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【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか

第9回 イノベーションは自然発生的に起こる

  • 公開日:2026/02/02
  • 更新日:2026/02/02
第9回 イノベーションは自然発生的に起こる

2026年に出版予定の『図解イノベーション入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。その著者である坪谷邦生氏(株式会社壺中天 代表取締役)と井上功(弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター)が、10人の多様なゲストと共に「人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか」をテーマに話し合っていきます。

第9回のゲストは、真田将太朗氏です。東京藝術大学出身の若き画家ですが、同時に東京大学大学院に進学して「生成AI×アート」の研究も行っています。その真田氏が考える「イノベーション」とは何なのか、生成AIとの関わりをどう考えているのか。さまざまなお話をしました。

図解イノベーション入門

●対談者紹介

真田氏の画像

真田将太朗氏
画家、株式会社SANADA WORKS 代表取締役社長
2000年生まれ。東京藝術大学美術学部卒業後、東京大学大学院学際情報学府修士課程に在学中。クマ財団第8・9期奨学生。国内外でさまざまな個展を開き、数多くのグループ展や国際芸術祭に参加。JR長野駅永久常設作品「連景十二柱」やJR上野駅構内壁画「融景上野」をはじめ、これまでに数多くの作品が常設となっている。

坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役

井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター

本シリーズ記事一覧
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第9回 イノベーションは自然発生的に起こる
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第8回 「聴く人」がイノベーションを生み出す力になる
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第7回 「能が現代社会にどのような価値を提供できるのか」をいつも考えている
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第6回 人事は「ファシリーダー」となり、組織をイノベーション体質に導いてほしい
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第5回 こどもたちのため、雄勝のため、未来のためにMORIUMIUSをやっている
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第4回 イントレプレナーは出世ではなく「辺境」へ向かおう
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第3回 組織が越境人材と向き合ってはじめて、イノベーションが起こる
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第2回 イノベーションを増やしたいなら、企業は「天才」に活躍してもらう必要がある
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第1回 リーダーシップの本質はDoだが、Doを持続するにはBeが必要
次は生成AIが絵画にイノベーションを起こす
リアルな事物に触れながら、環境情報を無意識に取り込んでアウトプットする人間の能力
私自身が創りたいものはAIと関わってからもまったくブレていない

次は生成AIが絵画にイノベーションを起こす

井上:まず真田さんの人生について伺いたいのですが、真田さんはどのように画家になったのでしょうか?

真田:私は赤ちゃんのときから描くことが好きで、ずっと何かを描いていた子どもでした。最初の夢は絵描きだったのですが、高校時代にはそれはすっかり忘れていて、文学部に進学するつもりでした。ところが、自己推薦入試のために文章を書いているうちに、「なんか違う」「ものづくりやクリエーションについて考えたい」「現代美術について考えたい」と思うようになり、高校3年生の冬に突然、芸大に進学すると言い始めたのです。しかし、何の準備もせずに芸大に入れるわけがありません。当然ですが、最初は落ちました。その後、上京して美術予備校で学び、次の年に東京藝術大学に入学しました。

私が入ったのは美術学部美学専攻で、どちらかといえば、研究者・美学者・批評家・学芸員などを目指す人が多いところです。私も当初は画家になるとは思っていませんでした。ところが、入学直前にコロナ禍に入って、私は自宅でどんどん絵を描くようになり、次々にSNSにアップしていくようになりました。2022年、私の作品が学内コンペで全学3位になり、2023年に最初の個展を開きました。そうして画家になったのです。

井上:では、なぜ今、東京大学大学院で生成AIの研究をしているのですか?

真田:私が最初の個展を開いた2023年は、画像生成AIのレベルが一気に上がり、美術界に入ってきた年でもありました。当然の流れで、「画家がいなくなる、いなくならない論争」が始まりました。しかし、この種の論争は、今回が初めてというわけではなく、実は美術史のなかでは過去に何度か起こっていました。鏡が発明されたときも、カメラが発明されたときも、画家はいらなくなるのではないかといわれたのです。しかし、鏡もカメラも、実際には絵の世界に新たな可能性をもたらし、むしろイノベーションを起こしました。

それなら、次は生成AIが、絵画の世界にイノベーションを起こすのだろう。私はそう考え、卒業制作に「AIとの絵画共同制作」の作品を出しました。私が一筆描き、次にAIがプロジェクションマッピングで一筆描くという作業を繰り返して、1枚の絵を完成させる、という手法で作品をつくったのです。絵だけでなく、卒業論文も書いて理論を展開しました。このとき私は情報科学に出合い、もっとAIを深く理解したいと思ったのです。そこで東京大学大学院に進学し、現在は私の分身をプログラミングし、絵画を共同制作する研究をしています。

ただ、私自身はAIが好きというわけではありません。リアルなマテリアルの絵具を使って描くことから離れるつもりもありません。ただ、AIを通じて、「絵を描くとは何か」を考えたいのです。

