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連載・コラム

人的資本を最大限に生かす組織づくりとは~リソースシフトの在り方~ ④

リソースシフトの理想と現実――成功への最短アプローチ その2

  • 公開日:2025/06/30
  • 更新日:2025/06/30
リソースシフトの理想と現実――成功への最短アプローチ その2

急速に変化する環境下で、人材を“動かす”だけでは成果は定着しません。本人、職場、人事・経営が三位一体で変化を捉え、経験を適切に橋渡しする仕組みこそリソースシフト成功の要と言えます。前回は、リソースシフトには関係各所の三位一体の連動や、リソースシフトを成功させる3つのステップ――“見立てる”“仕立てる”“立ち上げる”――による、関係者全体のシームレスな連携の重要性をお伝えしました。

連載最終回となる今回は、この3つのステップを進めている具体企業の実例を解説します。併せて、本コラムを通じて見えてきた“リソースシフトの成否を分けるポイント”を総括し、次に踏み出すためのチェックリストも共有します。

本シリーズ記事一覧
人的資本を最大限に生かす組織づくりとは~リソースシフトの在り方~ ④
リソースシフトの理想と現実――成功への最短アプローチ その2
人的資本を最大限に生かす組織づくりとは~リソースシフトの在り方~ ③
リソースシフトの理想と現実――成功への最短アプローチ その1
人的資本を最大限に生かす組織づくりとは ~リソースシフトの在り方~ ②
リソースシフトを成功させるための視点と仕組みとは
人的資本を最大限に生かす組織づくりとは ~リソースシフトの在り方~ ①
現状と理想のギャップを埋める、効果的な人事施策とは
見立て・仕立て・立ち上げ──三位一体で循環させる実践サイクル
まとめ──リソースシフトを成功させる仕組みづくりに向けて

見立て・仕立て・立ち上げ──三位一体で循環させる実践サイクル

前回お伝えした、①“見立てる”、②“仕立てる”、③“立ち上げる”の3ステップについて、本章ではその実践イメージを具体的にお伝えしたいと思います。

まず<図表1>をご覧ください。①では、フレームワークを用いて本人の特性と動機づけ要因などを多面的に見立てます。次に②では、その見立て結果を基に「どのように活躍と成長へ導くか」を設計図として仕立て、送り手と受け手の双方で共有します。最後の③では、設計図に沿って成長シナリオを選択し、個々に合わせたペースで定着と成果創出を図ります

<図表1>

実践イメージ

図表では3つのステップを左から右へ配置し、各ステップで出し側/受け側の役割バランスがどのように移行するかを矢羽根内にテキストで示しています。以下、各ステップの具体例と運用ポイントを順に解説していきます。

参考:【人的資本を最大限に生かす組織づくりとは~リソースシフトの在り方~ ③】リソースシフトの理想と現実――成功への最短アプローチ その1

① 個の特性を見立てる──2つのフレームで多面的に把握(図表1内①)

リソースシフトの第一歩は、本人の“ありのままの状態”を価値判断抜きで立体的に理解することです。実際に導入企業が用いている2つのフレームワークを紹介します。多面的に(立体的に)捉えられるが複雑にならないようにするために、まずは人材の2側面から目を向けていきます。

<図表2>

2つのフレーム
ポイント1. 資質タイプ4象限モデル(見立て方①)

本人の資質(変わりにくい本質部分)を捉えるために、縦軸を「フィットする仕事の任せ方」、横軸を「フィットするコミュニケーションの取り方」とし、個人を4タイプで整理します。これにより「得意領域」「不得意領域」が一目で分かり、業務アサイン方針と声かけのポイントを捉えやすくなります。

ポイント2. やる気スイッチ10要素チャート(見立て方②)

人が内発的に動機づけられる場面を捉えるために、モチベーションリソースとなる10の要素(例:挑戦、貢献、承認など)をスコア化し、数値とコメントで可視化します。本人が「何に意味づけを感じるか」を明確にすると、仕事や環境の設計を意図しながら個別にフィットさせることができ、動機づけを強く長く実現することができます。

