- 公開日:2025/06/16
- 更新日:2025/06/16

北居明氏は、人や組織に対して肯定的な見方をする「ポジティブ組織論」の観点から、組織開発や組織文化を研究しています。組織や組織文化をより良くするためには、どのように組織開発を行えばよいのでしょうか。具体的な事例を交えて、詳しく説明してもらいました。
- 目次
- 研究のメインテーマは組織開発
- 問題解決アプローチでは組織開発はうまくいかない
- 組織の長所に目を向けると自ら組織を変えるようになる
- 悪い意味でマッチョな会社では病気になっても休めない
- どんなにマッチョな組織にもマッチョでない部分がある
- カイゼン文化の組織もポジティブ組織論を扱える
研究のメインテーマは組織開発
私はもともと組織文化を研究しており、特に組織内の文化の多様性に注目してきました。しかし10年ほど前からは、組織開発を研究のメインテーマに据えています。組織や組織文化を変えることにより強い興味をもったからです。今日は、ポジティブ組織論を使い、組織開発で問題のある文化や風土を変える方法を提案します。
問題解決アプローチでは組織開発はうまくいかない
私は組織開発を始めた頃、「問題解決アプローチ」で組織変容に取り組んでいました。組織内の問題点を発見してフィードバックし、それを解決してもらう手法をとっていたのです。一見すると、このやり方が正攻法に見えるでしょう。しかし、少なくとも私は、問題解決アプローチで組織開発に成功したことが一度もありません。
あるときなどは、ある企業の全社員にインタビューして、会社の問題点や悪いところを徹底的に洗い出し、経営者に報告しました。しかし、それはかえって経営者と現場の溝を大きくしただけでした。問題解決アプローチは、このような失敗例しか生み出しませんでした。この方法では、組織開発はうまくいかないのです。
組織の長所に目を向けると自ら組織を変えるようになる
問題解決アプローチがうまくいかずに悩んでいた頃、私は社会構成主義を唱えたケネス・ガーゲンの著書を読みました。
その本には、男女間の仲が悪い組織を変えた事例が載っていました。男性社員たちと女性社員たちを同席させ、お互いがお互いに助けられたことを対話してもらったら、自然と仲が良くなっていったというのです。私にとって、このエピソードは目から鱗でした。問題を解決しなくても、組織を良い方向に変えられると知ったからです。
それ以降、私は組織開発のアプローチを180度変えました。組織内の長所や魅力を掘り起こして共有し、良いところを伸ばしていく「ポジティブ組織論アプローチ」をとるようになったのです。そうしたら、私の組織開発は次々に成功するようになりました。組織の長所や魅力を発見し、共有したり伸ばしたりすると、社員のモチベーションが高まり、自分たちで組織を良い方向に変容させていってくれることが分かったのです。
例えば、ある企業の一部門が、ストレスチェックの結果が非常に悪く、病気休職者が多くなっていました。私は、この部門のメンタルヘルス改善に取り組んだことがあります。私は、課長の皆さんに「理想的な職場の姿とそこで働くメンバーの理想的な姿をイメージしてください」と問いかけました。そして、理想的な職場やメンバーの姿を言語化し、職場に共有してもらい、部門ごとに職場を良くするアクションを考えて実践してもらいました。私が関わったのは、たったそれだけです。
ところがその後、その部門は自走的に変わっていったのです。若手が中心となって、部門の長所や魅力に目を向け、組織を良くするアイディアを出し合うようになりました。彼らは、緊急性の高いものから順に、それらのアイディアを実行していきました。また、課長たちが部下の想いを受けて行動宣言文を作り、自らの行動を変えました。そうしたら、ストレスチェックの結果がみるみる改善し、病気休職者はゼロになったのです。
この例からも分かるとおり、ポジティブ組織論アプローチでは「問いかけ」が極めて大切です。最初に良い問いかけができれば、本当にそれだけで組織メンバーの姿勢が変わり、主体的に組織を良くしていくことが珍しくありません。
特に「職場のありたい姿」や「職場における自分やメンバーのありたい姿」について問いかけると、うまくいくことが多いです。なぜなら、メンバーの価値観やバックグラウンドは一人ひとり異なりますが、職場のありたい姿や職場における自分のありたい姿は、案外共通点が多いからです。メンバー全員の目指す方向がある程度一致していることが分かると、一体感が生まれるのです。
それに何よりも、職場やメンバーの理想的な姿について考えると、自然と職場やメンバーの長所や魅力に目を向けるようになります。それが組織を変える力になっていくのです。
悪い意味でマッチョな会社では病気になっても休めない
私は以前、「軽い病気では会社を休めない会社」や「大きな病気になったら会社を辞めなくてはならない会社」の調査をしたことがあります。
