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さあ、扉をひらこう。Jammin’2025 special dialogue

これからは「エフェクチュエーション」でいこう〈明治大学 野田稔氏・前編〉

  • 公開日:2026/02/16
  • 更新日:2026/02/16
これからは「エフェクチュエーション」でいこう〈明治大学 野田稔氏・前編〉

次世代リーダーを越境体験を通じて育成することを目的とした、異業種交流型リーダーシップ開発研修「Jammin’」。これまでの7年間で、1500名を超える次世代リーダーたちが、社会の「不」を基点に新価値を生み出すプロセスに取り組み、新規事業案を創り出し、Jammin’を卒業していった。

しかしJammin’はある意味で、終了後こそが本当のスタート地点である。Jammin’参加者には、自社でJammin’での学びをいかし、新価値創造に取り組むことが求められているからだ。ところが実際には、Jammin’参加者が組織内イノベーションに苦労することもある。そこで今回は、Jammin’プロデューサーの井上功が、日本のイノベーション研究の第一人者である野田稔氏(明治大学グローバル・ビジネス研究科(MBA)研究科長 専任教授)に、組織内イノベーションを起こすにはどうしたらよいのかを詳しく伺った。本記事はその前編である。

組織内イノベーションを起こすには

●対談者プロフィール

野田稔 氏
明治大学グローバル・ビジネス研究科(MBA)研究科長 専任教授
1981年一橋大学商学部卒業 株式会社野村総合研究所入社。1987年一橋大学大学院修士課程修了。野村総合研究所復帰後、経営戦略コンサルティング室長、経営コンサルティング一部部長を経て2001年3月退社。多摩大学経営情報学部教授、株式会社リクルート 新規事業担当フェローを経て、2008年4月より現職。リクルートワークス研究所 特任研究顧問を兼任。著書:『組織論再入門』(ダイヤモンド社)、『中堅崩壊』(ダイヤモンド社)、『二流を超一流に変える「心」の燃やし方』(フォレスト出版)、『野田稔のリーダーになるための教科書』(宝島社)、『あたたかい組織感情』(ソフトバンククリエイティブ)など多数。

井上功
株式会社リクルートマネジメントソリューションズ サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’ プロデューサー
1986年株式会社リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループの立ち上げを実施。以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。2012年よりリクルートマネジメントソリューションズに出向・転籍。2022年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材開発、組織開発、新規事業提案制度策定等に取り組む。近年は、異業種協働型の次世代リーダー開発基盤「Jammin’」を開発・運営し、フラッグシップ企業の人材開発とネットワーク化を行う。

本シリーズ記事一覧
さあ、扉をひらこう。Jammin’2025 special dialogue
これからは「エフェクチュエーション」でいこう〈明治大学 野田稔氏・前編〉
科学者たちは組織的にイノベーションを起こしている
肩の力を抜いて楽しくイノベーションを目指す時代がやってきた
組織内イノベーションを妨げる「岩盤」とはコーゼーションの積み重ねである

科学者たちは組織的にイノベーションを起こしている

井上:最初に自己紹介も兼ねて、野田先生がイノベーションやリーダーシップやマネジメントを研究するようになったきっかけを教えてください。

野田:私は1981年に大学を卒業し、野村総合研究所に研究員として入社しました。その研究員時代に、当時の科学技術庁から受託された「独創的な科学者をどうつくるか?」という研究プロジェクトの一員になったのです。

私たち日本人はそもそも、まぜこぜの天才、イノベーションの天才です。なぜかというと、日本列島は太古から、世界中の文化が最終的に流れ込んできて、いろんなものが溜まって発酵し、面白いものが生まれる場所だったからです。例えば、仏教のお坊さんが着る袈裟。その昔、インドに端を発して、アジア各地で生まれたあらゆる仏教の流派の袈裟が日本に集結しました。その結果、日本の袈裟は世界一格好いいものになったといわれています。そのまぜこぜ力は現代にも生きていて、カレーうどんやたらこスパゲティのように、日本文化と異文化を融合させた新しいアイディアをいくつも生み出しています。日本人は、いろんなものを組み合わせてイノベーションを起こすことがもともと得意なのです。

ところが1980年代の日本は、「アメリカの真似ばかりしている」と批判を受けていました。それで日本が独創的なイノベーションを生み出すにはどうしたらよいかを考えることになり、その役割がたまたま私のところに巡ってきたのです。これが私のイノベーション研究、リーダーシップ研究の始まりです。

