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インタビュー

北海道大学 亀野淳氏

採用手法を多様化して新卒採用の理想を追求してみては

  • 公開日:2025/01/10
  • 更新日:2025/01/10
採用手法を多様化して新卒採用の理想を追求してみては

亀野淳氏は、労働省(現・厚生労働省)で働いた後、民間シンクタンクを経て、2001年から北海道大学で職業キャリア教育論を研究している。特にインターンシップには、大学教員として黎明期から関わりながら研究を続けてきた。亀野氏に、日本のインターンシップの現状や今後の可能性について詳しく伺った。

日本のインターンシップは期間が非常に短い
理想の採用は長期インターンでじっくり見極めることでは
採用手法を多様化すれば優秀人材の取りこぼしも防げる
低学年向けに教育目的中心のインターンシップを増やそう
日本の新卒一括採用を少しずつ変えていこう

日本のインターンシップは期間が非常に短い

私が2001年に北海道大学で働き始めたとき、インターンシップはまだ一部の人しか知らないものでした。私はその頃からインターンシップに関わりながら研究してきました。例えば現在、北海道大学キャリアセンターは2014年から経済同友会と連携し、学部1・2年生限定の特別インターンシッププログラムを実施していますが、私は本プログラムの企画運営にも携わっています。研究をするだけでなく、インターンシップを行う立場でもあるのです。

さらに、現在は教育界から職業界を見ていますが、労働省時代には職業界から教育界を見ていました。民間企業で働いた経験もあります。今日はそうした複合的な視点から、インターンシップについて思うことをお話ししたいと思います。

日本のインターンシップには、海外と比較して3つの特徴があります。

1つ目は、最近まで少なくとも建前上は「採用選考活動ではなかった」ことです。欧米では採用に直結するインターンシップも多くありますが、日本では2022年まで、インターンシップを採用選考活動にしてはいけないルールになっていました。これは文部省(現・文部科学省)が中心となってインターンシップを導入した影響が大きいと考えられます。彼らは教育効果を重視したのです。

しかし当然ながら、日本でも多くの場合、実質的にインターンシップは採用選考につながっていました。日本のインターンシップは、こうして国の理念とは乖離した形で広まりました。

2つ目は、「期間が非常に短い」ことです。海外のインターンシップは、月単位で実施するのが普通です。アメリカでは数カ月の長期インターンシップも珍しくありません。しかし日本では、初期は2週間が一般的でした。私は徐々に期間が長くなり、海外に近づくと予想していましたが、現実は逆でどんどん短くなり、今では1週間でも長いくらいです。このインターンシップの期間の短さは、日本特有です。

理想の採用は長期インターンでじっくり見極めることでは

3つ目は、インターンシップの主目的が「母集団形成」であることです。海外では、インターンシップで個人の能力を見極め、採用するかどうかを決めることも多くなっています。しかし日本では、新卒採用の母集団を大きくするために短期インターンシップを実施する企業が大半です。

この背景には、日本独特の新卒一括採用と採用スケジュールがあります。もはや有名無実化していますが、企業の採用選考活動は、大学卒業・大学院修了前の6月からと決まっています。しかし、多くの企業が前年からインターンシップでいち早く母集団形成を行っているのです。

新卒一括採用では、大企業は100人レベルの採用が普通で、多いところは500人以上採用します。そのためには、できるだけ多くの母集団を形成しなくてはなりません。だからこそ、企業はできるだけ多くの学生を短期インターンシップに呼び込む必要があるわけです。

しかし、こうした制約をいったん横に置いて考えると、企業と採用候補者の両者にとって理想的なのは、海外のような長期インターンシップで適性や相性などをお互いにじっくりと見極め、納得し合った上で採用・入社することでしょう。この手法は入社後のミスマッチが最も少なく、活躍する人材採用に最もつながりやすいはずです。

採用手法を多様化すれば優秀人材の取りこぼしも防げる

しかし、新卒一括採用のもとで長期インターンシップに振り切るのは、企業にとっても学生にとっても現実的ではありません。

そこで私が提案したいのは、「採用手法の多様化」です。例えば、ある企業が100人の新卒学生を採用する場合、50人は既存の新卒一括採用、20人は長期インターンシップ、残りの30人は通年採用というように、新卒一括採用を維持しながら、他の採用手法を組み合わせて新入社員を採用するのです。こうすれば、現状のやり方を大きく変えることなく、長期インターンシップなどを新たに導入し、新卒採用を理想の形に近づけていくことが十分に可能でしょう。

