「ITテクノロジー×人材開発」最新動向 Ed techで変わる企業におけるラーニングの在り方

執筆者情報
ソリューション統括部
事業開発部
主任研究員
石橋 慶

アメリカでは、ITテクノロジーを活用したビジネスパーソンのラーニングが少しずつ浸透し始めています。また、日本国内においても集合研修で実施しているコンテンツをオンラインで配信するなど、企業におけるラーニングにITテクノロジーを活用したいという要望が増えています。しかし、「ITテクノロジーを活用したいけれど、何から手をつけたらいいのか分からない」という企業も増えてきているのではないでしょうか。本記事では、従来のラーニングにおける課題を整理し、これからのITテクノロジーを活用したラーニングを考えるためのヒントを提供します。


ITテクノロジー×人材開発はどこまで進んでいる?

まずはHR techの動向から見てみましょう。HR techとは、AIなどの最新テクノロジーを採用や育成、タレントマネジメントなどに応用していく手法のことです。すでに人材採用領域には数多くのサービスがあり、例えば求人と応募者のマッチングや、採用管理システムなどはご存じの方も多いと思います。

HR techの応用は人事基幹システムから始まり、少しずつ日常の職場にも広がってきています。例えば、コミュニケーションツールや、タスク管理ツールなどはすっかり身近なものになっています。ITテクノロジーの活用を通じてデータが「見える化」され、さまざまな分野で効率化が進んできました。

では、ITテクノロジーは企業内のラーニングをどのように変えていくのか。ITテクノロジーを教育に応用することは、特にEd techと言われていますが、今後はラーニングの「見える化」「自動化」「日常化」が進み、1つの場所に受講者が一斉に集まる従来の集合研修だけではなく、日常のなかで効果的に学べるようになると、私は考えています。

しかしながら、企業の人材開発領域に関しては、Ed techを活用したサービスはまだ多くありません。サービスを提供するためのプラットホームはありますが、それを使ってどのようなラーニングを提供するのかは、まだあまり語られていない印象です。人が労働時間のなかで学びに費やせる時間は、わずか1%というデータもあります。その1%の質を高めるためにEd techをどう活用していくのか、議論すべきではないでしょうか。

アメリカではEd techを活用した
学習の「実践」がスタートしている

Ed techの活用例としては、オンライン会議やマイクロラーニングの活用などが知られています。
※「マイクロラーニング」とは、1〜5分程度で学べる動画やWEBなどの細分化された学習コンテンツを学習者に提供し、学習者が好きなときにそれらにアクセスするラーニング方法です。
また、最近ではVR/ARの活用も試みられています。

VR/ARは、スピーチや高所作業のトレーニングなどで活用されています。VRによってスピーチへの不安が約20%軽減されたという報告や、10人中9人の高所恐怖症がVRによって緩和できたとの報告もあります。

すでにアメリカでは、ITテクノロジーを活用した研修の割合が増えています。インストラクター主導の集合研修と、ITテクノロジーを活用した形式のラーニングに費やす時間の比率の差は年々縮まっているようです。

では、実際にどのような取り組みがあるのか。アメリカ最大の人材開発カンファレンスATDでは、バーチャル研修のつくり方についてレクチャーするセッションや、モバイルラーニングの設計を行う担当者向けのセッションが開催されていました。こうした状況から考えると、すでに企業内ラーニングにおけるEd techの活用は、いよいよ「実践」のフェーズに入っているといえます。

一方、国内を見た場合はどうでしょうか。『日本の人事部 人事白書2017』の調査によると、「OJT」「社内/社外講師による研修」「異動・配置転換」が、人材育成の三本柱となっており、まだITテクノロジーを活用したラーニングは比率は低い状況です。スマートフォンやタブレットなどのモバイル端末を利用したモバイルラーニングは約2割という状況です。

ATDのデータによると、調査した企業の38%がマイクロラーニングを活用し、42%が将来の導入を検討すると回答しています。このあたりからも日本との違いが見えてきますが、集合研修をすべてEd techを活用したラーニングに置き換えればいいという話ではありません。まずは企業の人材開発の目的や現状を明確にしてから、Ed techをどのように活用するかを検討することが必要です。

