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【対談】京都芸術大学大学院 早川克美教授、西村祐哉氏、渡邉玉緒氏

デザイン・アートと対話で拓く、持続可能な女性リーダーの未来【前編】

読了時間:9

  • 公開日:2026/05/18
  • 更新日:2026/05/18
デザイン・アートと対話で拓く、持続可能な女性リーダーの未来【前編】

1986年の男女雇用機会均等法以来、多くの組織で女性リーダーを増やす取り組みが広がっています。一方で、登用から一定年数が経った女性リーダーを支える取り組みについては注目される機会がまだ少なく、フォローも手薄になりやすいのが実情です。

そこで今回は、「女性管理職のストレスに対する感情表現ワークショップ」を開発・デザインした京都芸術大学大学院の皆様にお話を伺いました。前編では、研究の出発点となった課題意識や、女性リーダーの内面的なケアを支えるワークショップ開発の経緯を解き明かします。

対話メンバー
●早川 克美(京都芸術大学大学院芸術専攻 専攻長 教授)
●西村 祐哉(京都芸術大学大学院 早川ゼミAチーム)民間企業に所属
●渡邉 玉緒(京都芸術大学大学院 早川ゼミAチーム)民間(非営利)組織に所属
●小松 苑子(リクルートマネジメントソリューションズ 主任研究員)

研究の始まりは、同性部下からの“あるひと言”だった
ストレスをあえて言語化させない、「iroとikiの感情表現ワークショップ」
“もやもや”にリラックスして向き合う、ワークショップの優しい仕掛け

研究の始まりは、同性部下からの“あるひと言”だった

小松様の画像

小松:女性の活躍が推進されるなかで、「これからリーダーになる女性をどう支えたらいいか」「登用されたばかりの女性リーダーを、どう支えるべきか」といったご相談を、企業様からいただきます。一方で、登用から年数が経った女性リーダーの内面的なケアについては、体系的に取り上げられる機会がまだ少ない印象です。皆さんはなぜ、「登用から年数が経った女性管理職のストレス」というテーマに着目されたのでしょうか?

渡邉:出発点は、とても個人的な出来事でした。私たちは男性3名、女性2名の社会人チームで研究に取り組んでいまして、私も含めた女性メンバーは管理職としても働いています。そんな折、女性メンバーが同性の部下から、「私はあなたのようにはなれません」と言われてしまったのです。

小松:管理職として頑張られているお立場を思うと、胸が苦しくなる言葉ですね……。

渡邊様の画像

渡邉:私もショッキングな言葉だと思いました。一見バリバリ働いているように見えても、チームの一員でもある彼女や私の胸中には、管理職という立場に対する葛藤が少なからずあります。ただ、その葛藤をあまり表に出さないので、周りから何の問題もなく自立しているように見られることも多いのです。あらためて考えると、私も管理職としての不安を周りに相談したり、吐き出したりする機会がほとんどなかったことに気づきました。

実際に管理職として活躍されている女性にもアンケートを取ったのですが、勤務上のストレスや葛藤を「もやもやする」と表現することはあっても、ストレッサーと向き合うのではなく、内側に閉じ込めやすい傾向にあることが分かりました。ストレス反応を抑制するうちに、自分がストレスを感じているかどうかも分からなくなり、そのまま疲弊してしまう方も多いように感じたのです。「女性リーダーが増えている時代に、これでいいのかな。何かできることはないかな?」とチームで話し合ったのが、研究のスタートでした。

西村:私は男性の立場ですが、管理職として働くなかで、「女性リーダーを増やす」という取り組みが社内に広がっていくのを感じていました。一方で、管理職がストレスを発散するような組織内の仕組みやコミュニケーションの在り方は、男性管理職ばかりだった頃と大きく変わっていないように思います。同じ管理職という立場から見ても引っかかる感覚があり、チーム全員で自己開示をしていくうちに、女性管理職のストレスを研究テーマとして取り上げようということになりました。

小松:早川教授は皆さんの研究を支援されるポジションだったかと存じますが、どのような見解をお持ちでしたか?

