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さあ、扉をひらこう。Jammin’2025 owner session report

デンソー、エーザイ、三菱ケミカルは越境学習にどう挑んでいるのか〈第2回オーナーセッション2025〉

  • 公開日:2025/12/08
  • 更新日:2025/12/08
デンソー、エーザイ、三菱ケミカルは越境学習にどう挑んでいるのか〈第2回オーナーセッション2025〉

「Jammin’2025」が開催中だが、今回は、2025年10月にリクルート本社で開催した「第2回オーナーセッション(対面実施)」の内容を紹介する。オーナーとは、リーダーを派遣する企業の人事担当者などの皆さんである。実は、オーナーの皆さんもまた、全4回のオーナーセッションに参加し、学び合っている。今回のオーナーセッションでは、デンソー、エーザイ、三菱ケミカル、3社のオーナーに登壇してもらい、「組織変革に向けた『越境学習』へのチャレンジ」というテーマでパネルディスカッションを行った。果たして、デンソー、エーザイ、三菱ケミカルは越境学習にどのように挑んでいるのだろうか。

パネルディスカッションの画像

●パネルディスカッション参加者

株式会社デンソー
徳光浩明 氏(人事部 人財・組織開発室 室長)

エーザイ株式会社
近藤樹 氏(グローバルHRマネジメント部 タレントディベロップメントグループ グループ長)

三菱ケミカル株式会社
岡田佳之 氏(人事本部 タレント・ディベロップメント部 部長)

司会:海津秀剛、内田怜七(株式会社リクルートマネジメントソリューションズ)

Jammin’は越境体験の最上位であり「経営人財を育てる実践の場」に他ならない
エーザイは、hhcと深層価値観をつなぐ「E流1on1」を推進し、キャリアオーナーシップを高めている
三菱ケミカルは、社員が「役員との本気の壁打ち」で事業構想を磨き上げ、提言する「未来経営塾」をスタート
デンソーは、「越境経験」が“個人”と“組織”の成長を加速させると捉えている
「越境後に活躍する人財=越境ロールモデル」を生み出すことが越境を増やす

Jammin’は越境体験の最上位であり「経営人財を育てる実践の場」に他ならない

――最初に、皆さんがJammin’に参加した背景を教えてください。

徳光:私たちデンソーは、2021年に、人と組織のビジョン「PROGRESS」を打ち出し、人事変革を始めました(図表1)。PROGRESSでは、私たちは社員に「自立・自律」を求めています。しかし、自立・自律のためには機会が必要です。そこで私たちは、トレーニー制度の一環として、異業界やスタートアップに出向する「社外修業トレーニー」や、他社リーダー人財と共にプロジェクト経験を積む「短期共創プログラム」の提供を新たに始めました。若手・中堅層に対して、従来業務の延長線ではない異質を経験できるトレーニー制度を多様に提供し、事業実現力のプロフェッショナル育成を加速しようと考えているのです。

Jammin’は、短期共創プログラムの1つとして2021年から活用を続けています。募集方法は手挙げと上司推薦を併用しており、対象者は入社4年目~係長クラスです。

<図表1>人と組織のビジョン「PROGRESS」

人と組織のビジョン「PROGRESS」

▼株式会社デンソー 徳光浩明 氏

株式会社デンソー 徳光浩明 氏

近藤:私たちエーザイは今、真坂晃之CHRO(執行役 チーフ HR オフィサー)のもとで、社員の「キャリアオーナーシップ」を高め、社員の仕事・組織・上司へのエンゲージメントを高めて、「社員の価値を最大化する取り組み」を強力に進めています。人的資本経営が今後ますます注目されていくなかで、従来の人財を管理、育成、評価するといった人事目線ではなく、当社に集う人財の価値がどの程度最大化できているかという視点を重視しているのです。

社員のキャリアオーナーシップを育むために役立つのが「越境体験」です。そして、私たちがさまざまな越境体験の最上位に位置づけているのが、Jammin’です。Jammin’は、私たちにとって「経営人財を育てる実践の場」に他なりません。

岡田:私たち三菱ケミカルは、2025年に「KAITEKI Vision 35」と「新中期経営計画2029」を策定しました。そして、パーパス(私たちは、革新的なソリューションで、人、社会、そして地球の心地よさが続いていくKAITEKIの実現をリードしていきます)とKAITEKI Vision 35(社会課題に最適なソリューションを提供し続け、素材の力で顧客を感動させる「グリーン・スペシャリティ企業」になる)の実現に向け、会社と個人が共に成長することを目指しています。

