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さあ、扉をひらこう。Jammin’2025 special dialogue

イノベーションは仁義である〈明治大学 野田稔氏・後編〉

  • 公開日:2026/02/24
  • 更新日:2026/02/24
イノベーションは仁義である〈明治大学 野田稔氏・後編〉

次世代リーダーを越境体験を通じて育成することを目的とした、異業種交流型リーダーシップ開発研修「Jammin’」。これまでの7年間で、1500名を超える次世代リーダーたちが、社会の「不」を基点に新価値を生み出すプロセスに取り組み、新規事業案を創りだし、Jammin’を卒業していった。

しかしJammin’はある意味で、終了後こそが本当のスタート地点である。Jammin’参加者には、自社でJammin’での学びをいかし、新価値創造に取り組むことが求められているからだ。ところが実際には、Jammin’参加者が組織内イノベーションに苦労することもある。そこで今回は、Jammin’プロデューサーの井上功が、日本のイノベーション研究の第一人者である野田稔氏(明治大学グローバル・ビジネス研究科(MBA)研究科長 専任教授)に、組織内イノベーションを起こすにはどうしたらよいのかを詳しく伺った。本記事はその後編である。

組織内イノベーションを起こすには

●対談者プロフィール

野田稔 氏
明治大学グローバル・ビジネス研究科(MBA)研究科長 専任教授
1981年一橋大学商学部卒業 株式会社野村総合研究所入社。1987年一橋大学大学院修士課程修了。野村総合研究所復帰後、経営戦略コンサルティング室長、経営コンサルティング一部部長を経て2001年3月退社。多摩大学経営情報学部教授、株式会社リクルート 新規事業担当フェローを経て、2008年4月より現職。リクルートワークス研究所 特任研究顧問を兼任。著書:『組織論再入門』(ダイヤモンド社)、『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)、『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』(フォレスト出版)、『野田稔のリーダーになるための教科書』(宝島社)、『あたたかい組織感情』(ソフトバンククリエイティブ)など多数。

井上功
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’ プロデューサー
1986年株式会社リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループの立ち上げを実施。以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。2012年よりリクルートマネジメントソリューションズに出向・転籍。2022年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材開発、組織開発、新規事業提案制度策定等に取り組む。近年は、異業種協働型の次世代リーダー開発基盤「Jammin’」を開発・運営し、フラッグシップ企業の人材開発とネットワーク化を行う。

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これからは「エフェクチュエーション」でいこう〈明治大学 野田稔氏・前編〉
バブル崩壊以来、日本企業は緊急避難したままである。それでいいわけがない
企業は「事業創造人材」にエフェクチュエーションによる事業創造を思いきって任せよう
企業はお客様の「不」を発見するために、お客様の現状に目を向け、お客様の声に耳を傾ける人を増やそう
経営層は事業創造人材に「その新規事業は儲かるのか?」と質問するのを止めよう
組織内イノベーターはコーゼーション的に語り、エフェクチュエーションで進めよう

バブル崩壊以来、日本企業は緊急避難したままである。それでいいわけがない

井上:では、組織内イノベーターはどうやって組織内の岩盤を乗り越え、イノベーションを起こせばよいのでしょうか? 日本企業は、イノベーションを起こすためにどのように変わっていけばよいのでしょうか?

野田:その本題に入る前に、1つ話しておきたいことがあります。バブル崩壊後、日本は「失われた30年」に入りました。この失われた30年とは何だったのか、という話です。

バブルが崩壊した後、1990年代にほとんどの日本企業は緊急避難をしました。徹底的な守りに入り、ビジネスチャレンジをできる限り避けたのです。緊急避難しなければ倒産していた会社も多かったわけで、これは間違いなく正しい選択でした。問題は、この緊急避難がその後も長く常態化したことです。どこかのタイミングで緊急避難を止めて、積極果敢に打って出る組織に変えなくてはなりませんでしたが、多くの企業はそれができませんでした。守りの姿勢を続けた結果、日本企業の経営層が守りしか知らない人ばかりになり、いつまで経っても攻めに転じることができなかったのです。それが30年続いたのが、失われた30年の真相です。

いや、多くの日本企業は失われた30年どころか、いまだに緊急避難を続けているといってよいでしょう。日本企業がコーゼーション一辺倒で、エフェクチュエーションに踏み出せないのは、バブル崩壊以来の緊急避難の延長線上にあると見るべきです。しかし、それでいいわけがありません。

私は、その背景にもっと根深い問題があると考えています。それは、日本人の不安感の強さです。実は、日本人は不安遺伝子(セロトニントランスポーターのSS型)を持つ人が世界で最も多いことが分かっています。日本人は遺伝子的にかなり不安感が強く、楽観的になれない傾向があるのです。これは私の推測に過ぎませんが、日本は天変地異が多いために楽観的な人が生き残れず、結果的に不安遺伝子を持つ日本人が大半になったのではないでしょうか。

