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【トレーナーコラム】中堅社員育成のヒント

第1回 伸び悩む中堅社員がぶつかりやすい“壁”とは?

  • 公開日:2025/08/19
  • 更新日:2025/08/19
第1回 伸び悩む中堅社員がぶつかりやすい“壁”とは?

弊社は「人と組織の成長」を支えるソリューションパートナーとして、年間約15000クラス※の各種研修を実施しています。そうしたビジネスパーソンの学びの場で、受講者に寄り添いながら成長や変化を引き出しているのが、現場で伴走するトレーナーたちです。
※2025年3月期のインハウス型研修年間開催クラス数(短時間ワークショップを含む)

人材育成の難しさが叫ばれる今、育成のプロであるトレーナーはどのような視点でビジネスパーソンを見つめ、成長を後押ししているのでしょうか。今回は連載企画「トレーナーに聞く」の第1弾として、中堅社員向けの研修を担当するトレーナー・毛利威之が、中堅社員の育成の現場で感じていることをお伝えします。

トレーナー自己紹介
今の中堅社員の特徴
くすぶる中堅社員がぶつかっている、「どうせ」の壁
「キャリア自律をしましょう」という教科書どおりの声掛けが、主体性を妨げることもある
まとめ

トレーナー自己紹介

毛利トレーナーの顔写真

毛利威之(もうり たけし)

経歴
(株)リクルートマネジメントソリューションズ
研修トレーナー
大手情報・出版会社に入社。新卒求人事業でマネジャー任用。元就職情報サイト・情報誌編集長。戦略を設定し、メンバーの内発的動機と結びつけて実行し、成果を共有してキャリア観醸成へつなぐ、といったサイクルを実践すれば、スター選手がいなくとも事業の根幹に影響する大きな実績を生み出せると確信(事業内で年間最優秀マネジャー賞を2年連続受賞)。できないと悩むメンバーの気持ちを知り、寄り添って切磋琢磨するのがスタイル。


「マネジャーになりたくない」――。現場からこのような声が上がりやすい現代社会において、私は少し変わり者かもしれません。トレーナーになる前は19年ほど会社員をしていましたが、社会人になってから初めて「この仕事は面白い!」と沸き立ったのが、マネジメントという仕事でした。人の成長を支えながら、多くのメンバーの力を借りて、何かを成し遂げる。そういった過程が本当に楽しくて、課題を抱えている部署のマネジャーポジションにも率先して手を挙げたことを覚えています。

ただ、マネジメントに興味はあるものの、「大きな事業を立ち上げたい」「昇進したい」という野心はなく、このあと自分は何をしていけばいいのか悩ましい思いを抱えていました。そんなときに先輩から、「トレーナーという仕事があるけど、知らないの?」と言われたことが、トレーナーという職種に目を向けたきっかけでした。

「もしかしたら、自分はトレーナーに向いているかもしれない」。そう思い立ち、キャリアチェンジを決めてから、あっという間に11年が経ちました。現在はさまざまな階層の方々に研修を届けていますが、中堅社員の皆様向けの支援をする案件が多くなっています。

本連載ではそんな私の視点から、昨今の中堅社員が抱えやすい悩みや、人事の皆様に意識してみていただきたいこと、トレーナーとしてのかかわり方などを、研修中のエピソードも交えながら全3回に分けてご紹介します。

今の中堅社員の特徴

毛利トレーナーの写真

まず中堅社員の定義についてですが、「どのような方を中堅社員と呼ぶか」は、企業の風土や文化によって変わってくるかと思います。私がさまざまな企業とかかわるなかで得た肌感としては、入社3・4年目くらいまでを若手、5年目あたりからマネジャーになるまでを中堅、と捉えるケースが多いです。能力的には、「与えられた仕事を、自らの創意工夫を通してゴールに持っていけるようになった人材」を中堅と定義することが一般的かと思います。

昨今の中堅はポテンシャルあり。メタ認知を持つ優れた人材も

トレーナーとして中堅の方々とかかわるなかで感じるのは、「ポテンシャルのある方が非常に多い」という、確かな手応えです。昨今の中堅層は頭の回転が速く、言われたことを正確に汲み取って素直に行動に反映していきます。上層部が描いた戦略・方針を関係者と連携しながら実際に形にしていくという作業を、環境変化が激しいこの状況のなかで行っています。

特に中堅社員のエースとして一目置かれるのが、メタ認知に優れているプレイヤーです。メタ認知とは、自分の頭の上にカメラを置くイメージで、あらゆる物事を俯瞰的・客観的に捉える力のことを指します。自分から切り離したカメラの位置が高くなればなるほど、自分のことだけでなく、仲間のことやプロジェクトの進捗にも広く気を配れるようになるのです。

このように、俯瞰的に状況を把握し、周囲を引っ張っていける方を、弊社では「リーディングプレイヤー」と呼んでいます。彼らは中堅社員のなかでもマネジャーの入口に立っており、遠くない未来に昇格していく層ともいえるでしょう。

ポテンシャルに満ちた中堅社員が、能力を発揮しきれないこともある

先ほども触れたとおり、昨今の中堅社員には高いポテンシャルがあります。ただ、中堅社員の誰もがリーディングプレイヤーとして活躍し、マネジャーに昇進していくかというと、必ずしもそうではありません。詳しい事例は次回の記事でご紹介しますが、リーディングプレイヤーのポテンシャルを持つ方が、あえてマネジャーに抜擢されないように能力を抑えてしまうケースさえあります。