早川教授の画像

早川:まさに今らしい問題意識だと感じました。私は男女雇用機会均等法が施行された頃に就職した世代ですが、女性が無理なく働き続けられる社会づくりは着実に進んでいます。「管理職になり、部下を持つ」というキャリアステップについても、管理職としての役割やノウハウを学ぶ研修は整えられている印象です。

ただ、キャリアに対する女性ならではの不安や、内面的な孤独を支える取り組みは、まだ手を打つ余地があるのではないかとも感じていました。「仕事上の悩みを相談できる相手がいない」「家庭があるので飲み会などの交流の場に参加しにくい」――このようなお悩みを聞くことも多いなかで、女性リーダーの内面の声に耳を傾け、心の棚卸しを支えられるような取り組みが広まればと思っていたのです。

ストレスをあえて言語化させない、「iroとikiの感情表現ワークショップ」

小松:そんな折に、渡邉さんや西村さんのチームが「女性管理職のストレス」という研究テーマを選ばれたのですね。研究の過程で早川教授がまさにおっしゃったような、女性リーダーの心の棚卸しを支える「iroとikiの感情表現ワークショップ」も開発されています。学会で拝見した時も非常に新奇性を感じたプログラムですが、あらためて内容を伺ってもよろしいですか?

ワークショップの画像

渡邉:「iroとikiの感情表現ワークショップ」は、マーブリング作品の制作と鑑賞を軸にしたプログラムになります。マーブリングとは、水の上に絵の具を落とし、筆で模様を作って、紙に写し取るアート技法です。今回は論文で確認した「吐息」の効用を生かすため、筆ではなくふーっと息を吹きかける形にしました。また、ワークショップでは今の感情に合った色を「プルチックの感情の輪(※1)」に沿って選んでもらい、マーブリングを通してリラックスしながら心と向き合えるような効果を目指しました。今までは認識できなかった感情にも気づきやすくなるよう、お互いのアートを鑑賞しながら対話する時間も設けています。

詳しい検証結果は後編でお話ししますが、実際にいろいろな属性の方にワークショップを体験していただいたところ、特に女性リーダーの抑うつや不安の解消に高い効果が見られました。

小松:ワークショップを開発される過程で、なぜマーブリングという技法を選ばれたのでしょうか?

西村:「デザイン思考を介して世の中を良くしていきたい」という思いも一因ですが、マーブリングはもやもやとした気持ちを言語化せずに、偶発的な色の模様によってアウトプットしやすい手法だったからです。

「自分と向き合う」という試みをする時は、どうしても言語化が焦点になりがちです。ただ、いろいろとアンケートを取っていくなかで、長年のストレスを抱えた女性リーダー層は、怒りも希望もないすり切れた無気力な状態に近いことが分かりました。ただでさえ疲弊されている方々に、「いいからあなたのストレスを言語化して向き合ってください」とお願いするのは、正直苦痛を与えるだけではないかと思ったのです。

小松:非常に悩ましい問題だと思います。私も研修プログラムを開発する立場ですが、研修はどうしても言語化に重きが置かれます。マネジャーとしての考え方やノウハウを伝える時も、参加者の気づきを可視化する時も、最終的には言葉にしていただくことが多くなります。

もちろん、言語化は参加者ご本人にとって大切なプロセスであり、人事側にとっても研修効果を示すエビデンスになります。ただ、今回皆さんのお話を伺って、言語化による精察をすぐに求めるのではなく、「課題を言語化できる前の心」にまず寄り添うことも大切だと、あらためて感じました。

※1:「喜び」「信頼」「恐れ」「驚き」「悲しみ」「嫌悪」「怒り」「期待」という8つの基本的な感情を、色のパレットのように配置したもの。(心理学者ロバート・プルチックが提唱)

