- 公開日:2026/04/06
- 更新日:2026/04/06
本コラムでは「技能系職場(製造現場)におけるキャリア自律」について、そのヒントとなるデンソー様の事例を紹介しながらお話ししています。前編では、なぜ製造現場にキャリア自律施策が求められているのか、技能系職場におけるキャリア自律を阻む壁を明らかにしたうえで、それを乗り越えるための7つの処方箋のうち2つをご紹介しました。後編では、技能系職場のキャリア自律を実際に推進する際のポイントやコツについて、5つの処方箋をもとにお伝えします。
- デンソー事例に学ぶ、個と組織を生かすキャリア自律【後編】
- 技能系職場におけるキャリア自律の実践 ~「強い組織・人づくり」を実現する7つの処方箋~
- デンソー事例に学ぶ、個と組織を生かすキャリア自律【前編】
- 技能系職場におけるキャリア自律の実践 ~「強い組織・人づくり」を実現する7つの処方箋~
- 目次
- 【処方箋3】施策の対象層を決める
- 【処方箋4】よくある誤解を解消し、現場が動きやすいようにする
- 【処方箋5】多人数職場での実践方法を示す
- 【処方箋6】意欲を高める鍵は「成功体験の積み重ね」
- 【処方箋7】人生100年時代、ミドルシニア世代のキャリア自律
- おわりに:キャリア自律は「強い組織・人づくり」の基盤
【処方箋3】施策の対象層を決める
技能系職場のキャリア自律施策で問題になりやすい点の1つは、「企業規模が大きいほど、対象人数が多く、全員一律に進めにくい」ことです。技能系職場の場合、全員一律に進めることが現実的でない場合は、「最も変化してほしい層」を対象に定めて、集中的に施策を動かします。それにより変化の兆しを捉え、取り組みをブラッシュアップしながら他の層にも展開していくことで、職場をスピーディーに変化させていくことができます。
デンソー様は、主な対象層を指導専門職(S格)に設定しました。指導専門職(S格)を選んだのは、この層が初級担当職(T格)、中堅担当職(J格)を経て仕事に必要な「型(業務の標準的な進め方)」や「スキル」を十分に身につけた段階にあるからです(図表1)。
指導専門職(S格)は、担当業務のあるべき姿に向け、自分発で改善をやり切る「実務推進の要」となる存在です。いわばこれから組織の中核となって技能系職場の方向性を左右する重要なポジションであり、彼らであれば、自身の特性や能力から、自らのキャリアを主体的に見極めることができるだろうと考えたのです。指導専門職(S格)のキャリア自律を促すことは、これからの製造現場の変革につながる可能性が十分にあるのです。このような考えのもと、指導専門職(S格)が最も変化してほしい層として選ばれました。
<図表1>デンソー様における指導専門職(S格)の位置付け

画像提供:株式会社デンソー
ただし、中堅クラスに展開するためには、当然ながら、管理監督職(室・工場長、課長、係長、班長)にもキャリア自律の理解を深めてもらう必要があります。詳しくは後ほど触れますが、デンソー様は管理監督職と指導専門職(S格)の両方に働きかける施策を展開しました。
【処方箋4】よくある誤解を解消し、現場が動きやすいようにする
技能系職場でキャリア施策を推進する際、多くの管理職が抱える疑問や不安があります。特に代表的な3つの誤解を解消し、疑問や不安を軽減することが大切です。
●誤解1:「キャリアアップ=職制(管理監督職)になること」という誤解
技能系職場では「キャリアアップ=班長や係長などの管理監督職になること」と捉えられがちですが、実際のキャリアアップの道は1つではありません。技能系職場のキャリアアップは、主に3つの方向性が考えられます。
- A:「管理・監督」の役割に挑戦する道
昇進・昇格にともなって責任や影響力が高まり、管理監督職として活躍 - B:「専門性やスキル」をより追求する道
ある領域の高度な技能を身につけることで、高度技能者として活躍 - C:「幅広い専門性」を習得する道
異なる職務経験によって職域を拡大し、多能工として活躍 - D:「その他」の道
A~Cの選択肢に希望進路がない場合に選択し、上司と進路を具体化する
大切なのは、一人ひとりが自分に合った成長の方向性を選択できることです。上記の選択肢を示すことで、社員はゼロから考えるよりずっと楽にキャリアを考え始めることができます。