この2つを重ね合わせると、「強みを踏まえる」×「モチベーションが高まる」という2軸で、多面的な捉え方をシンプルに実現できます。送り手(出し側)は異動候補者を選定・推薦する際の根拠資料とすることができ、受け手は受け入れ準備段階で“生かすポイント”と“手当てすべきポイント”を具体化することができます。そして、こうして見えてきたものが次の“仕立てる”フェーズで活躍・成長設計シートとして共有された立ち上げの設計図になっていきます。

② 個の活躍・成長を仕立てる──実例フレームの活用から設計シート共有へ(図表1内②)

“見立てる”フェーズで抽出した情報を、実践的な設計図に落とし込むのが“仕立てる”フェーズです。実際に複数社で運用されている2つのフレームワークを例に、どのように“活躍・成長設計シート”へつなげるかを説明します。

ポイント1. 見立て方①で「個の強み」と「他者との関係性」を可視化

資質タイプ4象限モデルでは、異動者本人と受け入れ側リーダーの双方を同じマトリクスに配置し、“相手からどう見えるか”を表形式で整理することができます(図表3)。

例えば、メンバーからリーダーが「指示が明確だが距離が遠い」と映るタイプ間の組み合わせでは、声かけ頻度や相談チャネルを意識的に設計する必要があります。この関係性表が、そのままリーダーの関わり方の注意点リストとなり、後述の設計シートへ引用されます。なお、本フレームは従業員向けのアセスメントツールからタイプ分類を取得しており、短時間で関係性に関する情報を把握することができます。

<図表3>

資質タイプ4象限モデル
ポイント2. 見立て方②で「モチベーションリソース」を抽出

やる気スイッチ10要素チャートは、10要素×10段階の得点をレーダー図として数値で示すことができます(図表4)。

レーダー図で突出した頂点となる部分(数値が大きい部分or小さい部分)が、その人の注目すべきモチベーションリソースです。図表にある「興味を持つ対象」リストを参照すると、例えば「挑戦」スコアが高い人に対しては誰も成し遂げたことのないような困難な課題やテーマに取り組むことが有効と読み解くことができます。本フレームもWEBアンケート型アセスメントでスコアを取得できるため、導入障壁が低い点が評価されています。

<図表4>

やる気スイッチ10要素チャート
ポイント3. 活躍・成長設計シートで両フレームを統合

2つのフレームで得られた洞察を活躍・成長設計シートに統合します。(図表5)

  • 「異動前」部分:強みマトリクス・動機づけ要素に加え、具体的なエピソードや場面を書き込むことで解像度を高めます。
  • 「異動後」部分:モチベーション向上と成長実感向上を同時に達成するための活躍・成長設計を行います。(1) 任せたい業務をいつ与えるか(2) 周囲がどう関わるか、を明確に記載することがポイントです。

<図表5>

活躍・成長設計シート

このシートは送り手と受け手がKick-offミーティングなどで共有し、その後も受け手は継続して参照・編集・アップデートします。こうして“生きた設計図”として扱い、次の“立ち上げる”フェーズで設計と現実のギャップを先まわりして捉え、成長サイクルを高速で回すことが可能になります。

③ 個に合わせて立ち上げる──成長シナリオ選択とPDCAの実践(図表1内③)

活躍・成長設計シートが形になったら、いよいよ実践フェーズ“立ち上げる”に入ります。ここで鍵になるのは、成長スピードを単に速めるのではなく「個に合わせた最適ペースで成長曲線を描くこと」です。実際に導入している企業の事例をもとに、成長シナリオの選択とPDCA運用のポイントを解説します。

ポイント1. 成長シナリオの選択

設計シート右側に記載したミッション案を踏まえ、本人の強み・動機づけ要素・過去の挑戦経験を参照し、ミッション案にフィットする成長シナリオを次のような3つの成長シナリオから1つを選択します。

<図表6>

成長シナリオ

シナリオはKick-offミーティングなどで本人・リーダー・人事が合意し、活躍・成長設計シートに具体的に記述し確定します。この時点で「達成判定の基準」と「伴走方法」を同時に設定することが、後のギャップ解消を早めるコツです。

