- 公開日:2026/09/07
- 更新日:2026/09/07
仕事の報酬には二通りある。給与や昇進といった外から与えられる外発的報酬と、やりがいやキャリア開発といった、仕事の実践そのものから生まれる内発的報酬である。前者は設計しやすいが、後者は難しい。その難題に取り組む大手外食産業の例を取り上げる。お話を聞かせてくださったのは、株式会社トリドールホールディングス ハピネス・ヒューマンサポート本部 副本部長兼人事部長 竹岡由紀子氏と、株式会社丸亀製麺 執行役員 宇治川智大氏のお二人だ。
従業員の内発的動機を高めることから始めた
「食の感動で、この星を満たせ。」をスローガンに、丸亀製麺など、国内外に2000を超える店舗を展開するトリドールグループ。2022年から取り組みが始まり、2024年からグループ各社で完全実践されているのが「ハピカン経営」である。トリドールホールディングス ハピネス・ヒューマンサポート本部 副本部長兼人事部長の竹岡由紀子氏が説明する。「従業員の『幸福感(ハピネス)』が起点となり、それがお客様の『感動』を生み出し、結果として当社の『商売繁盛』につながるという独自の経営モデルです。商売繁盛が実現すれば、さらに従業員のハピネスを高める投資が可能になります」
この考え方が生まれた背景には、創業者の強い思いと経営環境の大きな変化があった。「われわれはお客様への感動の提供を旨として事業を展開してきました。そのためには従業員自身のハピネスの向上がすべての起点になる。創業者であり現代表取締役社長兼CEOの粟田貴也がこのことを明確に認識したのです。もう1つ、労働力不足のなか、優秀な人材を惹きつけながら、既存の従業員がモチベーションの高い状態で長く働き続けられる環境を用意する必要があることにも思いが至りました。それを実現するのがハピカン経営です。社外向けには人的ならぬ『心的資本経営』と呼んでいます」
ハピカン経営のメカニズムは「ハピカン繁盛サイクル」と名付けられる。従業員は何が満たされればハピネスを感じるのかを議論した結果、「安心感」「つながり感」「貢献実感」「誇り」という4つの要素が見いだされた。「『安心感』とは心理的安全性や会社からの支援など、安心して働ける感覚です。『つながり感』はチームや仲間とつながっている感覚、『貢献実感』は自分の仕事が役立ち、会社に貢献できているという感覚、『誇り』は自分の仕事や自社に対する誇りを指します。これら4つが満たされることで、従業員の内発的動機が高まり、ハピカン繁盛サイクルが回り始めると考えたのです」
丸亀製麺での取り組み 多面的施策を一気に展開
これをもとにどんな施策が行われたのか。丸亀製麺の例を見てみよう。
「最初に手掛けたのは、不満の解消でした」と、丸亀製麺執行役員の宇治川智大氏が話す。「大きいものは給料や出張手当の改定から、小さいものは直線距離で換算していた交通費を実測に変えることまで、現場から上がった不満を1つずつつぶしていきました。これだけが要因ではないでしょうが、ハピカン経営を始めて以来、離職率が改善すると共に、応募者が増え、社員数は1.3倍、アルバイトやパートの数も1.25倍に増えています」
従業員だけではなく、家族などを巻き込んだ取り組みにも力を入れた。1つは中学3年生以下の子どもがいる家庭を対象にした「家族食堂制度」だ。子ども1人あたり月額で最大5000円相当を丸亀製麺の店舗で使える。「子育てしながら働いている従業員をサポートしたかったのです。それに加え、普段は厨房からしか見えない光景が、客席から見えるという効果もあります。とても好評で、多くの従業員が使ってくれています」(宇治川氏、以下同)
もう1つ、2025年12月のクリスマスイブの夜、店舗を一斉に休業する「丸亀ファミリーナイト」を実施した。「外食産業がこの日に休むのは前代未聞でした。多忙な時期こそ、大切な人と過ごす時間を大切にしてほしいという思いが背景にあり、こちらも好評でした」
その他、全従業員が参加する大運動会、成績優秀者が参加できる海外研修「KANDOツアー」、従業員のハピネス創造に貢献した社員や、お客様の感動を実現した社員の表彰など、多様な制度や仕組みを展開している。
ハピカン経営においては、従業員のハピネスの状態や心持ちを測る指標が2025年7月に導入されている。「ハピネススコア」と呼ばれ、回答を数値化したアンケート方式ではなく、AI(人工知能)を利用したインタビュー形式で算出される。「回答者の気持ちを引き出すべく、『自分の仕事のすごさを家族に話す場合、どんな説明をしますか』といった内容になっており、3カ月に一度の割合で実施しています」
丸亀製麺の店舗では、2024年4月に顧客からの評価を数値化した「感動スコア」を導入していた。レシートに印刷された二次元コードから「うどんがおいしかった」「店舗体験に感動した」といった声を投稿してもらう仕組みである。「ハピネススコアがどう感動スコアにつながり、それがどうお客様の来店に結びついているのかを分析した結果、その3つがうまくつながっていることが判明しました。でも、その中身を実店舗で、しかも、そこで働いている従業員が見られないと意味がありません。そこで、2025年9月から、ハピカンダッシュボードという仕組みを各店で導入しました」
各店にタブレット端末が置かれ、その画面にハピネススコア、感動スコアがそれぞれ映し出されると共に、売上などの店舗の事業指標やお客様からの感謝のコメントが記されている。「アプリの利用履歴から、お客様の性別や居住地、属性までチェックできる。他店舗での好事例もレコメンドされます。こうした情報をもとに、今日はどうしよう、明日はこうしようと従業員が語り合い、工夫することができる。これこそがハピカン経営の神髄だと思います」
ハピカン繁盛サイクルをうまく回すための役職も新しく創設された。従業員思いで、なおかつ接客にも長けた「ハピカンオフィサー」だ。金銭や食材などの管理業務は副店長に任せ、従業員のモチベーションを高め、顧客に感動体験を提供することに向き合う役割だ。丸亀製麺では「キャプテン」と称されている。
2025年11月、全国の営業トップから推薦を受けた候補者に対し研修と試験を実施、5名が初代キャプテンとして任命された。以後3年間で300名のキャプテンを育成するのが目標だ。「現在任命済みのキャプテンには経験豊かな女性が多く、彼らに対しては大幅な権限委譲を行っています。従業員やお客様、地域社会に対し、『こういう店を作りたい』という強い意欲をもち、それを形にしていくことを期待しています」
世にAIやロボットが花盛りだが、丸亀製麺は「人の手による手作り」に断固こだわる。「それがうちの一番の強みです。ですから、その人のハピネスの増進が絶対に不可欠なんです」
【text:荻野進介 photo:平山 諭】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.83 特集1「モチベーションを支える評価・報酬のあり方」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
おすすめコラム
Column
関連する
無料セミナー・イベント
Seminer&Event
サービスを
ご検討中のお客様へ
- サービス資料・お役立ち資料
- メールマガジンのご登録をいただくことで、人事ご担当者さまにとって役立つ資料を無料でダウンロードいただけます。
- お問い合わせ
- 貴社の課題を気軽にご相談ください。最適なソリューションをご提案いたします。
- 無料セミナー・イベント
- 人事領域のプロが最新テーマ・情報をお伝えします。質疑応答では、皆さまの課題推進に向けた疑問にもお答えします。
- 無料動画セミナー
- さまざまなテーマの無料動画セミナーがお好きなタイミングで全てご視聴いただけます。






