特集
会社への帰属意識をレビューする
「エンゲージメント」という高いレベルを目指して
- 公開日:2009/03/09
- 更新日:2024/04/02
会社への帰属意識が高ければ高いほど、組織の基盤は磐石なものとなり、成果を生み出しやすいことは誰もが疑いもなく考えることだと思います。しかしながら、会社に対する帰属意識といってもさまざまなレベルのものがあります。この会社でこれを達成しようといったチャレンジングな動機によるものもあれば、ここにいれば安全だからといった消極的な動機によるものもあります。会社は、そうした社員の帰属意識の状況について正確に把握し、会社への貢献意欲を高める方向にもっていくことを考える必要があります。
そうした中、「エンゲージメント」という言葉が日本企業においても徐々に浸透しつつあります。「エンゲージメント」とは社員と会社との間での確固たる信頼関係を意味します。社員は会社に対して貢献することを約束し、会社は社員の貢献に対して報いることを約束します。その約束に相当するものが「エンゲージメント」であり、社員の会社に対する帰属意識として最上位のランクに相当する状態といえます。「エンゲージメント」が高い社員が多くいることはその会社が少なくとも「ヒト」という資産においては競争優位性を有していることの証になります。
今回の特集では、「社員の帰属意識」にフォーカスをし、「エンゲージメント」という高いレベルの信頼関係を社員と会社とが結ぶために、どのようなプロセスを踏むことが必要なのかについてご紹介をいたします。
- 目次
- 「就社」という概念は過去のもの
- 「会社」と「仕事」を分離して考える社員
- 社員は何を欲しているのか?
- 会社が打つべき施策はどのように特定するのか?
- エンゲージメントを高めるプロセス
- 会社のブランド力と競合優位性の関係
「就社」という概念は過去のもの
弊社は2008年の10月に、首都圏の20代から40代のホワイトカラー正社員1500名を対象に、「エンゲージメント」に関するインターネット調査を行いました(以下、「エンゲージメントサーベイ」)。
その結果からは、現在の上司や職場内の同僚とは良好な関係を保ってはいるものの、会社の将来性についての期待は低く、5年後のキャリアイメージすら描くことができないという現在の社員の置かれている状況を垣間見ることができます(図表1)。
【図表1 エンゲージメントサーベイの結果(一部抜粋)】
また、社員が現在の仕事や会社に対してどのくらいの「誇り」がもてているのかについて見てみると、仕事に対する「誇り」は40.9%の社員が肯定的な回答をしているのに対して、会社に対する「誇り」は30.1%に留まっています。
そのことから、かつて日本の社員は、会社に対する忠誠心が高く、「何の仕事をしているのか」よりも「どの会社で働いているのか」という意識の方が強かったといわれていましたが、今回の調査結果からは、「就社」という概念が過去のものとなりつつあることがうかがえます。
「会社」と「仕事」を分離して考える社員
「エンゲージメント」という概念はまだ日本に浸透していないため、どのような質問を通してエンゲージメントを測るかが重要となります。本調査では、「誇りをもっているか?」という質問の結果でエンゲージメントを測ることとしました。その根拠は「仕事に誇りをもっている」と答える人は転職意思が低く、「会社に誇りをもっている」と答える人は転職意思が更に低いことがエンゲージメントサーベイの結果から明らかになったからです。
また、社員のエンゲージメントの対象は「仕事」に対するものと、「会社」に対するものとに分けて考えることができます。バブル以前において両者は不可分なものであり、高いレベルで維持されてきたことが推測されますが、その後のバブル崩壊、就職氷河期、そして成果主義導入などのプロセスを経て、その基盤は脆弱なものとなりつつあります。「会社」と「仕事」を分離して考える社員が存在していることは、エンゲージメントサーベイの結果からも読み取ることができます(図表2)。
【図表2 「誇りを持っているのか」の問いに対する回答分布】
回答者の半数以上は「会社」に対しても「仕事」に関しても共に肯定的には考えていないことがわかります。また、仕事には誇りをもてているが、会社には誇りをもっていない層が16%ながら出現していることが分かります。全体の傾向から、社員の会社に対する帰属意識は弱く、信頼関係の基盤も脆弱なものであることが想定できます。
そうした中、会社が苦境に陥ったときに、社員が苦境を乗り切るために、逃げることなく戦ってくれるかどうかには大いに不安が残ります。
社員は何を欲しているのか?
