- 公開日:2026/01/13
- 更新日:2026/01/13
2026年に出版予定の『図解イノベーション入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。その著者である坪谷邦生氏(株式会社壺中天 代表取締役)と井上功(弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター)が、10人の多様なゲストと共に「人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか」をテーマに話し合っていきます。
第6回のゲストは、あまねキャリア株式会社 代表取締役、作家の沢渡あまね氏です。『組織の体質を現場から変える100の方法』(ダイヤモンド社)などの数多くの本を執筆し、最近『新時代を生き抜く越境思考』(技術評論社)を出版した沢渡氏と「越境思考とイノベーション」を巡って対話しました。
●対談者紹介

沢渡あまね氏
あまねキャリア株式会社 代表取締役、作家
1975年生まれ。専門はワークスタイル&組織開発。一般社団法人ダム際ワーキング協会代表、「組織変革Lab」「あいしずHR」「越境学習の聖地・浜松」主宰。磐田市“学び×共創”アンバサダー。大手企業 人事部門・開発部門、食品製造業ほか顧問。労働法大改正戦略コンソーシアム総合顧問、プロティアン・キャリア協会アンバサダー、DX白書2023有識者委員。400以上の企業・自治体・官公庁で、働き方改革、組織変革、マネジメント変革の支援・講演および執筆・メディア出演を行う。趣味はダムめぐり。#ダム際ワーキング 推進者。
坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役
井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター
- 【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
- 第6回 人事は「ファシリーダー」となり、組織をイノベーション体質に導いてほしい
- 【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
- 第5回 こどもたちのため、雄勝のため、未来のためにMORIUMIUSをやっている
- 【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
- 第4回 イントレプレナーは出世ではなく「辺境」へ向かおう
- 【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
- 第3回 組織が越境人材と向き合ってはじめて、イノベーションが起こる
- 【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
- 第2回 イノベーションを増やしたいなら、企業は「天才」に活躍してもらう必要がある
- 【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
- 第1回 リーダーシップの本質はDoだが、Doを持続するにはBeが必要
- 目次
- 越境の習慣化は組織に「7つの効果」をもたらす
- 組織は「越境体質」になると「イノベーション体質」にもなる
- 「余白」こそがイノベーションを育み、中長期の変化を創る
- 「多様性を味方につけたチームプレー」を行って、一人ひとりの共創力を組み合わせる視点が大事だ
越境の習慣化は組織に「7つの効果」をもたらす
坪谷:今日は、沢渡さんと「越境思考とイノベーション」について話し合えたらと思います。
沢渡:まず自己紹介をしながら、前提をお話しします。今、さまざまな組織が頭打ちの状態にあります。なぜなら、これまで長く続いてきた管理統制型のマネジメントが十分に機能していないからです。私が代表を務める「あまねキャリア」は、そうした日本の組織にカルチャー変革、マネジメント変革、ワークスタイル変革、ダイバーシティ推進の伴走支援をしています。
日本の組織が、目の前の壁を突破するための考え方が「越境と共創」です。私たちは、従来の管理統制型のスタイルを一定程度リスペクトしつつも、越境と共創で従来の呪縛から解き放たれる必要があるのです。多様性(ダイバーシティ)と向き合いながら、さまざまな能力や意欲を持つ人たちとつながり、成果の出る仕事のやり方にシフトしていくことが大切です。
坪谷:越境にはどのような効果があると考えていますか?
