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【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか

第2回 イノベーションを増やしたいなら、企業は「天才」に活躍してもらう必要がある

  • 公開日:2025/12/15
  • 更新日:2025/12/15
第2回 イノベーションを増やしたいなら、企業は「天才」に活躍してもらう必要がある

2026年に出版予定の『図解イノベーション入門』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)。その著者である坪谷邦生氏(株式会社壺中天 代表取締役)と井上功(弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター)が、10人の多様なゲストと共に「人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか」をテーマに話し合っていきます。

図解イノベーション入門

第2回のゲストは、ティール組織とソース原理の専門家である嘉村賢州氏と、「オレンジ組織(一般的な日本企業)」がイノベーションを創発するにはどうしたらよいか、そのなかで人事はどのような役割を担うことができるのか、について話し合いました。

●対談者紹介

嘉村氏の画像

嘉村賢州氏
NPO法人場とつながりラボhome’s vi 代表理事、ティール組織ラボ編集長、コクリ!プロジェクトディレクター

ティール組織とソース原理などといった次世代組織論の専門家。集団から大規模組織にいたるまで、人が集うときに生まれる対立・しがらみを化学反応に変えるための知恵を研究・実践。研究領域は紛争解決の技術、心理学、脳科学、先住民の教えなど多岐にわたり、国内外問わず研究を続けている。2015年に1年間、仕事を休み世界を旅する。そのなかで「ティール組織」と出合い、研究・普及を始める。

坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役

井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター

本シリーズ記事一覧
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第2回 イノベーションを増やしたいなら、企業は「天才」に活躍してもらう必要がある
【対談】人事はイノベーションを起こす組織をどうつくるのか
第1回 リーダーシップの本質はDoだが、Doを持続するにはBeが必要
「オレンジ組織」がイノベーションを創発するにはどうしたらよいか
オレンジ組織は、プロセスイノベーションは得意だが、偶発的イノベーションは苦手
1つ目の問題:オレンジ組織は「天才が少ない」から、イノベーションを生み出せない
2つ目の問題:オレンジ組織は「出世しないと活躍できない」から、天才が活躍できない
天才たちが自由に活躍できる環境をつくることが最も大切だ

「オレンジ組織」がイノベーションを創発するにはどうしたらよいか

坪谷:今日は嘉村さんと、「オレンジ組織(一般的な日本企業)」がイノベーションを創発するにはどうしたらよいかというテーマでお話ししたいと思います。とはいえ、ティール組織やオレンジ組織のことを詳しく知らない読者も多いと思いますので、簡単に説明してもらえないでしょうか?

嘉村:フレデリック・ラルーというベルギー人が世界中の組織を調査したら、従来の延長線上にはない新しい形の組織がいくつも見つかりました。その共通項をまとめたのが、ティール組織です。

ティール組織は「分散型とトップダウン型の融合した組織」です。リーダーがソース役(組織のエネルギーの源泉)として、組織の存在意義や未来の目指す姿を遠慮なく物語ります。その点はトップダウンなのです。しかしそこに強制力は働かず、指示命令は存在しません。リーダーの物語に共感した人たちが組織に集い、自己組織的に創造や実践をしていきます。ティール組織はこうしてリーダーとメンバーの両方の思いを生かす仕組みです。

ティール組織の理論では、世の中にはティール組織のほかに「レッド組織」「アンバー組織」「オレンジ組織」「グリーン組織」があると考えます。レッド組織は、リーダーが力と恐怖によって支配する組織で、現代企業にはほとんどありません。アンバー組織は、規律や規範によって秩序が保たれる階層構造の組織で、計画と命令によって動きます。代表例は、軍隊や官僚組織です。オレンジ組織は、効率的で複雑な階層組織になっており、予測と統制、実力主義を重視します。現代企業の多くが、オレンジ組織に含まれます。グリーン組織は、多様性と平等と文化を重視するコミュニティ型組織で、ボトムアップの意思決定を重視します。NPOが分かりやすい例です。

オレンジ組織は、プロセスイノベーションは得意だが、偶発的イノベーションは苦手

坪谷:現代企業はオレンジ組織が多く、その他にアンバー組織、グリーン組織、そしてティール組織がある状況だと思います。これらの組織は、イノベーションの観点からはどのように捉えればよいのでしょうか。

嘉村:アンバー組織とオレンジ組織は、ミッション・ビジョン・バリューを定め、管理職を置いてメンバーを統制するタイプの組織です。そのため、どうしても偶発的イノベーションが起こりにくいという欠点があります。

アンバー組織は完全なトップダウンですから、実は上層部が現場の優れたアイディアを採用して意思決定すれば、イノベーションは比較的スムーズに進みます。上層部が優秀なら、イノベーションを起こせる可能性を秘めているのです。ただし、問題は現場から優れたアイディアがなかなか生まれないということです。アンバー組織の現場は命令を遵守するのは得意ですが、自分たちでアイディアを生み出すのは苦手だからです。

