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連載・コラム

「よいリーダー」はどう育つのか 『リーダーシップの科学』に学ぶ(後編)

リーダーの成長を、組織と人事はどう支えるか

読了時間:10分

  • 公開日:2026/11/02
  • 更新日:2026/11/02
リーダーの成長を、組織と人事はどう支えるか

変化の激しい事業環境のなかで、企業はリーダーをどのように育成すればよいのでしょうか。

鈴木竜太氏(神戸大学大学院経営学研究科長 経営学部長 教授)が2025年に上梓した『リーダーシップの科学』(ダイヤモンド社)は、100年以上にわたるリーダーシップ研究の知見を整理しながら、「よりよいリーダーシップとは何か」「リーダーは何を手がかりに考えるべきか」を問い直した1冊です。本書では、企業組織におけるリーダー育成のあり方や、現代のリーダーに求められる思考法について、体系的に論じられています。

本記事では、鈴木氏へのインタビューを通じて、同書の内容を手がかりに、リーダーシップ研究の知見を実際の職場や人材開発にどう生かせるのかを探ります。

前編では、リーダーシップ理論を特定の型としてあてはめるのではなく、目の前の状況や相手を見ながら、理論を使って自分で考えることの重要性を取り上げました。経験と理論の両方を手がかりに、自らの働きかけが何をもたらすのかを想像することが、よりよいリーダーシップにつながります。

では、組織や人事は、こうしたリーダーの成長をどのように支援すればよいのでしょうか。本人に良質な経験を積ませ、スキル研修を行うだけで十分なのでしょうか。また、誰をリーダーに選び、選ばれた人がリーダーシップを発揮しやすい環境をどのように整えればよいのでしょうか。

後編では、リーダー育成とリーダーシップ開発の違い、経験からの学び、リーダーの選抜について伺います。最後に、リーダーが自身の姿を捉え直す手法の1つとして近年関心が高まっている、360度評価を活用する際の留意点についても考えます。

●インタビューしたのは

鈴木 竜太氏
神戸大学大学院経営学研究科長 経営学部長 教授

●聞き手

坂本 佑太朗
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 研究本部 測定技術研究所 主任研究員

佐藤 夏月
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ
技術開発統括部 研究本部 測定技術研究所 研究員

本シリーズ記事一覧
「よいリーダー」はどう育つのか 『リーダーシップの科学』に学ぶ(後編)
リーダーの成長を、組織と人事はどう支えるか
「よいリーダー」はどう育つのか 『リーダーシップの科学』に学ぶ(前編)
リーダーシップ論を学ぶことが、よりよいリーダーシップにつながる
「リーダー育成」と「リーダーシップ開発」を分けて考える
経験に加えて、リーダーとしての「あり方」にも目を向ける
経験から得た持論を、固定的なパターンにしない
過去の業績だけで、次のリーダーを選んでよいのか
360度評価を、リーダーの成長にどう生かすか

「リーダー育成」と「リーダーシップ開発」を分けて考える

鈴木様の画像①

――後編では、組織や人事の視点から、リーダーの育成と支援について伺います。企業組織がリーダーの育成を検討する際、前提となるポイントはありますか?

まず、「リーダー育成」と「リーダーシップ開発」は、少し分けて考えた方がよいと思います。

優れたリーダーには、大きく2つの力が必要です。1つは、事業環境や将来を見据え、「自社や自分たちの事業はどこへ向かうべきか」「何を目標にすべきか」を構想する力です。もう1つは、その方向へ人々を巻き込み、動かしていくリーダーシップです。

どれほど優れた戦略を描けても、人がついてこなければ前には進みません。反対に、人を動かす力があっても、進むべき方向を適切に構想できなければ、優れたリーダーとはいえません。リーダー育成には、この両方が必要です。

ところが、企業の育成施策では、戦略や事業構想を学ぶことに偏る場合もあれば、人のマネジメントやコミュニケーションのスキルに偏る場合もあります。本来は、構想する力の開発とリーダーシップ開発を、リーダー育成の両輪として捉えることが大切です。

経験に加えて、リーダーとしての「あり方」にも目を向ける

――組織・人事はどのように社員のリーダーシップを開発し、リーダーを育成すればよいのかを教えてください。

リーダーシップ開発において、経験は非常に重要です。実際の仕事を経験するなかで、リーダーは知識やスキルを身につけるだけでなく、「自分にもできる」という感覚を得たり、リーダーとしての自信や自覚を育んだりします。経験は、知ること(knowing)、行動すること(doing)、リーダーとしてどうあるか(being)ということのすべてに働きかける、総合的な学習機会です。

