連載・コラム
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第4回 イントレプレナーは出世ではなく「辺境」へ向かおう
- 公開日:2025/12/22
- 更新日:2025/12/22
2026年に出版予定の『図解イノベーション入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。その著者である坪谷邦生氏(株式会社壺中天 代表取締役)と井上功(弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター)が、10人の多様なゲストと共に「人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか」をテーマに話し合っていきます。
第4回のゲストは、WAmazing株式会社代表取締役の加藤史子氏です。加藤氏はリクルートで「じゃらんnet」や「ホットペッパーグルメ」の立ち上げに関わり、19歳の若者を対象にスキー場のリフト券を無料とする「雪マジ!19」などを企画した後、2016年にWAmazingを創業した根っからのイノベーターです。自身の経験をベースに「イノベーターには何が必要か」を語ってもらいました。
●対談者紹介

加藤史子氏
慶應義塾大学卒業後、1998年株式会社リクルートに入社。「じゃらんnet」や「ホットペッパーグルメ」の立ち上げなど、ネットでの新規事業開発に携わった後、国内旅行の調査・研究と地域誘客支援をする「じゃらんリサーチセンター」に異動。主席研究員として「ビッグデータ分析による旅行者分析」や「若者旅行需要創出研究」などさまざまなプロジェクトを担当。2016年7月にWAmazing株式会社を創業。国交省「国土審議会」専門委員や石破内閣「新しい地方経済・生活環境創生会議」委員、岸田内閣「教育未来創造会議」構成員などこれまで20以上の国や県の各種公職を歴任。
坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役
井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター
- 【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
- 第3回 組織が越境人材と向き合ってはじめて、イノベーションが起こる
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- 第4回 イントレプレナーは出世ではなく「辺境」へ向かおう
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- 第2回 イノベーションを増やしたいなら、企業は「天才」に活躍してもらう必要がある
- 【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
- 第1回 リーダーシップの本質はDoだが、Doを持続するにはBeが必要
- 目次
- 40歳手前で「先が見える人生を歩みたくない!」と思って起業した
- 組織内イノベーションには「周囲を根負けさせる力」が必要だ
- イノベーションは必ず「辺境」で起こるから、イントレプレナーは出世のゲームから降りよう
- 人事の役割は、加藤さんのような人材を優先的に採用し、一人ひとりを徹底的に見ること
40歳手前で「先が見える人生を歩みたくない!」と思って起業した
井上:最初に、加藤さんがなぜリクルートから独立起業したのかを教えてください。
加藤:リクルートには、入社時から将来起業するつもりの人も多くいますが、私自身は最初から起業志向だったわけではありません。新卒入社のときにリクルートを選んだのは、リクルートが業界の枠に囚われてないことに魅力を感じたからでした。昔から自分の進む道が見えてしまうのが嫌で、リクルートなら可能性を狭めずに、いろんなことにチャレンジできそうだと思ったのです。
入社後は、「じゃらんnet」や「ホットペッパーグルメ」の立ち上げなど、ネットでの新規事業開発に携わった後、国内旅行の調査・研究と地域誘客支援をする「じゃらんリサーチセンター」に移って、19歳の若者を対象にスキー場のリフト券を無料とする「雪マジ!19」を企画したりしました。
そして2016年に独立し、WAmazingを起業しました。WAmazingは、訪日外国人旅行者向けオンライン旅行・観光予約プラットフォームを独自に運営しています。具体的には特に旅行者数も消費額も多い東アジアから訪日する個人旅行者を対象に観光・地域情報の提供や、消費税免税価格での日本の商品の販売、交通チケットや体験の予約販売などのサービスを提供しています。実は、この事業プランはリクルート時代に考えたものです。最初は、社内で新事業を立ち上げたいと考え、Ring(リクルートグループ会社従業員を対象にした新規事業提案制度、提案当時はライフスタイリングという名称)に事業プランを提出しました。イントレプレナーを目指していたわけです。しかし残念ながら、Ringには採用してもらえませんでした。
その頃、あるベンチャー企業の社長が「40歳の絶望」について書いたブログ記事を読みました。40代は過去の延長線上の未来が待っている可能性が高く、そういう平坦な日常を生き続けるのが辛くてたまらないと漏らす友人がいる、ということが書かれていました。それを読んだとき、私もちょうど40歳手前で、記事の内容に強く共感したのです。「先が見える人生を歩みたくない!」と、思いきって起業しました。
事業プランにはある程度の自信がありました。私は長年旅行業界に関わっていたので、訪日観光客が一番不便に感じているのは、「日本にWi-Fiが少なく、旅行中の通信環境が悪いこと」だと知っていました。ですから、訪日観光客への無料SIMカード提供を起点にして、訪日外国人旅行者向けのオンライン旅行予約プラットフォームを展開すれば、きっとうまくいくという確信めいたものがあったのです。当時、スタートアップ界隈が盛り上がっていたことも、私の背中を押しました。子どもを産んでからは、この子たちが生きていく未来を自分の手でより良くできたら、という気持ちも強くなっていましたので、インバウンド市場による日本・地方経済の活性化、地方創生をライフワークにしたいと思っていたのです。
組織内イノベーションには「周囲を根負けさせる力」が必要だ
坪谷:そうして今、加藤さんはアントレプレナーとして、WAmazingで「旅行ビジネス×通信ビジネス(無料SIMカード配布)」の新結合を実現しているわけですね。その加藤さんから見て、アントレプレナーとイントレプレナーにはどのような違いがありますか?