沢渡:越境には7つの効果があります。「組織風土の健全化」「学びの促進」「共創力向上」「課題解決力向上」「価値創造力向上」「キャリア自律」「エンゲージメント向上」の7つです。私はよく「エブリバディ越境」というのですが、越境は良いことずくめなので、誰もが越境した方がよいと思います。
今、最も問題があるのは「内向き×モーレツ」の組織です。このタイプの組織は、社内の倫理や規範を何よりも優先するために、社会一般の倫理を踏まえずに暴走して、モラル崩壊やガバナンス崩壊、コンプライアンス違反をよく起こすのです。それを防ぐために必要なのは、外の風に触れることです。例えば、メンバーが越境して外の空気を持ち帰ったり、中途入社者や副業人材などを積極的に受け入れたり、外部のさまざまな人と一緒にプロジェクトを進めたりすればよいのです。そうすれば、組織風土が社会一般のモラルから大きく外れることはありません。越境には、このような「組織風土の健全化」の効果があります。
越境には「学びの促進」の効果もあります。そもそも学びのなかには、越境して外部の誰かから何か言われないと気づかない着眼点や価値観、思考パターン、行動パターンがあります。典型的なのは、ダイバーシティ、コンプライアンス、マネジメントスキルです。また、越境によって自分たちに足りない能力に気づき、学びに向かう人も多いでしょう。逆にいえば、越境しないままでいると刺激が得られず、学びや成長が鈍化してしまいます。
越境は、組織と個人の「共創力向上」や「課題解決力向上」、「価値創造力向上」にもつながります。共創とは、越境して多様な人々と共に何かを創ることですから、越境経験が共創力を高めるのは当然のことです。また、毎日同じメンバーと集まって話し合って、新しい課題解決方法や面白い発想を生み出せるでしょうか。課題解決力や価値創造力を高めたければ、外に行って新鮮な刺激を得た方がよいに決まっています。
最後に、越境は個人に「キャリア自律」の精神をもたらします。いつもと違う場所に身を置き、違う人と仕事をすれば、新しい自分に気づける可能性が高まります。これまでに見たこともないような人と出会い、自分の新たなロールモデルにする人も出てくるでしょう。
組織は「越境体質」になると「イノベーション体質」にもなる
沢渡:私はITの世界で長く働いてきましたが、IT業界は全体的に越境体質が染みついており、他社の多様な人たちと仕事をすることが多くあります。ですから、こうした越境の7つの効果をよく実感してきました。今日はイノベーションがテーマですからあえて強調しますが、組織は越境体質になると、「イノベーション体質」にもなります。だから、価値創造力が高まるわけです。
坪谷:よく分かります。私は以前、アカツキというエンジニアの多い会社で働いており、そのときにエンジニアたちが、会社とは別にエンジニア界隈のコミュニティを重視していて、日々当たり前のように越境していることを知りました。沢渡さんの言葉を借りると、彼らは越境体質であり、だからこそイノベーション体質なのです。ところが、人事はそうなっていません。私が実現したいことの1つは、日本の人事をエンジニアと同じような越境体質、イノベーション体質にすることです。そのためのヒントをもらえないでしょうか?
沢渡:「職種の越境」という考え方が大事だと思います。私は組織の伴走支援をする際、「社外越境をする前に、社内の他の職種や部署に越境して、社内で共創してみてください」とアドバイスすることがよくあります。例えば、情報システム部と総務部が職種を越境し、社内IP電話に関する共創プロジェクトを立ち上げる、というようなことをしてもらいたいのです。これが職種の越境です。もちろん、他にもさまざまな組み合わせの可能性があります。こうした職種の越境を経験すると、越境の抵抗感がなくなり、社外越境のハードルが下がります。そうやって社内で慣れてから、社外越境に向かえばよいのです。
人事部の皆さんも、職種の越境をしてみたらよいのではないでしょうか。例えば、採用チームと広報部と情報システム部が組んで、新卒採用の仕組みづくりを一緒に手がけるプロジェクトを行ってみたりすればよいと思うのです。
井上:今のお二人の話を聞いて、野中郁次郎先生の「開かれた共同体」が、越境や共創とほぼ同じことを示しているのだと、あらためてよく分かりました。
坪谷:私は、ドラッカーが「組織のなかに成果は存在しない。すべての成果は外にある」と言ったことを思い出しました。沢渡さんは、越境の7つの効果という言い方で、まさにそのことを分かりやすく説明してくれたのだと思います。
「余白」こそがイノベーションを育み、中長期の変化を創る
坪谷:他に、企業が越境体質、イノベーション体質になるためにポイントとなることはありますか?