井上:その研究のことをもっと詳しく知りたいです。

野田:このプロジェクトのなかで、私は江崎玲於奈先生、福井謙一先生、西澤潤一先生など、ノーベル賞受賞者を含む超一流の日本の科学者たちにインタビューし、独創的な科学者がアイディアを思いつくプロセスの解明を目指しました。私は先生方の研究成果や専門領域を事前に学んだうえで、徹底的にインタビューしていきました。イノベーションのアイディアを発見したときをゼロポイントとして、その1秒前に何を考え何をしていたか、10秒前、1分前、10分前、1時間前、1日前、1カ月前、1年前……に何を考え何をしていたかを、ずっと遡って聞いていったのです。同様に1秒後、10秒後、1分後、10分後、1時間後、1日後、1カ月後、1年後……のことも聞いていきました。

この研究から分かったことの1つは、孤高の天才サイエンティストがたった1人で画期的なイノベーションを起こすというステレオタイプはまったくの嘘である、ということです。実際の科学者たちは、組織的にイノベーションを起こしているのです。例えば、ジェームズ・ワトソンとフランシス・クリックは、2人だけでDNAの二重らせん構造を発見したわけではありません。実態はその正反対で、彼らは約4000人の科学者を動員し、ありとあらゆる可能性を探っていった結果、DNAの二重らせん構造を見つけたのです。ワトソンとクリックは天才的な科学者というより、優秀な組織リーダーといった方が当たっています。科学研究者の皆さんはよくご存じだと思いますが、科学はすべてこのような組織戦であり、研究力やひらめきなどに加えて、リーダーシップやマネジメントが問われる世界なのです。ただし、数学だけは例外的に個人戦で、以上の話にはあてはまりません。

この研究以来、私はずっとイノベーションを研究しています。今でこそ皆がイノベーションに注目していますが、実はバブル期から2000年代までは冬の時代で、イノベーション関連本を出版するのが難しいほどでした。しかし、私は一貫してイノベーションに注目し続けてきました。すると10数年前くらいから、イノベーションがにわかに注目されるようになったのです。余談ですが、私はイノベーション研究と並行して、リスクマネジメント研究も続けてきました。不確実性に対する組織力を上げるという面で、実はイノベーションとリスクマネジメントは似ているのです。

肩の力を抜いて楽しくイノベーションを目指す時代がやってきた

井上:野田先生はイノベーションの観点から、今の日本と日本企業をどのように見ていますか?

野田:社会起業家などの肩書きでイノベーションを志す今どきの若者たちについては、肩の力を抜いて、楽しくイノベーションを起こして社会に貢献しようとする人が多く、頼もしいと感じています。なぜかというと、彼らはものごとを「エフェクチュエーション」で進めているからです。

エフェクチュエーションとは、インド出身の経営学者サラス・サラスパシー教授の提唱する起業家に特徴的な考え方です。今あるもので何ができるかを発想し着手する「手中の鳥の原則」、損失が許容できるかという基準でコミットメントを行う「許容可能な損失の原則」、コミットする意思を持つあらゆるステークホルダーとパートナーシップの構築を模索する「クレイジーキルトの原則」、偶然をテコとして活用する「レモネードの原則」、未来を予測しようとするのではなく、自分自身が操縦桿を握ってコントロール可能なことに集中して対応しようとする「飛行機のパイロットの原則」の5つの原則を大事にする思考様式のことです。

簡単にいえば、エフェクチュエーションとは、失敗しても致命傷にならない程度に、周囲の力や偶然を積極的に活用しつつ、自分たちが現時点でできることをできる範囲でやってみて、臨機応変に対応しながら進むという考え方のことです。日本でも世界でも、ベンチャー企業は基本的にエフェクチュエーションで動いています。イノベーションを目指す日本の若者たちも、多くがそのやり方を採用しているのです。

井上:しかし、多くの日本企業はエフェクチュエーションではありませんよね?