また、同調査では、仕事をする上で重視するものについても質問をしています(図表3)。
多くの社員は、自身の仕事の権限を拡げ、専門性を高めることでパフォーマンスを高め、そのパフォーマンスに見合った報酬を得ることを望んでおり、職場の人間関係が良好ならばそれにこしたことは無いと考えていることがうかがえます。 その一方、経営トップのビジョンや方針を理解することへの関心は相対的に低いことがわかります。
【図表3 仕事をする上で重視するものの選択率(最大4つまで選択可能)】
順位 | 選択肢 | ( % ) |
---|---|---|
1 | 仕事に必要な裁量が与えられ、任せてもらえる | 40.1 |
2 | チームワークよくお互いが協力し合える職場環境である | 38.5 |
3 | 働きぶりやパフォーマンスに連動した報酬制度がある | 33.8 |
4 | 仕事を通じての学習・成長の機会がある | 32.5 |
5 | 休暇や勤務時間が個々の状況(出産・育児や疾病など)に応じて柔軟に選択できる | 29.9 |
6 | 安全快適に業務を行うための執務環境が整備されている | 24.2 |
7 | 自分の仕事の成果やアイデアを認められる機会がある | 24.0 |
8 | 勤務年数に応じた手厚い保障(退職金・企業年金など)がある | 20.8 |
9 | 上司がメンバーの様子や仕事の状況について、よく理解し把握している | 20.7 |
10 | 業務遂行のために最低限必要なスキルの習得機会がある | 15.4 |
11 | 仕事を通じて社会に貢献していることが実感できる機会がある | 13.4 |
12 | 勤務地が個々の状況(出産・育児や疾病など)に応じて選択できる | 12.8 |
13 | 職場の枠を超えて協力し合うことができている | 9.5 |
14 | 経営トップのビジョンや方針を聞いたり、直接話をする機会がある | 8.2 |
15 | 悩みを理解してもらったり、相談できる機会がある | 7.4 |
16 | 自己申告・社内FA、社内企業などのキャリア支援制度がある | 5.4 |
17 | 仕事を通じて部下や後輩を育成・指導する機会がある | 3.8 |
18 | 抜擢人事や選抜トレーニングの機会がある | 3.8 |
19 | 職場内外の人と知り合うための機会(業務外のイベントなども含む)がある | 2.4 |
こうした傾向は、90年代後半以降に導入された成果主義の影響が少なからずあることが推測できます。 多くの会社は社員に対して、成果主義導入の際に、「役割や権限の明確化」、「専門性の向上」、「パフォーマンス連動報酬」というキーワードを発しています。
その結果として、社員の仕事に対する意識の高まりや、キャリアを切り開いていこうという志向が高まったことはプラスの部分であるといえます。その一方で、会社に対する帰属意識や期待感が弱まっているとしたら、それは会社サイドにとっては頭の痛い問題です。
会社が打つべき施策はどのように特定するのか?
そうした中、会社はどのような施策をとるべきなのでしょうか?そのためには、現在の社員の欲求がどのレベルで満たされているのかを把握する必要があります。「欲求」に関する考えで最もポピュラーなものとなっているマズローの5段階欲求(図表4)に沿って考えると、下位の欲求が満たされていなければ、上位の欲求に相当する施策を入れても、絵に描いたモチに終わり、なかなか効果が上がりません。現時点での欲求レベル(=現在満たされていな欲求で下位概念のもの)を把握し、まずはそこを満たすための方策を打つ必要があります。
【図表4 マズローの5段階欲求】
最初に満たすべき欲求を「ホットボタン」と呼びます。最も社員の関心が高く、影響度が大きな欲求と考えることができます。まず、その欲求を満たすための施策を打つ、次にその欲求よりも上位概念に相当する欲求をターゲットと据えた施策を「2の矢」として周到に用意をし、しかるべきタイミングで放つことが最も好ましい方法です。上の図では、「ホットボタン」として「親和の欲求」をまずは満たし、次に「2の矢」として「承認の欲求」を満たす施策を用意することで、社員の欲求を正しい順序で満たし、会社への「エンゲージメント」を高めさせることを意図します。
エンゲージメントを高めるプロセス
社員の帰属意識を考える際のキーワードとして、「エンゲージメント」という言葉を冒頭に紹介しました。単に、不満が無いだけの状態、なんとなく残っても構わないという状態よりは、一歩踏み込み、社員が信頼関係をベースとした貢献意欲を会社に対してもっているかどうかというものです。まずは、アンケート調査などにより、(1)社員のエンゲージメントの状態がどのようなレベルであるのか、(2)社員がどのような欲求のレベルにあるのか(例えば安全欲求は満たされているが、親和欲求は満たされていないなど)を把握することが必要です。
【図表5 エンゲージメントを高めるプロセス】
各々の会社によってエンゲージメントのレベルも、社員の欲求のレベルも異なります。自社の状況を正確に把握しないと、本当に有効な施策を特定することはできないというのが大前提となります。上記(図表5)の活動のプロセスは、まずはエンゲージメントの状況について調査を行い、それを踏まえた施策の立案、施策の実行、モニタリングのサイクルをまわすことで、エンゲージメントを高める取り組みが確実な成果へと結びつくことを意図しています。
会社のブランド力と競合優位性の関係
グローバル環境における人材マネジメントの在り方が模索される今、エクセレントカンパニーと称される会社は、仕事に対するエンゲージメントは言うまでもなく、会社に対するエンゲージメントも高いケースが多いのは確かです(GE、ジョンソン&ジョンソン等)。その会社のブランド力や競合優位性が社員がエンゲージメントを感じる源となっていると思われがちです。しかし、視点を変えると、エンゲージメントが高い社員がいればこそ、会社のブランド力や競合優位性は確保されていると考えることもできます。
弊社では、個々の会社のエンゲージメントに関するアンケート調査を行うことで、この特集記事の中でもご紹介をしたエンゲージメントサーベイの調査結果と比較をし、個社の特徴を明らかにするとともに、その特徴に応じたエンゲージメントを高めるための施策展開をコンサルティングしています。この特集記事を機に、自社の社員のエンゲージメントの状況について関心を持っていただければ幸いです。
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