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企業事例

働く人誰もが病気になり得るから 仕事と治療の両立支援ネット-ブリッジ

病気で大きく変わった自己像を捉え直しキャリアを再構築する

  • 公開日:2024/09/02
  • 更新日:2024/09/02
病気で大きく変わった自己像を捉え直しキャリアを再構築する

急に深刻な病気を患ったとき、人は、病気や治療、仕事やお金、家庭といったさまざまな問題について対処を迫られる。このとき、患者を支えるのが両立支援団体だ。彼らはどのようなやり方で患者に伴走するのか。そして、従業員と企業にはどんな態度が求められるのか。仕事と治療の両立支援ネット-ブリッジ 代表理事の服部 文氏にお話を伺った。

目指すのは病気になった人も安心して働ける社会の実現
仕事や職業だけでなく患者の人生を広く捉えた支援を実施
病気になっても働ける職場は従業員にとって報酬となる

目指すのは病気になった人も安心して働ける社会の実現

仕事と治療の両立支援ネット-ブリッジ(以下「ブリッジ」)は、名古屋に拠点を置き、がんや難病といった身体的な疾患を患った人の就労支援などに取り組む組織だ。目指しているのは、病気になった人も安心して働ける社会を実現することだと、代表理事の服部文氏は語る。

「私は30代で体調を崩してエンジニアを辞めた後、キャリアコンサルタントの勉強をして、当時あった基金訓練(雇用保険を受給できない人向けの無料職業訓練)の支援を行いました。そこでさまざまな背景をもつ人と出会い、単に仕事を見つけるだけでなく、どう生きるか幅広く考えるなかで仕事を選び取れるような支援をしたいと思うようになったのが、現在の仕事を始めることとなった原点です。そして2012年、第2期がん対策推進基本計画でがん患者の就労支援策が打ち出された際に、ブリッジを立ち上げました」

患者の支援は、「がん診療連携拠点病院等」に設置された相談センターから依頼されて始まることが多い。また、病院に置かれたブリッジのパンフレットを見た患者から連絡を受けることもある。

「患者さんの状況は千差万別。がんが最も多いのですが、その他の難病や若年性認知症などを患った方もいらっしゃいます。私たちは医療機関から医療情報の提供を受けつつ、個人面談やワークショップを通じて患者さんを支えています」

仕事や職業だけでなく患者の人生を広く捉えた支援を実施

日本では2人に1人が一生のうち一度はがんになるが、いざ当事者になると「まさか自分が」と混乱するのが普通だ。また、治療が始まると体調や生活は激変し、混乱はさらに加速する。

「がんの診断を受けて仕事を辞める『びっくり退職』は減ってきたと感じます。『がんでも働ける』というメッセージが浸透し、休職できるならまずは休職を選択することが多くなっています。ただ、患者さんにとっては今も、現状への適応は大変でしょう。なかでも深刻なのが『自己概念の不一致』です」

治療により、患者はこれまでにない不安や苦しみを経験する。また、これまでの人生で捉えていた自己像が大きく変化する。体力の低下などによって今まで当たり前にできていたことができなくなったり、頭がうまく働かない状態に陥ったりすることも多い。そのように経験と自己概念が大きく隔たってしまうのが自己概念の不一致だ。これまでの自分に裏切られ続けるような過酷な体験を伴う。今の自分自身をうまく捉えられない状況下で、治療方針の決定や、会社や家庭への対処といった重要な判断を次々と下すのは並大抵ではない。また、がん治療は先が見通せないことが多い点も、患者にとっては苦悩の種だと服部氏は指摘する。

「手術が終わっても、採取したがん細胞を検査しなければ治療方針は決まりません。その段階で会社から『手術後はどうするの? いつ復帰できそう?』と聞かれても、患者さんはどう答えればいいのか苦しんでしまうでしょう。また、なかには介護や育児などの事情を抱えている人もいます。自分の入院中に親の介護はどうなるのかとか、休職して収入が減ったら子どもの習い事をやめさせなければならないだろうかとか、いろいろな問題が一気に押し寄せてくるのです。そうした広範な悩みを聞き取るため、私たちは患者さんとの初回面談を最低でも2時間以上は行うようにしています」

服部氏の肩書はキャリアコンサルタントだ。しかし相談内容によっては、自治体の窓口に同行したり、リハビリの専門職や弁護士などと連携したりするなど、生活関連の支援も行う。

「患者さんが抱える悩みは複数あって、しかもそれらが複雑に絡み合っています。最初は仕事の悩みを話し始めても、そこから収入や家族の生活、治療方針に関する悩みに広がっていくケースがほとんどなのです。ですから私たちは、就労支援という枠組にこだわらず、患者さんの悩みを気になるところから自由に話してもらうよう心がけています」

病気になっても働ける職場は従業員にとって報酬となる

治療を終えても、元通りの体調に戻れない人は珍しくない。そこで患者側に求められるのは、自分に何ができ何ができないかを自覚し、その上で、心身が変化した自分で今後の人生をどう生きたいのか見つめ直すことだ。しかし、その過程には時間がかかるし、越えるべきハードルも低くない。その長い道のりで患者に伴走し、手助けをするのがキャリアコンサルタントの役割だ。

一方の企業側には、復職希望者と定期的に対話する機会を設けながら、いずれ来る復職という同じ目標を見据えつつ、受け入れ態勢を整える努力が必要だと服部氏は考えている。

「このとき大切なのが、復職者へのケアを現場任せにしないことです。例えば、統括産業医がいて人事のマンパワーが豊富な本社では復職者への対応が上手にできる企業でも、体制が整っていない支社ではうまくいかないというケースはよくあります。復職者を受け入れる制度を用意するだけでなく、複数の相談窓口を設けたり、社外リソースを活用したりするなど、備えておくべきでしょう。また、復職者をカバーする同僚が不公平感をもたないよう、彼らに報いる仕組みを作ったり、互いに支え合う雰囲気を作ったりすることも大切です。

病気になっても働き続けられる職場は、従業員に安心感という報酬を与えます。これは労働力確保に役立ち、企業にとっても有益なのです」

誰でも病気になり得るが、支える医療もまた発展している。定年延長が進む日本では、病気と共に働く人がさらに増えるはずだ。そこで企業には、従業員やその家族が病気になった際のシミュレーションを、キャリア教育に取り入れることが重要だと服部氏。

「病気をキャリアの1イベントとして捉え、起こった場合にどう対処すべきかあらかじめ考えさせるようにすれば、いざというとき、慌てずに済みます。それに、自らが病気になる場面を想像すれば、病気から復職した同僚に対しても共感が働くようになり、職場がより円滑に回るでしょう。

病気は決して人ごとではありません。電車でお年寄りや妊婦の方を見かけたら席を譲るように、自分より大変な状況の同僚を当たり前にカバーできるような職場や社会になるといいですね」

【text:白谷 輝英 photo:角田 貴美】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.75 特集1「ワークヘルスバランス─治療しながら働く」より抜粋・一部修正したものである。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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