●誤解2:「現状維持を望む部下にはキャリア施策は必要ない」という誤解
「現状維持でかまわないと語る部下に、キャリアを考えてもらう意味があるのか?」という疑問を持つ管理職は少なくありません。しかし、これから「モノづくり」を取り巻く環境変化は激しくなり、それに応じて作るもの・作り方・働く場所が変わるなかで、現状維持は実質的な後退を意味します。今後、自らのキャリアを自分で考え、環境変化に柔軟に対応して強みとなる技能を変えていくことは、当たり前に求められるスキルとなります。キャリア自律に前向きではない部下の背中を後押しするのも、現代の管理職の役割の1つと考えるべきではないでしょうか。
主体的な意思が低い部下には、「MUST(職場・上司の期待)を明確に伝えること」と「CAN(できること・強み)を増やす機会を与えること」が大切です。この2つに働きかけることで、徐々に「もっと頑張ってみたい」というWILLが芽生えてくるからです。上司が「あなたにはこうなってほしい」という期待を具体的に示し、成長を実感できる仕事を計画的に付与することが、キャリア自律の後押しにつながるのです。
●誤解3:「部下の希望はすべて叶えなければならない」という誤解
管理監督職から、「組織上の都合で、部下の希望を叶えられないことが多い」という悩みを耳にすることがあります。確かに、部下の希望をすべて叶えるのは不可能でしょう。
しかし、部下の希望を叶えられないときこそ、上司が部下の希望の本質を掴んでいれば、たとえ希望していない業務でも、部下に新たな可能性を提示し、そのキャリアを前進させることができるはずです。「あなたならこれもできるのでは?」「この業務を経験することが、未来のキャリアへの近道なのでは?」などと伝えながら、新たな業務に就いてもらうことで、結果的に部下のキャリアの選択肢が広がるケースは少なくないと思われます。いざというときにそのような対応を取るためには、日頃から部下とキャリアについて対話しておくことが欠かせません。キャリアデザイン面談は、そのような意味でも必要な時間です。
【処方箋5】多人数職場での実践方法を示す
技能系職場のマネジメントが難しい理由の1つに、「部下の人数が多いこと」があります。一般的に技能系は、事務系や技術系よりも部下数が多くなる傾向があります。部下の人数が多すぎて一人ひとりのキャリアに寄り添う時間を取ることができない、という技能系管理監督職は少なくないはずです。
デンソー様ではこの問題を解決するために、図表2のようにキャリア開発のフェーズと支援者の役割分担の標準モデルを示しました。社員の技能レベルに応じて、キャリアデザイン面談の上司を変えることにしたのです。このように整理することで、課長や係長だけでなく、班長も部下のキャリア自律支援に参加する体制を整え、多人数職場でのキャリア自律を実践しやすくしました。さらに、既存の面談機会(中間面談、三者面談など)を活用し、班長の権限を越えるものは上位者に上げる仕組みをつくって、効率的な運用を行っている職場もあります。
<図表2>役職ごとの支援対象とその内容
役職 | 支援対象 | 支援内容 |
|---|---|---|
班長 | 中堅担当職(J格)以下 | 仕事の「型※」「スキル」習得を支援 |
係長 | 指導専門職(S格) | 何のプロを目指すかを支援 |
課長 | 指導専門職(S格)以上 | それぞれの道のプロとして活躍を支援 |
室・工場長 | 全体統括 | 戦略的人財配置 |
画像提供:株式会社デンソー
技能系職場では、上司も部下もキャリア施策に関して初心者であるケースが多く、一度に大規模展開するのではなく、①丁寧に進め、②職場の基盤を作ることが重要です(図表3)。デンソー様では2年をかけ、1年目はトライアル組織で小さく始めてノウハウを蓄積し、2年目に未実施組織へ展開するという段階的なアプローチをとりました。
研修は、上司が部下のキャリア自律を促す方法を学ぶ「上司向け研修(理解編・体験編・実践編)」、指導専門職・S格の非役職者(部下)がキャリアの描き方を学ぶ「部下向け研修」の2本立てで実施。部下向け研修では、係長(・班長)がサブファシリテーターを担い、自身のキャリアプランを開示しながら部下のキャリア形成を支援することで、その後のキャリアデザイン面談に入りやすい関係性を構築しました。こうして時間をかけて職場の運用基盤を整えることで、メンバーの主体的な考え・行動を促すことができるのです。