その際のキーワードが「つなぐ」です。人材面では、組織を超えた多様な連携をリードできる「つなぐ」人材を求めています。また、組織を超えた「つなぐ」貢献を適切に評価する制度づくりも行っています。こうしたつなぐ力を身につける際に必要になるのが「越境体験」です。私たちは「つなぐ」を実践する越境体験プログラムの1つとして、Jammin’を重視しています。

エーザイは、hhcと深層価値観をつなぐ「E流1on1」を推進し、キャリアオーナーシップを高めている

――では、今日の本題に入ります。皆さんが、組織変革に向けた「越境学習」へのチャレンジをどのように進めているか、教えてください。

近藤:エーザイでは、深層価値観を探る「E流1on1」を推進しています。深層価値観(コアコンセプト)とは、その人の一番深いところにある核、一生変わらない本質的な価値観のことです。私たちは、メンバーの深層価値観を探り、各人がやる気スイッチを押せる環境づくりを行うために「1st 1on1」「2nd 1on1」という2種類の1on1を推奨しています。

「1st 1on1」では、上司は、メンバーの好きなこと、小さな頃の夢、心に残る出来事などのさまざまなテーマについて雑談・傾聴して、メンバーの本音の感情を引き出しながら、メンバーの過去の経験を振り返り、深層価値観を探っていきます。次の「2nd 1on1」では、メンバーの今の仕事におけるやりがいと深層価値観をつないでいきます。これがうまくいけば、上司は部下のキャリアオーナーシップを醸成していけるのです。

エーザイは、「ヒューマン・ヘルスケア(hhc)」という理念を一貫して大切にしてきました。E流1on1は、「hhcと社員の深層価値観がつながっている状態」をつくるための施策です。社員一人ひとりに後世に残る事業に加わってもらい、世のなかに貢献している実感を持ってもらうための施策です。私たちは、そうやって社員と会社・仕事・上司とのつながりを強めていけば、キャリアオーナーシップもエンゲージメントも高まると考えています。なお、hhcは「不」を起点にした新価値創造でもあり、Jammin’の思想ともつながっています。

<図表2>深層価値観(コアコンセプト)とは何か

深層価値観(コアコンセプト)とは何か

▼エーザイ株式会社 近藤樹 氏

エーザイ株式会社 近藤樹 氏

三菱ケミカルは、社員が「役員との本気の壁打ち」で事業構想を磨き上げ、提言する「未来経営塾」をスタート

岡田:三菱ケミカルでは、2025年から「未来経営塾」という研修を始めました。ここでは17名の社員が3つのチームに分かれて、シナリオプランニングを通じて未来を洞察、世の中がどう変わるかを推察し、「今後の三菱ケミカルはどのような存在であるべきか」「我々は事業を通じて社会にどう貢献するのか」を徹底議論します。役員にもアドバイザーとして入って頂き、本気の壁打ちを行いながら、事業構想を磨き上げ、最終的に経営提言を行います。未来経営塾は完全公募制で、限られた参加枠に100人近くの応募がありました。この参加者たちが、同志となって社内でつながることにも大きな意味があると考えています。

また私たちは、イントラネット上に自律的な学びの場「MCGラーニングシティ(学びのまち)」を立ち上げました(画像1)。ここでは、社員自らがナビゲーターとなって学びを発信し、従業員同士が自発的に学び合い、つながり合うことで、新たな気づきを得ながら共に成長できる機会を数多く提供しています。MCGラーニングシティでは、従業員が自ら、生成AIやTeams活用といった業務関連からセルフカウンセリングやクラシック音楽など幅広いテーマで相互に学び合ったり、自分でコミュニティを立ち上げて参加者を募ったりできるのです。このような場を通して、社員同士を「つなぐ」ことも極めて大切だと考えています。

<画像1>MCGラーニングシティ

MCGラーニングシティ

▼三菱ケミカル株式会社 岡田佳之 氏

三菱ケミカル株式会社 岡田佳之 氏

デンソーは、「越境経験」が“個人”と“組織”の成長を加速させると捉えている

徳光:デンソーは、Jammin’こそが「越境学習」への大きなチャレンジだと捉えており、越境経験者を増やすことが、“個人”と“組織”の成長を加速させると考えています。実際、過去の参加者は、Jammin’に参加したことで「チームでの問題解決力が向上した」「マネジメントスタイルが深化した」「視野が拡大した、視座が高まった」などと口々に語っています。

