的には業績も上がる
女性管理職が増えれば、論理的には業績も上がると考えられます。なぜなら、能力や適性が高いのに女性というだけで管理職候補と見なされていない女性たちが、きちんと育成されて管理職になれば、結果的に能力や適性の高い管理職が増えるはずだからです。
ただ一方で、先行研究では、女性管理職が増えれば業績も上がることを示すデータとそうでないデータが混在しています。単に女性管理職の人数を増やすことが企業の業績向上につながると考えるのは間違いで、女性管理職を増やす取り組みに伴う組織文化や制度の改善が、業績にプラスの効果をもたらすのかもしれません。つまり、長時間労働を削減し、性別にとらわれず個々人の能力や貢献を多様な観点から評価する方向への体質改善が、女性だけでなく男性の働きやすさも高めることで、会社全体の業績が向上すると考えられます。ジェンダー・ステレオタイプの影響を減らし、管理職やリーダーのイメージを変えて、女性が活躍しやすい組織文化を形作ることは、企業にさまざまなメリットをもたらすはずです。女性リーダーを増やす取り組みを粘り強く続ける企業が増えることを願っています。
【text:米川青馬 photo:平山 諭】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.78 特集1「職場におけるマッチョイズムの功罪」より抜粋・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
坂田桐子(さかたきりこ)氏
広島大学大学院 人間社会科学研究科 教授
1991年広島大学大学院生物圏科学研究科博士課程後期中退。広島大学総合科学部教授などを経て、2020年から現職。『女性リーダーはなぜ少ないのか?』(単著・ちとせプレス)、『社会心理学におけるリーダーシップ研究のパースペクティブⅡ』(編著・ナカニシヤ出版)などの著書がある。
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