理解と実践の間に壁がある「応用的スキル」

企業の人材開発は、等級に応じた必須研修と、個人のニーズに合わせて選べる選択型研修という分け方が一般的です。その場合、階層別研修のような必須の研修は集合研修の形態で実施し、それ以外はeラーニングや通信教育、社外講座を活用するというように、目的に合わせて手法を選ぶかと思います。モバイルラーニングについても何にでも適用すればいいのではなく、これは受講してほしいというメッセージを伝えたいものは集合研修で実施するなど、目的と照らし合わせることが大事です。

また、人材開発のスキルは、「固定的スキル」と「応用的スキル」の大きく2つに分類できます。固定的スキルは、プログラミングやマーケティングなど、学んだことが実践されやすいスキルです。応用的スキルには、マネジメントやファシリテーションなどがあります。こちらは、学習者が状況に応じて適用していかなくてはならないため、実践に移すのが難しいスキルです。

弊社も応用的スキルを開発するサービスを多く提供しています。受講者の満足度をヒアリングすると、多くの人が「よく理解できた」と答えてくれます。しかし、実際の業務で活用できているか尋ねるとあまりよい答えが返ってこないことも……。研修を受講しただけでは、理解と実践の間にある壁を乗り越えられないことがあります。しかし、今後ITテクノロジーを活用することで壁を取り除き、実践を促せるのではないかと考えています。

すき間時間を活用した「反転学習」の効果に着目

働き方改革の推進や受講者の多様性が進んでいくなかで、集合研修の抱えている難点が浮き彫りになっています。3日間かけていた研修を2日間にするなど、時間を短縮したいという研修の企画担当者の声や、若手の受講者から、「講義中心なら集まる意味がない。スカイプでできますよね?」というような声も増えてきました。多忙を極めるなかで、1〜2日を割いて集まることの動機づけが難しくなっています。

このような環境で効果を発揮するのが「反転学習」です。反転学習とは、WEB上での動画視聴などを通じて基本知識を理解しておき、集合研修で実践・応用するという手法です。拘束時間を短縮できるだけでなく、事前にインプットすることで集合研修の目的理解を促し、動機づけをすることができます。大まかな内容を理解した上で研修に臨むことで、学習効果も大きくなります。

eラーニングについては、すでに導入している企業も多いと思います。ただし、満足度は必ずしも高いわけではありません。集合研修の内容をWEBテキストに落としただけの内容では、受講者は退屈してしまうからです。また学習者自体の変化に着目すると、今はそもそもテキストよりも動画で学ぶ人が増えています。特に今の若手社員は、長時間学ぶことが苦手ですし、そもそも情報を記憶しようと思っていない傾向があります。必要なときに必要な情報を引き出せればいいと考えているからです。

そこで注目されているのがマイクロラーニングです。例えば、店舗教育の場合、あいさつや礼儀などのカテゴリに分け、短い時間で動画コンテンツを用意しておけば、学習者は必要な部分だけを見て学べます。また、より効果を高めるためには、学習者がそれらのコンテンツに触れるポイントを決めておくことが重要です。例えば、期初の目標を立てるとき、プレゼンテーションをするときなど、必要なときに必要なコンテンツにアクセスできる環境を整えておくと、日常のなかで学びが起こりやすくなります。

「応用的スキル」を実践に結びつけるには?

応用的スキルは、すぐに実践に結びつかないという話をしました。矛盾するようですが、実践しないと身につかないスキルでもあります。経験を通じて振り返りをすることでよりスキルが定着し、さらなる実践につながります。だからといって、人事が対象者の振り返りまでをフォローアップするのはなかなか難しいのが現実。もちろん、従来のeラーニングでは実践の振り返りまではフォローアップできません。ここにITテクノロジーの出番があると考えています。

まずは、実践することを忘れないようにブーストをかけることが可能です。学んだ後、タイミングよくリマインドをかけるだけでも忘却リスクを大きく軽減できます。

具体的には、集合研修やeラーニングの後に、2日、2週間、2カ月というタイミングで、マイクロラーニングやAIコーチングを提供する方法が考えられます。各タイミングで事例のインプットをしたり、クイズに答えたりすることで、学んだことが定着しやすくなるわけです。こうしたアプローチが、実践を継続していくために極めて重要だと考えています。