この日本人特有の強い不安感が、日本企業が緊急避難的な守りを止められない根本的な原因の1つになっている、というのが私の見方です。最近は、不安やストレスを克服する新たな心理療法「ACT(アクセプタンス&コミットメント・セラピー)」が流行の兆しを見せています。私は、ACTを日本企業に広めてみてはどうかと思っています。不安神経症やうつなどの患者さんだけでなく、日本のビジネスパーソンたちがACTを取り入れ、不安やストレスとうまくやれるようになれば、日本企業も変わっていくのではないかと本気で考えているのです。少なくともイノベーターは、不安感とうまく付き合えるようになった方が絶対によいです。

企業は「事業創造人材」にエフェクチュエーションによる事業創造を思いきって任せよう

井上:不安とうまくやること以外に、日本企業と組織内イノベーターが組織内イノベーションを増やすためにできることは何でしょうか?

野田:まず企業側の話からです。私が日本企業に真っ先に薦めたいのは、組織内の事業創造人材を増やし、彼らにエフェクチュエーションによる事業創造を思いきって任せてみることです。

私は2010年に、リクルートワークス研究所の「事業創造人材研究会」の座長を務めたのですが、この研究会では、イノベーションの観点から人材を「新価値創造人材」「事業創造人材」「事業展開人材」「基幹人材」の4種類に分けて考えました。新価値創造人材は、別名0→1人材で、ゼロから新価値を1人で創り出せる天才のことです。この種の人材は本当に希少で、成功したベンチャー企業のトップなどにしか存在しませんから、採用できると思わない方がよいです。

企業にとって重要なのは「事業創造人材」です。別名1→10人材で、優れた事業アイディアを軌道に乗せて新事業を創出できる人たちのことです。彼らは「より良き社会への信念」「経験に裏打ちされた自負」「強烈なゴール志向」「高速前進志向」「粘り強さ」の5つを兼ね備えています。事業創造人材は、組織内に多くても1%くらいしか存在しません。企業は彼らを宝物として扱い、エフェクチュエーションによる事業創造を任せることをお薦めします。彼らに事業創造のチャンスと環境を与えることが、今後の企業成長に最も大切だと考えるべきです。私は、事業創造人材を企業の宝どころか、国の宝だと考えた方がよいと思っています。エフェクチュエーションでチャレンジする機会であるJammin’の卒業生には、このタイプの人材が多いはずです。

事業展開人材は別名10→100人材で、事業創造人材が創出したビジネスを引き継いで、コーゼーションで規模を拡大していくことを得意としています。優秀な営業やマーケターなどは多くがこのタイプにあてはまります。基幹人材は別名100→101人材で、既存事業を維持していく人たちです。事業展開人材や基幹人材は組織内に多く存在しますし、人事の皆さんはすでにおおよその見分けもついているでしょう。

企業は「事業創造人材」にエフェクチュエーションによる事業創造を思いきって任せよう

企業はお客様の「不」を発見するために、お客様の現状に目を向け、お客様の声に耳を傾ける人を増やそう

野田:もう1つ、私が企業にお薦めしたいことがあります。それは、新価値創造の種となるお客様の「不」を発見するために、お客様の現状に目を向け、お客様の声に耳を傾ける人を増やすことです。多くの事業展開人材や基幹人材に「お客様の『不』を発見する耳や目」になってもらうのです。

前編で、ワトソンとクリックが約4000人の科学者を動員して、DNAの二重らせん構造を発見したエピソードをお話ししました。まさにあれと同じことをするのです。そうすれば、新価値創造人材という1人の天才がいなくても、皆で協力して世の中の「不」を発見し、新価値を創造できるはずです。新価値創造に必要な「不」が見つかって、優れた新規事業アイディアの種ができたら、そこから先は事業創造人材にイノベーション創出を任せればよいのです。こうした取り組みを続けていると、まれに事業展開人材や基幹人材のなかから事業創造人材に化ける人も出てくるはずです。

ある企業事例を紹介します。A社はあるとき抜本的な業務改革を行い、なんと全社業務の半分以上を削減することに成功しました。そして、多くの社員を顧客対応業務に配置転換したのです。この社員たちが日々取り組んでいるのは、お客様の現場に伺って、お客様と雑談しながら職場やビジネスを観察することです。まさにそうやってお客様の「不」を探索しているわけです。実は、日本にもこのような取り組み事例が少しずつ出てきています。私は日本企業の皆さんに、経営的な余裕があるうちに同様のチャレンジをぜひお薦めしたいです。

Jammin’の社会の「不」を基点に新価値創造する取り組みは、まさに、その実践の場になっているということで、お客様の「不」を発見する耳や目になれるこれからのリーダーを育成するために、欠かせない機会になっているでしょう。

経営層は事業創造人材に「その新規事業は儲かるのか?」と質問するのを止めよう

井上:では、Jammin’卒業生たちが日本企業のコーゼーションの「岩盤」を乗り越えるためにはどうしたらよいのでしょうか?

