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教育部門の本気と現場の本音で、共につくる職場ぐるみの新人育成

  • 公開日:2024/10/15
  • 更新日:2024/10/15
教育部門の本気と現場の本音で、共につくる職場ぐるみの新人育成

新入社員意識調査2024』で紹介した株式会社ヤクルト本社様の成功事例をピックアップします。全社の社員教育を担う人材開発センターの木村和也(きむら かずや)様をお招きし、「職場ぐるみで人を育てる風土づくり」の秘訣についてお伺いしました。

「新人育成は教育部門の役目」という風土に、「職場ぐるみの育成」を浸透させたメソッド
「よろしくね」と現場の肩を叩ける距離感をつくりながら、新しい教育制度の浸透を後押しした
研修は現場の声を反映し年々ブラッシュアップ。徹底して「人を育てること」を重視し続けた理由

「新人育成は教育部門の役目」という風土に、「職場ぐるみの育成」を浸透させたメソッド

武石の画像

武石:御社は2021年から、育成担当者(OJTリーダー)だけでなく職場全体で人を育てる風土の醸成に取り組み、わずか3年で現場の意識改革に成功したという素晴らしい実績をお持ちです。以前、弊社のセミナーで御社の「職場ぐるみで人を育てる新人研修カリキュラム」についてお話しいただいた際にも、多くの企業様から反響をいただきました。

<ヤクルト社登壇セミナーのコラムはこちら>
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今回はさらに一歩踏み込んで、「職場ぐるみで人を育てる施策を、どのように現場に浸透させていったのか」を深掘りさせていただければと思います。

木村:普通のことしかしていないので、お役に立てるかどうか不安なところですが……(笑)。

武石:今回もぜひいろいろとお伺いできれば幸いです。早速ですが、御社は職場ぐるみで人を育てていく風土づくりに向けて、さまざまな施策を導入されていますよね。特に新人教育に関しては、人材開発センターと現場が一丸となって新人を育てる、新しいOJT教育プログラムをスタートされました。

<図表1>OJT教育プログラム全体像

OJT教育プログラム全体像

人材開発センターと現場の上司、OJTリーダーが総出で新人のOJTに関わる制度の導入に際して、現場の反応はどうでしたか? 「現場は忙しいから、新人のOJTまで手が回らないよ」などの声もあったのでしょうか。

木村様の画像

木村:「協力はするが、思うところもある」という反応が主でした。弊社にはもともと、昇格にあたって試験や研修を受ける風土がありますので、研修制度そのものについては協力的な社員が多いです。ただ、新人教育については「人材開発センターが新人研修を実施し、配属後の教育は各部署に一任する」という流れが根付いていて、OJTという文化も浸透していませんでした。

そういった現場の余白に、「皆で新人を育てよう」という新しいOJT制度を導入するわけですから、当然ながら懸念の声はありましたね。「1年目の新人を育てるのは現場ではなく、人材開発センターの役目では?」という声もあれば、「現場に新人が来る時点で、ある程度の知識は身につけさせておいてほしい」という切実な意見もあがりました。

武石:近年の新人教育では、育成担当者だけで新人を育てるより、職場という人脈を生かして、見守られる安心感のもとで育てていく方が効果的だと弊社は考えています。だからこそ御社のような「職場ぐるみの育成」が理想的なのですが、職場が新人に関わるやり方について、現場に負担がかかるのではないかと心配されるケースも珍しくありません。御社でもそのような声があがるなかで、どのように現場を巻き込んでいかれたのでしょうか。

木村:まず、実際に新人を指導するOJTリーダーではなく、新人が入る部署の上司を巻き込むことから始めました。OJTリーダーだけを育てても結局「その人任せ」になってしまうので、最初に部署のトップにOJT研修を受けてもらい、OJTリーダーをサポートしてもらえるようにしたんです。その後、OJTリーダーにも研修を受けてもらって、さらに1年単位でOJTリーダーを変えることで、人を育てる意識を現場に広げていきました。

また、こういった研修が「人材開発センターの自己満足で終わってほしくない」という想いがあったので、研修を通して社員自身が前向きに学びを得られるような工夫も行いました。具体的には、研修で成功体験を得たOJTリーダーを見つけて、社内にどんどん共有することで、「自分もやってみよう」と感じてもらえるようにしたんです。

研修って基本的に「やってください」と上から言われてやるものなので、場合によっては「やらされている感」が出てしまうことがあります。ただ、しっかり研修に取り組んでいる人がいれば、「自分もやろう」と周囲が感化されていくことも多いです。そういった人情を踏まえて、報告レポートを真面目に書いてくれた社員を研修の各グループにちりばめたり、社内報でOJTの成功例を取り上げたりして、人の成長に目を向けてもらえるように働きかけました。

