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【専門家に聞く】第2回 対話と新人・若手育成【前編】

コーチングのパイオニアに聞いた、“考えさせる対話”のコツ

  • 公開日:2025/06/02
  • 更新日:2025/06/02
コーチングのパイオニアに聞いた、“考えさせる対話”のコツ

「若手を育成するなかで、特にコミュニケーションに課題があると感じる。異なる世代と、対話を通して意思疎通をすることが難しい」――昨今の若手育成の現場からは、このようなお悩みがよく寄せられます。

専門家をお呼びして、コミュニケーションやダイバーシティといった観点から新人・若手育成を考える本コラムシリーズ。第1弾では、大学院大学至善館で次世代の育成に携わられている枝廣淳子氏をお迎えし、「ダイバーシティ実現を目指すなかでの、若手との向き合い方」についてお話を伺いました。

第2弾となる今回は、「対話」を通じて組織変革を支援する株式会社コーチ・エィの鈴木義幸氏をお招きし、具体的な対話のノウハウを伺います。対話の問いかけの仕方や、対話の際に気をつけたいポイントなど、すぐに試してみたくなるヒントが満載です。

鼎談メンバー
●鈴木 義幸氏(株式会社 コーチ・エィ 取締役 会長)
●桑原 正義(リクルートマネジメントソリューションズ サービス統括部 主任研究員)
●武石 美有紀(リクルートマネジメントソリューションズ サービス統括部 研究員)

本シリーズ記事一覧
【専門家に聞く】第2回 対話と新人・若手育成【前編】
コーチングのパイオニアに聞いた、“考えさせる対話”のコツ
【専門家に聞く】第1回 ダイバーシティと新人・若手育成【後編】
「業務の進捗どう?」で終わらない、若手社員とのコミュニケーションのコツとは?
【専門家に聞く】第1回 ダイバーシティと新人・若手育成【前編】
ダイバーシティ実現を目指すなかで、若手をどう育てる?―― “ダイバーシティ”との向き合い方を考える
そもそも「対話」は、私たちに何をもたらしてくれるのか?
今日から使える、“考えさせる対話”のコツ
対話が難しい理由とその解決策

そもそも「対話」は、私たちに何をもたらしてくれるのか?

桑原:鈴木様は日本におけるコーチングのパイオニアとして、さまざまな著書で「対話の大切さ」について触れられています。あらためてお伺いしたいのですが、鈴木様は対話にどのような力があるとお考えですか?

鈴木様の画像

鈴木:対話は、人に考えさせる力を与えると思っています。思う力ではなく、考えさせる力です。

「思考」という言葉がありますが、思考は「思う」と「考える」という字から成っていますよね。一見「思う」と「考える」は同じ意味合いに感じやすいのですが、実はまったく違うのです。

「人間は考える葦である」とパスカルは言いましたが、実はほとんどの人が「思って」いるだけで、「考えて」はいないことが多いのです。良し悪しの話ではなく、ビジネスパーソンの大半が、ただ「思って」いるのではないでしょうか。何について「思って」いるのかというと、人間にとって一番重要な課題である“生き抜くこと”に関わるあらゆることについてです。「大丈夫かな?」と常々「思って」いる。でも「大丈夫かな?」で止まってしまって、その先を考えている人は意外と少ないのかもしれません。

武石:確かに、「どうしよう?」「大丈夫かな?」という焦りや不安って、そこで終わってしまうことも多いですよね。では「考える」とは、一体どういうアクションなのでしょうか。

鈴木:「考える」とは、自分に「こうしたらいいかな?」「今やっていることは本当に必要なことかな?」と問いかけて、実際に試して、軌道修正して、また問いかける。このサイクルを回すことが、「考える」ことなんです。

武石:その「考える」ことを促す力が、対話にはある、と。

鈴木:そうです。 何が考えるきっかけになるかというと、自分や周りからの問いかけなんですよ。「考える」というアクションはとても大切で、自分で考えないと、自ら考えようとする主体性も磨かれていかないのです。

日本のプロ野球の監督から、自主性と主体性の違いについて伺ったことがあります。彼が言うにはプロの野球選手でさえ、一部のトッププレイヤーを除いて、主体性がある人はほぼいないそうなのです。人に言われたことを率先してやれる選手は多いが、これは自主性であると。彼は監督として、指示を受けなくても自ら考え動ける主体性の育成に最優先で取り組むと言い切られていました。

そもそも日本の教育システムは、指示どおりに素直に動く力を伸ばすようにセットアップされているので、自ら考える主体的な力が伸びにくいのです。組織の育成においても、いかに上司が部下に「自ら考える」ことを誘発できるかが、非常に重要だと感じています。

今日から使える、“考えさせる対話”のコツ

桑原の画像

桑原:主体性を伸ばす対話の力は、多くのビジネスパーソンにとって非常に魅力的ですよね。対話は普通のコミュニケーションとも違いそうですが、何がポイントになりますか。

鈴木:まず、対話にあたって2つの要素を意識すると良いですね。1つ目は、心理的な安全を確保すること。2つ目は、問いかけて相手に考えさせることです。

1つ目の「心理的な安全を確保する」には、相手を緊張させないことが大切です。例えば、先ほど触れたプロ野球監督の場合は、まず監督室には呼びつけない。監督室に選手を呼んだら緊張するに決まっていますし、緊張すると人って考えられなくなってしまうんですよね。だからこそリラックスして話せるように、「俺って大体、食堂あたりでふらふらしているから、何かあったらいつでも声をかけてね」と言っておいて、食堂で喋るそうです。企業の育成でも同じことで、上司の机や個室に呼びつけたりせずに、自然と相手から声をかけてもらえる隙を持っておくといいかもしれません。

