連載・コラム
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第5回 こどもたちのため、雄勝のため、未来のためにMORIUMIUSをやっている
- 公開日:2026/01/05
- 更新日:2026/01/05
2026年に出版予定の『図解イノベーション入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。その著者である坪谷邦生氏(株式会社壺中天 代表取締役)と井上功(弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター)が、10人の多様なゲストと共に「人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか」をテーマに話し合っていきます。
第5回のゲストは、MORIUMIUS代表の油井元太郎氏です。MORIUMIUSは、東日本大震災によって町の8割が壊滅してしまった宮城県石巻市雄勝町に残る廃校を再生した、自然の循環や土地の文化、多様性を体感する学び場です。MORIUMIUSの立ち上げ・運営の経験を話題にしながら「ソーシャルイノベーションに大切なものは何か」を語り合いました。
●対談者紹介

油井元太郎氏
公益社団法人MORIUMIUS理事・フィールドディレクター、ラーニングディレクター
アメリカで大学を卒業後、ニューヨークにて音楽やテレビの仕事を経て、2004年に帰国。9月に創業メンバーとしてキッザニアを日本に導入する会社を設立。2006・09年に東京と甲子園に施設をオープン、年間約80万人に体験を通じた学びの機会をつくる。2013年より宮城県石巻市雄勝町に残る築94年の廃校を再生するプロジェクトに着手し、自然の循環や土地の文化、多様性を体感する学び場「MORIUMIUS」として2015年にオープンさせる。豊かな森と海から明日を生み出すために、こどもの教育を通じた町の新生を目指す。
坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役
井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター
- 【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
- 第8回 「聴く人」がイノベーションを生み出す力になる
- 【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
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- 第5回 こどもたちのため、雄勝のため、未来のためにMORIUMIUSをやっている
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- 第1回 リーダーシップの本質はDoだが、Doを持続するにはBeが必要
- 目次
- 「こどもたちにもっと深い体験を届けられないだろうか?」という問いがMORIUMIUSの始まり
- キッザニアでの経験がなかったら、雄勝の可能性に気づかなかっただろう
- 「社会善の意識を明確に持っている人」と協業するようにしている
- イノベーション創発とは「意義や目的の編集プロセス」ではないか
「こどもたちにもっと深い体験を届けられないだろうか?」という問いがMORIUMIUSの始まり
井上:最初に、MORIUMIUSを簡単に紹介してください。
油井:MORIUMIUSは、宮城県石巻市雄勝町にある「こどもたちの好奇心と探究心を刺激する複合体験施設」です。2002年を最後に閉校となっていた旧桑浜小学校を学び舎として再生しました。現在は木造校舎の他に、こどもたちの寮「留学棟」や大人のための協働宿泊施設「アネックス」などもあり、今も新たな複合施設を用意している最中です。
MORIUMIUSでの学びの教材、それは雄勝町です。豊かな自然や雄勝で暮らす人々とふれあうことで、MORIUMIUSに滞在するこどもたちの未来が拓けるきっかけをつくりたい。新しい教育のカタチを世界に発信したい。雄勝の復興に役立てたい。その想いで、田んぼで古代米の収穫、旧桑浜小学校の卒業生が一堂に会する大運動会への参加、ウニやホタテの漁業体験など、季節ごとのプログラムを用意しています。また、1年間の長期滞在プログラム「漁村留学」も実施しています。
井上:油井さんは、どのような経緯で雄勝町に行き、MORIUMIUSを始めたのですか?
