- 公開日:2025/06/23
- 更新日:2025/06/23

急速に環境が変化するなかで、人材を”動かす”だけでは個人が活躍・成長・定着せず、リソースシフトは成功しません。本人・職場・人事が三位一体で変化を捉え、経験を適切に橋渡しする仕組みこそリソースシフト成功の要といえるでしょう。前回は、送り手・受け手・本人の“視界”をそろえること、適応プロセスを時間軸で捉えること、そして自己決定・承認・効力感を引き出すことの3視点が、リソースシフトを後押しすると整理しました。
連載3回目となる今回は、その視点を現場で機能させる「仕組み」――具体的には、どのような〈モノサシ〉を持ち〈受け渡し〉を行うか――をどのように設計・運用すれば、Before(不安・場当たり的)からAfter(自信・想定行動)へと変容を促せるのかを解説します。そして、この仕組みにより、本人、職場、人事・経営が同じ視界で状況を捉えながら「学びを次の挑戦へつなげ、挑戦からまた学ぶ」というループをつくり出します。その結果、組織全体の人的リソースの質的劣化や停滞を避けつつ、継続的な向上に近づけていくことができます。
この「仕組み」の核心を、第3回である今回と最終回となる次回に分けて、3つのステップと具体企業の例を交えながら示します。
- 人的資本を最大限に生かす組織づくりとは~リソースシフトの在り方~ ③
- リソースシフトの理想と現実――成功への最短アプローチ その1
- 人的資本を最大限に生かす組織づくりとは ~リソースシフトの在り方~ ②
- リソースシフトを成功させるための視点と仕組みとは
- 人的資本を最大限に生かす組織づくりとは ~リソースシフトの在り方~ ①
- 現状と理想のギャップを埋める、効果的な人事施策とは
三位一体のギャップを「見える化」する
前回の最後に掲げた“本人、職場、人事・経営”3者の Before/After図(<図表 1>)を、あらためて見てみましょう。
本人・職場・人事経営によくある課題
Before部分にあるのは、当社が複数の企業の支援を通じて整理した“あるある”を集約した内容です。読者の皆さんにも思い当たる内容なのではないでしょうか。
その詳細を掘り下げると、以下のとおりです。
1.本人──自信と安心感の欠如
異動や新ミッションを前にした本人は、「自信が湧かない/やっていけるのか」という不安が、大きさの大小はあれ、真っ先に湧き上がります。キャリアの可能性に期待しつつも、実際には“悩みを相談できる場”が多くないために、自己効力感が低下しがちです。結果として、目の前の課題よりも「そもそも自分は正しい方向に進めているのか」という迷いが生じます。
2.職場──経験の押し付けと属人的プロセス
受け入れ側の職場では、リーダーや先輩が良かれと思って過去の成功体験をそのまま押し付けてしまうケースも見られます。その結果、組織や上司からの支援も全体的に“場当たり的”になり、業務プロセスも属人的なまま引き継がれることで戦力化に時間がかかるという悪循環が起こります。最終的には、「即戦力と期待しても、かえって手間が増える」という現場の嘆きにつながるのです。
3.人事・経営──丸投げとサポート体制の不足
人事や経営層は“配置最適化”を掲げるものの、実態としては現場任せになりがちです。制度やツールはある程度用意していても、それらをどう生かすかは現場の裁量に委ねられ、フォローアップは形式的……というパターンが多数見られます。「ROI(投資対効果)を測れない」のではなく、測る以前に施策が統制されていないというのが現状です。
<図表1>