“もやもや”にリラックスして向き合う、ワークショップの優しい仕掛け

小松:「iroとikiの感情表現ワークショップ」は心の“もやもや”を表現するという、時には強い言葉が出てしまうかもしれないテーマを扱っていますが、参加された方々が和やかに対話されていたのが印象的です。設計に際してのこだわりを、ぜひ教えてください。

西村様の画像

西村:ワークショップのデザインにあたって特にこだわったのは、時間を共にした人々と対話したくなるような、“ほどよくリラックスできる雰囲気”づくりです。お集まりいただく方々は初対面ですし、リラックスしていただきたいという気持ちはあるのですが、一方でリラックスしすぎると自己開示があちこちで始まってしまいます。そのためワークショップでお出しするお菓子や飲み物、音楽、会場に至るまで、ほどよく気持ちがほぐれるものをセレクトしました。

渡邉:例えばお菓子は、ストレスに関する先行研究も参考にしながら、懐かしさがあってサクサクとした食感のものを選びました。会場も殺風景な会議室ではなく、モダンさや非日常感が合わさった、落ち着いたお部屋を採用しています。

西村:そのうえで、ワークショップを1つの旅に見立てた進行にしました。チェックインでリラックスできる空間や音楽を感じてもらい、ハーブティなどのお好きな飲み物を選んでもらって、体がほぐれるストレッチをして、心に沿った色を選んでいただく……というように、導入から少しずつ内面にディープダイブしていけるようにデザインしています。マーブリングの紙を乾かす時には新聞紙を使いますが、紙面の内容がノイズにならないように、チームメンバーの1人が苦労しながら英字新聞をかき集めてくれたこともありました。

小松:とても細部までこだわられていたのですね。研修ではどうしても会議室が採用されがちですが、心理的安全性のある場づくりに向けて、空間も含めてデザインされているのが素晴らしいと感じました。参加者の方々が対話される時も、何か意識されていたのでしょうか?

西村:お互いの作品をシェアし、対話していただく時は、モンテッソーリ教育(※2)の「Show & Tell」の温度感を目安にファシリテーションをしていました。

私の子どもが幼稚園でやっていたのですが、「Show & Tell」は担当の子が紹介したいものを持ってきて、皆の前で発表するという活動です。今回のワークショップでは、「自己をアートによってリフレーミングし、対話を通して“ほどよく”見つめ合う」という柔らかい体験をねらっていました。だからこそ、容赦なく内面に踏み込む自己啓発的な対話ではなく、相手への尊重がベースにある「Show & Tell」のような対話を促すといいのではないかと、チームの皆にも提案したのです。

渡邉:そういったアイディア出しも含めて、本当にチームの対話でつくり上げたワークショップだと思います。幼児教育のプログラムから着想を得たり、ワークショップの時間内で乾く紙質を調べたり、リラックスできる音楽を自前で作ったり……。1人ではとてもできないことや考えつかなかったことが、たくさんありました。

お二人の画像

早川:「早く行きたければ、1人で行け。遠くまで行きたければ、みんなで行け」という海外のことわざがありますが、まさにその言葉を標榜しているチームだと思いながら見守っていました。「その意見もいいね!」「これもいいね!」と豊かに受け入れていくので、ブレインストーミングがどんどん拡散してしまう、寄り道の多いわらしべ長者になりやすいという愛嬌もありましたが、最終的にはこだわりが光る魅力的なワークショップに仕上げてくれたと思っています。

小松:お話を伺っていて、皆さんがチームで探究を重ねるなかで大切にされてきた“対話の姿勢”が、そのままワークショップの設計にも反映されているのだと感じました。1人ではなかなか気づけない自分の“もやもや”に、アートや対話を通して向き合っていく。その構造自体が、“みんなで遠くまで行く”という在り方を体現されているように思います。後編では実際のワークショップの効果や今後の展望についても、ぜひお伺いできればと思います。

※2:医学博士マリア・モンテッソーリが考案した、子どもの「自ら育つ力(自己教育力)」を最大限に引き出す教育法。

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