- 公開日:2026/03/26
- 更新日:2026/03/26
前編では、社内の異動に関わる制度の実態、そして社員の状況把握により、等級や職位の変更を伴う垂直の人材充足が促進されることが明らかになりました。後編では、企業における異動の実態について、3つの視点から解説していきます。
- 目次
- 調査結果⑥ 現場に人事権がある場合が最も多いが、水平異動には課題がある
- 調査結果⑦ 人事が全社方針を持ち、現場と協働する体制が有効
- 調査結果⑧ 公募制度が人材充足と本人主体のキャリア形成を促進
- 調査結果から見えるこれからの人材マネジメント
調査結果⑥ 現場に人事権がある場合が最も多いが、水平異動には課題がある
前編では、異動の人事権を人事が持っている方が、水平異動が促進されることが分かりました。では、実際には異動の人事権はどの部門が持っている企業が多いのでしょうか。図表9と図表10より、非管理職と管理職ともに、異動や登用の人事権を「人事が持っている」に「あてはまらない群」、「現場が持っている」に「あてはまる群」で回答している割合が最多となりました。非管理職および管理職ともに、異動や登用に関して人事部門よりも現場(事業部門・部署)が人事権を持っている企業が多数を占めることが分かります。管理職と非管理職で傾向が概ね類似していることからも、以下では非管理職を中心に扱っていきます。
<図表9>非管理職の異動や登用の人事権

※設問の選択肢のうち「あてはまる」「どちらかというとあてはまる」で回答している人を「あてはまる群」、「どちらともいえない」で回答している人を「どちらともいえない群」、「あてはまらない」「どちらかというとあてはまらない」で回答している人を「あてはまらない群」とする。図表10~18も同様。
<図表10>管理職の異動や登用の人事権

図表11では、現場の人事権が強い企業では、水平異動実現スコア(社内異動・登用により、不足している事業や機能の人材が充足している)が低い傾向が見られました。非管理職の異動や登用の人事権を「人事が持っている」に「あてはまらない群」で回答しており、「現場が持っている」に「あてはまる群」で回答している場合、水平異動実現スコアが2.47点と、相対的に低くなりました。
また、図表12の同様の象限においても、領域を重視するスコア(一度配属されると、その領域や職場で育っていくことが良しとされる)が3.50点と、最も高くなりました。1つの配属先の周辺で社員を育成するというような企業風土と、相対的に現場の人事権が強い企業風土の間には、密接な関係があることが分かります。
<図表11>人事権の所在群別、水平異動実現スコア(1点~5点)

<図表12>人事権の所在群別、領域を重視するスコア(1点~5点)

調査結果⑦ 人事が全社方針を持ち、現場と協働する体制が有効
では、人事と現場がどのような人事権を持っていると良いのでしょうか。調査から見えてきた答えは、「人事が全社視点での方針を明確に持ち、現場と協働する」という体制です。
人事権の所在と水平異動の関係を分析すると、人事主導で現場が適度に関与する企業において、水平異動による人材の充足が最も高い結果となりました。図表11の、非管理職の異動や登用の人事権を「人事が持っている」に「あてはまる群」で回答しており、「現場が持っている」に「どちらともいえない群」で回答している場合、水平異動実現スコアが3.45点と最も高くなります。図表12の同様の象限においても、領域を重視するスコアが2.73点と、他の象限と比べて相対的に低く、1つの領域や職場に限定されない傾向にあることが分かります。
全社視点での方針の明確化
どの事業に人材を投入すべきか、どの人材をどう育成すべきか。個別部署の事情に左右されず、中長期的な視点で判断できるのは人事ならではの強みです。また、複数部署を横断して人材を見ているため、「この人材はA部署よりB部署の方が活躍できる」といった客観的な判断もしやすくなります。
それらの全社最適での視点を人事方針として明確にしている度合いと水平異動には、どのような関係があるかを確認しました。
図表13~17では、人事方針と現場の人事権の強さごとに、水平異動実現スコアを比較しました。
図表13~17の人事方針:
- 社員の人材育成全般に関する方針が明確である
- 社内では、次世代経営人材・幹部の育成・確保の優先順位が高い
- 社内では、事業戦略上の主要ポジションの育成・確保の優先順位が高い
- 社内では、優秀人材への成長や活躍機会提供の優先順位が高い
- 異動による処遇変更が生じる制度の場合、一定の緩和措置がある
一貫した傾向として、各人事方針に「あてはまる群」で回答しており、非管理職の異動や登用の人事権は「現場が持っている」に「どちらともいえない群」で回答している場合、水平異動実現スコアが最も高くなります。
人事として、次世代経営人材・幹部や事業戦略上の主要ポジションを見据えた全社的な異動の方針を明確に持ったうえで、現場との調整を進めることが、不足している事業や機能の人材を異動・配置によって充足するために重要となりそうです。
<図表13>人材育成方針の明確さ×現場の人事権の強さ群別、水平異動実現スコア(1点~5点)

<図表14>次世代経営人材確保の優先度×現場の人事権の強さ群別、水平異動実現スコア(1点~5点)

<図表15>主要ポジションの優先度×現場の人事権の強さ群別、水平異動実現スコア(1点~5点)

<図表16>優秀人材活躍促進の優先度×現場の人事権の強さ群別、水平異動実現スコア(1点~5点)

<図表17>処遇変動の緩和措置の有無×現場の人事権の強さ群別、水平異動実現スコア(1点~5点)