そして2つ目の「問いかける」という要素ですが、聞き方にポイントがあります。例えば部下がミスをした時に、「なんでミスしたの?」と聞いたらダメなのです。自分と相手が、質問する側と答える側という構図になったら対話にならないので、問いを2人の間に置いて、「ミスを防ぐために何ができるだろうか?」と、一緒に考えることが大切なのです。

「自分も分からないから、一緒に探求していきたいんだ」と問いかけることで、相手の好奇心を刺激することができます。好奇心が喚起されれば、問いも内在化していくんですよね。「今より良い方法はないだろうか」「他の選択肢はないだろうか」という問いがきっかけになって、「人と話してみよう」「教材から学んでみよう」「この問いに向き合ってみよう」と、考えるエネルギーになるのです。

心理的安全性を確保し、質問する側、される側という関係ではなく、一緒に考え、問いを内在化させていく……。これが新人教育でもできたら良いですね。

武石:非常に理想的だと思います。そういった対話のなかでもし答えが出なくても、「問い」が相手の中に残れば、考えるきっかけにもなりますよね。

鈴木:ただ、問いを持って考えている時って、答えがひらめかないことも多いんですよ。

そこで、もう1つ重要なプロセスがあって、ぼーっとする時間が必要なのです。脳科学ではデフォルトモードネットワークというのですが、ぼーっとしている時に脳はすごく動いているのですね。新しく仕入れた情報を編集したり、繋げたり、切り離したりしているので、ぼーっとする時間がないとひらめきって起きないんですよ。

だから対話して考え続けた後は、休むことも大切です。何も浮かばないと、つまらなくなってきますからね。じっくり考えて、少しぼーっとする時間をセットで取ると、アイデアがひらめきやすくなります。

対話が難しい理由とその解決策

武石の画像

武石:対話のコツについて教えていただきましたが、企業の方々に「部下の方と対話してみてください」とお伝えすると、「やりたいけど、忙しくて……」と仰る方も多いです。

鈴木:皆、忙しいですよね。でも、心の底ではほとんどの人が、良いコミュニケーションを交わしたいと思っているはずです。心のどこかで思っているのは間違いないので、そこにアクセスできれば、「対話のある組織」も十分実現できると思っています。

ただ、「なぜ対話が必要なのか」というロジックは、個々で持ってもらう必要はありますね。対話について興味がない方に「対話が絶対大事ですから、やってみてください」というアプローチから入っても、「そうかな?」と首を傾げられてしまうので。だからこそ、「よし、対話してみるか」と思ってもらえるような動機づけをしていく必要はあるかもしれないですね。

とはいえ、そもそも対話って難しいものなのです。多くの人が欲しているスキルであるにもかかわらず、対話ができる人自体が結構少ないのです。

桑原:実際に「対話ってどうやるんですか?」という声を、多くの企業から伺っています。これは日本社会ならではの傾向なのでしょうか?

鈴木:日本だけでなく、アメリカでも見られる傾向です。アメリカの方は対話をしているように見えて、ディベートをしているケースが多いのです。ディベートはそれぞれが意見を言った後に、「私が正しい」というスタンスを証明しようとする試みなので、対話ではないのですね。「MBAでは交渉も、プレゼンテーションも、ディベートも教えるけど、対話は決して教えない」という意見もあるくらいで、対話を学ぶ機会はなかなかないのです。

対話は技術もマインドセットも必要ですし、新しく学ぶ価値のあるものなのですが、学ぶ場が足りていないんですよね。会話と同じく、皆が何気なくやっているものなので、「1から学んでみますか?」というセットアップも大切かもしれないですね。

武石:そもそも対話は、会話とは違うのでしょうか。

鈴木様の画像

鈴木:会話は、意見のフォーカスが相手と同じところにあります。例えば「今日寒いですね」「本当ですね」という世間話、ありますよね。あれこそまさに会話で、「今、私たちは同じことを感じていますね」という感触を表面化させて、信頼関係を築く試みです。

一方、対話は意見のフォーカスを揃えるのではなく、違いをすり合わせて、新しい視点をつくり出そうとする試みです。「私はこう思う」「いや私はこう思う」というやり取りから、「へえ、そういう考え方があるのか」とお互いの違いを認め、新しい気づきを得ようとするのが対話です。

武石:そういった違いも含めて、やはり1から対話について伝えていく働きかけも大切といえそうですね。

鈴木:基本的に組織って、5段階のプロセスを経てやっと対話に行き着くんですよ。
1段階目は、コミュニケーションがない状態。
2段階目は、コミュニケーションはあるけど、「元気そうだね」というような、ありきたりの会話だけがある状態。
3段階目は、運動会の玉入れみたいに、お互いの考えを投げ合っているだけの状態。
4段階目は、お互いの意見をぶつけ合うことはできているけれど、自身の正しさを証明しようとしている状態。
最終段階が、お互いの意見をぶつけ合って、お互いの背景を理解して、新しい見方をつくり出そうとする状態。ここでやっと対話がはじまるのです。

過程としては結構大変ではあるのですが、そこまで行き着くことに価値を見いだしてもらえたら良いですね。対話ができたらチームにどんな効果があるのか、自分のロジックで認識していただく。これができてはじめて、対話に対する動機づけが定着するのだと思います。

中編に続く


前編では、対話がもたらす効果や実践のポイントについて伺いました。次回は、一歩踏み込み、部下との関係を深める「メタコミュニケーション」や、マネジャー自身の「ごきげん」が組織に与える影響について探ります。スムーズなコミュニケーションの鍵とは――。続きは中編でご紹介します。

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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