そのうえで、組織や人事がリーダーシップ開発を考える際には、経験による成長だけでなく、意図的な学習や支援の機会も組み合わせることが重要です。企業では、リーダーに必要な知識やスキル、能力を明らかにし、それを研修や実践を通じて高めようとする取り組みが多く行われています。こうしたスキルを磨くことも大切です。

ただ、知識やスキルだけでなく、「自分がリーダーとして人を率いていきたいと思うか」「リーダーとしてどのようにありたいか」という側面にも目を向ける必要があります。その1つが、リーダーシップを発揮することへのモチベーション、あるいは、よいリーダーになるために努力をしたいという欲求である「モチベーション・トゥ・リード(MTL)」です。また、「自分はリーダーとして人に働きかけていく存在である」というリーダーシップ・アイデンティティや、「自分もリーダーとしてやっていける」という自己効力感も重要です。

例えば、リーダーになることを強く求めるだけではなく、「自分にもできるかもしれない」と感じられる経験を用意したり、リーダーとして人に貢献する喜びを実感できるようにしたりすることも、組織や人事にできる支援だと思います。

経験から得た持論を、固定的なパターンにしない

鈴木様の画像②

――リーダーの経験学習については、具体的にどのように考えているのでしょうか?

経験学習とは、自分の経験を内省し、一般化することで別の場面でも役立つ知識として使う学習方法です。経験に基づく「持論」を持つことを目指します。私はこの経験学習そのものを否定するつもりはまったくありません。ただ、持論には固定化しやすい面があると考えています。

本来、経験を重ねるなかで持論を書き換えていくことが大切です。しかし、「自分のリーダーシップはこういうものだ」という考えが強く内面化されるほど、それを変えることは難しくなります。過去にうまくいった場面と似た状況に出合うと、「今回も以前と同じやり方でよい」と考え、行動をパターン化してしまうことがあるからです。

「歴史は繰り返さないが、韻を踏む」といわれます。職場で起きる出来事も、以前の経験と似ていることはありますが、まったく同じではありません。メンバーも、関係性も、置かれた状況も異なります。

経験を生かすとは、過去のやり方をそのまま繰り返すことではありません。「以前の経験のどこが今回にも生かせるのか」「今回は何が異なるのか」を考えることです。そのとき、理論は目の前の状況を考えるための手がかりになります。

過去の業績だけで、次のリーダーを選んでよいのか

――組織はリーダーを育てるだけでなく、誰をリーダーに選ぶかも考えなければなりません。リーダー選抜では、どのような点に注意する必要がありますか。

リーダーの選抜は難しい問題です。これまで高い業績を上げてきた人が、リーダーとしても優れているとは限らないからです。プレイヤーとして成果を上げるための能力と、リーダーとして人を動かすための力は、必ずしも同じではありません。

能力や業績に基づいて厳密に選抜すれば、必ず優れたリーダーを選べるとも限りません。書籍で紹介した研究では、競争のみによって選ばれたリーダーは、競争的な選抜とくじ引きを組み合わせて選ばれたリーダーに比べ、傲慢になり、権力を自分のために使う行動が多く見られました。選ばれたことを「自分が優秀だからだ」と強く受け止めると、その後の行動にも影響する可能性があります。

これは、リーダーを無作為に選べばよいという意味ではありません。ただ、能力や過去の業績だけで、最適なリーダーを完全に見極められると考えることにも、注意が必要だということです。選抜にある程度の偶然性や余白が含まれることで、選ばれた本人の受け止め方が変わる可能性もあります。

もう1つ注意したいのは、自社で過去に活躍したリーダーを基準にして、その人に似た人材を次のリーダーとして選ぶことです。そのタイプのリーダーが過去20年間は活躍できたとしても、これからの20年間も同じように活躍できるとは限りません。環境が変われば、求められるリーダーのあり方も変わります。

また、過去の成功者だけを見て基準を作ると、そもそも選ばれず、力を発揮する機会を得られなかった人が分析から抜け落ちます。選ばれなかった人のなかに、別の環境であれば力を発揮できた人がいた可能性もあります。

360度評価を、リーダーの成長にどう生かすか

鈴木様の画像③

――リーダーが自分自身の振る舞いや、周囲への影響を捉え直す手法の1つに、360度評価があり、近年企業組織での導入が進んでいます。リーダーシップ開発に活用するうえで、どのような可能性と注意点がありますか。

