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【専門家に聞く】第2回 対話と新人・若手育成【中編】

部下とのコミュニケーションを円滑にする、“本音”と“ご機嫌”のススメ

  • 公開日:2025/06/09
  • 更新日:2025/06/09
部下とのコミュニケーションを円滑にする、“本音”と“ご機嫌”のススメ

前回の対談ではコーチングのパイオニアとして知られる鈴木義幸氏に、対話が私たちにもたらす効果や、対話の場をつくるノウハウについて伺いました。今回も引き続き鈴木氏をお招きし、若手育成におけるさまざまなアプローチ方法を探っていきます。今回のテーマは、「部下とのコミュニケーションをスムーズにする方法」。マネジャークラスの方々が部下と関係性を築いていくためのヒントをお届けします。

鼎談メンバー
●鈴木 義幸氏(株式会社 コーチ・エィ 取締役 会長)
●桑原 正義(リクルートマネジメントソリューションズ サービス統括部 主任研究員)
●武石 美有紀(リクルートマネジメントソリューションズ サービス統括部 研究員)

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世代間ギャップを埋める、メタコミュニケーションの力
ご機嫌な人が多いほど、組織内のコミュニケーションもうまくいく

世代間ギャップを埋める、メタコミュニケーションの力

桑原の画像

桑原:さまざまな企業の育成をサポートしていくなかで、「世代間ギャップ」についての悩みを多くいただきます。マネジャーも若手も良い関係を築きたいと思っているにもかかわらず、「コミュニケーションを取るなかでぶつかる、お互いの考えや価値観のギャップ」が育成における悩みとして調査でも上位に上がりました(参考:職場における新入社員育成の実態調査)。さまざまなアプローチをしてもうまくいかない状態が続くと、マネジャーは業務負荷もあるため「何もしない」という選択を取ったり、若手は転職を考えてしまったり……こういったお悩みを、多くの企業が抱えていると感じています。世代間ギャップを抱える方々がより良い関係性を結ぶには、どんなアプローチが効果的でしょうか。

鈴木:一番早く効果が出る方法としては、メタコミュニケーションがお薦めですね。意味合いとしては「コミュニケーションについて、コミュニケーションを交わす」というものになります。

そもそもコミュニケーションが難しいのは、お互いに腹の探り合いをしてしまうからなのです。「相手はどう思っているんだろう?」「こういうことを言ったら、相手はどう思うだろう?」と探ったまま本音を出さないことが、コミュニケーションの難しさに繋がってしまいます。そのため、早めに本音をオープンにしてみてはいかがでしょうか。

武石:マネジャークラスの方々のなかには、「若手とあまり衝突したくない」という恐れから、なかなか本音を切り出せない方もいらっしゃいます。本音をオープンにする方法としては、どんな伝え方が有効でしょうか。

鈴木様の画像

鈴木:例えばマネジャーの方から、「これからあなたの育成を担当していくけど、どんなふうに育てられたいと思っている?」と聞いてみるのも良いですね。育成を進めている段階なら、「今、私に言いたいけど言えてないことはある?」「扱ってほしいトピックはある?」「自分の経験からこういうことをあなたに伝えたい。でも過剰なアドバイスにならないか心配もしているんだけど、どう思う?」などと声をかけてみることもお薦めです。つまり、自分のなかにある懸念や不安をお互いの間に出して、「どう思う?」と聞くのです。メタコミュニケーションって、結構対人の万能薬なので、関係性のリセットに繋がるんですよ。「自分たちがしているコミュニケーション」についてコミュニケーションするほど、関係性が早く近づくんですよね。

1つ、ゲームをやってみましょう。これから1分間、私が武石さんのプロフィールについて「想像して」話してみます。その後、武石さんも同じように、私のプロフィールについて想像していることを言ってみてください。

まず、武石さんは鹿児島県のご出身。血液型はB型で、麻婆豆腐のような辛い中華料理が大好き。大学時代はラクロスのような、体がぶつかるスポーツをよくやられていて、最近の趣味はスポーツ観戦。バスケットを見て歓声を上げるのが好きです。では次に武石さん、僕について正誤が分かりやすい、具体的なプロフィールを「想像して」言ってみてください。

武石:そうですね、鈴木様はとてもロジカルなイメージなので、頭脳プレイを試されるゲームがお好き。歩きながら頭の整理を進めるタイプ。お友達と話すことが好きで、バーに行くのもお好き。強いウイスキーも嗜まれるタイプだと思います。

鈴木:なるほど。私の想像する武石さんのプロフィール、当たっていましたか?

