連載・コラム
マネジメント変革で組織を動かす【前編】
戦略人事の実現を阻む2つの「分断」
読了時間:8分
- 公開日:2026/03/30
- 更新日:2026/03/30
はじめに──制度は変わったのに、現場が変わらない
「新しい評価制度を導入したのに、現場の意識は変わらない」「キャリア自律を掲げて施策を打ち出したが、形式的な運用にとどまっている」──こうした悩みを抱える人事部門の責任者は少なくありません。
人事制度を刷新し、研修プログラムを充実させ、新たな仕組みを整える。人事部門は経営の期待に応えようと、さまざまな施策を矢継ぎ早に展開します。しかし、思うような成果が出ない。その背景には、経営戦略から現場実践に至る「縦の分断」と、人事部門内の機能間における「横の分断」という2つの構造的課題が潜んでいます。
本稿では、戦略人事を実現するために不可欠な「人事施策の一貫性」と「マネジメント変革」について、3部構成で考察します。前編では、戦略人事の本質と人事部門が抱える構造的課題を明らかにし、中編では、マネジメント変革の具体的アプローチを、後編では人事部門内の連携のあり方を提示します。
- 目次
- 戦略人事とは何か──縦のラインをつなげること
- 「縦の分断」を乗り越える──人事と現場、それぞれの役割
- 現場の役割──人事施策の必要性を理解し、「箱」を「現実」に変える
- 施策の一貫性不足を生む構造──機能別組織の光と影
- 前編のまとめ──2つの「分断」が戦略人事を阻む
戦略人事とは何か──縦のラインをつなげること
戦略人事とは、経営戦略→人事戦略→個別施策→現場実践という縦のラインを一貫してつなぎ、組織変革を実現することを指します。
出発点となる経営戦略は、経営層が社内外の環境変化を踏まえて策定します。市場環境や競合動向といった外部環境と、自社の強み・弱み、組織文化といった内部環境を総合的に判断して立案されます。
人事部門の役割は、この経営戦略を受けて人事戦略を構築することです。人事戦略に基づき、ジョブ型人事制度への転換、キャリア自律の推進、経営人材のサクセッションプラン、エンゲージメント向上といった個別施策が展開され、それらが現場で実践されるという一連の流れが必要です。
この縦のラインが一貫してつながって初めて、人事は「戦略人事」として機能します。しかし、多くの企業では、この「つながり」が分断されているのが実情です。
「縦の分断」を乗り越える──人事と現場、それぞれの役割
戦略人事を実現するうえで、まず克服すべきは「縦の分断」です。これは、経営戦略→人事戦略→個別施策→現場実践という縦のラインにおける断絶を指します。
多くの企業では、この縦のつながりがさまざまな箇所で分断されています。経営層が掲げる戦略が人事戦略に翻訳されない、人事戦略が具体的な施策として設計されない、あるいは施策が現場の実態と乖離している──こうした分断が、結果として「制度は変わったが現場は変わらない」という状況を生み出すのです。
この縦の分断を乗り越え、戦略人事を実現するためには、人事部門と現場それぞれに果たすべき役割があります。
人事部門の4つの役割
① 経営戦略と人事戦略をつなぐ
経営戦略を深く理解し、それを実現するための人事戦略を策定する。その際、「自社はどのような人材マネジメントを行うのか」という人材マネジメントポリシーを明確にすることが出発点となります。経営層との対話を通じて人材・組織面での課題を可視化し、戦略的な方向性を示すことが求められます。例えば、経営が「グローバル展開を加速する」と掲げるなら、それを実現するための人材要件や組織能力を明確にし、人事戦略として具体化します。
②人事戦略を軸に一貫した施策を設計する
人事戦略に基づき、採用、配置、評価、報酬、育成といった個別施策を、バラバラではなく体系的・整合的に設計します。各施策が互いに補完し合い、相乗効果を生み出すように統合することが重要です。例えば「キャリア自律の促進」を推進するなら、評価制度、育成施策、キャリア支援の仕組みが一貫したメッセージを発する必要があります。
③現場に対して一貫したストーリーを示す
設計した施策を現場に展開する際、「なぜこの施策が必要なのか」「経営戦略とどうつながっているのか」を明確に説明します。現場の管理職やメンバーが施策の意図を理解し、納得できるように、一貫したストーリーを提示することが求められます。
④現場実践を支援する
人事部門の役割は、施策を設計して終わりではありません。現場での実践を継続的に支援することも求められます。管理職が施策を効果的に運用できるよう、研修やツールの提供、相談対応などを行います。また、現場の声を拾い上げ、施策の改善につなげる仕組みも必要です。
【図表1】戦略人事がつなげる縦のラインと役割