オレンジ組織は、アンバー組織と比べると、現場が考える組織です。現場起点で業務プロセスのイノベーションを起こしていけるのが、オレンジ組織の強みです。皆さんもご存じのとおり、日本企業は昔からプロセスイノベーションが得意で、数多くの業務変革や業務改善を重ねてきました。多くの日本企業は、優れたオレンジ組織といってよいでしょう。ただ、オレンジ組織の多くは、偶発的イノベーションを生み出すことを苦手としています。その理由はこれから詳しく説明します。

グリーン組織は社会的パーパスを持っており、社員全員で対話を重ね、集合知を生かしてソーシャルイノベーションを起こすことを得意としています。ただ、彼らには「グリーンの罠」という問題があります。グリーン組織は、皆で考えて皆で意思決定するため、イノベーティブなアイディアは出やすいのですが、それらが意思決定の際に却下されやすいのです。結果的に、イノベーションをなかなか創出できないケースが多くなります。

ティール組織は、偶発的イノベーションの創発を最も得意とする組織です。ティール組織では、コンセントや助言プロセスなどの独特な仕組みを活用し、メンバー一人ひとりが現場のナラティブのなかで主体的に意思決定します。一人ひとりがお客様と向き合い、「お客様/自分たち/パートナー」だからこそできることは何かを追求し、一人ひとりが決断して、お客様に本当に役立つ製品・サービス・ソリューションを生み出すのです。そのプロセスのなかで、イノベーションの創発が次々に起こるようになっています。より詳しく知りたい方は、『ティール組織』(英治出版)などを読んでください。

1つ目の問題:オレンジ組織は「天才が少ない」から、イノベーションを生み出せない

井上:以上のティール組織論を踏まえて、オレンジ組織の日本企業が、偶発的なイノベーションを創発するにはどうしたらよいと思いますか?

嘉村:前提として、オレンジ組織が、全社を挙げてどんどん偶発的イノベーションを創発するようになる、というのはかなり難しいことです。しかし、大企業がグリーンやティールになれないわけではありません。例えば日本にも、ソニーやリクルートのように画期的なイノベーションを次々に生み出す例外的な大企業があります。変革は決して不可能ではありません。

イノベーションの観点から見ると、オレンジ組織には大きく2つの問題があります。1つ目は「天才が活用されにくいこと」です。なお、ここでいう天才とは、北野唯我さんが『天才を殺す凡人』(日経ビジネス人文庫)で示している「天才・秀才・凡人」の定義に依っています。天才は創造性を重視し、ゼロから1を生み出します。秀才は再現性を重視し、段取り・設計・計画・遂行などを得意とします。凡人は共感性を重視し、一人ひとりの人との関係を大切にします。

オレンジ組織では天才的な人材は採用されにくく、そして採用されたとしても活躍の土壌をつくれていない傾向があります。このことについては、人事にも責任の一端があると思います。なぜなら、オレンジ組織は、天才の採用を避ける傾向があるからです。オレンジ組織は、秀才が出世して管理職になる傾向が強くあります。人事の皆さんも、やはり秀才が多いはずです。人はどうしても同類を採用しがちですから、秀才を採用しようとしてしまうのです。また、オレンジ企業の人事は、オレンジ企業にフィットする人材の採用を暗に求められています。当たり外れのある天才を採用、配属させても結果が安定しないため、無意識に避けてしまうのでしょう。その意味でも、人事は秀才を増やす傾向があります。また評価制度や教育制度も秀才にとってのみ都合が良いものになってしまっている可能性があります。例えばジョブローテーションや管理職のコンピテンシーなど、基本ジェネラリストである秀才にとっては無理なくこなせ、凸凹が激しい天才人材は早期のうちに脱落してしまう構造になっているのです。

しかし、偶発的イノベーションを創発したいなら、天才の力が必要です。イノベーションを起こす組織をつくりたいなら、人事の皆さんは、まず「天才の採用」に力を入れるべきです。なお、ティール組織では、採用は現場中心で行います。同じように、採用権限を現場に移譲することも検討してみてもよいかもしれません。そうすれば、一部の現場が天才を採用し始める可能性もあります。なかには、天才の必要性を痛感している現場もあるでしょうから。

井上:そう考えると、人事が「イノベーションを起こす組織づくり」のキーパーソンですね。

嘉村:そのとおりです。ただもちろん、これは経営の問題でもあります。例えば、多くの天才は主体性が強く、1社にとどまり続けるよりも、転職したり起業したりする可能性が高いです。そのため、天才の採用を増やすと、おそらく離職率が高まります。ところが、現代では人事の多くが、経営から離職率の低下を期待されています。

ですから、もしオレンジ企業が天才をもっと採用したいと思うなら、経営は人事に「もっと天才を採用して育ててほしい」「ある程度の現場とのミスマッチや離職率は気にしなくてよい」「人事を離職率で評価しない」とメッセージをだす必要があります。人事が離職率を気にしている限り、天才採用を増やすのは難しいからです。もちろん人事がキーパーソンですが、その前に、経営が人事を後押しする必要があるのです。

2つ目の問題:オレンジ組織は「出世しないと活躍できない」から、天才が活躍できない

坪谷:人事が天才採用に注力する必要があることはよく分かりました。他に、オレンジ組織がイノベーティブになるために必要なことはありますか?