<図表7>

活躍・成長設計シート
ポイント2. 立ち上げPDCAの回し方

シナリオ確定後は、例えば12週間の立ち上げスケジュール(週次チェック×月次レビュー)テンプレートを用意して立ち上げを進めます。スケジュールは以下の構成で活用するイメージです。

  • 週次チェック(12週):リーダーまたはメンターが15分間で進捗と課題を確認し、即日フィードバックを返します。
  • 月次レビュー(3カ月):組織の育成の取りまとめ役(HRBPなど)を交えて達成度を数値化し、目標・支援策を調整します。
  • 3カ月目の出口評価:例えば、KPI達成度8割以上ならスピード成長タイプは次のストレッチへ、安定成長タイプはタスクの拡張へ、じっくり成長タイプはさらに価値を高める深掘りなど、次のフェーズへ進めていきます。

この短サイクルPDCAにより、設計シートと現場実態のズレを毎週可視化できるため、支援策の手当てが遅延することを防止することができるでしょう。

ある企業の実例(営業組織)では、“PDCAサイクル”を3カ月に短縮し繰り返し確認してシフト後の適応の安定を実現させ、加えて早期離職率を10ポイント以上削減し、採用数の膨張も減らすことで、採用計画を達成しています。

ポイント3. 成功要因と次フェーズへの橋渡し

成否を分けるポイントと次フェーズへの橋渡しは、確認をする場を【1. “なんとなく相談する場”ではなく“設計・計画したことの確認と課題設定の場”に徹すること】、【2. 必ず動機づけ要素の充足感や成長実感を確認する場にすること】です。これにより“成果”と“気持ち”の両面を継続的に捉えやすくなります。

3カ月が経過したら、設計シートを更新していきます。このサイクルを繰り返し、確実な成長へと導き、立ち上げフェーズから安定成長フェーズに移行していきます。これらを意図的かつ継続的に進めることは決して楽なことではありませんが、結果は必ずついてきます。現場に投げっぱなしにせず、組織として仕組みをつくり、繁忙を極める現場の負荷を下げながら実行することで成果に結びつけていきましょう。

また、得られたナレッジは次回の“見立てる”フェーズへフィードバックし、仕組みのPDCAも回していきましょう。三位一体の学習ループが力強く回ることで、さらに効果は高まります。仕組みを提供する側として、この点にも意識を向けて取り組んでください。

まとめ──リソースシフトを成功させる仕組みづくりに向けて

本稿では、リソースシフトを成功に導く3つのステップ――“見立てる”“仕立てる”“立ち上げる”――を、実際に企業が用いているフレームワークと運用プロセスを通じて紹介しました。

ポイントは、

  1. 本人の強みと動機づけ要素を多面的に把握し、
  2. その洞察を「活躍・成長設計シート」に落とし込み送り手と受け手で共有し、
  3. 設計シートを基盤に短サイクルPDCAを回して“個に合わせた最適ペース”で成長を促す。

つまり、三位一体で学習ループを循環させれば、リソースシフトを単なるコストとして消費せず、ねらいどおりに成長に投資にすることができるでしょう。

シリーズ最終回となる本稿が、皆さまのリソースシフト実践の具体的なヒントになれば幸いです。

なお、取り組みにあたって活用いただける「現状チェックリスト」をご用意しました(ダウンロードにはメルマガ会員無料登録が必要です)。リソースシフトの成功に役立てていただければ幸いです。

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執筆者

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技術開発統括部
コンサルティング部
エグゼクティブコンサルタント

竹内 淳一

1993 年、株式会社リクルート入社。人事部門での採用リーダーを経て、2003 年から「データを活用し個を生かし組織を強くする」をテーマに、採用から入社後の活躍までを一貫して取り組むコンサルティングに従事。組織マネジャー・プロジェクトマネジャーとしてコンサルティングや営業、サービス開発を行い、2011 年より現職。

●メディア掲載
・人手不足で「適材適所」に脚光 人事データに基づく予測ソフトも(掲載/日経コンピュータ)

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