連載・コラム
【徹底解説】なぜ若手・中堅社員は辞めるのか?
離職の実態と真の理由を探る【前編】
- 公開日:2025/11/10
- 更新日:2025/11/10
「せっかく新卒や中途社員を採用しても、数年経ったら辞めてしまう」「連絡を受けた時にはすでに退職を決めていて、予防ができていない」「対策を考えたいが、何から取り組めばよいかが分からない」など、近年若手・中堅社員の離職や活躍の実態に満足していない、というご相談が増えています。
そこで、本コラムでは弊社内での研究・調査結果を基に、若手・中堅社員の離職について考察します。「前編」では昨今の若手・中堅社員の価値観と離職の実態をひもとき、「後編」ではもったいない離職を防ぎ、活躍を促すための施策について紹介します。
若手・中堅社員の価値観の変化
昨今の若手・中堅社員の働き方に対する価値観は、従来の世代と大きく異なる様相を見せています。最も特徴的な変化は、外発的動機よりも内発的動機を重視する傾向が顕著に表れていることです。
従来、多くの企業では「昇進・昇格」「給与アップ」「安定した雇用」といった外発的動機によって社員のモチベーションを高めようとしてきました。しかし、弊社が毎年行っている新入社員意識調査の最新調査結果によると、昨今の若手・中堅社員は「仕事そのものの意義や面白さ」「自分自身の成長実感」「社会への貢献感」「ワークライフバランス」などの内発的な満足感を求める傾向が強くなっています。

出典:「新入社員意識調査2025」リクルートマネジメントソリューションズ(2025)
この価値観の変化は、勤続意向の実態にも如実に表れています。
入社5年目以降19年目までの中堅社員650名を対象に行った調査結果からは、「キャリアを開発するためであれば今の会社にこだわらないか」という質問に対し「全くあてはまらない」と「ややあてはまらない」を合わせた比率は27%であるのに対して、「とてもあてはまる」と「ややあてはまる」を合わせた比率は37%であり、今の会社にはこだわらない肯定派のほうが、10ポイントほど多くなっています。
現在就業している会社にこだわりを持たず、より良い条件や環境があれば転職を検討するこの姿勢は、これまで新卒一括採用・終身雇用の風土が根強かった日本企業にとって、大きな構造変化といえるでしょう。これは先行きが見えない現代社会において、自分自身でキャリアを切り拓いていこうとする欲求や意識の表れなのかもしれません。
こうした価値観の変化は、企業の人材マネジメントにも大きな影響を与えており、従来の年功序列や画一的なキャリアパスでは、現代の社員のニーズに応えることが難しくなっています。今後はさらに、より個別化された多様なキャリアパスや働き方、働きがいを尊重する人材育成アプローチが求められると考えます。

出典:「中堅社員の成長経験に関する実態調査」リクルートマネジメントソリューションズ(2024)
離職意向の実態
また同調査での離職意向に関する質問への回答結果は、多くの経営者・人事担当者にとってインパクトのある結果となりました。中堅社員の77%が「これまで、今の会社を辞めたいと思ったことがある」と回答しており、そのうち22%が「常に」、続いて34%が「時々」という高い頻度で「辞めたい」と思っていることが明らかになっています。

出典:「中堅社員の成長経験に関する実態調査」リクルートマネジメントソリューションズ(2024)
続いて、なぜ辞めたいと思うのか、その理由についての回答結果を見ていくと、上位を占める理由を主に以下4つのカテゴリーに分類することできます。
第1は「条件面に関する理由」で、給与・待遇の不満、労働時間の長さ、福利厚生の不足など。第2は「仕事内容に関する理由」で、業務の単調さ、やりがいの欠如など。第3は「人間関係に関する理由」で、上司との関係性、職場の人間関係が合わないなど。そして第4は「キャリアに関する理由」で、成長機会の不足、将来への不安、キャリアパスの不明確さなどが主な理由して挙げられています。

出典:「中堅社員の成長経験に関する実態調査」リクルートマネジメントソリューションズ(2024)
若手・中堅社員が離職を考えるタイミングと理由
ここからは、「若年・中堅就業者の自発的な離職・離職意向に関する研究」(内藤,松本,大庭,2024)より、実際に離職した若手・中堅社員の離職の実態として、どのような傾向があるのかについて紹介します。
同研究では、新卒で入社した企業を直近3年以内に自発的に転職した人を対象に、以前の会社を辞めて転職した理由を調査。A「以前の会社・仕事に対して耐えられない不満要因があり、その状態を解消・改善するために辞めた」、あるいはB「耐えられないような不満はなかったが、今後のキャリアを考えてより良い機会や環境を獲得するために辞めた」のどちらに近いかを回答を得ました。
回答結果を年次別に分けて分析すると、興味深いことに、年次によって離職理由に変化があることが分かりました。入社1~3年目の社員は「不満を解消するため」の離職の傾向が強く、半数以上を占める結果に。一方で、4~8年目の中堅社員は「今後のキャリアを理由に辞める」傾向が強まり、新しい成長機会や、やりがいのある仕事を求める傾向が見られました。