嘉村:オレンジ組織の2つ目の問題は、「天才が活躍できないこと」です。先ほども触れましたが、オレンジ組織では基本的に秀才が出世し、管理職になっていく傾向があります。そして、多くのオレンジ組織は、ある程度出世しないと、イノベーティブなチャレンジができない仕組みになっています。

ティール組織論では、パワー・オーバーとパワー・ウィズという概念をよく使います。「パワー・オーバー」とは、上層部が権力を持って、下層部を支配しコントロールする関係性を示します。対して「パワー・ウィズ」は、全員が権力やリソースを共有し、皆で協力して物事を進めていく関係性のことです。ティール組織やグリーン組織は、パワー・ウィズで動いています。オレンジ組織やアンバー組織はパワー・オーバーで、ある程度出世しないと権力を得られず、活躍できない仕組みになっています。

このパワー・オーバーの仕組みを変えない限り、天才が活躍するのは難しいでしょう。なぜなら繰り返しになりますが、オレンジ組織では天才が出世しにくいからです。オレンジ組織では、天才が出世して権力を得て、大胆なイノベーションを起こすような活躍をできる余地が少ないのです。

もしオレンジ組織が、社内の天才に活躍してもらいたいと望むなら、組織内にパワー・ウィズの仕組みを設ける必要があります。具体的には、入社時から、天才型の社員に偶発的イノベーションを創発し、ビジネスにできるチャンスや権限を与えるのです。その上で、入社時点で天才たちに「イノベーティブな環境を用意するから、ぜひ自らアイディアを形にしていってほしい」と伝えることが大切です。もちろん、上司や周囲の協力も不可欠です。

これができない限りは、仮にオレンジ組織が天才の採用を増やしても、彼らはすぐに辞めてしまうでしょう。

さらに一歩先の提案をすると、オレンジ組織は従来の秀才用キャリアパスだけでなく、「天才用キャリアパス」や「凡人用キャリアパス」も作った方がいいと思います。人事制度改革をそこまで進められれば、オレンジ組織もイノベーティブになり、ティール組織に近づいていくのではないでしょうか。

天才たちが自由に活躍できる環境をつくることが最も大切だ

井上:オレンジ組織では天才が活躍できない、という話はよく理解できます。私も、イノベーション能力を評価する評価基準を持っている大手企業をほとんど見たことがありません。イノベーターが活躍できる環境をつくり、その活躍をきちんと評価する仕組みをつくることが大切なのですね。しかし、オレンジ組織は本当に変わっていけるのでしょうか?

嘉村:もちろん簡単ではないと思いますが、ティール組織に変わっていった会社が実際に存在することも確かです。例えば、大阪に木村石鹸工業という会社があります。ここはティール組織という言葉が広まる前から自律型組織を目指していた会社で、社員自身が希望の給与を会社に申告する「自己申告型給与制度」を導入していることなどで知られています。

木村石鹸工業では、社員が自らアイディアを出し、商品化を進めています。その自由度が極めて高いのです。例えば、器もせっけんにして、廃棄そのものをなくす仕組みをつくろうとしている「未来のせっけん」は、ある社員が生み出した商品です。木村石鹸工業には、会社と想いが一致していて、本人に強い想いがあれば、組織内の一人の社員が起点になって大きなイノベーションを起こせる環境があります。このように天才たちが自由に活躍できる環境をつくることが最も大切なのです。

坪谷邦生氏
株式会社壺中天 代表取締役

20年以上、人事領域を専門分野としてきた実践経験を生かし、人事制度設計、組織開発支援、人事顧問、書籍、人事塾などによって、企業の人事を支援している。2020年、「人事の意志をカタチにする」ことを目的として壺中天を設立。主な著作『図解人材マネジメント入門』(2020)、『図解組織開発入門』(2022)、『図解目標管理入門』(2023)、『図解労務入門』(2024)、『図解採用入門』(2025)など。

井上功
弊社 サービス統括部 HRDサービス共創部 Jammin’チーム マスター

1986年株式会社リクルート入社、企業の採用支援、組織活性化業務に従事。2001年、HCソリューショングループを立ち上げ、以来11年間、リクルートで人と組織の領域のコンサルティングに携わる。
2012年よりリクルートマネジメントソリューションズに出向・転籍。2022年より現職。イノベーション支援領域では、イノベーション人材開発、組織開発、新規事業提案制度策定等に取り組む。近年は、異業種協働型の次世代リーダー開発基盤「Jammin’」を開発・運営し、フラッグシップ企業の人材開発とネットワーク化を行う。

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