採用手法の多様化には、もう1つのメリットがあります。それは「優秀人材の取りこぼしを防げる」ということです。

新卒一括採用の欠点の1つは、乗り遅れた学生の就職が難しいことです。例えば、大学3年や4年で海外留学をした学生で、帰国したら行きたかった企業の募集が終わっていたというケースがあります。また、日本での就職を希望する海外留学生が、新卒一括採用の仕組みを分かっておらず、タイミングを逃すケースも何度も見てきました。

この一群のなかには、優秀な学生がたくさんいます。新卒一括採用は彼らを取りこぼしているという負の側面もあるわけです。そこで例えば、大学卒業・大学院修了直前、あるいは卒業・修了後に新たな採用ルートを設ければ、従来とは違うタイプの優秀人材を採用できるかもしれません。

また、中小企業にとっては、他社と違った面白い採用手法を生み出すことが、採用上の大きなチャンスになることも考えられます。採用手法の多様化にはさまざまな可能性が秘められています。

低学年向けに教育目的中心のインターンシップを増やそう

一方で、私は学部1・2年生の学生たちに、就職をあまり意識しない「教育目的中心のインターンシップ」への参加を勧めています。

なぜなら、たとえ短期間でも、早いうちに企業で働き、職場を覗いてみることは、会社とはどのようなところか、働くとはどういうことか、大学の学びが実社会でどう役立つか、社会がどのような仕組みになっているかを知り、考え、理解を深めるきっかけになるからです。

そうしたきっかけは、もちろんボランティアや海外旅行、サークル活動などでも得られるかもしれません。ただ、教育目的中心のインターンシップも選択肢に加えた方がよいと思うのです。

なお、教育目的中心のインターンシップは、大学主導がよいでしょう。実はアメリカでは、企業主導・採用目的中心の長期インターンシップとは別に、大学が主導して企業と共に実施する就業体験プログラム「コーオプ教育」が昔から存在します。日本にも、大学主体・教育目的中心のインターンシップを広めることが肝要です。だからこそ、北海道大学では冒頭で触れた特別インターンシッププログラムを実施しているのです。

この種のインターンシップは、就職にまったくつながらないわけではありません。実際、学生が学部1・2年時のインターンシップで就業した企業を気に入り、改めて就職活動を行って入社したケースはあります。その際、低学年時のインターンシップがプラスに働いた可能性はあるでしょう。これはこれでかまわないはずです。実際には、すべてのインターンシップは教育と採用の両方に寄与するのですから。教育目的と採用目的を明確に分けることはできないのです。

日本の新卒一括採用を少しずつ変えていこう

私は、新卒一括採用を一気にガラリと変えるのは難しいと考えています。なぜなら、企業も学生も現状のシステムにある程度は満足しているからです。100%の満足はないと思いますが、70%くらいは満足しているはずです。だからこそ、この仕組みが長く続いているのです。

ですから、私は新卒一括採用を少しずつ変えていくことを提案します。コロナ禍では、オンライン会議システムを活用した面接や広報などが増えました。これは本学のような地方大学にとって、特にありがたい変化でした。こうした小さな変化が積み重なった結果、いつの間にか大きな変化が無理なく起こるのが最もよいと思います。

例えば、私は大学教員として、新卒一括採用の早期化が進み、勉学に悪影響を与えている現状に危機感を覚えています。特に大学院修士1年での就職活動は、明らかに研究の妨げになっています。これは新卒一括採用の問題の1つです。

官公庁・企業・大学のすべてで働いてきた経験からいえば、大学・大学院での専門的な学びは、実際にはさまざまな面で仕事に役立ちます。例えば、論文執筆を通じて、論理的思考や批判的思考を鍛えることができます。学会発表はプレゼンテーション能力やコミュニケーション能力の向上につながります。歴史を学んで歴史観を身につけることは、実はグローバルなビジネス環境で働く上で確実にプラスになります。理系はもちろん、文系の学びも企業で十分に生かせるのです。

ですから今後、企業には、学生の勉学を妨げることが自分たちにとってマイナスであることを理解し、よりよい仕組みや手法を徐々に築いていってもらえたらと思います。そのようにして多様な採用方法に少しずつ変えていきましょう。

【text:米川 青馬 photo:津田 明生子】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.76 特集「『選び・選ばれる』時代の新卒採用」より抜粋・一部修正したものです。
RMS Messageのバックナンバーはこちら

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
亀野 淳(かめの じゅん)氏
北海道大学 高等教育推進機構 教授 大学院教育学院 教授 キャリアセンター センター長

2001年北海学園大学大学院修了。労働省(現・厚生労働省)、民間シンクタンクを経て、2001年北海道大学高等機能開発総合センター助教授。2021年4月より北海道大学高等教育推進機構教授。『人材育成ハンドブック』(共著・金子書房)などの著書がある。

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