またソーシャルラーニングも、理解を浸透させ、実践に結びつけるために有効です。ソーシャルラーニングとは、受講者同士のつながりをつくって、学習を促進させる手法です。利用した43%が「同僚とのFaca to Faceによるやり取りで学ぶことが増えた」、69%が「仕事上の新たな改善案が同僚とのやり取りから得られた」、51%が「仕事上で学んだことを同僚にシェアした」と回答しています。

本人の内省を深める効果的な「問い」を投げかけることで経験学習を促進する、AIコーチングの活用も今後広がるでしょう。前述のように、実践を継続するためにはリマインドをかけることが重要です。AIコーチングでは、「何が起こった?」「どのような意味がある?」「次に何をする?」といったように経験学習につながる問いを投げかけます。上司やコーチの役割をAIに置き換えることにより、内省を促すことで学習の質を高められるというわけです。

「マネスタ」に見るEd tech活用事例

最後に、Ed techを活用した人材開発サービスの、弊社での事例を紹介します。マネスタは、新任マネジャー向けのモバイルラーニングシステムです。「部下に仕事を任せられない」「部下を育成できない」「チームづくりができない」などといったピープルマネジメントに課題を持つマネジャーが、3〜4カ月かけてマネジャーとして自走できるように成長を促していきます。

具体的な流れとしては、最初に多面評価を通じた現状診断をします。多面評価結果の解釈を本人とした上で、新任マネジャーがよくぶつかる12個の場面を再現したケーススタディや、過去のマネジメント経験の内省を通じて、マネジメントの原理原則を学びます。それを踏まえて職場で行うアクションを設定して、実践した上で、その結果を持ち寄り、同僚のマネジャー間で相互学習をするという構造です。

新任マネジャーがプレイング業務に埋没してしまうパターンがよくありますが、自分の持っている仕事をメンバーに渡すことで、メンバーの成長を促し、自分の負荷軽減も実現できます。そういうトライを繰り返し、その都度振り返って気づきを得ます。経験を通じて学びを固めていく、経験学習をサポートする仕掛けがちりばめられているのです。
このサイクルを3カ月の間に複数回まわします。人により内省が生じるポイントは異なります。また、そのタイミングを事前に正確に予測することは困難です。故に、3カ月間という期間にわたり、サーベイ、モバイルラーニング、リアルの場面における相互学習といった異なる刺激を与え、伴走することを重視しています。そして、こうした支援施策は、経験の浅いマネジャー時代にこそ効果的です。従来であれば工数等の問題から実現できなかったこうした手の込んだ施策が、Ed techの進展で比較的手軽に展開できるようになったことは大きな変化であると感じています。
※Powell,K.S. and Yalcin,S (2010) Managerial training effectiveness: A meta-analysis 1952-2002

ちなみに、マネスタのモバイルラーニングの完了率は98%です。また、一連の施策の効果を、本人アンケートおよび対象ユーザーが所属する組織における組織診断結果で測定しています。マネスタ受講前後で比較した結果、本人の認知、職場の認知と共に、「任せて育てるマネジメントの実践」や「方針の共有、施策の実行」という観点で変化が見られました。

Ed techの活用を考える前に学習の目的を明確にしよう

重要なのは、「どの層にどのような行動が期待されているのか」「どのようなスキルを身につける必要があるのか」「そのための学習手法は何か」など、目的と手段の検討を重ねることです。Ed techをどうやって活用していくかを考えるのは最後で構いません。
例えば、マネジメントの基本を学ぶマイクロラーニングを作成して、管理職昇進前の人に提供しても効果は薄いでしょう。現実的にマネジメントを期待されていないからです。しかし、同じコンテンツでも、昇進後の困っているタイミングで提供すれば、そこでの効果は全く異なったものになります。いくらEd techを活用したとしても、対象となる学習者のニーズとずれてしまえば意味がありません。

学習の目的は各社それぞれ異なると思いますが、「社員が自律的に学ぶ文化を醸成していくこと」は、どの企業の人事も望んでいるのではないでしょうか。前述のATDのセッションによると、学ぶ文化がある企業の特徴は、学習戦略とビジネス戦略が密接にリンクしている傾向にあります。ビジネス戦略を実行する上で、学習戦略は重要であるというコンセンサスを取り、学習戦略の在り方を広く議論していくことが欠かせないのです。

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