周囲から見た自分の姿を知ることができるという点で、360度評価には大きな意味があると思います。ただし、活用する際には、いくつか考えておきたいことがあります。 

1つは、本人がフィードバックを受け止められるかどうかです。耳の痛いコメントを受け取ったときに、「これを書いたのはあの人だろう」「あの人はいつもそういう見方をする」と、相手の問題として片づけてしまうことがあります。人は、自分にとって都合のよい情報を選んで受け取りやすいものです。特に、自らの行動を見直す必要がある人ほど、そうした情報を受け止めにくい可能性があります。

もう1つは、360度評価によって示される結果が、何を反映したものなのかを考えることです。

例えば、周囲からの回答にはハロー効果が影響することも少なくありません。ある人に好印象を持っていると、その人の個々の行動についても、全体的に高く評価しやすくなる傾向があります。反対に、全体的な印象がよくなければ、個々の項目も低く評価しやすくなるかもしれません。そのため、複数の人から評価を集めたからといって、それがそのまま客観的な事実を表しているとは限りません。回答者が対象者に抱いている全体的な印象が、個々の評価にも影響している可能性を考慮する必要があります。

また、評価者はそれぞれ、自分なりの「望ましいリーダー像」を持っています。360度評価には、その理想像と実際のリーダーとの違いが反映されます。しかし、「自分にとってよいリーダー」が、組織にとっても常によいリーダーであるとは限りません。

例えば、フォロワーは、自分を励まし、優しく接してくれるリーダーを高く評価するかもしれません。一方で、仕事をよりよいものにするためには、時にリーダーが耳の痛いことを伝えなければならない場面もあります。上司による評価にも、「自分にとって使いやすい部下か」といった視点が入り得ます。

したがって、寄せられたコメントのすべてにそのまま対応し、周囲から好かれるリーダーを目指せばよいわけではありません。コメントの背景には、評価者の立場や期待、理想とするリーダー像があります。それらを読み取り、自分に求められている役割や組織の目的と照らし合わせながら、何を受け止め、何を行動に生かすかを考えることが大切です。

一方で、自由記述のコメントには、数値だけでは得にくい力もあります。「あのとき助かりました」「あの働きかけが嬉しかった」といった言葉は、本人にとって大きな励みになることがあります。リーダーシップ開発においては課題を知ることだけでなく、「自分もリーダーとしてやっていける」という自己効力感を育むことも重要です。 自分の働きかけが周囲にどのような影響を与えていたのかを知ることは、リーダーとして人に貢献しようとする意欲や、さらに成長しようとする気持ちにつながるからです。

私は、改善点に気づくことだけでなく、自信を持てずにいるリーダーが、「自分の働きかけを喜んでくれた人がいた」「リーダーをしていてよかった」と感じられることにも、360度評価の価値があると思います。そうした経験は、リーダーとして前向きに取り組む気持ちや、「自分にもできる」という感覚につながります。

もう1つ、評価結果をレーダーチャートで示す場合に注意してほしいことがあります。特に真面目で優秀な人ほど、低い項目があると、「ここを改善しなければ」と考え、チャートをきれいな形にしようとします。

鈴木様の画像④

もちろん、低い項目を改善することが有効な場合もあります。しかし、すべての項目を均等に高めることが、その人にとって本当に望ましいとは限りません。ある強みが際立っていることが、その人らしいリーダーシップを生み、別の弱い部分を補っている場合もあるからです。


低い項目を改善しようとするあまり、本人のよさまで失ってしまっては意味がありません。結果を見る際には、不足している部分だけでなく、その人の際立った強みにも目を向ける必要があります。強みを伸ばすことで自信が生まれ、それまで気になっていた弱い部分が目立たなくなることもあります。

360度評価を、すべての項目を平均的に整えるための診断としてだけ使うのではなく、その人のよさを見つけ、伸ばすためにも活用してほしいと思います。

編集部まとめ

前編・後編を通じて見えてきたのは、経験と理論を行き来しながら、目の前の状況に応じて考え続けることの大切さです。リーダーシップ論は、万能の正解を教えてくれるものではなく、状況や相手に応じて何が適切かを考えるための手がかりとなります。組織や人事には、経験や研修を提供するだけでなく、リーダーが自らの強みや周囲への影響を捉え直し、成長できる環境を整えることが求められます。

■経営人材に求められるリーダーシップを測る
360度評価 PRO-MOA

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リーダーの成長を、組織と人事はどう支えるか
「よいリーダー」はどう育つのか 『リーダーシップの科学』に学ぶ(前編)
リーダーシップ論を学ぶことが、よりよいリーダーシップにつながる
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