現場の役割──人事施策の必要性を理解し、「箱」を「現実」に変える
人事制度や施策は、人事主導で変えることができます。新しい評価制度を導入し、研修プログラムを刷新し、キャリア面談の仕組みを整える。しかし、制度や仕組みという「箱」をつくっただけでは、組織は変わりません。
人事施策の推進は、企画→設計→実行→定着というプロセスをたどります。企画・設計段階では人事部門が主導できますが、実行・定着段階では現場の協力が不可欠です。現場が人事施策の必要性を理解したうえで、日々のマネジメントを通じて「箱」を「現実」に変えていく──これが現場の役割です。制度をつくだけではなく、現場が変わらないと、真の意味での組織変革は実現しません。このプロセスを担うのがミドルマネジメント層、すなわち管理職です。
管理職は「経営と現場の結節点」
管理職は、経営層が描く戦略と、日々の業務に追われる現場メンバーをつなぐ結節点です。人事が示した施策の意図を理解し、それを現場の文脈に翻訳して伝える。メンバーの声を拾い上げ、人事や経営にフィードバックする。この双方向のコミュニケーションを担うのが管理職の役割であり、どんな人事施策も、管理職の働きが成功の鍵を握るといっても過言ではありません。
例えば、ジョブ型人事制度への転換を進める場合、制度設計やガイダンスによる説明は人事部門が担います。ガイダンスを経てもメンバーに残る不安や疑問に寄り添い、変化への意欲を引き出すことが管理職の役割です。そのためには、経営戦略と人事戦略がなぜジョブ型という選択につながるのかという背景・意図を深く理解し、それが自分たちの仕事にどう影響するのかを自分の言葉で語れることが必要です。これは決して容易なことではありません。だからこそ、人事部門には管理職がその役割を果たせるよう、手厚い支援が求められます。
【図表2】経営と現場の結節点としての機能

施策の一貫性不足が生む弊害
縦の分断を乗り越えるには、管理職を支える一貫した人事施策が必要です。しかし、現実には、一貫性が損なわれてしまっているケースが少なくありません。
例えば、キャリア自律を推進するために「キャリア面談制度」を導入したとします。制度として月1回のキャリア面談を義務づけ、管理職向けに面談スキル研修も実施した。しかし、現場では以下のような問題が起こります。
・制度で使用する面談シートと、研修で教えている面談手法が整合していない
・研修を受けた管理職が現場で面談を実施しようとしても、評価制度との関係が不明確で戸惑う
こうした施策の一貫性不足は、管理職を混乱させ、施策の効果を減殺させます。そして、現場の管理職や従業員に「人事は現場のことを分かっていない」という不信感を生みます。評価制度、育成プログラム、キャリア支援の仕組み──それぞれは整備されているのに、つながっていない。管理職は「何をどう使えばいいのか」が分からず、結局、形式的な対応に終始してしまうのです。
このことは、もう1つの構造的課題である「横の分断」によって引き起こされています。
施策の一貫性不足を生む構造──機能別組織の光と影
では、なぜこうした状態に陥るのでしょうか。その大きな要因の1つが、人事部門の組織構造にあります。
人事部門は、採用・評価・報酬・異動/配置・育成・労務・代謝という7つの機能からなります。企業規模が小さいうちは、少数の人事担当者がこれらの機能を横断的に担います。しかし、企業規模が大きくなるほど、機能別に組織が分かれていきます。採用グループ、人事企画グループ、人材開発グループ、労務グループといった具合です。
さらに、従業員規模が大きな企業では、機動力や効果・効率性を高めるために、各事業ラインに人事機能を持った組織を置く場合があります。いわゆる「部門人事」です。本社人事が全社的な制度設計や方針策定を担い、部門人事が各事業の特性に応じた運用や現場支援を担うという分業体制です。
こうした機能別組織は、各機能の専門性を高め、業務の効率化を実現する利点があります。しかし同時に、「タコツボ化」「サイロ化」を招くリスクも抱えています。機能ごとに最適化を追求した結果、各部門が独立して動き、組織間の連携が不足し、情報共有や協働の機会が少なくなります。それが「横の分断」です。
先ほどのキャリア面談制度の例でいえば、制度設計は人事企画部門が担い、面談スキル研修は人材開発部門が担い、現場の声の収集は部門人事が担う。それぞれが自部門の専門性を生かして取り組むのですが、部門間で十分な情報共有や調整がなされないまま進んでしまう。その結果、制度と研修が整合せず、現場の声が制度改善に反映されず、施策が分断されてしまうのです。
【図表3】人事組織の一例

前編のまとめ──2つの「分断」が戦略人事を阻む
戦略人事の実現を阻む構造的課題として、2つの「分断」を指摘しました。
第1の分断は、経営戦略から現場実践に至る「縦の分断」です。 経営戦略→人事戦略→個別施策→現場実践という縦のラインが、さまざまな箇所で断絶しています。人事部門には、①経営戦略と人事戦略をつなぐこと、②人事戦略を軸に一貫した施策を設計すること、③現場に一貫したストーリーを示すこと、そして④現場実践を支援することが求められます。そして、人事が示した施策を現場で実践に移す要となるのが管理職です。
第2の分断は、人事部門内の「横の分断」です。 人事企画、人材開発、部門人事といった機能別組織が、それぞれ独立して動き、連携が不足している状態です。この横の分断により、施策の一貫性が失われ、効果が最大化されません。管理職を支えるはずの施策がつながりを失うことで、かえって現場を混乱させてしまうのです。
中編では、縦の分断を乗り越えるために、管理職が置かれている現実と、マネジメント変革を推進する具体的なアプローチについて詳しく論じます。
執筆者

営業推進部
マーケティンググループ
シニアスタッフ
浅尾 陽介
2007年、リクルートメディアコミュニケーションズ(当時)に入社。ブライダル事業、まなび事業で広報プランニング・マーケティング職を歴任後、2022年より現職。HRD・OD事業のマーケティング業務と、各種HR調査の企画設計・分析を担当。
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