以下、具体的な声を紹介します。 

  • チームで動く際に「誰のどんな不満を解消したいか」を意識し、方向性を擦り合わせるようになった。 
  • スモールスタートで試し、ユーザーの声を反映しながら進めていくのが上手になった。 
  • 多様なバックグラウンドを持つメンバーとの合意形成や対話の重要性に気づき、その気づきを業務に生かすことができている。 
  • プログラムを経験して、自身のマネジメントスタイルに気づき、本業でもそれを意識しながらより良いマネジメントを実践できている。 
  • 開発者としてビジネス側にも関わり、学び続ける姿勢を継続している。 
  • 社内でのコミュニケーション力が向上し、担当業務の成果にもつながっている。 

また、なかには、自らが得た上質な越境学習の体験を、後輩にも味わってほしいと考えるようになり、OBOG座談会の企画を行うなどして、全社への発信を行ってくれている頼もしいJammin’卒業生もいます。“やりたい”という“For Me”の視点から、“役立ちたい”という“For You”へ、視点が変わったのです。まさに、越境経験を通じて、“個人”と“組織”への働きかけが進化していると感じています。

「越境後に活躍する人財=越境ロールモデル」を生み出すことが越境を増やす

――では最後に、現場でのさらなる変革推進に向けて考えていることを教えてください。

岡田:私たち三菱ケミカルも、デンソーさんと同じようにJammin’卒業生の声を集めていますが、「自部門の事業の延長では出来なかった刺激的な体験を得た」「社外で通用する人材になるにはどういうスキルを身に付けるべきか気づきを得た」「リーダーのあり方、チームづくりの重要性を再認識した」といった気づきやポジティブな声が数多く届いています。

一方で、私たちが課題と考えているのは「Jammin’終了後に参加者が現場に戻ると、新価値創造に向けた火が消えてしまうケースが多い」ことです。その対策として、Jammin’卒業生同士で火を灯し続け、大きくし合う場「Jammin’アルムナイ」を作りたいと考えています。私たち1社だけでなく、他社の皆さんと共同のアルムナイを作れたら、より面白い活動になるのではないかとも思っています。

徳光:私たちは募集にあたり、リクルートマネジメントソリューションズの協力を得て「Jammin’社内説明会」を実施しました。なぜなら、デンソー社内には「自ら手を挙げてJammin’に参加するほどの勇気はまだ持てないけれど、興味はある」という社員が結構多いからです。彼らの背中を押せば、応募者が増えるのではないかと考えたのです。実際、社内説明会の後に応募者が増えました。今はこうした地道な広報活動が大事だと考えています。

Jammin’終了後には、越境経験者の学びの共有機会として、「Jammin’社内報告会」などを実施しています。さらに、私たちはデンソーのオウンドメディア「DRIVEN BASE」にJammin’卒業生のインタビュー記事を掲載し、社内に広める活動なども進めています。

私たちは、このようにJammin’を丁寧に継続していき、そのなかから「越境後に活躍する人材=越境ロールモデル」を生み出すことが極めて大切だと考えています。越境ロールモデルが社内で次々に活躍して輝くことが、Jammin’などの越境施策にチャレンジする人財、自立・自律した人財を増やすことに直結すると考えているからです。

近藤:私たちは、Jammin’をエーザイの経営人財育成に欠かせないステップにしたいと考えています。「社内で注目されているあの人も、あの人も、Jammin’卒業生だ」という状態にしたいのです。また今後はJammin’終了後、参加者の人事異動の可能性も探りながら、「つなぐ」人財として即活躍してもらいたいと思っています。近い将来、組織長層やシニア層をJammin’に送り込み、経営人財育成のキーパーソンをつくりたい、という気持ちもあります。なぜなら、上司側が越境を経験していないと、部下の越境を力強く支援できないからです。越境者を育成するマネジャーを育成することも大事なのです。

それから、岡田さんのお話を聞いて、私たちもアルムナイを作ることを検討したいと思いました。社内のJammin’卒業生たちをつなぎ、お互いの活躍を促し合う場を設けることには大きな価値がありそうです。

パネルディスカッションの画像

以上でパネルディスカッションは終了し、パネラーと参加オーナーの「質疑応答」に移った。質疑応答では、リアルの場でしか話せない突っ込んだ質問が飛び交った。また、1on1やリスキリングなども話題に上った。その後は、さらにパネラーと参加者が交じり合って対話する「対話セッション」も行った。Jammin’受講者だけでなく、オーナーの皆さんもこうして刺激を受け合い、自社の越境を盛り上げるべく「ひきつける」「やってみる」「いかしきる」を実践している。

パネルディスカッションの画像

【text:米川 青馬、illustration:長縄 美紀】

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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