野田:そのとおりです。これまでの経営学が重視してきたのは、エフェクチュエーションの対義語である「コーゼーション(因果論)」です。コーゼーションとは、行動を起こす前にできる限り詳しく環境を分析し、最適な計画を立て、目的に対する正しい要因を追求しようとする思考様式のことです。具体的な目的を特定したうえで、競争分析やマーケットリサーチを行ってから事業計画を策定し、適切な資源とステークホルダーを獲得して、計画どおりに実行する方法です。

日本の大手企業は、ほぼすべてがコーゼーション型のビジネスに特化しています。しかし実は、このやり方でイノベーションを生み出すのは難しいのです。事業展開以降のフェーズはコーゼーションでよいのですが、事業創造のときには、肩の力を抜いて、儲けのことなど考えずに、エフェクチュエーションでチャレンジする姿勢が大切なのです。エフェクチュエーションでは、事業をスタートさせるときに「いくら儲かるか」を意識しないそうです。しかし、はっきりいえば、日本の大手企業はエフェクチュエーションを苦手としています。大企業ではいくら儲かるかしか議論しませんよね。これが、日本企業発のイノベーションが少ない大きな理由の1つです。

※エフェクチュエーションとコーゼーションに関しては、吉田満梨・中村龍太『エフェクチュエーション』(ダイヤモンド社)を参照した。

エフェクチュエーションとは

組織内イノベーションを妨げる「岩盤」とはコーゼーションの積み重ねである

井上:Jammin’はまさに「エフェクチュエーションでチャレンジする機会」そのものだと思っています。ただ、Jammin’終了後に企業に戻った参加者たちは、組織内の「岩盤」に跳ね返され、イノベーションを起こすことに難しさを感じる場面が少なくありません。Jammin’参加者たちが、自社でイノベーションを起こすためにはどうしたらよいのでしょうか? 実は、野田先生に一番に相談したかったのはこのテーマなのです。

野田:今話したように、多くの日本企業はエフェクチュエーションを苦手としており、エフェクチュエーションの経験がほとんどありません。それどころか、多くの企業はいまだにコーゼーションをひたすら強化しています。例えば、最近のコンサルタントたちは企業のありたい姿を描いてから、バックキャストで事業戦略を考えることを支援していますが、これはまさしくコーゼーションです。日本企業がこうやってマジメにコーゼーションを推進してきたこと自体が、イノベーションを起こせない最大の要因になっているのです。組織内イノベーションを妨げる「岩盤」とは、コーゼーションの積み重ねにほかなりません。

「夢に日付を入れる」といった有名な経営者がいましたが、私は反対です。世の中は想定外の変化だらけ。固定化してしまうことは、むしろ危険だと思います。その時々で柔軟に夢を進化させ続けることが大切です。

この岩盤を壊して前に進むのは本当に大変です。なぜなら、そこにはまったく悪意がないからです。日本企業の皆さんは、会社のために誠意をもってコーゼーションをやり抜き、その結果として岩盤を築いて、イノベーションを妨げているのです。組織内の一社員が、そうした全社的な姿勢や取り組みを真っ向から否定するのはとても難しいことだと思います。Jammin’参加者の皆さんは、まずこの事実をしっかりと理解して向き合う必要があります。

岩盤のなかでも特に手強いのが、「その新規事業は儲かるのか?」という壁です。組織内イノベーターの皆さんがイノベーションに挑戦しようとすると、この壁が繰り返し何度も出てきて、皆さんを跳ね返すでしょう。先ほども言ったとおり、本当にイノベーションを起こしたいなら、儲けを度外視して、自分たちが今できることをとりあえずやってみて、そのつど考えながら柔軟に前進することが大事です。すなわち、「儲かる」からやるのではなく、やったことで「いかに儲けるか」を柔軟に考え続けるのです。

ここまで岩盤と呼んできましたが、組織内にいると、それは「粘度の高い液体」のようなものに感じられるはずです。Jammin’卒業生の皆さんは、この粘度の高い液体をどこからどのように変えてよいのか見当がつかないに違いありません。なぜなら、日本企業にはコーゼーションの液体が組織全体に染みわたっており、ほとんどの社員はコーゼーションだけが正義であると思っていて、エフェクチュエーションの重要性がよく分かっていないからです。このような組織環境のなかで、Jammin’卒業生の皆さんがイノベーション創発に苦労するのは当たり前のことだと思います。

前編はここまでです。後編は「では、組織内イノベーターはどうやって岩盤を乗り越え、イノベーションを起こせばよいのか?」をテーマにお送りします。

【illustration:長縄 美紀】

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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