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【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか

第1回 リーダーシップの本質はDoだが、Doを持続するにはBeが必要

  • 公開日:2025/12/08
  • 更新日:2025/12/26
第1回 リーダーシップの本質はDoだが、Doを持続するにはBeが必要

2026年に出版予定の『図解イノベーション入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。その著者である坪谷邦生氏(株式会社壺中天 代表取締役)と井上功(弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター)が、10人の多様なゲストと共に「人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか」をテーマに話し合っていきます。

図解イノベーション入門

第1回のゲストは、組織論や人材マネジメント論の研究者であり、大学院大学至善館では全人格経営リーダーを育てる教育者でもある吉川克彦氏(大学院大学至善館 副学長 兼 教授)です。果たしてどのような話になったのでしょうか。

●対談者紹介

吉川克彦氏の画像

吉川克彦氏
大学院大学至善館 イノベーション経営学術院 教授 兼 学術院長、同大学副学長
組織行動論、人材マネジメント、グローバル経営を専門とする。教育研究の傍ら、同校のMBAプログラムの全体設計、運営を統括している。早稲田大学グローバル・ストラテジック・リーダーシップ研究所招聘研究員。1998年京都大学経済学部卒業、2011年ロンドン・スクールオブエコノミクス経営学修士、2017年同校経営学博士。1998年より2013年までリクルート グループ(ワークス研究所、HCソリューショングループ、リクルートマネジメントソリューションズ等)にて組織・人事に関わる研究、コンサルティングに従事。2017年8月より上海交通大学 安泰経済与管理学院 組織管理系 助理教授。2019年8月より至善館 イノベーション経営学術院にて、准教授、教授を経て2025年より現職。

坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役

井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター

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第1回 リーダーシップの本質はDoだが、Doを持続するにはBeが必要
リーダーシップの旅は「英雄の旅」と同じ構造である
社内起業は「会社にとっての意味」を突破しないと承認されない
組織内イノベーションを活性化させるには「未来への変革にチャレンジする人を褒め称える仕組み」が必要だ
行動を起こせる人は成長する。行動しない限り、成長はない

リーダーシップの旅は「英雄の旅」と同じ構造である

井上:今、坪谷さんと私は『図解イノベーション入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)という本を書いています。この本には、「イノベーションを起こす組織をつくることが人事の究極の目的だ」というメッセージを込めています。では、人事はイノベーションを起こす組織をどのようにつくればよいのでしょうか。今回は、このことについて話し合いたいと思います。

吉川:私からは、2つのテーマについてお話ししたいと思います。1つ目のテーマは、「リーダーはどのように育つのか?」です。イノベーションの出発点は、誰かが行動を始めて、変化を牽引することにあるわけですが、そうした人材とはどのような人なのか、という問いです。私が働いている大学院大学至善館では変革と創造を牽引し、組織や社会の未来を作り出す人材を輩出することを目指しています。私自身、多くのリーダーやリーダー候補の人たちを見てきました。その経験から、私が考えてきたことをお話しできればと思います。私がゼロから生み出したものではなく、至善館の創設者の野田智義や、至善館での同僚たちの考えに大きく影響を受けたものだ、ということはご了承ください。

第一に、最初からリーダーであるような人は、この世に存在しない、と私たちは考えています。すべてのリーダーは挑戦を経て、結果的にリーダーになるのです。これを、私たちは「リーダーシップの旅」と呼んでいます。未来のリーダーは、必ず一人で行動を始めます。今は存在しない未来を見て、その未来を実現したいと思って、たった一人で立ち上がるのです。そうすると、未来のために汗をかいてチャレンジし、苦闘する一人の姿を見て、応援する人が徐々に増えていきます。メンターなども現れます。そのうち、皆で取り組むようになるのです。最初の一人は、このプロセスのなかで成長を遂げ、やがてリーダーとなっていくわけです。

リーダーにはポジションなどは一切関係ありません。グレタ・トゥーンベリが良い例です。彼女は15歳のときにたった一人で立ち上がり、結果的に気候変動問題の世界的リーダーとなりました。彼女はなんらかのポジションを持っていたわけではなく、一人の学生にすぎなかった。でも、彼女が行動したのに対して、共感し、応援する人々が現れたことが、結果的に彼女のリーダーとして影響力につながったのです。

面白いことに、このリーダーシップの旅は、「英雄の旅」と基本的に同じ構造をしています。神話学者のジョゼフ・キャンベルは、世界中の神話や民話を研究し、多くの物語に共通する構造を発見しました。その英雄の旅では、主人公は最初に住んでいる世界から越境し、異なる世界に出立します。その世界で艱難辛苦に遭ったり、誘惑に出合ったりしながら、最終的には試練に勝利して己に打ち克ち、世界の真理を見出したり、貴重な宝を獲得したりして帰還します。これが英雄物語の基本構造です。こうした物語が世界中で同じような形で見つかることは、すなわち、人間の成長における真実を捉えているからではないでしょうか。未知の挑戦を乗り越えてこそ、人は一皮も二皮も剥けて、大きく成長する。つまり、現代のリーダーも、古代の神話の英雄と同じような旅に出て、試練を経て帰還し、リーダーとなっていくのです。