真田氏の画像

リアルな事物に触れながら、環境情報を無意識に取り込んでアウトプットする人間の能力

井上:私は、野中郁次郎先生のお話をよく聞いたり読んだりしてきましたが、野中先生は身体性が重要である、と一貫して強調していました。新しい価値を生む際には、「対面」「面直」「現場」が大事だと常々語っていたのです。私も、野中先生のいうとおりだと思います。AIは確かに高い能力を持つかもしれませんが、一方で身体を持つ人間にしかできないことも多くあるはずです。例えば、最近は研修講師もAIでよいのではないかという議論があるのですが、研修の現場でAIが合意形成できるかというと、少なくとも現状では不可能です。人間の研修講師の存在価値は間違いなくあります。

真田:AIは、オープンソース上の膨大なデータを分析して、次の理想的な一手を示すのが得意です。言わば「ど真ん中の手」を間違いなく指すのです。このタイプの作業における効率では、人間はAIに勝てないと思います。私も情報の整理や分析をするときにはAIを活用し、制作効率を高めています。例えば、ある風景を描く前に、その風景にまつわる歴史や情報をAIに調べてもらうこともあります。そのようなことはAIに任せた方がよいのです。

しかし一方で、リアルな事物に触れながら、周囲の環境情報を無意識に取り込んでアウトプットする人間の能力は計り知れません。これからAIが発達するなかで人間がすべき仕事の1つは、抽出した情報のマップ上に存在する同心円の中心をずらし続けること、外れ値をつくることだと思います。AIはど真ん中の値を示し続けますから、人間がそれを少しでも外すのです。それが今後の人間の役割の1つになるはずです。

もう1つ、人間がやるべきことは、さまざまな分野を横断し、融合し、間を行き交うことです。私はそのことを「デザイン」や「表現」と呼んでいます。例えば、日本のJRの改札機は「世界一速い決済システム」だといわれています。そのデザインのポイントは、13.5度の傾きと、カードの読み取り部分が青く光り、人々が説明なしに触れたくなる見た目をしていることです。このデザインには、情報工学、機械工学、経済学などのさまざまな学問が横断的に関わっています。このような領域横断や学際連携も、AIには難しいでしょう。

私自身が創りたいものはAIと関わってからもまったくブレていない

坪谷:先ほども出てきた野中先生は、「イノベーションは特定の理念やビジョンに基づく世界の再創造である」と定義しています。その意味で、真田さんは自分の画家としての仕事をどのようなイノベーションだと感じますか。

真田:私のなかでは、イノベーションは自然発生的です。私にとって、いつも問題なのは「心地よいか、心地よくないか」です。私は、大きなシステムのなかで、己の心地よいことをずっと描き続けているのです。その結果として、社会に何らかの変化が起こればよいと思っています。その意味で、私自身が創りたいものはAIと関わってからもまったくブレていません。

ただ、当たり前のことですが、仕事として絵を描くときには無責任なことはできないという気持ちもあります。例えば、2023年に私の作品がJR東日本・長野駅に永久常設となったのですが、このときは、荻原健司長野市長、松本透長野県立美術館長、松橋賢一JR東日本長野支社長、高橋誠一JR長野統括センター長をはじめ、本当に多くの方が動いてくれました。最終的に、皆が笑顔で作品を設置することができたときはホッとしました。このような仕事を一つひとつ積み重ねていくことの大切さも忘れてはいけないと思います。

長野駅常設作品

坪谷:真田さんの場合、自分が心地よいと思う絵を描き続けることによって、世界とつながるのがイノベーションなのですね。ところで、今回の対談シリーズの大テーマは、「人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか」です。真田さんは個人で絵を描いているわけですが、組織についてはどのような想いがありますか?

真田:組織は難しいです。私は2021年に「藝祭(東京藝術大学の学祭)」の組織運営をしたのですが、大変でした。全体を見ながら舵取りをできる人は尊いと思います。私なりに組織運営の際に大事だと思っているのは、「個のあいだに満ちているフワフワした何か」が良い方向に向くようにすることです。私はそれこそがデザインの仕事だと思います。

坪谷:私から見ると、組織内の「個のあいだに満ちているフワフワした何か」が良い方向に向くようにすることは、まさに人事の仕事です。もしかしたら、デザインと人事は似ているのかもしれませんね。

坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役

20年以上、人事領域を専門分野としてきた実践経験を生かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、書籍、人事塾などによって、企業の人事を支援している。2020年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立。主な著作『図解人材マネジメント入門』(2020)、『図解組織開発入門』(2022)、『図解目標管理入門』(2023)、『図解労務入門』(2024)、『図解採用入門』(2025)など。

井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター

1986年株式会社リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループを立ち上げ、以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。
2012年よりリクルートマネジメントソリューションズに出向・転籍。2022年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材開発、組織開発、新規事業提案制度策定等に取り組む。近年は、異業種協働型の次世代リーダー開発基盤「Jammin’」を開発・運営し、フラッグシップ企業の人材開発とネットワーク化を行う。

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