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THEME 経営人材/次世代リーダー

連載・コラム共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’2020インタビュー vol.3

「デジタルおがつ町」を3.11に実現したチームの話
〜アワード出場よりも大切にしたこと〜

「デジタルおがつ町」を3.11に実現したチームの話 〜アワード出場よりも大切にしたこと〜

2019年からスタートした共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」。Jammin’2020の参加者・関係者へのインタビュー企画第3弾は「地方創生(雄勝)コース」で、「デジタルおがつ町」を企画したチームの座談会だ。各コースの代表チームが事業案を発表するJammin’ Awardに、2020年度Jammin’で唯一、代表チームが選出されなかったのが、この「地方創生(雄勝)コース」。しかし実は、今回のチームはアワードにこそ選出されなかったものの、終了後に「デジタルおがつ町」を立ち上げ、そのWEBサイトは実際に宮城県雄勝町の方々に利用されている。企画案を実現したチームは、Jammin’全体でもまだ数えるほどしかない。彼らはなぜ実現できたのか。ストーリーや想いを詳しく伺った。

●地方創生(雄勝)コース/Cチーム
永吉達人氏/西日本電信電話株式会社
宮岡香苗氏/清水建設株式会社
山田大輔氏/東京海上日動火災保険株式会社
森川克巳氏/富士通株式会社

※所属はJammin’2020参加当時のもの

雄勝町には、私たちの想像を超えた不があった


――始まる前はJammin’をどう捉えていましたか?

永吉達人氏

永吉:Jammin’はフィールドワーク中心のプログラムだと聞いており、参加するのが「地方創生(雄勝)」コースですから、知らない地域の人たちとの出会いが楽しみでした。地域密着はNTT西日本の事業テーマの1つですので、その点でも地方創生に興味がありました。ただ、半年でどこまでやれるのだろう、という不安もありましたね。
永吉達人氏/西日本電信電話株式会社

宮岡香苗氏

宮岡:私も地方創生に興味があって、自ら調べていたほどなので、地方創生について実践的に学べる良いチャンスだと感じました。他社の皆さんとつながりを持てることにも期待がありました。
宮岡香苗氏/清水建設株式会社

山田大輔氏

山田:僕は田舎好きなので、今の自分が住んでいる首都圏とはかけ離れた地域と関係を持てることが単純に嬉しかったですね。一方で、新しいものを生み出す経験を積みたい、という気持ちも強くありました。
山田大輔氏/東京海上日動火災保険株式会社

森川克巳氏

森川:地方創生は、数あるコースのなかで自分の仕事から一番遠かったので選びました。振り返ると、その選択で正解だったと思います。最終的に、これまで経験したことのない達成感を味わえましたから。
森川克巳氏/富士通株式会社

――Jammin’の序盤で印象に残っていることは何ですか?

永吉:序盤ではっきり覚えているのは、やはり「現地探索セッション」です。現地探索セッションでは、専門家の油井元太郎さんが雄勝で営む複合体験施設「MORIUMIUS」を拠点にして、雄勝に住む5名の語り部から、オンラインでお話を伺いました。

それまで、インターネットで雄勝の「不」※をいろいろと調べていたのですが、実際に皆さんが話すことはネット情報とは全然質が違いました。一言で言えば、雄勝には僕たちの想像を絶する「不」があったんです。例えば現地には、3.11を経て、今では10メートル近い高さの防潮堤が作られているんですが、防潮堤に反対する住民の皆さんの想いはとても強い。こうした話を伺って、いかに自分たちがネットで調べた情報が表面的だったかを思い知りました。

※不便、不安・不満・不公平など、「世のなかにある誰かのお困りごと」を指す。特定のステークホルダーの不を解消しながら、そのインパクトを広げ、社会課題の解決につながるよう事業をデザインすることが、Jammin’流の新価値創造プロセス

山田:僕はそのとき、東日本大震災の被災者の方の生の声を直接伺ったのが初めてで、本当に大変な思いをされたのだ、と強烈に感じました。東日本大震災が一気に身近になり、何か自分にできることをしたい、と思うようになりました。また、皆さんの雄勝愛が伝わってきたインタビューでもありましたね。

宮岡:現地探索セッションで印象に残ったのは、皆さんの想いが異なることでした。特に、行政の方々と草の根運動を続ける住民の方々の想いはかなり距離があって、1つにまとめるのは難しいと感じました。でも、雄勝の復興を目指している点では両者は同じなんです。私はそういうことが全然分かっていなかった。「まちにはさまざまな想いの人がいる」という前提で企画案を作らないといけない、とよく分かりました。