武石:すみません、全部当たっていません(笑)。ただ、バスケットは観戦する方ではなくて、プレイする方でやっていました。

鈴木様の画像

鈴木:なるほど、バスケットは合っていたんですね。私の方は「バーに行くのが好き」が当たっていました。短い時間ですが、こうやって自分が思っていることをお互いに言い合うと、心の距離がちょっと近づく感じがあるじゃないですか。どういうことかというと、私のなかで勝手に想像している武石さん像があって、武石さんのなかにも私の像があるわけです。お互いにそういった思い込みをオープンにすると、相手について詮索する必要がなくなるのですよ。

遠慮や不安がある間柄でも、ちょっとした風穴が開くだけで本音を言いやすくなります。どこか打ち解けられない距離感を抱えたまま進んでも、お互いのことが分からないままですから、ぜひ試してみてほしいです。1対1でこういうゲームをやるのが怖かったら、研修のカリキュラムとして皆でやってみるのも良いと思いますよ。

武石:そうですね。体験って不可逆的なものなので、研修のなかで1度でも疑似体験ができればコミュニケーションの取り方のヒントになると思います。弊社の研修でもゲーム的に取り入れられないか、ぜひ考えてみたいです。

ご機嫌な人が多いほど、組織内のコミュニケーションもうまくいく

桑原:今の1分間のやり取りもそうですが、鈴木様は場を和ませるパワーがすごいですよね。御社の社内ミーティングの様子をYouTubeで拝見したのですが、「今日が初対面です」と仰る社員の方々が、鈴木様も交えて旧知の仲のように話されていたことに驚きました。あのような明るい雰囲気を引き出すにあたって、鈴木様は普段からどのようなことを心掛けていらっしゃるのでしょうか。

鈴木:ここまでお話ししたようなことはもちろん心掛けているのですが、ちょっと違う観点で話をすると、気持ちや感情って伝染するんですよね。機嫌が良い人がいるだけで、場の雰囲気が変わりますし、アイデアも湧くんです。だから私は常に、「機嫌が良い人」でいられるように心掛けています。

これはマネジャーにもいえることです。マネジャーって責任もありますし、忙しさのあまり気持ちに余裕がなくなることもあると思います。ただ、ネガティブな態度を表に出してしまうだけで、育成のための対話も難しくなってしまうんですよね。だからチームや新人を預かる立場にある方は、「どうすれば自分がご機嫌でいられるか」を考えて、気持ちをリセットできるルーティンを持っておくと良いかもしれませんね。

家庭にも同じことがいえます。親御さんの機嫌が良ければ、お子さんとのコミュニケーションも大体うまくいくんですよ。だからこそ組織でもマネジャーを含めた一人ひとりが、自分自身を整えたり、ご機嫌にしたりすることも必要だと思います。気分は伝染するものですから。 

武石の画像

武石:やはりマネジャークラスの方々は、周囲からの期待や要望を引き受ける分、どうしても自分自身をないがしろにしてしまいがちですよね。だからこそ自分のコンディションを整えたり、自分を大事にしたりする気持ちも大切だと感じました。

鈴木:マイナスの気分の連鎖が、組織の中で起こってしまうのは避けたいですね。「役員も大変、マネジャーも大変」という負の連鎖のなかで、若手とのコミュニケーションがうまくいくはずがないんです。だからこそまず自分をケアすることが、結構大事ですね。

私もいろいろとルーティンを持っていますが、難しいことは考えずに、とりあえず「よく寝ること」を意識できていれば良いと思います。やはり睡眠不足は大敵ですからね。寝る寸前までスマホを見たりせずに、しっかり脳を休めて、お酒も週末以外は嗜む程度にしておいて、寝る前にはストレッチもしましょう。私の場合は、朝昼の炭水化物もできるだけ控えています。炭水化物を食べると眠くなってしまうので(笑)。ぼーっとしている時は、コミュニケーションどころではないですからね。

もちろん、自分なりのルーティンを持ってみても良いと思います。私は毎朝必ず30分ジョギングをして、お香を焚きながら瞑想をします。会社の経営層の方々とお話しすると、「竹刀で200回素振りしてから寝る」など、自分を整えるルーティンを必ず持っていらっしゃいますよ。自分なりに気分をリセットする方法を、ぜひ見つけてみてほしいですね。

後編に続く


中編では、世代間ギャップを埋める鍵となる「メタコミュニケーション」の活用法や、組織の雰囲気を左右する「ご機嫌」の重要性について掘り下げました。後編では、オンライン時代における対話の価値や、AIコーチングの可能性について議論を深めます。リモート環境での関係性構築のコツや、人が育成に関わる意義とは何なのか――対話の未来を見据えた示唆に富む内容をお届けします。

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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