「よろしくね」と現場の肩を叩ける距離感をつくりながら、新しい教育制度の浸透を後押しした

木村様と武石の画像

武石:職場ぐるみの育成に向けた新しい教育制度をスタートさせたのが2021年とのことですが、成果を感じられたのはいつ頃からでしょうか。何をもって成果と呼ぶかは難しいところですが、現場の変化を感じられたタイミングがあれば教えていただきたいです。

木村:変化を感じたのは、比較的すぐですね。2021年4月に新入社員研修を実施して、5月に上司やOJTリーダー向けの研修を実施したのですが、毎月提出してもらう定期レポートを見ていくなかで「積極的に新人と向き合ってくれているな」という手応えを感じました。

武石:取り組みをスタートして、社員の皆様がすぐに協力してくださるのが本当に素晴らしいです。教育部門と現場は温度感が違うこともありますので、現場としても新しい取り組みに参加するハードルが意外と高いはずなのですが……。

木村:OJTリーダーになる面々と私が、ある程度知り合いである点が大きいかもしれませんね。私も教育部門に配属されて長いので、新人時代から面倒を見ている社員がOJTリーダーになることも多くて、「最近どう?」と状況を聞きやすいんです。顔見知りなら直接電話することもできますし、自然と声もかけやすくなります。フロアを歩いていて、OJTリーダーと新人が面談している様子が廊下から見えたら、あとでリーダーを呼び止めて「どんな話をしてたの?」「よろしくね」とラフに話すこともできました。

木村様と武石の画像

武石:そういえば木村様は、新入社員研修に出られた方の顔と名前がほぼ一致されていると聞きました。研修などのアンケートでも、記入者の名前を見れば顔が浮かぶとか……。現場の皆様から見ても、人材開発センターの方と距離が近い環境があるからこそ、「協力しよう」という意識になりやすいのかもしれませんね。

木村:あとはやはり、地道かつ密なコミュニケーションが大事ですね。人材開発センターとして仕組みだけつくって「やってください」と指示するだけでは、現場はなかなか動きません。OJT教育プログラムを導入した当初は特に、人材開発センターから現場に関わっていく姿勢を大切にしていました。私達、人材開発センターの音頭で研修に協力していただいているという自覚もあったので、不安で各フロアを渡り歩くことも多かったです。OJTリーダーを見かけたら、「よろしくね」と声をかけるようにもしていました。

実は、従来の新入社員研修では、研修を受けて巣立っていった新人達の「その後」が人材開発センターから見えなかったんです。しかし新入社員研修制度の刷新と、OJT教育プログラムの導入のおかげで、新人とも現場のOJTリーダーとも関わることができ、新人の「その後」が分かりやすくなりました。新人や上司、OJTリーダーといった現場のさまざまな顔が人材開発センターから見えるようになったという手応えが、「職場ぐるみで人を育てている」という実感にもつながっていたと思います。

研修は現場の声を反映し年々ブラッシュアップ。徹底して「人を育てること」を重視し続けた理由

木村様の画像

武石:御社が職場ぐるみの育成を目指してから3年ほど経っていますが、研修内容のブラッシュアップはされているのでしょうか?

木村:社員が出してくれた定期アンケートや、登壇していただく講師の方との擦り合わせをもとに、年々ブラッシュアップしています。特に1年目はOJTリーダー全員に最終報告書を書いてもらい、改善点を探りました。「定期レポートの量が多いので調整してほしい」とか、「上司向けのフォロー施策も導入してほしい」など、現場の意見も積極的に取り入れていきました。

研修終了後アンケートについても、本当なら個別にフィードバックしたかったんですけど、やはり人材開発センターの人数が限られているなかで全員に対応するのは難しいんですよね。ですので、アンケート結果から研修内容の傾向や改善策をまとめて、来期の研修につなげていました。

武石:「アンケートを集計して終わり」ではなくて、次に生かされているのが素晴らしいですよね。「研修を1回ドーンとやって反応がよければOK」と短期的に見るのではなく、「それが何につながるのか」を考え、本当の意味で「職場ぐるみの育成」に取り組んでいらっしゃる様子が伝わってきます。

根本的な質問になってしまうのですが、御社はなぜ、そこまで「人を育てること」を重視されているのでしょうか。ヤクルトという確固たるブランド力があり、大手として優秀な社員の方も多いかと存じますが……。

木村:確かに弊社にはヤクルトという主力ブランドがありますので、安定したイメージを持たれるかもしれません。ただ、持続的な成長に向けて課題も抱えています。だからこそ、若い力を育てることが非常に大切なんです。何より、外から見て「ヤクルトっていいな」と思って入社してきてくれた若い方々に、中から見ても「ヤクルトっていいな」と思ってほしいんですよね。

だからこそ研修をやっているわけですが、最終的に、「『研修はやらなくてもいい』になるといいな」と思っています。研修をやる必要がないってことは、それだけ職場ぐるみで人を育てる風土が完成したということですから。

研修を目的とするのではなく、社員の変化や学びのきっかけになってほしい。そんな気持ちで、これからも人材開発センターとしてできる範囲で現場の育成を支えていきたいですね。

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