こうした会社には、3つの特徴がありました。1つ目は、自分の病気を会社に報告すると、自分のキャリアに傷がつくと思っている人が多いこと。2つ目は、長時間労働を良しとしている人が多いこと。3つ目は、病気になるのは自業自得だと思っている人が多いことです。
これらの特徴は、マッチョイズムに通じるところがあります。マッチョイズムの悪い面が出ているといってよいでしょう。つまり、悪い意味でマッチョな会社では、軽い病気で休めなかったり、大きな病気になると会社を辞めなくてはならなかったりする傾向があるのです。マッチョイズムには一体感などの長所も多くありますが、病気で休めない会社には問題があります。問題のあるマッチョイズムは、変えなくてはなりません。
どんなにマッチョな組織にもマッチョでない部分がある
問題のあるマッチョイズムを変える方法を説明する前に、組織文化の特徴を話します。
組織文化の面白い点は、一見強固なようでいて、実はフワフワしているところです。組織文化や社風は、ビジョンやミッションなどと違って明文化されているわけではありませんから、実際は拘束を強く受けない部門や人物がいるのです。
そのため、組織をよく観察すると、文化や社風には濃淡や多様性があります。例えば、どんなにマッチョな組織にも、あまりマッチョでない部門やチームが必ずあるのです。私たちは、それを「ポジティブな逸脱」と呼んでいます。
ポジティブ組織論では、ポジティブな逸脱を見つけて社内に広めたり、ポジティブな逸脱を社内に増やしたりして組織全体を変えていきます。つまり、悪い意味でマッチョな組織を変えるには、組織内の最もマッチョでない部分を発見し、その部分から知恵を得て、社内に展開していくとよいのです。
例えば、私は以前、ある企業の人事の皆さんと「残業時間を減らす」ことをテーマにしたワークショップをしたことがあります。このときは「忙しかったのに早く帰れた経験」を話し合ってもらいました。まさにポジティブな逸脱について対話してもらったのです。そうしたら、「朝一番に、今日は早く帰りますと宣言したら、早く帰れました」「チーム全員でハッピーアワーに繰り出そうと目標を立てたら、早く帰れました」といったエピソードが次々に出てきました。
同様に「マッチョでない部門やチームの良さ」について話し合えば、悪いマッチョイズムを変える知恵がきっと生まれます。
カイゼン文化の組織もポジティブ組織論を扱える
ポジティブ組織論の話をすると、「我が社はカイゼン文化なので、難しいかもしれません」と言われることがあります。
確かに日本には、製造業を中心として、問題解決によるカイゼンを重視する会社が少なくありません。また、私は病院と関わることが多いのですが、医師や看護師は患者の悪いところを治すのが仕事ですから、普段はポジティブ組織論と正反対の問題解決アプローチをとっています。そのため医師や看護師にポジティブ組織論を説明すると、びっくりされることがよくあります。
そうした会社には、「ものづくりや病気の治療には問題解決アプローチが必要ですが、組織開発にはポジティブ組織論のアプローチが必要なのです。別々に分けて考えましょう」と話します。
実際、病院でも、看護師の新人育成、チームナーシング、医師と看護師のコミュニケーション改善などは、ポジティブ組織論を取り入れた方がうまくいきます。医師や看護師の皆さんも、こうしたことをきちんと説明すれば、よく理解して取り組んでくれます。このように問題解決アプローチとポジティブ組織論アプローチを上手に使い分ければ、カイゼン文化の企業も、組織内の問題あるマッチョイズムを変えていけるのです。
なお、組織文化は現場のものであり、経営や人事のものではありません。しかし、経営が「問題のあるマッチョな組織文化を変えていこう」とメッセージしたり、人事評価に「問題がない組織文化になっているか」を反映させたりすることには、やはり大きな効果があります。経営や人事の皆さんが、組織を良くするために貢献できることは他にも多くあるはずです。
【text:米川青馬 photo:角田貴美】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.78 特集1「職場におけるマッチョイズムの功罪」より抜粋・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
PROFILE
北居 明(きたいあきら)氏
甲南大学 経営学部 教授
1995年神戸大学大学院経営学研究科博士後期課程修了。大阪学院大学経営科学部助教授、大阪府立大学経済学部教授などを経て、2015年から現職。専門は組織文化論、組織開発論。著書に『学習を促す組織文化』(単著・有斐閣)、『職場の経営学』(共著・中央経済社)などがある。
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