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営業メンバー育成におけるAI活用実践から見えてきた兆し

AI活用でメンバーマネジメントはどう進化するのか

読了時間:10分

  • 公開日:2026/10/19
  • 更新日:2026/10/19
AI活用でメンバーマネジメントはどう進化するのか

生成AIの活用が広がるなか、メンバーマネジメントにおいて人とAIはどのように役割を分かち合えるのでしょうか。営業マネジャーとして自身のメンバーと共にお客様をご支援する野村 蕗良乃と、組織・人事領域の研究員兼コンサルタントである武藤 久美子が、弊社内の実践を手がかりに語ります。今回取り上げるのは、弊社のソリューションプランナー(お客様を担当する営業メンバー)の成長を支援するためにAIを活用した取り組みです。まだ限定的な社内実践から得られた気づきではありますが、そこには、AIによってマネジメントが進化し、マネジャーの役割も変わっていく兆しが見えています。

AI時代のマネジメントを、まず自分たちで実践する
AI活用の2つの側面
営業メンバーの振り返りを支えるAI活用
AIからのフィードバックが示す、マネジメント進化の兆し
AIが日常の内省を支え、マネジャーの役割を変えていく
お客様と共に、AIを生かす未来を考えたい

AI時代のマネジメントを、まず自分たちで実践する

お客様との対話が出発点

——なぜ、社内でAIを活用したマネジメントの実践を始めたのでしょうか。

野村 企業の人事の方々とお話しすると、「AI時代にマネジメントや組織のあり方はどう変わるのか」「人が担うこととAIが担うことをどうすみ分けるのか」への関心の高まりを感じます。弊社にも、お客様から「AI時代の未来像を提示してほしい」という声が寄せられています。もちろん、このテーマに明確な正解があるわけではありません。だからこそ、机上で語るだけではなく、まず自分たちで試し、実感値を持ったうえでお客様と一緒に考えたいと思いました。組織人事の研究組織を持つ会社として、社会やお客様の変化を捉えながら、半歩先を照らすような考え方をつくっていきたい。そのための第一歩として、自分たち自身がAI時代のマネジメントを体現してみようとしている取り組みです。

AI活用の2つの側面

工数削減と提供価値の最大化

——営業マネジャーとして、どのようなAI活用を進めていますか。

野村 AI活用には、工数削減の側面と、価値を高める側面があると考えています。工数削減の側面では、例えば、社内に散在しているナレッジを、営業メンバーがお客様とのお打ち合わせで必要とする観点から素早く探せるようにする取り組みがあります。通常の検索では多数の不必要な情報も結果に出てきてしまいますが、営業担当者の視点で、お客様の状況や課題に応じた適切な情報を取り出せるAIアプリを作ることで、素早く質の高い提案や情報提供の準備を行えるようになりました。

価値を高める側面については、事例を2つご紹介します。1つ目は、お客様へのご支援で活用した事例です。研修受講者が研修で学んだことを職場で実践し、定着させるためにAIを活用しました。具体的には、評価者研修を提供して終わりではなく、受講者が管理職として研修後に評価や目標設定を行う場面において、AIを活用しながらメンバーへのフィードバック内容を考えたり、メンバー自身が目標設定について考えたりできるような、職場での実践方法を設計しています。このように、研修の実施だけでなく、その後の実践まで含めてご支援することで、研修で学んだことを日常の行動につなげていく提案をしています。

もう1つは、弊社の営業メンバーの成長を支援するAIの活用です。お客様とのお打ち合わせを振り返る際、これまでは営業マネジャーが同行してフィードバックすることが中心でした。ただ、すべてのお打ち合わせにマネジャーが同席することは現実的ではありません。そこで、お客様とのお打ち合わせ終了後、AIがお打ち合わせの内容に対してフィードバックし、マネジャーが常にいなくても、気づきや学びが深まるような仕組みを試しています。