雄勝港防潮堤

本当に雄勝の人たちのためになっているかを問い直す



――「デジタルおがつ町」という企画案が生まれた経緯を教えてください。


森川:実は、私と山田さんは、現地探索セッションの後、別々で直接現地を訪問し、雄勝の皆さんにインタビューしてきたんですよ。

山田:僕の方が先に行きました。現地探索セッションの直後でしたね。記憶に残ったのは、現地の皆さんの温かさと震災の傷の深さでした。雄勝の皆さんは、いろいろと世話を焼いてくださった。一緒に語り合ったりして、親交を深めることができました。海産物もおいしくて、自然が豊かで景色はキレイでした。いい場所だな、と思いましたね。ただ、津波で流された病院の跡地に立てられた慰霊碑や、海岸沿いの防潮堤を見たときには胸が強く痛みました。

森川:私は山田さんの後に訪問しました。実はその時点で、私たちは「デジタルおがつ町」と「雄勝町ワーケーション」の2案を企画していました。雄勝町ワーケーションは、地元の古民家や高台の空き地を活用する案でした。でも、自分自身で雄勝に行って感じたのは、自分が頻繁に観光に訪れたいか、このまちでワーケーションしたいかというと、なかなか来ないだろうな、ということでした。これが正直な感想だったんです。東京から最短でも片道4時間近くかかることも含めて、ワーケーションの案は厳しいと感じました。

もちろん一方で、山田さんと同じように雄勝の人の温かさを感じることができました。特に、地元の同世代の皆さんと仲良くなれたのは大きな収穫でしたね。

宮岡:現地に行った森川さんがそう言うのだから難しいのだろう、と私はすぐに納得しました。

永吉:せっかく作った案なので残念でしたけど、1つに絞るのが現実的でした。10月中旬、僕らは「デジタルおがつ町」で行くと決めました。

――その後はスムーズに進んだのですか?


山田:そんなことはありません。12月の年末に大きな方向転換がありました。

永吉:10〜12月は仮説ブラッシュアップの時期でした。専門家の油井さんやトレーナーの方々や他チームの皆さんからさまざまなフィードバックをいただきながら、デジタルおがつ町の企画案を詰めていきました。ただ、そうしているうちに、僕たちの想いがブレていってしまったんです。そして12月に、「これって、本当に雄勝の人たちのためになっているんだっけ?」という原点に返る問いが生まれました。

雄勝町湖畔イメージ

ビジネスとしての完成度よりも、目の前の人たちの想いに応えることを選んだ

――どのような方向転換があったのでしょうか?

森川:「わがままを言わせてください」と言ったのは私です。12月の時点では、海産物などを販売することで、雄勝町のファンとつながるWEBサイトという企画でした。でも、現地を訪問して、地元の同世代の皆さんと話したことで、一番大事なのは「研修のための企画じゃなくて、現地の仲間と一緒に、みんなで最後までやりきること」じゃないか、と思うようになりました。それで思いきって、企画を大きく変えたいと提案しました。「マネタイズよりもやりきることを選びませんか」と、他の3人に呼びかけたんです。

山田:このとき森川さんが言ったのは、「雄勝には人と人の分断、心のしこりがある。それを解消するのはECサイトじゃない、住民の皆さんの情報共有サイトだ」という意見でした。僕はその意見に納得しましたが、ただ一方でJammin’はビジネスを生み出す場所ですから、「デジタルおがつ町」を情報共有サイトにすれば、Awardを捨てることになるのは明らかでした。

宮岡:もちろんAwardは獲りたかったですけど、私たちはそれよりも現地の皆さんとやりきることを選んだわけです。ですから、Awardに選出されないと決まったときは、チーム全員がすぐに気持ちを切り替え、企画案の実現に向かっていきました。

永吉:仕方ないですよね。

森川:Awardに出られず、グランプリを穫れなかったのは、僕も悔しかったです。でもそれよりも、何度も何度も真剣に相談に乗ってくれ、意見をぶつけてくれた地元の同世代の仲間と一緒に自分ができることを形にしたい、という想いが上回りました。実は私は、11月末にもう一度、雄勝を訪問したんです。今振り返ると、そのときに「彼らと一緒に、最後までやりきることができる企画を作ろう」と覚悟したんだと思います。

セオリーから外れたWEBサイトを作り上げた



――企画案を実現したプロセスを教えてください。



宮岡:2021年1月にAward不選出が決まり、すぐにWEBサイト構築を始めました。まずゴールを象徴的な日「3.11」と決め、3.11に間に合わせるために、どんな情報をどのように載せるのがよいかを話し合っていきました。

