企業事例
企業には成果が必要だがそれだけではない 大日本印刷
「人類の尊厳」を重視することで社会からの信頼獲得と『誰もが活躍する職場づくり』へ
- 公開日:2025/12/01
- 更新日:2025/12/01
大日本印刷株式会社(以下「DNP」)は、グループの行動規範に「人類の尊厳と多様性の尊重」を盛り込んでいる企業だ。その理由と、実現に向けて取り組んでいる施策について、同社の常務取締役でダイバーシティ&インクルージョン推進室担当でもある宮間三奈子氏に聞いた。
なぜ「人類の尊厳と多様性の尊重」なのか
DNPは従業員が従うべき倫理観や行動基準を、全10項目の「行動規範」としてまとめている。その1つに挙げられているのが、「人類の尊厳と多様性の尊重」だ。
「この言葉を行動規範に盛り込んだのは、『人と社会をつなぎ、新しい価値を提供する。』という企業理念を実現するためです。それには社会からの信頼が欠かせず、ゆえに、すべての人々の権利を尊重する企業姿勢を明確にしています。
もう1つの理由は、お客様に大きな価値を提供したいからです。DNPは約2万社のお客様とお付き合いがあり、多種多様な方にサービスを提供しています。皆様の希望をかなえるには、当社も多種多様な人材をそろえることが必要です。
そんな思いがあるため、『人類の尊厳と多様性の尊重』という行動規範を掲げているのです」
こうした背景があり、DNPではダイバーシティ&インクルージョン(D&I)関連の取り組みを積極的に進めてきた。1990年代後半からいち早く推進してきたのは、女性活躍に関する取り組みだ。
「当社は『男性育休100%宣言』を出していて、2024年度における男性育休取得率は96.4%に達しました。また、女性管理職比率は10.4%で、女性の育成と登用についても数値目標を定めつつ進めています(データは共にDNP単体)」
社内イベントなど多彩な施策でD&I の定着を目指す
2018年にDNPの代表取締役社長に就任した北島義斉氏は、さらにD&Iを加速。多様な人材を採用するだけでなく、それぞれが能力を存分に発揮できること、すなわち「インクルージョンがあたりまえになっている」職場づくりも進めている。その一環として開かれているのが、社内イベント「ダイバーシティウィーク」だ。
「これは社員のD&Iに対する当事者意識を高める催しで、毎年1~2週間かけて実施しています。2025年は、識者や著名人による講演、LGBTQ+の当事者を交えたトークショーなど、全26種のプログラムを提供。全グループ社員の約3分の1にあたる1万2000人が参加しました」
2019年からスタートした社内複業制度も、D&I推進に一役買っており、「ダイバーシティ&インクルージョン推進室」との複業を希望する人は少なくない。ここでD&Iに関わることで、他者を尊重する気持ちを育んだり障がい者への理解度が高まったりするケースはかなり多いようだ。また、成長を遂げた人が元の部署に戻ることで、良い学びがさらに広がっていくケースもあるという。
さらにDNPは、人が無意識のうちにもってしまう思い込みや偏った物の見方を取り払う「アンコンシャス・バイアス研修」も行っている。2023年11月より社長や役員から順次受講を開始し、2024年度までに75.1%、2万2000人以上の従業員が修了した。
「アンコンシャス・バイアス研修の効果は、従業員の間に『自らの意見を自由に言っていいのだ』という雰囲気が醸成され、多様性を発揮する手助けになることです。以前の当社では、一般的な社内研修のグループワークなどで自分の意見を言いづらそうにしたり、他責思考に基づいて発言したりする人が多く見受けられました。ところが、ここ3年ほどはそうした人が激減し、当事者意識をもって前向きに発言する人が多数派です」
このようにD&Iに力を入れ、経営層も事あるごとに「人類の尊厳と多様性の尊重」を従業員に強調しているDNPだが、それでも、浸透には時間がかかるというのが宮間氏の実感。
「ダイバーシティウィークの感想を聞くため、従業員にアンケートをとったところ、ダイバーシティウィークの存在すら知らなかったという人が散見されました。これは私たちにとって、非常にショックな出来事でしたね。そこで、全従業員が使っているスケジューラーにダイバーシティウィーク関連の予定が自動的に表示される仕組みにして、参加率を高めました。
ただ、上から押しつけるだけのやり方では限界があります。D&Iが従業員にとって『自分ごと』になり、自ら取り組むよう促す仕掛けを、これからも続けていかなければと考えています」
目に見える成果を求めつつ互いに感謝し合える社風を築く
D&Iを自分ごとにするには、相手と向き合い、個を尊重する機会を数多く得ることが大事だというのが宮間氏の考えだ。
「私が管理職になって間もない頃、当時中学生だった娘に仕事の愚痴をこぼしたことがありました。そのとき娘から、『仕事の話をしているときのお母さんは目がキラキラしているね』と言われ、ハッとしたのを今も覚えています。当時の私は多忙で、娘と過ごせる時間も限られていました。せっかく母親と過ごせる時間なのに仕事の話ばかりで、娘からすれば不満だったはずです。それなのに、こちらを気遣う娘の姿を見て、相手を思いやり尊重することの大切さを改めて学びました。そうした身近な学びがD&Iに役立つことは、意外に多いのではないでしょうか」
国連が採択した「世界人権宣言」には、全人類が生まれながらにして、尊厳について平等だと明記されている。一方、企業では従業員の価値を組織への貢献という視点で判断しがちだ。時には、数字としての成果を生み出せない人を責めて尊厳を傷つけることもあるが、宮間氏はこうした動きを牽制する。
「企業が利益を伸ばすには成果が必要ですが、それだけを求めるのでは不十分です。職場には、数字としての成果は出していなくても、いるだけで周囲を和ませる人がいるじゃないですか。そういう人を『あなたがこの会社にいることに価値がある』と肯定できたり、従業員がお互いに感謝を伝え合ったりできる雰囲気も大事だと思うのです。
目に見える成果を短期的に追求する環境のなかでは、誰もがすぐに結果を出せるとは限りません。
期待に応えられない状況で、責任を感じる人もいるでしょう。しかし、人には必ず良い点があり、力を発揮できると私は信じています。そうした環境でも一人ひとりの強みを大切にし、業績とのバランスをとることが、多様な人材の挑戦を促すことの実現につながるのだと私は考えています」
【text:白谷 輝英 photo:伊藤 誠】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.80 特集1「尊厳ある職場を考える」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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