連載・コラム
【対談】京都芸術大学大学院 早川克美教授、西村祐哉氏、渡邉玉緒氏
デザイン・アートと対話で拓く、持続可能な女性リーダーの未来【後編】
読了時間:8分
- 公開日:2026/05/25
- 更新日:2026/05/25
1986年の男女雇用機会均等法以来、多くの組織で女性リーダーを増やす取り組みが広がっています。一方で、登用から一定年数が経った女性リーダーを支える取り組みについては注目される機会がまだ少なく、フォローも手薄になりやすいのが実情です。
本記事の前編では、「女性管理職のストレスに対する感情表現ワークショップ」を開発・デザインした京都芸術大学大学院の皆様に、研究のきっかけとなった課題意識や、ワークショップの開発経緯について伺いました。後編は、ワークショップの実践を通して見えてきた効果と、今後の展望を語っていただきます。
対話メンバー
●早川 克美(京都芸術大学大学院芸術専攻 専攻長 教授)
●西村 祐哉(京都芸術大学大学院 早川ゼミAチーム)民間企業に所属
●渡邉 玉緒(京都芸術大学大学院 早川ゼミAチーム)民間(非営利)組織に所属
●小松 苑子(リクルートマネジメントソリューションズ 主任研究員)
偶発的なマーブリングがもたらした、“気づき”の効果

小松:皆さんが開発された「iroとikiの感情表現ワークショップ」には、マーブリングを通してご自身の心に向き合っていただくステップがあります。実際にマーブリングを体験された方々のご反応は、どのようなものでしたか?
渡邉:想像していたよりも多くの方が、“新しい気づき”を得てくださいました。例えば、マーブリングは偶発性のあるアートなので、自分で選んだはずの色がまったく違う色味になることもあります。予想もしていなかった色が表れるのを見て、「これはどういった感情の色だろう?」と考えたり、「確かにこんな気持ちがあったかもしれない」と振り返ったりなど、自己とアートの間で対話されている場面が多くありました。
西村:マーブリングはアートであって魔法ではないので、「本当にご自身の感情をそのまま表現できるのか」と聞かれたら、必ずしもそうではないと思います。ただ、自ら色を選び、息を吹きかけて模様を描いたという仕掛けを用意することで、自分と無関係ではないアートになるような物語性を持たせました。結果的にファシリテーターが何も言わなくても、アートに自己を投影したり、解釈を試みたりしてくださったのが印象的です。
渡邉:作品をシェアし合う時も、さまざまな“気づき”が起こっていました。例えばある参加者の方は、マーブリングの紙をうまく水に付けきれず、白紙の部分が残ってしまったのです。他の人とできあがりが違うので、少し気にされていたかもしれません。
ただ、そんな作品をシェアした彼女に、他の方が「あなたに余白を感じました」と、温かいコメントをしてくださいました。ご本人も「これは私の余白なんですね」と、ほっとした表情をなさっていて……。
小松:本当に素敵なワークショップですね。1人にはない視点があるからこそ、新しい気づきが生まれるという。
早川:「できたものを共有し、対話する」というステップをつくっているところが、本当に大切だと思います。「皆でアートをつくりました」だけだと、「いいものができましたね」で終わってしまうからです。
何より、対話によって“第三者から見た自分”に気づくと、気持ちが整うことが多いのです。ただ、普段からそういった機会が得られるかどうかは、交友関係や忙しさに大きく左右されます。だからこそ、限られた時間ではありますが、ワークショップなどがきっかけをつくることも大切なのかもしれません。

小松:お話を伺っていて、とても共感しました。弊社も中堅リーダー向けの研修などで、“対話によるメタ認知”を促すプログラムを取り入れています。研修では「俯瞰」と呼んでいるのですが、周りから見えた自分を含めて俯瞰してもらうと、「自分ってこういう人間だったのか」という自己理解が進みます。それだけでなく、「これからどうなりたいか」というイメージも湧きやすくなるのです。
ただ、やはり忙しい日常のなかで、そうした時間を自分で確保することは簡単ではありません。だからこそ、ワークショップや研修には、日常から一歩離れた「小さな非日常」をつくる役割もあるのだと、あらためて考えさせられました。
ワークショップや研修を“継続実践”する大切さとは
小松:とても魅力的な「iroとikiの感情表現ワークショップ」ですが、実施と検証を重ねるなかで課題を感じたことはありますか?