営業メンバーの振り返りを支えるAI活用

具体的な場面に即した、「褒め」から始まるフィードバック

——営業メンバーの成長を支援するAIとは、どのようなものですか。

野村 弊社の営業スキル研修で扱う考え方をもとに、顧客接点の記録を振り返り、営業メンバーにフィードバックする社内向けAI「営業力強化先輩」です。事前にお客様の許可を得て記録したお打ち合わせの録音・文字起こしデータを入力すると、まず営業担当の強みや良かった点を具体的な場面と共に示し、そのうえで「ここはもっと伸ばせるかもしれない」という観点や、次回実践すべき行動が出力されます。最後には、スコアや応援メッセージも示されます。

武藤 私も使ってみましたが、「この発言が良かった」など、具体的な場面に結びつけてフィードバックしてくれるため、自分の持ち味や課題を認識しやすいと感じました。良い点を丁寧に扱ったうえで改善の提案があるので、次の行動も考えやすいですね。

経験に応じて異なる使い方

——社内のメンバーは、どのように活用していますか。

野村 若手のメンバーは、お打ち合わせの何が良かったのかを捉え、自分の強みや課題を上司と振り返る材料にしています。そもそも「営業担当として望ましいふるまいができていたのか」「お打ち合わせのなかで、お客様の期待に沿えた場面、沿うことができなかった場面はどこだったのか」などを判断するのは簡単ではありません。「営業力強化先輩」が具体的な発言や場面にひもづけて返してくれることで、本人も上司も、振り返りの起点を持ちやすくなります。

一方、経験を積んだメンバーは、お打ち合わせなどで気になった場面を振り返り、次の成長課題を考えるための材料として使用しています。ベテランに近づくほど、日常的に細かなフィードバックを受ける機会は少なくなります。だからこそ、AIによるフィードバックを通じて、自分の癖や伸ばせる点を確認し、次の成長につなげるための材料にしています。AIだけで育成を完結させるのではなく、本人の内省やマネジャーとの対話をより深めるための材料として位置づけています。

AIからのフィードバックが示す、マネジメント進化の兆し

研究知見と照らして見えたこと

——研究員の視点から、この実践をどう見ていますか。

武藤 フィードバックは、内容や頻度といったフィードバック自体の要素だけでなく、上司との関係性や信頼の蓄積などによって受け止め方が変わる、難しくも興味深いテーマです。例えば、具体的な行動のフィードバックは次の行動につなげやすい一方、人の気質や性格に関するフィードバックについては、防御的な反応を招き、効果的でないことがあります。

現在は、AIによるフィードバックについてどのように研究していくかを考えているところです。そこで、フィードバックに関する先行研究と照らしたときに、「営業力強化先輩」のプロンプトが何をどのように出力しようとしているのかを見てみました。「営業力強化先輩」は、具体的な場面を扱い、行動に焦点を当てるなど、フィードバックにおけるポイントが押さえられている面が多いことが分かりました。社内実践を通じて見つかった、今後深めたい研究テーマの芽だと捉えています。

AIだからこそ受け流せる余白

——「営業力強化先輩」利用者へのインタビューからは、どのような気づきがありましたか。

武藤 まだ社内の限られた人数へのインタビューですが、本人が意図して行ったことを「営業力強化先輩」に良かったと褒められると、素直にうれしいと感じるという声がありました。また、本人としては自然にやっていた発言や関わり方を、「ここが良かった」と場面と共に示されることで、自分の持ち味を再認識できるようです。自覚していなかった良い動きを見出してくれることも好意的に受け止められていました。インタビューでは、「素直に良い気持ちになった」「元気になった」といった声も聞かれました。

一方、「営業力強化先輩」は、お客様との関係性や本人の成長課題といった背景情報を知っているわけではありません。そのため、受け手がフィードバックを取捨選択したり、「この背景を知らないから、こういう言い方になったのだな」といったん受け流したりする様子もありました。人であるマネジャーからのフィードバックは、メンバー本人もより重く受け止めるでしょう。これは人によるフィードバックの良さの1つですが、改善点などネガティブな内容であった場合、本人はより厳しいものとして受け止めるかもしれません。AIからのフィードバックであれば、最初は受け流したとしても、別の機会に同じようなフィードバックが続くことで、本人が必要以上に傷つかず、徐々に受け止められるようになることも考えられます。この受け流せる余白は、AIからのフィードバックならではの特徴かもしれません。