野田:それもまず企業側からお話しします。もし企業経営層の皆さんが組織内イノベーションを生み出したいと願うなら、誰よりもまず皆さんこそが、エフェクチュエーションの思考スタイルに切り替えることが大事です。

特に、事業創造人材に「その新規事業は儲かるのか?」と質問するのを止めましょう。そもそも、イノベーションは会社が儲けるためにチャレンジすることではありません。イノベーションはあくまでも世の中の「不」を解決するためにあるものです。イノベーションは仁義なのであって、仁義の欠けたイノベーションはもはやイノベーションではありません。仁義の義は正しいこと、の意味です。世の中的に意味のある正しいことを行うのがイノベーションです。同時に仁は思いやり。苦しんでいる人困っている人への思いやりからのイノベーションです。「会社のためにイノベーションを起こそう」などという会社や人材は、まず間違いなくイノベーションを起こせません。「会社のために」が、一番会社のためにならないのです。儲けはイノベーションが成功した後についてくるものであって、最初から儲けを考えてイノベーションをやろうとするのは論外です。

1980年代までは、日本にもエフェクチュエーション思考の経営者が少なくありませんでした。例えば、今から話すのは私が大学院での学位論文のために研究したことですが、1985年に発売された「ミノルタ α-7000」というカメラがありました。これはミノルタの国内シェアを一時的にトップに押し上げ、「αショック」という流行語まで生み出した大ヒットカメラです。このα-7000は、当時の常務が、全自動焦点カメラの開発において、営業サイドと開発サイドの衝突を見かねて「君たちはそもそも誰のために、何のためのカメラを作ろうとしているのだ」と両者に問うたことがきっかけで誕生した製品でした。経営層の皆さんは事業創造人材に対して、このように「その新規事業は儲かるのか?」ではなくて、「その新規事業はどんな社会課題を解決できるのか?」「その新規事業は誰が喜ぶのか?」と質問してあげてください。それが何よりの後押しになるはずです。

もちろん、経営層はいつどんなときもエフェクチュエーション思考にすべきだと言っているわけではありません。既存ビジネスの事業展開について考える際には、今までどおりのコーゼーション思考でよいのです。つまり、これからの日本企業の経営層には、エフェクチュエーション思考とコーゼーション思考を上手に切り替えることが求められるのです。

経営層は事業創造人材に「その新規事業は儲かるのか?」と質問するのを止めよう

組織内イノベーターはコーゼーション的に語り、エフェクチュエーションで進めよう

野田:一方の組織内イノベーターやJammin’卒業生の皆さんは、コーゼーションの「岩盤」が手強いからといって、ただ手をこまねいているようではいけません。当たり前ですが、組織内の個が主体となって、周囲を動かしていけることもあるのです。周囲をどんどん動かしていける人でなければ、イノベーションなど起こせないこともまた真実です。

1つ目に、社内外に「イノベーション仲間」をつくりましょう。1人で組織を変えていけると思うのは大きな間違いです。Jammin’卒業生の皆さんは、まずは社内にいる他のJammin’卒業生やJammin’オーナーが心強い仲間になってくれるはずです。それ以外にもさまざまな仲間を増やし、彼らと一緒になって「アジャイルスクラム」を組んで主体的に行動を起こすことが、組織を動かす近道になるはずです。

2つ目に、組織内イノベーターは、コーゼーション的に語り、エフェクチュエーションで進めましょう。つまり、社内を説得する際にはコーゼーション的な言葉や手法を使いながら話し合い、事業創造を進める際にはエフェクチュエーションでいくのです。組織のなかで上手にやろうと思ったら、そのような使い分けは欠かせません。「儲かるのか?」という質問に対しては、儲かっているように見える作文を作る、ぐらいの強かさが必要です。

その上で、まだしつこく経営層が「その新規事業の儲けが少ない」と言ってきたら、勇気を持って「本当に大きく儲けないといけないのでしょうか?」と問い返してみてはどうでしょうか。もちろん、そのように問い返す以上は、自社がその新規事業に取り組む意義や意味、新規事業が社会に与えるインパクトなどをロジカルに説明できるように準備しておくことが欠かせません。また、上司や経営層に近いところに仲間をつくっておく必要もあります。

このように一歩一歩前進していけば、現状でも組織内イノベーションは決して不可能ではないはずです。なぜなら近い将来、組織内イノベーションを起こせない会社は例外なく危機に直面するからです。今後の日本企業は、間違いなくエフェクチュエーションを取り入れる方向に徐々に変わっていきます。Jammin’卒業生の皆さんには少しずつ追い風が吹いているはずです。その風を信じて、Jammin’で学んだリーダーシップを発揮し、前に進んでいってください。

【illustration:長縄 美紀】

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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