山田:具体的には、雄勝の同世代の皆さんと僕たちで、週1でミーティングをしながら進めました。また、僕の友人がサイト構築に詳しかったので、アドバイザーに入ってもらいました。なおWEBサイトは、プログラミング不要のノーコードWEBサービスで立ち上げました。

宮岡:ミーティングを重ねるに従って、「サイト訪問者を増やしたい」という私たちの想いと、「雄勝内で交流できるサイトであればいい」という雄勝の皆さんの想いの違いが浮き彫りになっていきましたね。こういうことが明確になるのが大事なことで、良いディスカッションができたと思います。

山田:僕らは、雄勝の外の人たちにも見てもらえるサイトを目指していたんですが、話せば話すほど、雄勝の皆さんは雄勝のなかの人たちをハッピーにすることに最も価値を感じるのだ、とはっきりしていったんです。

森川:とはいえ、企画案の発表までは提案者とクライアントの関係でしたけど、実際にサイト作りを始めてからは、私たちと雄勝の皆さんの間の壁がなくなって、遠慮なく言いたいことを言えるようにもなりましたよね。その点はやりやすかったです。もちろん、Jammin’で良い関係を築けていたからこそ、実現できたことだと思いますが。

永吉:サイト作りにあたっては、本当に細かなところから一つひとつ決めていきました。町内の地区名を並べる順番一つ取っても、長く議論したのを覚えています。

山田:結果的に、セオリーからは外れたWEBサイトになりました。ユーザーペルソナが70〜80代なので、彼らが分かりやすいように大きな文字で表示しました。また、クリック数が多いのは混乱の原因になるので、かなり長い縦スクロールのサイトを構築しました。セオリーからは外れましたけど、これこそ彼らが求めていたWEBサイトでした。最終的に3.11に間に合わせることができて、本当に良かったです。

森川:完成したWEBサイト「デジタルおがつ町」がこちらです。

デジタルおがつ町


 

シンプルなWEBサイトでも、相手が大きな価値を感じれば「新価値創造」だ



――皆さんの学び、気づきを教えてください。


永吉:「不」の深掘りのプロセスを学べたこと、現地の方々のために動く姿勢を学べたこと、多様な意見を統合して創り出すプロセスを経験できたこと。この3つが大きかったです。

山田:目標設定の難しさを痛感しました。12月まで積み重ねてきて、終盤の年末にガラリと変わりましたからね。でも、あの目標変更は必要でした。仕事でも、きっとこういうことはあり得るだろうと思います。たくさんの人に話を聞くことが大切なのだ、ということも体感的によく分かりました。

森川:「新価値創造」と言われていたので、序盤はまったく新しいものを生み出さないとダメなのかな、と思っていました。ところが、最後に完成したのは本当にシンプルなWEBサイトだったんです。使う相手が価値を感じれば、新しくないものでもよいんですね。相手が大きな価値を感じることこそが「新価値創造」なのだ、と学んだ半年間でした。

また、やりきることがめちゃくちゃ大事なのだ、と悟った時間でもありました。やりきるために必要なのが「ひきつける」「いかしきる」「やってみる」というJammin’の3つのキーワード(→詳しくはこちら)で、すばらしいキーワード設定だと感じています。

宮岡:事前に想像していたよりも、はるかに多くの方と深い話をすることができました。いろいろな人と意見をぶつけ合いながら作っていくという良い経験を積めました。それから、チームの仲間たちや現地の皆さんのリーダーシップが、一人ひとり違ったのが面白かったですね。多様なリーダーシップのあり方から学ぶことが本当に数多くありました。

雄勝町協力イメージ


――最後に、これから受講する方にメッセージをお願いします。


森川:去年の自分に言葉をかけるとしたら、「普段考えないことを考えるので、ストレスが溜まって疲れるし、自信もなくなるけど、最後には経験したことのない達成感を味わえるから、ぜひやりきってほしい」ということですね。これから参加する皆さんにも、同じことをお伝えしたいです。

宮岡:いつもなら出会えない人と出会えること自体に価値があります。Jammin’では、いろいろな人の話を聞くこと、チーム内で議論することを、思いきり楽しんだらいいと思います。

永吉:僕も、業務では知り合えない人たちとの出会いが楽しかったですね。

山田:関わる以上は、現地の皆さんと真摯に向き合い、相手の想いを受け止めて、自分が貢献できることを真剣に考えてもらえたら嬉しいです。


【text:米川青馬、illustration:長縄美紀】


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