油井:14~15年ほど前の話ですが、私は昔から牡蠣が大好きで、年に3回ほど、趣味でオイスターバーを開いていました。東日本大震災の1週間後の2011年3月18日も、オイスターバーをすることになっていたのです。私は予定通りにオイスターバーを開き、その全売上を、いつもお世話になっていた東北の牡蠣卸業者さんに寄付しました。それが、私が震災復興に関わるきっかけの1つとなりました。
次に、友人の立花貴が出身地の宮城県で炊き出しをしていたので、私も毎週末、手伝いに行くようになりました。その活動のなかで、再開を目指していた雄勝中学校の校長から、中学生たちに給食を食べさせたいという依頼を受け、社団法人を立ち上げて、毎日中学校に弁当を届ける取り組みを始めました。そのうち、アフタースクールや部活動のサポートも行うようになりました。2012年からは、地元のこどもたち向けに体験活動のコーディネートも始めました。これがMORIUMIUSの活動のきっかけです。なお、立花は現在、MORIUMIUSの代表理事を務めています。
そうやって雄勝と関わるなかで、民間所有の廃校(旧桑浜小学校)の存在を知り、2013年から「雄勝学校再生プロジェクト」を開始しました。地元の人たちと協議を重ねながら、多くのボランティアや専門家の力を借りて、廃校を再生させていったのです。そして、2015年にMORIUMIUSをオープンしました。
坪谷:なぜMORIUMIUSをこどもたちのための施設にしたのですか?
油井:私は東日本大震災以前、キッザニアの創業メンバーとして、コンテンツ開発の責任者を務めていました。そのなかで、「こどもたちにもっと深い体験を届けられないだろうか?」という問いを抱いていたのです。MORIUMIUSなら、漁船に乗って魚を釣ったり、森のなかを探検して木を切ったり、畑仕事をしたり、鶏小屋や豚小屋で家畜の世話をしたり、みんなで料理を作ったりする生きた体験を提供できる、と思いました。私のなかには、最初からこどもたちのための施設にするという考えがあったのです。
ただ一方で、雄勝のための施設にしたい、という想いもありました。都会からやって来るこどもたちと関わることで、雄勝の大人たちにも元気になってもらいたい、と思っていました。また、都会からやって来るこどもやその親の皆さんが、その後に雄勝と深い関わりを持ってくれたら嬉しいという気持ちもありました。
キッザニアでの経験がなかったら、雄勝の可能性に気づかなかっただろう
井上:キッザニアでの経験をもっと詳しく教えてください。
油井:キッザニアは今、東京・甲子園・福岡の3カ所を拠点としていますが、これは100万人以上の都市でなければ成り立たないビジネスです。そこで新事業として「Out of KidZania」を立ち上げました。キッザニアを飛び出して、日本全国のスポンサー企業の仕事や地域のさまざまな仕事を実際に体験してもらうプログラムです。私はOut of KidZaniaを通して、こどもたちにさまざまな体験をしてもらう価値の可能性を感じていました。また、こうした事業が地域を元気づけることも知っていました。
実は、Out of KidZaniaでは、農業、漁業、林業などの一次産業体験の人気がとても高かったのです。ですから、MORIUMIUSには最初から大きな可能性を感じていました。キッザニアでの経験がなかったら、私は雄勝の可能性に気づかなかっただろうと思います。
井上:では、Out of KidZaniaの延長線上で雄勝に出合ったのですか?
油井:実はOut of KidZaniaに関わっていたときにも、どこかの廃校を活用することを模索していました。ただ、当時はなかなかうまくいきませんでした。ところが雄勝にたどり着いたら、そこに良い物件があったのです。この廃校を活用すれば、こどもたちのためだけでなく、雄勝の皆さんのためにもなると思い、雄勝学校再生プロジェクトを始めました。ですから、Out of KidZaniaの延長線上ではありませんが、Out of KidZania時代の経験や考えを踏まえて行動していることは確かです。
坪谷:動いていくうちにいろんなものがつながって、その先に何かを見出していくのが、油井さん流のやり方なんですね。
「社会善の意識を明確に持っている人」と協業するようにしている
井上:MORIUMIUSは多くの人と協業してきたと思うのですが、相手をどのように選んでいるのですか?