注意すべきは、現場が「全く」人事権を持たない状態も好ましくないという点です。図表13~17では、非管理職の異動や登用の人事権は「現場が持っている」に「あてはまらない群」で回答している場合、水平異動実現スコアは必ずしも高くはなりませんでした。現場の声を聞かずに人事が一方的に配置を決めれば、現場の納得感は得られず、囲い込みや異動者へのサポート不足につながる可能性があります。
これらの結果から、不足している事業や機能の人材を異動・配置によって充足させるためには、人事が方針を明確にし、それらをもとに現場との対話と協働を通じて、最適な配置を実現することが重要な点と捉えられます。
調査結果⑧ 公募制度が人材充足と本人主体のキャリア形成を促進
人事と現場の関係に加えて、もう1つ重要な要素があります。それが「本人の意思起点の異動」、すなわち公募制度です。
調査では、本人の手挙げ制が導入されている企業も相当数存在することが分かりました。
図表18より、非管理職の異動や登用の人事権を「現場が持っている」への回答がいずれであったとしても、「社内公募制度が活用されている」に「あてはまる群」で回答している手挙げ制の場合に、水平異動実現スコアが最も高くなる傾向にありました。このことは、現場の人事権がいずれであっても、社内公募の活性化は水平異動の推進において有効に機能することを意味します。
<図表18>現場の人事権の強さ×社内公募の活用度群別、水平異動実現スコア(1点~5点)

これは、本人の希望が明示されることで、現場と人事の間での異動に関する調整が円滑に進みやすくなるためと考えられます。例えば、ある部署のマネジャーが部下の異動について判断する際、本人が「新規事業に挑戦したい」と明確に意思表示していれば、本人のキャリア希望を尊重する形で、前向きな異動の判断がしやすくなります。
専門性を重視した部署や育成方針の場合、人材の配置・配属先は固定的となることもあります。そのようななかでも、本人の希望が重視されることにより、不足している事業や機能で人材の充足が促されている可能性があります。
ただし、注意点としては、図表18は「社内公募制度が導入されている」ではなく、「活用されている」という設問である点です。水平異動は、制度が導入されているだけではなく、制度が活用され、本人の意思起点での異動が実現できていることが重要だということです。
調査結果から見えるこれからの人材マネジメント
ここまで前編・後編を通じて、等級や職位の変更を伴う垂直登用、同じ等級や職位のまま所属が変わる水平異動をテーマに扱い、不足している事業や機能で人材の充足を成功させるためにどのようなことが必要かを考察してきました。
垂直登用では、「社員の状況把握を進める」ことにより、適切な登用や昇格判断が可能となり、人材の最適配置につながる方向性が示唆されました。また、事業部長・本部長層では「人材プール制度」「社内公募制度」「サクセッションプラン」、部長層では「社内公募制度」「サクセッションプラン」の導入に有意差があることが分かりました。
水平異動では、「人事が全社視点での方針を明確に持ち、現場と協働する」体制を整えること、また、社内公募制度の活性化により、本人主体のキャリア形成を促進し、組織全体の人材流動性を高めることがポイントになることが見えてきました。
垂直登用・水平異動のいずれにおいても、今後ますます、労働力不足が加速する日本社会において、新しい価値を創造しながら事業を推進していくために、人事・現場・本人の三者の役割を明確にし、適切なバランスで人事権を配分することが、しなやかな人材配置の実現に寄与していくと考えます。
調査概要
調査名 | 企業内人材の流動化調査 |
|---|---|
調査目的 | 企業内での人材流動化をより進めるための実践的なヒントを共有するべく、人材管理や異動・配置の仕組み・運用を確認し、「流動化」に向けた促進要因となる人材マネジメントの方法を明かにする。 |
調査対象 | 各企業の人事責任者、または担当者 |
調査方法 | インターネット上でのフォーム回答による |
項目数 | 51問 |
実施時期 | 2025年12月1日~12日 |
有効回答数 | 335社 |
回答者の属性 | 建設・不動産・住宅メーカー9.6%、自動車・精密機器12.8%、素材・エネルギー8.4%、食品・医薬品6.6%、その他製造業11.3%、商社4.8%、金融・保険8.1%、通信・情報処理・ソフトウェアサービス11.0%、流通・小売5.4%、運輸・交通5.7%、その他サービス12.8%、水産・農林0.6%、官公庁・団体0.6%、その他2.4% |
従業員規模:1~500人未満23.0%、500~700人未満8.4%、700~3,000人未満30.1%、3,000~5,000人未満13.1%、5,000~10,000人未満13.7%、10,000人以上11.6% | |
備考 | %は小数点第2位で四捨五入されているため、文中・表中の数値を足し上げた値と合計の数値などが一致しない場合もあります |
執筆者

技術開発統括部
コンサルティング部
アナリティクスソリューショングループ
兼 研究本部
アナリスト
小澤 一平
東京大学大学院経済学研究科修了後、コンサルティング会社を経て2021年に入社。現在は、新卒・中途オンボーディング領域およびマネジメント変革領域をはじめとし、HRアナリティクスを活用した顧客向けサービスにおける研究開発、人事課題の社外発信に向けたインサイト抽出やレポーティング等に従事。その他、企業における退職者の分析、健康経営推進、人事異動等のテーマで、前職から現職に至るまで研究開発プロジェクトに従事。
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