マネジャーとAIそれぞれの役割

野村 人のマネジャーには、その人との関係性やこれまでの文脈を踏まえて伝えられる良さがあります。本人の置かれた状況や、これまで何に挑戦してきたのか、どのような期待を背負っているのかを理解したうえで、言葉を選べるのは人だからこそです。

他方、AIは1つの場面を比較的フラットに捉え、具体的かつ網羅的にフィードバックができます。1時間のお打ち合わせに同席していても、人のマネジャーは自分自身もお打ち合わせの主体者として考え、発言しています。そのため、メンバーへのフィードバックだけに集中して、すべての発言を覚えておくことは現実的ではありません。その意味で、記録された場面を複数の観点から分析し、コメントとして提示するAIの機能には、人とは異なる価値があると感じます。両者は同じ役割ではありません。

武藤 確かにそうですね。ちなみに、今回AIからのフィードバックを上手に活用しているメンバーに共通して見られたのが、上司であるマネジャーの支援を受けていることです。「マネジャーと期初に、私の成長課題についてすり合わせをしているので、日々はAIからのフィードバックを活用できる。大きな方向性をマネジャーと合意できていなければ、AIからのフィードバックは生かしづらい」といった声がありました。また、「マネジャーとの1on1ミーティングに、AIからのフィードバックをもとに自分で振り返ってから臨む」というサイクルが、マネジャーとの約束による良い意味での義務感になっているという声もありました。こうしたことも、人とAIの役割分担を考えるうえで興味深い観点です。

AIが日常の内省を支え、マネジャーの役割を変えていく

AIに任せるのではなく、人にしかできない支援へ

——マネジメントにおいてAIの活用が進むと、マネジャーの役割はどう変わるのでしょうか。

野村 メンバーが日々のお客様とのお打ち合わせを振り返り、翌日の行動を変えるサイクルを自律的に回せるようになれば、マネジャーはすべての場面を見て細かく助言する役割から、本人がどこを目指すのかを共に考え、成長課題を意味づけし、挑戦を支える役割へ、より力を注げるようになると思います。AIを活用した日々の振り返りから具体的な改善のヒントを得ることで、マネジャーとの1on1でも、「何を学び、次に何へ挑戦するか」について、より具体的で深い対話ができるようになるかもしれません。そうなれば、マネジャーは管理や指示だけでなく、メンバーの学びのプロセスを設計し、成長の意味づけを支援する存在として、より重要になると感じています。

武藤 AIがあるから研修やマネジャーのような人との対話を通じた内省の機会が不要になるわけではありません。何を大切にするかを示すこと、本人の置かれた文脈を理解すること、対話を通じて意思や覚悟を引き出すことは、人が担う重要な役割です。AIは、その役割を代替する存在というより、日常の内省機会を増やし、人による支援をより豊かにする可能性を持つのだと思います。

お客様と共に、AIを生かす未来を考えたい

武藤 今回見えてきたのは、あくまで1つの社内実践から得られた兆しです。AIからのフィードバックが常に有効だということでも、人による関わりを置き換えられるということでもありません。むしろ大切なのは、どのような場面でAIの具体性やフラットさが生き、どのような場面では人の理解や対話が不可欠なのかを見極めることだと思います。これから、お客様の現場ではどのような可能性や課題があるのか、人とAIがどのように役割を分かち合えば良い効果につながるのかを、対話と実践を通じて確かめていきたいです。

野村 企業ごとに、事業や組織、マネジメントの文脈は異なります。だからこそ、既製の答えをあてはめるのではなく、弊社でも実践を重ねながら、AIを使ったお客様との未来を一緒に考えていきたいと思っています。

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