<図表3>デンソー様における技能系キャリア研修の展開のポイント

画像提供:株式会社デンソー
【処方箋6】意欲を高める鍵は「成功体験の積み重ね」
キャリア自律を推進するうえで重要なことの1つは、「部下が成長を実感できる機会」を計画的に提供することです。そのためには上司が、部下の努力→成果→メリット(達成感・感謝・貢献実感)の「モチベーション向上サイクル」を意識することが大切です。
このサイクルを回すためのポイントは4つあり、「①本人にとって納得感のある具体的な役割・目標を設定すること」「②目標を努力が成果に結びつくレベルに設定すること」「③努力の結果としての成果とメリットを意味づけること」「④部下の取り組みに感謝して褒めること」です。小さな成功体験の積み重ねがやりがいや達成感となり、さらなる挑戦への意欲につながります。管理職の皆さんには、ぜひこの4つのポイントを大切にしながら、モチベーション向上サイクルを意識してもらいたいと思います。
また、異動後の職場で自分が通用するかどうかを不安に感じる社員が非常に多いため、「どこでも通用する能力(ポータブルスキル)」を明確に示し、身につけてもらうことも重要です。デンソー様の場合は、モノづくりの基本、デンソー流の仕事の進め方、発揮能力(情報収集力、分析力など)、職場を超えた人脈などを全社の共通基盤と位置付けており、どの職場でも役立つポータブルスキルと捉えています。このように会社側がポータブルスキルを具体的に定義することは、メンバーの不安を軽減するうえで有効です。
【処方箋7】人生100年時代、ミドルシニア世代のキャリア自律
最後に、「年上部下のキャリア自律」に触れておきます。多くの管理職が「年上の部下に今さら何を目指してもらえばよいのだろうか?」と悩んでいるのです。
しかし実は、キャリア自律はミドルシニア世代にも重要な概念です。なぜなら、ミドルシニア世代にとっては、働くことが「生きがい(役立つ実感・つながり・居場所)」「健康維持」「お金・生活の安定」などにつながることが多いからです。管理職の皆さんは、年上部下にこれらのメリットを説明してキャリア自律を後押しし、組織貢献を促すことをお薦めします。なぜなら、ミドルシニア世代は、豊富な経験や技能を若手に伝承する役割や、職場の安定を支える役割などを担い、組織に大きく貢献する可能性が十分にあるからです。年齢に関係なく組織に必要な人財であることを伝え、期待を明確にすることが大切です。
おわりに:キャリア自律は「強い組織・人づくり」の基盤
デンソー様の言葉をお借りすると、現代の激変する技能系職場では「何があっても何とかする職場」をつくること、「急速な変化にも適応できる人財」を育てることが求められています。そのために有効なのがキャリア自律です。キャリア自律は、「強い組織・人づくり」の基盤となるのです。今後は、キャリア施策に真剣に取り組んでいる製造現場と、そうでない製造現場の間には大きな差が出てくるでしょう。
この記事を読んで、「今日からキャリア自律を推進したい」と思った人事や管理職の皆さんは、まず「部下に組織の期待を明確に伝えること」「部下の強みを認めること」「小さな成功体験を積み重ねること」の3つのアクションから始めることをお薦めします。技能系職場におけるキャリア自律の推進が、強い組織づくりと一人ひとりの成長実感につながることを願っています。
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ー人生100年時代、会社と個人をつなぐ鍵−
「キャリア自律」という考え方
執筆者

技術開発統括部
コンサルティング部
エグゼクティブコンサルタント
山本 りえ
1999年 サービス業。
2000年 税理士・社会保険労務士事務所(社会保険労務士)専門は労働法、企業労務問題の解決やリスクヘッジに関する制度構築・相談を担当。
2005年 株式会社リクルートマネジメントソリューションズコンサルタント兼ファシリテーターとして幅広い業種やテーマに対して行動誘発を得意とし、実効性の高い変革支援を行っている。
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