ポテンシャルは十分あるにもかかわらず、頼れる中堅社員としてなかなか開花しない。あるいは、開花しようとしない。そういった方々は、とある「壁」にぶつかっていることがとても多いのです。

くすぶる中堅社員がぶつかっている、「どうせ」の壁

毛利トレーナーの写真

トレーナーとして中堅の方々とかかわるなかで、常々思うことがあります。中堅層でくすぶっている方の多くは、元気がないのです。具体的には、同調圧力を気にしたり、「会社に言われたことだけを淡々とやろう」と諦めていたりなど、ありのままの自分を押し殺してしまっていることがあります。

そんな方々としっかり対話してみると、ある共通点が浮かんできます。彼らは会社のなかで、「どうせ頑張っても認めてもらえない」という、鬱憤や不満を感じていることが多いのです。「よかれと思って何かをしても、褒めてもらえない。『最近どう?』と、上司から気にかけてもらえることも少ない。頑張って成長しても結果が変わらないならば、与えられた仕事だけこなそう」と。

彼らが一番生き生きとしていたのは、新入社員として入社したばかりの頃だったのではないか。入社式をピークに、会社のなかで慣れていけば慣れていくほど、心がしぼんでいってしまったのではないか――。トレーナーの私がそう心配してしまうほど、彼らは「どうせ」の壁に囲まれて、自分の成長というものに目が届かなくなっていることが多いのです。

「誰にも評価されない」という失望が、成長に蓋をする

最近、中堅社員研修に来てくださった方が、こんな悩みを話してくれました。「本当はお客様にもっとアイディアを提案して、役に立ちたいと思っています。けれど、うちの会社は定量的な利益しか評価対象にならないので、そういった頑張りは評価されません。やりたいことはあるのに、会社の尺度で頑張らないといけない。会社から指示される仕事だけ頑張るうちに、だんだん自分の心が死ぬのです」と。

優秀で、本来ならキラキラしているはずの方から出た、「会社に従っていると心が死んでしまう」という一言。はっきりと本音をこぼされたのはその方だけでしたが、同僚の方々も深く頷いており、トレーナーとして危機感を覚えました。研修をやると「本当はこうありたい、こうできるとよい」「組織のここがまずいので変えられるとよい」といった思いや考えを、中堅層は実はたくさん抱えていると分かります。聴いていて、ぜひ職場でそれをやってほしいと思えるものばかりです。それにもかかわらず、それを素直に表出させたところで、認めてもらえず、評価されず、悪目立ちするだけと考えてその思いをそっとしまい、会社の要請にただ応える日々を送ることになります。こうして心がしぼんでいく方がとても多いのではないでしょうか。

「キャリア自律をしましょう」という教科書どおりの声掛けが、主体性を妨げることもある

毛利トレーナーの写真

先に申し上げておきたいのですが、どの企業の人事担当の方も、大切な社員を健やかに育てたいと願っていらっしゃいます。社員の成長を後押ししようと努力されている方ばかりで、「成長に蓋をしたい」などとは決して思っていません。キャリア自律や心理的安全性といった、人材育成のトレンドワードもしっかりとキャッチされている印象を受けています。ただ、そういった「社員育成において効果的とされるアプローチ」を先んじて知っていることが、かえって落とし穴になることもあるのです。

例えば、「キャリア自律」という言葉があります。キャリア自律とは、「組織にキャリアを預けるのではなく、自分でキャリアをデザインしながら、自己成長を続けていきましょう」というメッセージです。弊社も研修などでキャリア自律の大切さを伝えており、VUCAと呼ばれる時代においても欠かせない姿勢だと考えています。

ただ、このキャリア自律という言葉を、自分のキャリアに関心を持てなくなっている方に投げかけると、一体どうなるでしょうか。「キャリア自律は大事です。さあ、自律しましょう」と教科書どおりに指示をして、仮に「分かりました」という反応があった場合、それは自律ではなく従っているだけになってしまいます。「自律的に動きましょう」というメッセージが、指示命令を出す側とそれに従う側の習慣行動を上塗りして、逆に相手の主体性を奪うことにつながってしまうように感じます。

キャリア自律も、心理的安全性も、社員一人ひとりの内から湧き出ることに意味があります。もし、「キャリア自律しましょう」「心理的安全性が大事だからたくさん話しましょう」といったアプローチへの反応が薄いなら、その手前の準備をまずやってみることをお薦めしたいです。

具体的には、コミュニケーションを取ってみましょう。「あなたはこの件についてどう思うか?」「あなたはこの件がどうなるとよいと思うか?」「あなたにとって興味がありそうなことは何か?」と相手の認知を刺激して、考えていることや思っていることを表出してもらい、その内容が拙かったとしてもまずはそれを受け止めます。これによって相手に2つの認知を持ってもらいます。1つは、自分の気持ちや考えに興味・関心を持ってくれる人がいるんだという認知。2つ目は気持ちや考えを表出しても、気まずいことにはならないという認知です。

まとめ

繰り返しになってしまいますが、昨今の中堅社員の方々は高いポテンシャルをお持ちです。ただ、どんなに高い能力を持っている方でも、成長する意味を見失えば、素のポテンシャルを発揮できなくなってしまいます。

「成長しても意味がない。きっと誰にも評価されない」という認知をもみほぐして、前向きな気持ちになってもらうことも、トレーナーである我々の役目だと思っています。次回の記事では、実際に私が中堅社員の方々とどのようにかかわっているのかを、研修中のエピソードも交えながらお話しさせていただければと思います。

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