- 公開日:2024/03/04
- 更新日:2024/05/24
仕事は楽しいものだろうか。苦しいものだろうか。「働きがいのある会社」ランキングに、2017年から2023年まで連続ランクインしているディアーズ・ブレインの社員の多くは、前者と答えるだろう。それを支えているものは何か。株式会社ディアーズ・ブレインホールディングス 代表取締役CEO 小岸弘和氏に伺った。
挑戦を恐れず、新しい扉を開け続ける組織に
ディアーズ・ブレインは2001年に設立され、ハウスウエディング事業を主軸に、ドレス事業、レストラン事業など計7つの事業を展開している。社員は約950名ほどだ。
創業時の理念が「楽しくなければやったところで知れたもの」。代表取締役CEOの小岸弘和氏がその言葉に決めた背景に前職での原体験があった。難しい大手顧客に対し、これまでにない売り方を提案し、大型受注に成功したのだ。「僕が会社に戻り、『受注!』と叫んだ瞬間、フロアがわーっと沸き、全員がハイタッチしていました。その場面は決して忘れません。苦しいこともあったけれど、僕もメンバーも最高に楽しかったですし、視界も変わり、目の前が大きく開けた。組織を作るのが僕の役割ですから、こういう場面を何度も繰り返せる会社にしたいと思ったのです」
ただし、と小岸氏が付け加える。「その背後にはもう1つ言葉がある。楽しむためには強くなければならない。組織も人も強くなればなるほど、仕事を楽しめるはずなんです」
この理念は実は2006年に変更された。新しい理念が「OPEN DOORS !!」。挑戦を恐れず、新しい扉を開け続けよう、という意味だ。「変えた理由は先の理念が十分に浸透したと判断したからです」
仕事を楽しむ会社を目指すとあって、同社には数々のイベントが目白押しだ。なかでも、一番大きなイベントが2004年から毎年1月に1泊2日で行われている全社キックオフミーティングである。グループ会社を含めた全メンバーが一堂に集まり、同じ時間・同じ空間を共有する。
2部制の大掛かりなキックオフ 学園祭の後夜祭のような雰囲気
キックオフは2部制で、1部では前年の事業の振り返りと、新年度に予定される新しいプロジェクトの発表や事業戦略を共有すると共に、さまざまな角度から、メンバーを称える表彰を行う。
2部は店舗ごとにメンバーが仮装し、アルコールも入った盛大なパーティーとなる。ここでは、ウエディングプロデューサー(営業)、キッチンスタッフの最高位を決定する「DBHDグランプリ」、その年の各部門、分野ごとのMVPの発表と表彰が行われる。笑顔が満ち、拍手と歓声が飛び交い、感極まって泣き出す表彰者もいる。まるで学園祭の後夜祭のような雰囲気だ。
興味深いのは、キックオフの前日の準備プロセスから、当日の集合場面、さらに1部、2部の様子はすべてビデオ撮影されていること。社内に専門プロジェクトチームがあり、1日目の夜に直ちに編集するのだ。2日目のキックオフの最後はその映像を全員で見て解散する。「キックオフには相当なお金をかけています。なぜここまでやるのか。会社の成長とは、メンバーの成長の足し算あるいは掛け算であり、このキックオフに参加すると、その成長の速度に自分が遅れていたら、如実に分かるはずだからです。居心地悪いメンバーもいるはずですが、気づいて直してもらえればいい。同じ時間と空間を共有することで、メンバー間の絆を強めるという意味でも大切なイベントです」
このキックオフの映像は、中途採用の候補者にも見てもらう。「うちのDNAが凝縮して表現されていますから、この空気感に馴染めるかを確認してもらいます」
同社は新卒重視で、毎年、営業を約40名、キッチンスタッフを約10名から15名採用している。応募は毎年7000名ほどで、最終面接に小岸氏は出席する。「この学生がうちで楽しく働いているイメージがあるかどうかを最も重視しています。仕事が楽しいからこそ、厳しくしんどいことにもチャレンジできる。結果、成長できるわけです」
同社では結婚式、あるいは結婚式を施行することを「スマイル」と呼んでいる。営業、つまりウエディングプロデューサーが初めて受注し、執り行う式を「初スマ」と呼び、その様子を全員分、映像にし、本人や家族にも提供している。自分が働く姿や式を終えた直後の自らの感想も入っており、一人ひとりにとって宝物になるはずだ。
コロナ禍は同社にも直撃した。2020年4月に最初の緊急事態宣言が発出された直後、小岸氏は映像による緊急メッセージを全社に送った。「皆さんの雇用形態も給料も何も変えない。この時間は神様がくれたものと考え、徹底的な学びの時間にしよう」と。業績もガタ落ちし、2020年5月、当初月間500組を超える式の受注があったが、それが4組まで激減。そんな状況のなか、小岸氏は全社員をオンラインでつなぐことを思いつく。
通信費や飲食の手当を急遽準備し、650名ほどが約4時間、集まることができた。その結果、「オンラインは面白い」ということになり、次々にオンラインでのナレッジの共有が起こり始めた。「それまで、われわれの最大の弱点は距離だと思っていました。東京に本社があるのですが、店舗はないんです。これまでも時間と空間を共有するためなら、お金はどんどん使っていいと言っており、関東、あるいは関西、九州ごとにリアルで集まるという形で学び合いをしていたわけですが、移動の時間がかかりますし、地域間では正確な情報が伝わらない伝言ゲームも起きてしまう。そうした問題がオンラインで解消されたんです」
その成果は数字となって表れた。コロナ前の式の成約率が42%だったところ、ポストコロナの現在、50%を楽に超えるようになったのだ。
同社の遊び心は研修にまで広がっている。例えば、2013年にスタートした弾丸トラベラー研修。「社会人になったら、なかなかチャレンジブルな海外旅行には行けない」という声を聞き、「72時間以内なら世界中どこに行っても費用は会社の負担とするのはどう?」という小岸氏の一言で決まった。旅の目的やプランを書いた企画書を提出後、当選者が発表される。該当者は年に20名ほどだ。ニューヨークのウエディング事情を調べるといった仕事重視派から、ペルーの世界遺産マチュピチュ訪問といった純粋観光派までさまざまだ。
新卒採用が始まった2006年から始まり、東アジア各国に小学校などを寄付してきた海外Ring(輪)プロジェクトは内定者研修も兼ねている。「10年・10カ国・10校」という当初の目標を達成し、現在はベトナムに特化した学校づくりが進む。内定者の役割は、開校式における子どもたちとの交流会を企画、実施することだ。
経営に性善説的経営と性悪説的経営とがあるとしたら、同社のそれは間違いなく前者だろう。
【text:荻野 進介 photo:平山 諭】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.73 特集1「仕事における余白と遊び」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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