連載・コラム
リモートワーク下における活力ある職場づくり 第7回
マネジメントの拠り所
- 公開日:2023/06/26
- 更新日:2024/05/16
この連載では、これまでもリモートワーク下における活力ある職場づくりと題して、その考え方とさまざまな実践原則をお話ししてきました。 あらためて見つめてみると、どの原則もこの時代になって新たにつくられたものというよりは、以前からあった原則が実践されるうちに、時代の変化に合わせてブラッシュアップされてきている“だけ”ということに気づいたのではないでしょうか? しかし、いざ実践しようとすると、マネジャーである皆様、全社のマネジメント力向上を企画する人事部門の皆様に対し、さらなる負担を強いるものです。なかには“そこまでやる必要がある?”とお感じの方もいらっしゃることでしょう。 では、実践する人と、しない人の差はどこにあるのでしょうか? それが、最終回である今回のテーマです。
正解がない時代に求められるもの
この連載では、“リモートワーク下”という変化の時代に合わせたさまざまな原則をご紹介してきました。しかし、いくら原則を知ったところで、実践されなければ意味はありません。
参考までにあるお話を紹介します。前回の、定点観測を行い、職場を活性化させたマネジャーのエピソードの続きです。あのエピソードを聞いた際、「どうして、この忙しいなかでそこまでやろうとしたんですか?」と尋ねたところ、マネジャーはこんなことを言ってくれました。
「実は私も同僚に聞いて真似し始めたのですが、別の同僚からは“よくそこまでやるね。そこまでやらないといけないの? 会社や組織の方針をメンバーがやらないんだったら、ちゃんと目標を伝えて、メンバーの目標に落としこんで、できる仕組み・方法を考えることがマネジャーの役割だと思うよ” って、言われたんですよね。最初は私もそう感じていたので、そう言われたときに、なんでこんなに必死になって取り組んでいるのか、考えてみました。すると、1つ思い出したことがあったんです。
それは、自分が入社したときに配属された職場のことでした。新人時代、営業に配属されて右も左も分からないまま好き勝手やっては失敗ばかりしていたのですが、その都度上司がうまく軌道修正してくれて、そのうえ“お前がやりたいことをやればいいんだ”と言ってくれました。
お恥ずかしい話、当時は“上司なんだから当たり前だろ!”としか感じていなかったのですが(笑)、今にして思うと相当上司は関係者に手を回してくれていたり、辛抱してくれていたりしたのだと思うんです。自分はあのようなマネジャーになりたかったし、あのように一人ひとりが思い切って働ける職場をつくりたいと思っていたんです。だから、自分も辛抱できたのだと思います」
過去の体験・経験によって、このマネジャーのなかに喚起されたものは一体何でしょうか? それは自分がマネジャーとして何を実現したかったのか、マネジメントをしていくうえで大切にしたかったもの。いわば、マネジメントをしていくうえでの「価値-目的」です。それらがこのマネジャーの実践に向けた背中を押し、苦しいときの拠り所になったのでしょう。
原則を創造する発想で「マネジメントの価値-目的」を描いてみよう
そして、その拠り所を起点にして、実践し、その結果のなかから自分らしいマネジメント原則を創造していく。これだけ変化が激しい時代です。一見すると、これまでのマネジメント原則がそのままでは通用しづらい時代のように見えますが、一方で、見方を変えれば、どうせ正解がないのであれば、自分自身の試行錯誤のなかから新たな原則を創造できる時代ともいえます。
そのためにも、まずは、その起点・基準・拠り所になる「マネジメントの価値-目的」をあらためて思い起こしておくことが大切になります。
そして、それらを常に再実感できるようにしておくことも重要です。先程のマネジャーも、同僚マネジャーに問いかけられるまで、自分自身の「マネジメントの価値-目的」を忘れていました。そして一時期は自分でも意に沿わないような行動を取っていたわけです。要は、“価値にしているものであっても、繰り返し繰り返し実感しないと枯れる”といえるでしょう。
下の図は、「マネジメントの価値-目的」の内容と描くときのポイントをまとめたものです。これを参考にしていただきながら、自分が何を実現したかったのか、何を大事にしておきたかったのか、自分らしい表現でまとめてみてください。
<図表1>マネジメントの価値-目的を描く
「マネジメントの価値-目的=マネジメント基準」を はっきりした言葉にすることの意義
マネジメントの価値-目的を描いたところで、あらためてその意義をまとめてみました。
(1)メンバーから見れば「マネジャーが根っ子のところで大事にしている意思決定の基準」です。はっきりせず、時と場合で揺れていると、メンバーはマネジャーの考えをうかがい続けることになります。
(2)もし、マネジメント基準を持てなければマネジャー自身が、外・上・下からのさまざまな要請・圧力にさらされて右往左往します。
(3)もし、はっきりした言葉になっていなければ、メンバーはマネジャーの思いを察するしかないから伝わらないかもしれません。
(4)メンバーが、マネジャーのマネジメント基準が一貫していると感じられれば、メンバーは、マネジャーへの期待・信頼を抱くことができます。
この連載では、いくつかの実践原則をお話ししてきました。しかし、実はそれすらもすでに環境変化のなかにおいてはブラッシュアップされていくべきものだと思っています。ぜひ、皆様自身が、自分自身のマネジメント基準を拠り所に、自分らしいマネジメントを行うことを通して、自分なりの実践原則を創造していってください。これまでお話ししてきたことが、その一助になっていれば幸いです。
ありがとうございました。
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※本稿は、オフィスのミカタへの寄稿記事より転載・一部修正したものです。
バックナンバー
第1回 リモートワーク下の“職場” 変わったこと/変わっていないこと
第2回 安心感の土壌をつくる
第3回 メンバーの持ち味を味わう
第4回 メンバーの持ち味を味わう -ベテラン社員について考える
第5回 チームワークは土台づくりから
第6回 小さな変化を見逃さない―定点観測
執筆者
コミュニケーションエンジニアリング部
エグゼクティブコミュニケーションエンジニア
河島 慎
1975年生まれ、三重県出身、 1998年、電機メーカーへ入社、人事・総務を約8年経験。
2004年、リクルートマネジメントソリューションズへ入社。以降、コミュニケーションエンジニアとして、人材価値経営(人・組織のもつ潜在的な可能性の最大化による事業価値最大化を図る経営)実現を支援している。
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