社内起業は「会社にとっての意味」を突破しないと承認されない

井上:英雄の旅では、「越境」がポイントの1つになっていますよね。『図解イノベーション入門』でも、イノベーションを起こす上での「越境」の重要性に注目しています。

吉川:そのとおりです。ただ、英雄の旅では、自らの意志で異界に出立することもありますが、誰かに誘われていくこともあれば、元の世界にいられなくなって仕方なく越境することもあります。これはリーダーシップの旅も同じです。

井上:確かに、日本企業のなかで画期的なイノベーションを起こしたリーダーにインタビューすると、「社長に言われて始めたんです」という話を聞くことがときどきあります。

吉川:最初はそれでもまったくかまわないのだと思います。特に日本企業の場合、前の世代からリーダーとしての役割を託される、つまり、他者からの期待に応える形で「自分がやるしかない」と覚悟を決めて挑戦をする、というケースが少なくありません。長期雇用を基本とする日本では、そうしたことが特に起きやすいのかもしれません。

越境のきっかけはいろいろあると思うのですが、その一方で本人がその意味を「内面化するプロセス」は必須です。取り組みの過程で、「自分がこのチャレンジに取り組む意味や意義は何か?」「このイノベーションを実現したら、誰がどのように喜ぶのか? 社会はどう変わるのか? それは自分にとってどんな意味があるのか?」を考えて、何らかの答えを出す必要があるのです。そうしなければ、他者の共感を得て、応援を獲得することはできない。自分の信念や夢としてかたることに、人は心を動かされるものだからです。

坪谷:ただ、アントレプレナーは起業家として、一人の個人が中心となって社会へ影響を与えることができますが、イントレプレナー(組織内起業家)は、組織を介さなければ、イノベーションを起こせません。イントレプレナーは、常に「組織を通じて、社会に影響を与える」必要があるわけです。ですから、内面化のプロセスのなかで「IをWeに変える」必要がありますよね。私の意味や意義を、「私たちの意味や意義」にしないと、組織内でイノベーションを起こせませんから。このIからWeへの変化は、どのように起こせばよいのでしょうか?

吉川:それがイントレプレナーの難しいところです。坪谷さんの言うとおり、社内での起業や新規事業開発の場合、「自分にとっての意味」と「社会・お客様にとっての意味」だけでなく、「会社にとっての意味」を突破しないと、決して承認されません。その新規事業が、会社の未来を切り拓く可能性があり、その会社らしい新規事業であることなどを説明し、経営に承認を得て、投資してもらわなければならないわけです。その意味では、組織内イノベーションはスタートアップとは違う種類の挑戦がある、と思います。

組織内イノベーションを活性化させるには「未来への変革にチャレンジする人を褒め称える仕組み」が必要だ

吉川:そこで、2つ目の切り口に触れたいのです。私は、リクルートワークス研究所の「部長の役割」研究プロジェクトに参加したことをきっかけに企業の管理職の行動についての研究に取り組んできました。具体的には、部長とは組織においてどのような役割を担うのか、それは課長とどう違うのか、そして、実際に部長はその役割を果たしているのか、といった問いを巡って研究を行ってきました。

部長の役割研究で分かったことの1つは、部長は「二兎を追う者」でなければならないということです。現在の業績に責任を負うのはもちろんですが、未来に向けた変革にも着手せねばならないのです。課長がもっぱら、現在の業績を期待されることと明確に違いがあります。

ただ、その際に大きな問題があります。私たちは、この研究のなかで3社のサーベイを実施しましたが、その調査で分かったのは「現在の業績を追い求めると、部門のパフォーマンスへの評価は高まる」が、「未来への試行錯誤を重ねても、部門のパフォーマンスへの評価が高まるわけではない」ということでした。もちろん、未来への試行錯誤はすぐに成果が出るわけではないので、当然ともいえます。ただ一方で、当事者の管理職からすれば、未来への試行錯誤に取り組むことは、現状の成果の達成に向けた取り組みから組織の注意やリソースが逸れることにもつながりかねない。そうなると部門のパフォーマンスへの評価が下がってしまうかもしれない。これが、組織内イノベーションを阻む大きな壁になると思います。

