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連載・コラム

【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか

第10回 「構造設計の民主化」は大学だけでは実現できない。だから私はスタートアップという「手段」を選んだ

  • 公開日:2026/02/09
  • 更新日:2026/02/09
第10回 「構造設計の民主化」は大学だけでは実現できない。だから私はスタートアップという「手段」を選んだ

2026年に出版予定の『図解イノベーション入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。その著者である坪谷邦生氏(株式会社壺中天 代表取締役)と井上功(弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター)が、10人の多様なゲストと共に「人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか」をテーマに話し合っていきます。

第10回のゲストは、名古屋大学大学院准教授の西口浩司氏(名古屋大学大学院 工学研究科 土木工学専攻 准教授)です。以前、日東電工で働いていた際に、対談相手の井上が実施した研修(i-session)を受講しており、それをきっかけに井上との縁ができました。「大学発のイノベーションとビジネス」について存分に語り合いました。

図解イノベーション入門

●対談者紹介

西口氏の画像

西口浩司氏
名古屋大学大学院 工学研究科 土木工学専攻 准教授
2015年広島大学大学院工学研究科博士課程修了。2010年から日東電工株式会社研究開発本部で働いた後、理化学研究所特別研究員などを経て、2023年から現職。2025年から、理化学研究所 計算科学研究センター AI for Scienceプラットフォーム部門 上級研究員も兼任している。専門は計算力学、スーパーコンピューティング、3D生成AI。著書に『オイラー型構造解析:超並列計算と3D生成AIへの展開』(共著・丸善出版)などがある。

坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役

井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター

本シリーズ記事一覧
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第10回 「構造設計の民主化」は大学だけでは実現できない。だから私はスタートアップという「手段」を選んだ
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第9回 イノベーションは自然発生的に起こる
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第8回 「聴く人」がイノベーションを生み出す力になる
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第7回 「能が現代社会にどのような価値を提供できるのか」をいつも考えている
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第6回 人事は「ファシリーダー」となり、組織をイノベーション体質に導いてほしい
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第5回 こどもたちのため、雄勝のため、未来のためにMORIUMIUSをやっている
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第4回 イントレプレナーは出世ではなく「辺境」へ向かおう
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第3回 組織が越境人材と向き合ってはじめて、イノベーションが起こる
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第2回 イノベーションを増やしたいなら、企業は「天才」に活躍してもらう必要がある
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第1回 リーダーシップの本質はDoだが、Doを持続するにはBeが必要
2025年度中に「大学発スタートアップ」を設立し、研究とビジネスを両輪で進めていく
「構造設計の自動化・民主化」は、スタートアップなしには実現できない
自動車業界で磨いた技術を、土木分野へ「逆輸入」する
構造設計の自動化・民主化が実現できたら、建築物も自動車も、あらゆるものがアートになっていく

2025年度中に「大学発スタートアップ」を設立し、研究とビジネスを両輪で進めていく

井上:最初に西口さんの自己紹介をお願いします。

西口:私は今、名古屋大学大学院工学研究科で研究者をしています。専門は計算力学、スーパーコンピューティングです。簡単にいうと、物理的な力学現象をコンピューター上で解析する研究をしています。特に「オイラー型構造解析」という計算手法を使い、土木建築構造物・自動車などの「構造設計(力学的に高性能で安全なカタチをつくること)」にイノベーションを起こす研究に力を入れています。

私の研究室では、オイラー型構造解析を活用して、「誰でも簡単かつ自動的に構造設計ができる3D生成AIソフトウェア」の開発を進めています。そうして「構造設計の自動化・民主化」を実現しようとしているのです。私たちは2025年度中に「大学発スタートアップ」を設立し、研究とビジネスを両輪で進めていく予定です(※取材は2025年10月)。

井上:大学の研究室と大学発スタートアップは、どのように役割分担をするのですか?