油井:雄勝学校再生プロジェクトでは、数多くのボランティアや専門家の力を借りました。今も畑仕事などのボランティアが毎年たくさん来ています。また、こどもたちの体験プログラムのなかにも、アーティストや料理人などのスペシャルゲストをよく招いています。確かに、私たちは本当に多くの人たちと協業しています。
その際、私たちが大切にしているのは、「社会善の意識を明確に持っている人」「世のため、人のため、こどもたちのために行動する人」「お金や時間にこだわることなく、MORIUMIUSや雄勝に関わってくれる人」と協業することです。例えば、雄勝学校再生プロジェクトに参加してくれた建築家の隈研吾さんや手塚貴晴さんは、まさにそのような人でした。
反対からいうと、協業の際にお金が絡むと、だいたい失敗するのです。これはMORIUMIUSや雄勝だけでなく、他の多くの地域にもいえることだろうと思います。今、雄勝も他の地域も、「地域外の誰に関わってもらうのがよいか」という難しい問題に直面しています。私のなかではこの問いに対する答えは出ています。お金や時間を犠牲にしてでも、地域に関わってくれる人たちを集めることが最も大切なのです。
坪谷:他には、どのようなことを大切にしていますか?
油井:「とりあえずやってみる」ことです。実は雄勝学校再生プロジェクトでは、工事を進めながら助成金を探していました。しかし、なかなか集めることができないまま、完成が近づいていたのです。手を尽くして探し回り、最終的にカタールの助成金を得ることができました。カタールの皆さんからは、工事が進んでいたこともあり、実現可能性が素晴らしいという高評価を得ることができました。
井上:最近、「エフェクチュエーション(手持ちのリソースから出発して行動を起こし、新たな機会を創り出していくアプローチ)」という考え方が広まっていますが、油井さんはまさにエフェクチュエーションの人ですね。
油井:確かに、資金集めから動き出していたら、MORIUMIUSはいつまでも完成しなかったのではないかと思います。
イノベーション創発とは「意義や目的の編集プロセス」ではないか
坪谷:油井さんのお話を聞いて考えたのですが、イノベーション創発とは「意義や目的の編集プロセス」なのではないでしょうか。油井さんは、自身の意義・目的と、他のさまざまなステークホルダーの意義・目的を編集してつなぎながら走ってきたのだ、と感じました。油井さんは、さまざまな人たちと、お金ではなく意義・目的を通してつながることで、ソーシャルイノベーションを起こしているのです。
ただ、そのためには、油井さん側が実現可能性を持たなくてはなりません。何かを実現できる場を用意する必要があるわけです。それがMORIUMIUSであり、雄勝町なのだと思います。
井上:ところで、油井さんはなぜ、このようにしてこどもたちや雄勝の人たちのために人生を捧げることができるのですか?
油井:突き詰めていえば、未来のためです。私たちは、雄勝で深い体験をしたこどもたちが、数十年後に何らかの形で日本を良くしてくれることを信じて取り組んでいます。また、こどもたちには、雄勝のような津波被害地を自分たちの手で再生していけることも知ってもらいたいと思っています。こうした取り組みが、結果的に雄勝の未来も良くしていくはずです。私たちは、こどもたちのため、雄勝のため、未来のためにMORIUMIUSをやっているのです。
坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役
20年以上、人事領域を専門分野としてきた実践経験を生かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、書籍、人事塾などによって、企業の人事を支援している。2020年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立。主な著作『図解人材マネジメント入門』(2020)、『図解組織開発入門』(2022)、『図解目標管理入門』(2023)、『図解労務入門』(2024)、『図解採用入門』(2025)など。
井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター
1986年株式会社リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループを立ち上げ、以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。
2012年よりリクルートマネジメントソリューションズに出向・転籍。2022年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材開発、組織開発、新規事業提案制度策定等に取り組む。近年は、異業種協働型の次世代リーダー開発基盤「Jammin’」を開発・運営し、フラッグシップ企業の人材開発とネットワーク化を行う。
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