加藤:私自身は、WAmazingの事業をリクルート社内で展開したいと思っていましたから、イントレプレナーになっていた可能性も十分にありました。ただ、今振り返ると、私自身は社外で起業してアントレプレナーになって楽になったと感じています。
なぜなら、アントレプレナーは、ヒトやカネなどのリソースをオープンソースで獲得できるからです。自分の会社なら、人材採用も資金調達も自身の責任で実施することができます。対して、イントレプレナーは社内の人間関係がかなり固定されていますから、周囲、特に上司との関係を良くすることが欠かせません。社内ネゴシエーションに十分な労力を割く必要があります。さらに、経営をきちんと説得しなければ、新規事業には投資をしてもらえません。イントレプレナーは、この2点が大変です。
坪谷:吉川さん(第1回)が、「社内での起業や新規事業開発の場合、『自分にとっての意味』と『社会・お客様にとっての意味』だけでなく、『会社にとっての意味』を突破しないと、決して承認されません」と語っていましたが、まさにその話ですね。
井上:私は以前、ホンダで日本初のエアバッグシステムを開発し量産化した小林三郎さんにお話を伺ったことがありますが、組織内イノベーションには「周囲を根負けさせる力」が必要だと語っていました。小林さんは、本田宗一郎さんや社内各所を何度も口説き続けて、最終的にエアバッグを実現したのだそうです。イントレプレナーには、社内を根負けさせる力があった方がよいでしょうね。
加藤:そのとおりだと思います。ただ、もちろん一方で、大企業のイントレプレナーには「ヒト・カネなどのリソースを大規模に投入できる」という素晴らしいメリットがあります。仮にリクルートがWAmazingの事業を始めていたら、あっという間にインバウンド向けビジネスの覇者になっていた可能性があります。リクルートには旅行業界に関するノウハウやコンテンツやコネクションが十分にありますから、私たちのように訪日観光客への無料SIMカード提供を起点にする必要もなく、最初から一気にビジネスを拡大していけたからです。しかも、私たちのように高いリスクを取る必要もなく、ローリスクで展開できたでしょう。この点は大企業がとても羨ましいです。
井上:そうですよね。加藤さんには大きな障害ではなかったのかもしれませんが、アントレプレナーはどうしてもハイリスクです。イントレプレナーのリスクの低さは、イノベーションにチャレンジするうえでやはり大きな魅力の1つだと思います。
イノベーションは必ず「辺境」で起こるから、イントレプレナーは出世のゲームから降りよう
井上:そんな加藤さんの視点から、イントレプレナーを目指す皆さんにアドバイスをもらえないでしょうか?
加藤:第一に、イントレプレナーには「人の見極め力」が欠かせないと思います。人間関係を自分の手でなかなか変えられないからこそ、社内外の誰を積極的に巻き込むのか、誰と一定の距離を取るのか、といったことを的確に見定める力が必要です。
第二に、イントレプレナーは出世のゲームから降りることをお薦めします。なぜなら、イノベーションは必ず「辺境」で起こるからです。複雑系科学の研究では、さまざまな生命現象や生命の進化(自己組織化)は、秩序と混沌の中間にある「カオスの縁」で起こることが分かっています。例えば、私たちがアイデアを思いついたり、想像を膨らませたりできるのは、脳の神経ネットワークがカオスの縁の状態にあるからではないかといわれています。
カオスの縁とは、言い換えれば「秩序の辺境」です。つまり、出世ラインのような秩序立った組織の中心部では、イノベーションの創発はなかなか起こらないのです。画期的なイノベーションは、必ず辺境のカオスの縁で誕生します。ですから、イノベーションを生み出したいなら、出世を諦め、自ら組織の辺境に赴いて、会社の端っこの方で自由に新価値創造に取り組むことをお薦めします。
人事の役割は、加藤さんのような人材を優先的に採用し、一人ひとりを徹底的に見ること
坪谷:とても面白いお話でした。今日の対談を通じて、人事がイノベーションを起こす組織をつくるためにできることの1つは、加藤さんのようなイノベーター気質の人材を優先的に採用して集めることではないか、と感じました。
井上:そのうえで、青島矢一先生(一橋大学経営管理研究科教授)が以前語っていたとおり、人事は「社員一人ひとりを徹底的に見ること」が大切だと思います。なぜなら、一人ひとりをしっかりと見続けない限り、最適なアサインや育成などできないからです。
加藤:イノベーション周りの話でいえば、0→1が得意な人と、1→10が得意な人と、10→100が得意な人は違います。0→1はアイデアの創発が最大のポイントになりますが、1→10は企画・マネジメント・営業などのさまざまな業務を一人あるいは少人数で実行できる人が向いています。10→100は、ビジネスの仕組み化が得意な人に任せるのがよいでしょう。
組織内イノベーションの場合、社内異動を積極的に行い、時期によって人材を入れ替えた方が成功しやすいです。その際の人事の役割は、0→1が得意な人、1→10が得意な人、10→100が得意な人をそれぞれ事前に見極めておいて、そのつど適切な配置や異動や育成をすることです。井上さんの言うとおり、人事が社員一人ひとりを徹底的に見ておけば、イノベーションを成功させるための適材適所は十分に可能だと思います。
坪谷:そう考えると、組織内イノベーションにおける人事の役割はやはり大きいですね。
坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役
20年以上、人事領域を専門分野としてきた実践経験を生かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、書籍、人事塾などによって、企業の人事を支援している。2020年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立。主な著作『図解人材マネジメント入門』(2020)、『図解組織開発入門』(2022)、『図解目標管理入門』(2023)、『図解労務入門』(2024)、『図解採用入門』(2025)など。
井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター
1986年株式会社リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループを立ち上げ、以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。
2012年よりリクルートマネジメントソリューションズに出向・転籍。2022年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材開発、組織開発、新規事業提案制度策定等に取り組む。近年は、異業種協働型の次世代リーダー開発基盤「Jammin’」を開発・運営し、フラッグシップ企業の人材開発とネットワーク化を行う。
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