西口:大学の研究室では、オイラー型構造解析や3D生成AIをはじめ、計算力学・スーパーコンピューティングの基礎研究を主に行います。そして大学発スタートアップは、基礎研究の成果を3D生成AIソフトウェアとして企業に提供する役割を担います。3D生成AIソフトウェアの第1弾(βバージョン)は、すでに実用段階に入っており、現在は企業に向けて販売・導入・運用する準備を整えているところです。

「構造設計の自動化・民主化」は、スタートアップなしには実現できない

井上:西口さんはなぜ大学発スタートアップを立ち上げるのでしょうか?

西口:工学的なイノベーションは必ず、経済的イノベーションを伴うからです。工学では、どのようなイノベーションの知も、それを広める際には必ずどこかのタイミングでビジネスを介在させる必要があるのです。ですから、アメリカでは、大学工学部の教員が大学で研究しながら、同時にスタートアップを1、2社経営しているのは当たり前になっています。

私の場合も、目標に掲げる「構造設計の自動化・民主化」を実現するためには、大学内で研究開発した3D生成AIの成果を、スタートアップを介して企業に広めていくプロセスが欠かせません。スタートアップは、単にサービスを広めるだけでなく、利用企業から厳しいフィードバックをもらい、サービスの完成度や技術力を高めるためにも必要です。私の目標は、スタートアップなしには絶対に実現できないのです。

それに、このような大学発スタートアップが軌道に乗ると、関係者全員にメリットがあります。顧客企業は大学発の最先端サービスを使えるようになります。大学は研究成果の社会還元による対価を得ることができ、学生たちは最先端技術の実践の場で経済的支援を受けながら成長でき、教員も研究資金を調達できる好循環を生み出せるのです。一方のデメリットは多くありません。少なくとも私にとっては、大学発スタートアップを立ち上げない理由はありませんでした。

日本でも文部科学省が大学発スタートアップ支援に力を入れていることもあり、大学発スタートアップは徐々に増えています。とはいえ、まだ一般的とはいえない状況です。私自身は、研究成果を社会に実装する手段としてビジネスは最大の社会貢献なのだから、大学の研究者も堂々とビジネスしてよいと考えています。これから日本の大学発スタートアップが増えることを期待しています。

井上:西口さんはなぜこのような考えに至ったのでしょうか?

西口:井上さんが日東電工で実施した研修「i-session」の影響は間違いなくあります。私はi-sessionを受講して、「ビジネスとは社会の『不』を解決する新価値創造をする営みである」と知り、衝撃を受けました。それなら、私でもビジネスにチャレンジできるかもしれない、ビジネスを通じたイノベーションにチャレンジしたい、と思ったのです。その想いが、スタートアップを立ち上げる原点になっています。

また、私は日東電工そのものからもポジティブな影響を受けました。日東電工は、新用途開拓と新製品開発に取り組むことで、新しい需要を創造する独自のマーケティング活動「三新活動」を重視しています。この三新活動は、まさに社会の「不」を解決する新価値創造の営みにほかなりません。さらに「オープン・フェア・ベスト」を大事にする企業風土で働いたことも良かったと感じています。アカデミアの考え方と日東電工で培った企業マインドの両方がOSとして備わっていることが、私の強みの1つになっています。

自動車業界で磨いた技術を、土木分野へ「逆輸入」する

坪谷:西口さんのスタートアップの経営方針やビジネス戦略を教えてください。

西口:先ほど第1弾として、3D生成AIソフトウェアのβバージョンが実用段階に入っていると説明しました。第2弾は、「自動車業界向け3D生成AIサービス」をリリースしたいと考えています。現在、土木分野向け3D生成AIの研究も行っていますが、社会実装として、まずは自動車業界に注力する予定です。

なぜ自動車業界を最初のターゲットに選んだかというと、理由は市場の「デジタル技術への受容性」にあります。もちろん、私の専門である土木分野も自動車と同様に極めて巨大なマーケットです。しかし、新しいデジタル技術の実装スピードという点では、自動車業界の方に一日の長があります。

まずは、新技術に対して柔軟な自動車業界で「構造設計の自動化・民主化」を社会実装し、そこで実績と信頼をつくります。そして、その研ぎ澄まされた技術を、将来的には土木分野へと「逆輸入」したいと考えているのです。 遠回りに見えるかもしれませんが、土木分野に社会実装するには、このアプローチが最も確実で、インパクトも最大化できると判断しました。