井上:通常の組織では、組織内イノベーションは極めて起きにくいということですね。

吉川:そのとおりです。

では、どうしたらよいのか。結論から言えば、組織内イノベーションを活性化させるには、日々の業績管理とは「別の仕掛け」が要ります。簡単に言えば、「未来への変革にチャレンジする人の心に火をつける仕組み」が必要です。例えば、認知と称賛の機会を設けることが当てはまります。そこでは、単に成果だけを褒めるのではなく、チャレンジに至った内発的動機や内面化のプロセスを共有することがポイントです。例えば、大規模な表彰式を開催し、そのなかで大きなチャレンジをした人を表彰して、本人に「なぜ未来への変革が必要だと考えたのか?」「そのチャレンジにどのような想いがあったのか?」を思う存分語ってもらうのです。

結局のところ、当事者がやる気にならなければ行動は起きません。未知の挑戦の「旅」に踏み出すわけですから。ですから、誰かが情熱を持って、挑戦し、困難を乗り越えた姿を見せること、そしてその成果がきちんと認められる、と感じられるようにすること、そうした取り組みがあることが、次の挑戦者の心に火をつけるのだと思います。

行動を起こせる人は成長する。行動しない限り、成長はない

坪谷:これまでの話を踏まえながら、あらためて「イノベーションを起こすリーダーにはどのような資質が必要か?」をお聞きしたいです。

吉川:多くの人を巻き込む上で欠かせないのは、「信頼」と「共感」です。「この人なら成し遂げてくれそう」「この人なら逃げ出さないでやりきるだろう」という信頼感がなければ、応援者が増えることなどありません。企業の研修などで、「リスクや逆風がある環境下で、この人ならば、と誰かを支持し続けたことはあるか。それはどんな人か」ということを聞くと、共通して出てくるのがこうした個人の人柄、人格に対する信頼です。不確実性のある状況であるほど、取り組みを牽引する人を信頼できないと、一歩踏み出せないのが人間なのだと思います。その上で、共感を得られる大義を掲げ、想いを語ることが大切です。理屈を超えて「応援したい」という気持ちが人を動かすのです。

ただ、最も大切なのは、やはり「最初に一人で行動を起こす力」だと思います。私が至善館で見てきた学生のなかでも、大きく成長したなと感じる人は、やはり行動を起こした人です。学生には、卒業に向けた個人演習という科目で事業の変革や創造の構想を描いてもらうのですが、最初に考えたことあくまでも仮説でしかない。本人も確信はないわけです。ですが、行動する学生は、さまざまな人と出会い、現実と対峙し、手厳しいフィードバックを受け、自身の考えが足りないことを知る。それでも考え抜き、行動を続けることで、次第に応援してくれる人が現れ、徐々に自分の取り組むものに確信が生まれていく。卒業後に話を聞くと、皆、「もっと早く行動を起こせばよかった」「もっと早く現場に足を運べばよかった」と言います。裏を返せば、どんなに学んでも、どんなに頭が良くても、一歩を踏み出して行動しない限り、リーダーとしての成長はありません。知ることと行動することのあいだには、大きな断絶があるのです。

豊田佐吉さんの「障子を開けてみよ。外は広いぞ」という言葉がありますよね。自分自身の狭い世界から、未知の領域に踏み出してみる。それがやはり、「リーダーシップの道」のスタート地点なのです。もう1つ、声を大にして伝えたいのは、「結局、最終的には自分が主語だ」ということです。自分が動き出し、周囲に働きかけることで、新しい現実が作り出されていく。大組織に属していても、その原則はまったく変わりません。

井上:とはいえ、リベラルアーツを学んだり、ロールモデルを見つけたり、内省したりすることも大切なのですよね?

吉川:もちろんです。リーダーシップの本質はDo(行動)ですが、Doを持続するにはBe(あり方)が必要です。先ほども話したとおり、信頼と共感を得ることが求められるからです。そのためにさまざまなことを学んだり、自分が目指すべきロールモデルを見つけたり、内省して自分にとっての意味や意義を考えたりすることは極めて大切です。

当然ですが、社会問題のことを知らない限り、社会問題を解決しようとは考えませんよね。Doの前に学び、すなわちKnowがあるわけです。そして、社会問題をきちんと理解するには、社会全体について俯瞰的に学ぶ必要があります。その意味で、リベラルアーツのような学びはやはり重要です。ただ、多くの人は学んでも行動に移しません。そこでいち早く動いた人がリーダーシップの旅に出て、やがてイノベーションを起こすかもしれないのです。

坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役

20年以上、人事領域を専門分野としてきた実践経験を生かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、書籍、人事塾などによって、企業の人事を支援している。2020年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立。主な著作『図解人材マネジメント入門』(2020)、『図解組織開発入門』(2022)、『図解目標管理入門』(2023)、『図解労務入門』(2024)、『図解採用入門』(2025)など。

井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター

1986年株式会社リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループを立ち上げ、以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。
2012年よりリクルートマネジメントソリューションズに出向・転籍。2022年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材開発、組織開発、新規事業提案制度策定等に取り組む。近年は、異業種協働型の次世代リーダー開発基盤「Jammin’」を開発・運営し、フラッグシップ企業の人材開発とネットワーク化を行う。

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