西村:課題としては、リフレッシュ効果の持続性でしょうか。
渡邉:ワークショップの実施前と後に、気分調査のアンケートを取ったのですが、実施前にあった不安・倦怠感・緊張・興奮は減少、憂鬱は消滅し、爽やかな気分が増加していました。単発のワークショップとしては、女性リーダーが抱えているストレスを和らげる検証結果が出ています。
西村:ただ、早川教授からもご指摘をいただいたのですが、社会実装を目指すならさらに先の時間軸まで考える必要があります。1回目ではストレス緩和の効果があったとして、2回目で同じ効果が出るのか。継続的な実施は必要なのか。次に実施するとしたら、1カ月後か、半年後か。同じメンバーでやるのか、入れ替えるのか。ワークショップとしては一定の完成度があったとしても、その先にどうあり続けるのかは、まだ探究の途中です。
修士2年間ではワークショップのプロトタイプをつくり、検証結果をまとめるところまでは進めました。今後は仕事と並行する形にはなりますが、ワークショップの社会実装に向けて研究を続けていきたいと思っています。

渡邉:なかでも、ワークショップの継続性は大きなテーマですね。もしかしたら同じメンバーでワークショップを受けていただくうちに、マーブリングがいらなくなるのかもしれません。対話によって関係性が蓄積されて、その場限りではないコミュニティができたり、「マーブリングの展覧会を開こう!」というムーブメントが起こったりする可能性もあります。継続性から生まれる参加者の方々の変化も、ぜひ見ていきたいと思っています。
小松:皆さんがおっしゃるように、ワークショップも研修も「一度やって終わり」ではなく、継続実践が大切だと感じています。ワークショップや研修で本当に重要なことは、「会場で何をしたか」ではなく、参加された方が「何を持ち帰ってくださったか」だからです。持ち帰ったものによって日常が変化し、その変化が持続してこそ意味があるので、定期的なフィードバックや継続しやすい仕掛けが大切だと思います。
西村:研修やワークショップの効果が表れるタイミングも、人それぞれですからね。すぐに変化が表れる人もいれば、時間をかけて醸成される人もいます。過程を定量化するのは難しいので、だからこそ継続していくしかありません。悩ましくもあり、興味深くもある領域だと感じています。
「私は私」と、胸を張れる社会へ
小松:最後に、社会的な女性活躍という観点からお話を伺わせてください。皆さんは、将来的に女性リーダーがどのように活躍できる社会であってほしいとお考えですか?

渡邉:このワークショップのようなサポートを受けながらでもいいので、「私は私として、管理職をやっていけばいいんだ」と、健康的に思える世のなかになったら嬉しいですね。
私は男女雇用機会均等法が施行されてから管理職になった世代ですが、「女性初の」という冠を何度かいただくことがありました。紹介されるたびに「女性初」を添えられることに、不安を感じたこともあります。女性リーダーを増やす試みが広がるなかで、「本当は実力ではなく、“女性であること”を理由に登用されたのではないか」と悩まれている方も少なくないと聞きますし、私も同じような葛藤を抱えてきました。
もちろん世のなかの変化によって、こういった不安を抱かなくなる日が来るのかもしれません。ただ、仮に不安を抱えることがあっても、「私は私」と胸を張って、次に繋げていける形になってくれたらいいなと感じています。
小松:管理職はポテンシャルも踏まえて登用されることもありますし、役職が人をつくるという面もあると思います。いただいたチャンスを、どなたも前向きに捉えられるようになったらいいですよね。
早川:あとは、管理職というポジションに対して、もう少しおおらかに捉えられる世のなかになったらいいと思っています。もともと管理職とは、チームを前向きに率いていく旗振り役のはずでした。昔は評価制度も厳格に仕組み化されていなかったので、管理職といっても人間味やおおらかさも残っていたように思います。
ただ、最近は評価制度が高度に仕組み化されて、点数やチェックリストで測られることも増えました。もちろん合理性はありますが、部下や成果を管理するという側面が強くなりすぎていて、窮屈になっているように感じます。だから管理職という役割が、罰ゲームのように感じられることが多いのではないでしょうか。
小松:中堅社員の方々と接するなかで、「管理職になりたくない」という声は本当に多くいただきます。過剰な仕組み化による窮屈さと、責任の重さで疲弊していきやすいのです。もっと創造的で、自分らしく活躍できる役割として捉え直せたら、「管理職になりたい」と思う人も増えるのではないかと思います。

早川:四角四面な社会に対して、「本当にそれでいいの?」というそもそも論をぶつけていくのも、私たちのような大学院の役目なのかもしれません。創造性って余白から生まれるものなので、「ふわっと、おおらかにいきましょうよ」という視点を、もっと広めていけたらいいですね。
西村:「iroとikiの感情表現ワークショップ」も、効率だけを基準にすれば非合理に見えるかもしれません。ただ、一見回り道かもしれない時間のなかで、ふっと見えてくるものがあることも事実です。そういった寄り道を無駄と切り捨てない社会であってほしいですし、その一端を担えたら嬉しいですね。
小松:本日はありがとうございました。
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