- 公開日:2025/06/02
- 更新日:2025/06/02

ユニリーバは「Be Yourself(あなたらしさ)」というスローガンを掲げ、幅広い人材を生かす社内文化・制度づくりを進めている。同社はなぜ、EDI(Equity, Diversity, Inclusion)を大切にするのか。同社の日本法人であるユニリーバ・ジャパン・ホールディングス合同会社の人事総務本部長 バスマジェ詩織氏に聞いた。
多様な顧客ニーズに応えるには人材も多様である必要がある
EDIを重視する企業として知られるユニリーバだが、その取り組みは一朝一夕に進められてきたわけではない。例えばユニリーバ・ジャパンは、2016年から、平日の5時から22時までの間なら上司への報告なしで勤務時間や場所を自由に選べる「WAA(Work from Anywhere and Anytime)」を導入。一人ひとりに合った働き方ができるようにした。
「ユニリーバは、イギリスの石けん会社とオランダのマーガリン会社が合併してできた企業です。そのため創業時から、多様な文化的背景をもつ人が集まっていました。そして現在では、世界190カ国以上で34億人以上の方に向け消費財を提供しています。文化や生活習慣によって売れるものは変わりますし、顧客の好みも千差万別。ですからヒット商品を開発するためには、さまざまな価値観をもつ人材を抱えなければなりません。それでユニリーバには昔から、特に多様性を大切にする素地があったのです」
社員は自らの働き方とキャリアに責任をもつ
EDIを高める取り組みは、ここ10年ほどでさらに加速している。
「ユニリーバの行動規範には『respect』という項目があります。すべての社員がこれに関連した研修を年1回受け、署名して絶対に違反しないことを確認します。この方針を徹底することで、他者をリスペクトする行動規範に共感する社員が増えています」
ユニリーバは公平性の確保にも心を砕く。採用や昇進を決める際、性別や年齢、国籍といった業務に関係のない属性は一切考慮されず、成果のみで判断される。
「『多様性を受け入れる』とだけ聞くと、社員に優しい印象を抱くかもしれません。それは確かに事実ですが、一方で厳しさもあります。自分で働き方を選ぶということは、パフォーマンスを上げることに自身で責任をもつということを意味します」
社員は働き方だけでなく、自らのキャリアにも責任をもつ。社員に人生の目的を設定させ、向上させたいスキルや自身の強みなどを明文化。そこから能力開発に結びつける仕組みを整えている。
「例えばある管理職のポストが空いたら、全社員に分け隔てなく応募のチャンスが与えられます。そのために必要なスキルがあれば、会社としてはできる限りの支援を行うというスタンスです。社員のなかにはいずれ独立したいと考えている人もいるでしょうが、それも個人のパーパスとして受け入れています。もし独立を目指すなら将来に備えてこういうスキルや経験を身につけたらどうかなどと、上司から助言することもあります。そして、その人のパーパスがユニリーバで実現できるなら、ユニリーバのなかで活躍してもらい、そのパーパスを社内にとどまらず、社外に広げたいという想いが出てきた際には、それを応援するケースも多いです。ユニリーバに携わったすべての人が、自身のパーパス実現のために、社内外で羽ばたいてほしいと思っています」
人の弱さをも受け入れるのが真のインクルージョンだ
ユニリーバ・ジャパンにおける女性社員の比率は40%台。一方、管理職の約45%、ボードメンバーの約60%が女性だが、女性を優先して昇格させるなどの措置は特に行っていない。
「当社の場合、性別などの属性にかかわらず公平に昇進させていたら、結果的に女性管理職が増えていただけです。もちろん、スポットライトがまだ当たっていない人がいるのならそこにスポットライトを当て、公平な機会を与えることは重要なリーダーの仕事ですが、女性管理職を増やすことは手段にすぎず、目的はあくまで人材の多様性を高めて企業を繁栄させること。手段と目的の混同には注意が必要だと考えています」
ユニリーバには、多様な人が活躍しやすい風土がある。その中核にあるのが、「人の強くない瞬間を認めて受け入れるカルチャー」だというのが、バスマジェ氏の見立てだ。
「人事総務本部長に就任し多忙を極めていた頃、私は2人目の子どもを妊娠しました。仕事と子育てを両立できるか不安でしたが、1人目の妊娠時、当時の社長は『経営層の役目は、この会社で働けてよかったと従業員に感じてもらうこと。あなたも、この家に生まれてよかったと子どもに感じさせられたら、その知見は経営にも役立つよ』と背中を押してくれたのです。弱い部分も私の一部ですし、悩む時間も学びにつなげられると気づきました。今も忘れられない、ありがたかったひと言ですね」
企業や人が成長するためには、競争や厳しさも必要だ。でも時に人は弱みを抱え、苦境から逃れたいと思うこともある。そうした人を尊重し、受け入れるのが真のインクルージョンではないか。
「初めての上司がそうした方でした。私が新入社員だった頃、営業企画の会議に参加して意見を求められたことがあります。私は何も分からないまま、『このパッケージ案は綺麗だと思います』とささやかな意見を言ったのですが、上司は『あなたは参加メンバーのなかで、最も消費者に近い立場。とても参考になったよ』と言ってくれました。おそらく新人である私の気持ちをくみ取って受け入れ、安心させてくれたのです。おかげで私は、自分の意見には価値があるのだと思え、その後は臆せず会議に参加できるようになりました。
どんな人だって、完璧ではありません。弱点だってあるし、周囲のサポートが必要な瞬間もあります。それを認め、互いに支え合うのが本物のチームだと思うのです。そういう意味で、リーダーは時に、自らの弱みをさらけ出してもいいと思います。弱みや悩みを正直に伝えれば周囲からの共感も得られるし、部下も悩みを相談しやすくなるでしょう。そして管理職への昇進を尻込みしがちな若手に対し、『完璧な人間でなくても、いざ管理職になったらなんとかなるものだよ』というメッセージを伝えられると思うのです。時には自分の弱さを開示し、一方で、悩んでいる人がいたら精一杯寄り添う。そうしてメンバーと一緒に成長できる人が、これから望まれるリーダー像かもしれません」
【text:白谷輝英 photo:伊藤 誠】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.78 特集1「職場におけるマッチョイズムの功罪」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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