それ以外にもう1つ、大きな理由があります。それは、私の研究室が得意とする「オイラー型構造解析」が、「ギガキャスト」の構造設計3D生成AIサービスに向いていることです。ギガキャストとは、複数のアルミニウム部品を一体成形することで車体構造を大幅に簡素化する、自動車の革新的な生産技術手法です。テスラ社が2020年に初めてギガキャストを採用し、現在は世界中の自動車メーカーが次々に導入しています。このギガキャストの構造設計が、オイラー型構造解析と相性が良いのです。また、オイラー型構造解析は、生成AI開発に向いている手法でもあります。

研究者としてみれば、この取り組みは、オイラー型構造解析にとって大きなチャンスです。実はこの計算手法を産業応用レベルで扱える研究者は極めて少なく、世界的にも希少な存在となっています。私にはビジネスとは別に、構造設計の自動化・民主化を実現させ、オイラー型構造解析を世界に広める使命があります。私にとっては、このミッションも極めて大切なのです。

坪谷:『ビジョナリー・カンパニー2』(ジェームズ・C・コリンズ/日経BP)には、「ハリネズミの法則」という知恵が紹介されています。「情熱をもって取り組めるもの」「自社が世界一になれる分野」「経済的な原動力になるもの」という3つの条件が重なる事業に、会社のリソースを集中させると成功できるという法則です。西口さんは、まさにハリネズミの法則に則って行動していると感じました。

構造設計の自動化・民主化が実現できたら、建築物も自動車も、あらゆるものがアートになっていく

坪谷:ところで、西口さんはどうやって自動車業界にたどり着いたのですか? なぜ自動車業界にチャンスがあると分かったのですか?

西口:私は、日東電工時代に受けた「i-session」で、リクルートが「不」を探索するために現場でのヒアリングを極めて重視していることを知りました。それ以来、私は理化学研究所でも名古屋大学でも、とにかくさまざまな会社を訪問し、いろいろな人の話に耳を傾けて、「不」の探索を続けてきたのです。その結果、自動車のギガキャストの構造設計に大きなチャンスがあり、かつオイラー型構造解析が向いていることを発見したわけです。

井上:もし「構造設計の自動化・民主化」が実現できたら、世のなかはどのように変わるでしょうか?

西口:自動車も建築物も、あらゆるものが「アート」になっていくだろうと考えています。なぜなら、デザイナーや芸術家などのクリエイターの皆さんが、3D生成AIサービスを使って構造設計ができるようになるからです。クリエイターたちが、「安心安全で楽しい形」の自動車や建築物などをどんどん造れるようになるのです。私の妻はイラストレーターですが、彼女も3D生成AIサービスを使えば、ものづくりができるようになるでしょう。

もちろんこれは、クリエイターに限った話ではありません。私たちの3D生成AIサービスは、「誰もが安心安全なものづくりができるようになる未来」を実現する可能性があるのです。もしかしたら、幼稚園児たちが自由な発想でものすごく面白いものを生み出すようになるかもしれません。私たちは構造設計の自動化・民主化を通して、このような未来をつくりたいのです。そのためには、大学の研究室と大学発スタートアップの両方が必要なのです。

坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役

20年以上、人事領域を専門分野としてきた実践経験を生かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、書籍、人事塾などによって、企業の人事を支援している。2020年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立。主な著作『図解人材マネジメント入門』(2020)、『図解組織開発入門』(2022)、『図解目標管理入門』(2023)、『図解労務入門』(2024)、『図解採用入門』(2025)など。

井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター

1986年株式会社リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループを立ち上げ、以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。
2012年よりリクルートマネジメントソリューションズに出向・転籍。2022年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材開発、組織開発、新規事業提案制度策定等に取り組む。近年は、異業種協働型の次世代リーダー開発基盤「Jammin’」を開発・運営し、フラッグシップ企業の人材開発とネットワーク化を行う。

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