Before/Afterを比べて見えるもの
<図表 1>の中央列(After)には、本人、職場、人事・経営がそれぞれ“どのように変わることが望ましいか”をシンプルにまとめています。また、BeforeとAfterのギャップに注目し、そのギャップを解消するための仕組みづくりについても右列に整理しました。
ここで注目いただきたいのは、この仕組みづくりのなかで、3者に対してのねらいが互いに連動している点です。
- 本人が安心を感じ、やる気を高められるようにする
- そのために、職場が共通認識をもって、共通の枠組で、タイミングよく関わる
- それらを支えるために、人事・経営が体制を整え、組織ぐるみでサポートできるようにする
つまり、この三位一体の連動がとても重要なポイントになるということです。ところが実際には、Before部分にあるようなズレが積み重なってしまい、そこから抜け出せないケースが多く存在しています。
まずは3者ズレがどのように・どの程度あるのかに注目し、議論の土台を揃えることがリソースシフト成功の出発点になります。次章では、このズレを埋めていくことにつながる「モノサシ」=個の見方・捉え方のフレームをご紹介します。
モノサシ活用の全体フローと3つのステップ
リソースシフトを進めるための要となるモノサシは「3つのステップで捉える」というかたちが効果的です。具体的には、「個の特性を“見立てる”」「個の活躍・成長を“仕立てる(設計する)”」「個に合わせて“立ち上げる”」という3つのステップです。それらを欠けないように、そしてシームレスに進めることが、「モノサシ」が真価を発揮するために重要なポイントになります。
<図表2>では、このポイントを図解しています。中段には「モノサシ」部分を表現しており、下段には「出し側(送り出す部署)」と「受け側(受け入れ部署)」が3ステップのどこを担うかを示しています。“見立てる”ステップは出し側が、“立ち上げる”ステップは受け側が中心となって担う。そして、その間の“仕立てる(設計する)”は双方が担い、そこでの情報の受け渡しを行います。
<図表2>

①“見立てる”ステップ
出し側が中心になるステップです。本人の強み・課題・動機づけの状態を多面的に評価します。客観的に評価し、その結果はスコアとコメントで記録するとよいでしょう。そのために、アセスメントツールを積極的に活用することもお薦めします。
②“仕立てる”ステップ
「どのように活躍と成長へ導くか」を設計図として仕立てるステップです。そのため、出し側と受け側の双方が、積極的に関与することが必要です。出し側は受け側でより成長・活躍するように本人に関する情報を提供し、受け側も出し側からの送り出しを効果的に生かせるように受け入れる。このような相互的な共有が、シフトの成否を分けることになります。情報連携の要となるステップが機能するように、成長・活躍の設計シートを作成し、モチベーションや成長実感を高めるための「関わり方・支援方法」や、どのようなスピードで職場や職務などに適応するのか・活躍へと導くのかの「立ち上げシナリオ」、また、そのシナリオにそったタイミングごとのスキルレベルや、立ち上げを支える安定したメンタリティレベルなどの「評価指標」を明確にし、共有する仕組みをつくると効果的でしょう。
③“立ち上げる”ステップ
受け側が中心となる成長・活躍に向けた実践フェーズにあたるステップです。個々に合わせた設計図に沿って、配置先の組織での伴走体制を整え、評価指標(例:日常のメンタリティレベル、3カ月後のエンゲージメントレベルや期待成果レベル、6カ月後のスキル向上レベルや期待成果の拡大レベルなど)をモニタリングします。設計図に沿って伴走・育成を行い、必要に応じて設計図を書き換えながら、個々の成長レベルを高めていく。そして、さらなる成長に向けた機会提供を意図して行っていけば、効果的な人材開発につながります。
このように、3つのステップによって「客観的根拠→意図した設計→立ち上げ」のPDCAという流れを、関わる者全体でシームレスにつくることで、「シフトを行う企業・組織」側も、「シフトを受ける本人」側も努力が実らないストレスの高い状態から抜け出しやすくなります。
そして、取り組みの客観性と効率性を高めるために、データを積極的に活用することをあらためてお薦めします。そうすることでリソースシフトの効果が高まりやすくなるだけでなく、シフトがどのくらい投資として機能したかという可視化が可能となり、次の打ち手を迅速に計画しやすくなります。
次回に向けて
今回は、リソースシフトには本人・職場・人事経営の三位一体の連動が欠かせないこと、そしてリソースシフトの成功には3つのステップ――“見立てる”“仕立てる”“立ち上げる”――による、関係者全体でのシームレスな連携が重要であることをお伝えしました。
最終回となる第4回では、この3つのステップを実際に進めている具体企業の実例をご紹介します。併せて、本コラムを通じて見えてきた“リソースシフトの成否を分けるポイント”を総括し、次に踏み出すためのチェックリストも共有します。
執筆者

技術開発統括部
コンサルティング部
エグゼクティブコンサルタント
竹内 淳一
1993 年、株式会社リクルート入社。人事部門での採用リーダーを経て、2003 年から「データを活用し個を生かし組織を強くする」をテーマに、採用から入社後の活躍までを一貫して取り組むコンサルティングに従事。組織マネジャー・プロジェクトマネジャーとしてコンサルティングや営業、サービス開発を行い、2011 年より現職。
●メディア掲載
・人手不足で「適材適所」に脚光 人事データに基づく予測ソフトも(掲載/日経コンピュータ)
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