さらに同研究では、新卒から入社後、一度もまだ辞めていない層(データ内では緑色「非離職者」と表現)とすでに一度転職を経験した層のうち、不満を理由に辞めたA型(データ内では赤色「離職者A」と表現)、キャリアを理由に辞めたB型(データ内では紫色「離職者B」と表現)の3属性を比較し、AとBの離職者の特徴を分析しました。
下の図の縦軸はAとBの離職者が離職した具体的な理由を分類したものです。まだ一度も辞めていない層と不満を理由に辞めたAの離職者を比較すると、Aの不満を理由に辞める人のなかでも、特に条件面と対人に対する不満が高い傾向にあることが分かりました。
一方で、まだ一度も辞めていない層とキャリアを理由に辞めたBの離職者を比較すると、ある程度は全体的な不満が見られるものの、なかでも「キャリア意識」と「仕事の能力」がどの属性よりも高い結果となりました。つまり、キャリアを理由に辞めるBの離職者は、業務スキルが高く、周囲からも認められ(※)、キャリア意識が高い優秀な人材が、より良いキャリアを求めて辞めている可能性が高いことになります。
※注訳:この研究での「組織からの評価」「上司・同僚からの承認」はあくまで回答者本人の自己認識になります。周囲からサーベイを取って客観的に測ったものではありません。

出典:人材育成学会第22回年次大会発表論文「若年・中堅就業者の自発的な離職・離職意向に関する研究」(内藤,松本,大庭,2024)
また不満を理由に辞めたAの離職者の離職理由は、「人間関係 職場の雰囲気が合わなかったから」が41%、「担当している業務に意義を感じられなかったから」が40%、「労働時間が長かったから」が36%を占める結果となりました。
一方で、キャリアを理由に辞めたBの離職者の離職理由は、「仕事の領域を広げたかったから」が48%、「成長できる機会が少ないと感じたから」が38%という結果となりました。また「もともとある程度働いたら転職しようと考えていたから」が38%と同率2番目に多い回答となっていたことからも、前述のキャリアに対する価値観の変化が如実に表れているといえます。

出典:人材育成学会第22回年次大会発表論文「若年・中堅就業者の自発的な離職・離職意向に関する研究」より抜粋(内藤,松本,大庭,2024)
「数年先のキャリアを描ける環境」を用意するには
ここまでの研究結果から、「離職意向(転職意向)」は現状に対する不満と、キャリアや自己成長の見通しが持てないことによって高まることが分かってきました。離職を防ぐためには、現状に対する不満を取り除くだけではなく、キャリアに対する見通しを高めることが重要です。本研究では、「キャリア発達の見通し」は、上司や先輩など自分よりも立場が上の社員への憧れとの関係が深いことが明らかとなっています(下記図内では「垂直方向への志向」と表現)。
目上の立場や役職に憧れを抱くためには、日頃の上司との関わりはもちろんのこと、ロールモデルの存在、一緒に働きたいと思う社員の存在が欠かせません。周囲との関わりを通じて本人が仕事の面白さややりがいを見出し、上を目指していくことに魅力を感じられるようになると、数年先の目指すキャリア像が徐々に見えてきます。その結果、今後もこの会社で頑張りたいなど「キャリア発達の見通し」が高まります。

出典:人材育成学会第22回年次大会発表論文「若年・中堅就業者の自発的な離職・離職意向に関する研究」(内藤,松本,大庭,2024)
多くの企業では「1年目を卒業したら一人前」という暗黙のルールにより、2年目以降は手厚いフォロー体制が縮小されがちです。しかし、若手・中堅社員の離職防止のためには、本人への継続的な成長支援・キャリア支援が不可欠です。
本人が仕事の面白さややりがいを見出し、数年先のキャリアを描ける環境を用意するには、2つの重要なポイントがあります。
1つは、人事部門だけでなく、身近にいる職場の上司や先輩にも積極的に若手・中堅社員の成長に関与してもらうこと。本人への研修も含め、キャリア形成を継続的にサポートする体制を構築することがとても重要だからです。
そしてもう1つは、自社で発生してしまっている離職理由を正しく把握すること。「不満解消」を理由に辞めていく社員が多いのか、「キャリア」を理由に辞めていく社員が多いのか、どの要因を解消していく必要があるのかを明らかにすれば、具体的な施策を考えることができるからです。
まとめ
前編では、昨今の若手・中堅社員の価値観の変化と離職の実態について、データに基づいて詳しく解説してきました。
一連の調査や研究データから、現代の新人・若手は「仕事の意義や面白さ」「成長実感」「社会貢献感」といった内発的な満足感を求める傾向にあること。そして、中堅社員の77%が離職を考えた経験があり、その理由も年次によって「不満解消型」から「キャリア発達重視型」に増加傾向であることが明らかとなりました。
これらの結果から、離職問題は単なる人材流出の問題ではなく、時代に合わせた働き方、マネジメントの仕方、そして組織風土を見直す重要な機会と捉えることができるのではないでしょうか。
若手・中堅社員の実態や価値観の傾向を踏まえると、離職防止の鍵は、現状の不満を解消するだけでなく、社員一人ひとりが数年先のキャリアの見通しを持てるような環境づくりにあります。このような環境づくりを推し進めていくなかで、弊社としてはまず「何に要因と課題があるのか」という現状に対して仮説を立てることを推奨します。
後編では、若手・中堅社員の離職の実態と価値観の傾向を踏まえた、具体的な対策と効果的な育成施策について、紹介します。
執筆者

営業統括部
マーケティング営業部
ソリューションプランナー
結城 綾乃
2022年中途入社。入社以降、中堅・中小企業を中心とする営業部署にてソリューションプランナーとして、経営・人事・現場を見据えながら多領域にわたる課題解決や価値創造の支援に携わる。
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