沢渡:なぜ越境するとイノベーションが起きやすくなるかというと、越境した先で、未知の面白い情報に出合うからです。そうした未知の情報から刺激を受けて、人はイノベーションを生み出すのです。越境して「他業界の当たり前」を知り、それを自社に取り入れるだけでイノベーションが起こる、という事例も少なくありません。私や坪谷さんが、IT業界の越境体質の知恵を人事や組織開発に生かしてイノベーションを起こそうとしているのも、そうした事例の1つに入るでしょう。
そのとき、ポイントとなるのが「意外性」です。山口情報芸術センター(YCAM)のアーティスティック・ディレクターの会田大也さんは、地域の共創プロジェクトをいくつも進めてきた共創のプロです。会田さんは、「共創のコツは、予定調和にならないようにすることです」と話していました。共創プロジェクトが予定調和に進んでしまうと、想定以上のことが起きずに終わってしまいます。ところが、予定調和から外れて意外なことが起こると、そこから想定外の面白いアイディアが生まれ、共創がブーストすることがあるのです。越境して意外な状況や情報に出合うことが、イノベーションの種になるわけです。
言い換えれば、組織の「余白」が大事だということです。組織はどうしても目先の成果や効率を重視して余白を削りがちですが、そうするとすべてが予定調和になってしまい、イノベーションの芽を摘むことになってしまいます。余白は無駄ではありません。むしろ余白こそが、人々の感性を磨き、想定外のアイディアを生み出し、イノベーションを育む場なのです。余白の場が、中長期の変化を創る原動力となるのです。
世のなかには、このようなことに気づき、余白を大事にしている組織があります。例えば、3Mやグーグルの「15%ルール」は、人工的に余白をつくる典型的な取り組みです。他にも、皆で「リベラルアーツ」を学び、そのうえで自分たちが世界のために何ができるかを考えてみるとか、さまざまな余白づくりの工夫があり得ます。
井上:個人の興味本位で主体的に越境できる仕組みをつくるのも有効ですよね。
沢渡:そのとおりです。いわゆるJTC※の皆さんとこのような話をすると、「昔は我が社にも余白があった」と語る人が多くいます。それなら、今こそ失われた大切なものを取り戻すタイミングではないでしょうか。
※JTC(Japanese Traditional Company):日本における伝統的な体制の企業群を指す略称で、文脈に応じて慎重な意思決定や稟議などの特徴を示す場合があります。
ただ、そうはいっても、組織のなかでは「余白は悪」「越境は怖いもの」という意識が強いことも事実です。そこでカギを握るのが、人事の皆さんです。私は、人事の皆さんに「ファシリーダー(ファシリテーター+リーダー)」となり、組織を越境体質、イノベーション体質に導いてほしい、と願っています。なぜなら、組織内に共創力を高める仕組みを構築し、共創を促せるのは人事だからです。私は、人事の皆さんに「共創デザイナー」になってほしいのです。例えば、偶然の出会いを促す場づくりのようなことをしてもらいたいのです。人事だけで難しいのなら、それこそ職種の越境をして、総務部などと一緒に実現してみてはいかがでしょうか。
坪谷:そのためには、まず人事部のなかに、越境やイノベーションを面白がる人を増やしていく必要があるかもしれませんね。
「多様性を味方につけたチームプレー」を行って、一人ひとりの共創力を組み合わせる視点が大事だ
沢渡:共創をデザインするうえで大事なのは、「共創はチームプレーである」と考えることです。当たり前ですが、共創は1人では決してできません。共創する際に求められるのは、どのようにメンバーの力を組み合わせ、イノベーションを起こすかという視点です。
最近、私は下總良則先生(東北工業大学 ライフデザイン学部 准教授)と共著で『チームプレーの天才』(ダイヤモンド社)という本を出しました。このなかで、私たちは共創力と共創デザインを体系化しました(図表1)。これは、日本中の400ほどの組織と、そのなかで活躍するチームプレーの天才たちを観察して創り上げたものです。
当然ながら、これらの共創力を1人ですべて持っている人などいません。ですから、共創の際には「多様性を味方につけたチームプレー」を行って、一人ひとりの共創力を組み合わせる視点が大事です。いろいろな人が、それぞれの共創力を持ち寄って、皆でイノベーションを目指すのがよいのです。その際、人事の皆さんには「共創デザイナー」として仕組みづくりをしながら、一方で「共創プロデューサー」となって、各チームの共創力の組み合わせを考えてもらうのがよいと思います。もちろん、それも人事がすべてを手がける必要はありません。職種の越境をして、皆で力を合わせながら進めたらよいのです。
井上:そうやって社内越境のスーパースターがどんどん生まれる組織になれば、共創もイノベーションも増えるのでしょうね。
坪谷:今日は沢渡さんからエネルギーをもらいました。沢渡さん自身が越境を実践していることが、何よりもすばらしいと思いました。
沢渡:私もお二人からエネルギーをもらいました。イノベーションは、越境した人たちがお互いをリスペクトし、お互いにエンパワーし合うなかで生まれるものです。今日のような相互リスペクトの対話の場を何度も経験することが、越境体質、イノベーション体質になる何よりの近道だと思います。
<図表1>共創力と共創デザイン

制作:沢渡あまね 監修:下穂良則先生(東北工業大学ライフデザイン学部産業デザイン学科准教授)
坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役
20年以上、人事領域を専門分野としてきた実践経験を生かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、書籍、人事塾などによって、企業の人事を支援している。2020年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立。主な著作『図解人材マネジメント入門』(2020)、『図解組織開発入門』(2022)、『図解目標管理入門』(2023)、『図解労務入門』(2024)、『図解採用入門』(2025)など。
井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター
1986年株式会社リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループを立ち上げ、以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。
2012年よりリクルートマネジメントソリューションズに出向・転籍。2022年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材開発、組織開発、新規事業提案制度策定等に取り組む。近年は、異業種協働型の次世代リーダー開発基盤「Jammin’」を開発・運営し、フラッグシップ企業の人材開発とネットワーク化を行う。
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