連載・コラム
【徹底解説】人材育成を役割転換から考える
トランジション・デザイン・モデル ~Senior Manager編~
- 公開日:2024/09/20
- 更新日:2024/09/20
トランジション・デザイン・モデルとは、組織における人の成長を「役割転換」というテーマから体系化したモデルです。日本の多くのビジネスパーソンは、社会人として組織の一員となり、経験を積むにつれて期待される役割が変化していきます。これらの期待役割の変化を正しく認識し、役割転換(トランジション)をはかることで、ビジネスパーソンとして成長していきます。
リリースした2010年当初から現在に至るまで、弊社トランジション・デザイン・モデルは業界・業種、そして従業員規模を問わず多くのお客様にご活用いただいています。
不確実性の高い昨今においても、人材育成を考える際の普遍的な「ものさし」としてより多くの企業にお役立ていただきたいと考え、本連載をスタートしました。
第7回の今回はSenior Manager(シニアマネジャー)と呼ばれるステージについて紹介いたします。
Senior Manager/変革主導ステージとは――事業・組織の持続的成長に向けて、変革を推進していくステージ
Manager前期では個人や集団に働きかけ、組織業績を達成していくこと、後期では加えて事業変革のために必要な意思決定ができるよう、「事業全体の影響を考えた視点」を獲得することが重要なテーマである、とお伝えしました。
次の段階であるSenior Managerステージでは、具体的にどのような期待役割や成果が求められるのか、解説していきたいと思います。
- 目次
- トランジションのプロセスとは
- ①トランジションの入口のサイン
- ②-1トランジションの核心となる“伸ばす”意識・行動
- ②-2トランジションの核心となる“抑える”意識・行動
- ③このステージで一般的に求められるスキル
- ④トランジションを促進する経験
- ⑤トランジションの出口のサイン
- まとめ
トランジションのプロセスとは
ビジネスパーソンがトランジション(役割転換)を果たし、新たな役割を担えるようになっていくために必要なプロセスを5つの観点から捉えています。
①トランジションの入口のサイン
新たな役割に向けて意識や行動を変える必要性を自覚するきっかけを指します。
②トランジションの核心となる意識・行動
各ステージでパフォーマンスを発揮するために、特に変えなくてはいけない意識や行動を指します。この意識や行動には、それまでの役割ステージのときと比較して、“伸ばす”べきものと“抑える”べきものの両方があります。
③このステージで一般的に求められるスキル
各ステージで期待される役割を担うために、必要なスキルを身につけることを指します。
④トランジションを促進する経験
各ステージで求められる期待役割を担うために必要な意識・行動・スキルを自分のものにしていくための経験学習を指します。
⑤トランジションの出口のサイン
各ステージでパフォーマンスが出せるようになり、自信が生まれている状態を指します。
ここでも本人の自覚と、周囲からの見られ方の変化の双方が含まれます。
①トランジションの入口のサイン
複数の課やグループを配下に持つような役職に昇格したとき、また役職名として「〇〇部 部長」などの肩書きがついたとき、Senior Managerステージの入口に立っているといえます。
もしくは、複数の課・グループを配下に持つ場合や、複数の部下やマネジャーができ、直接一人ひとりをマネジメントできなくなる場合、経営陣との接点が増えたりする場合も、その人はSenior Managerの入口に立っているといえるでしょう。
②-1トランジションの核心となる“伸ばす”意識・行動
Senior Managerステージで積極的に意識し、取り入れるべき行動は以下となります。
②-2トランジションの核心となる“抑える”意識・行動
逆に、Senior Managerステージで抑えるべきありがちな意識や行動として、以下が散見されます。
トランジションを乗り越えられないとどうなる……?
冒頭で記載したとおり、Manager後期では、事業変革のために必要な視点として「事業全体の影響を考えた視点」を獲得することが重要な育成テーマのうちの1つでした。Senior Managerステージでは、さらに「事業変革を主導する立場」として期待役割が求められます。
変革主導が求められる立場ではあるのですが、その前提として管轄している複数の組織全体の短期的な業績目標の達成と、そのために必要な最終責任者としての意思決定を行うことが不可欠です。
そして、同時に中長期的な事業成長のために重要となる課題を洗い出し、目指す状態の実現に向けて、達成までのシナリオを描いたり、リソースを調達したりすることが求められます。
仮に、当面業績と先々のために取り組むべきことの両方を目標として期初動き出せていたとしても、「思うように当面業績が積みあがらない」「重要な顧客からのクレームがあり対応せざるを得ない」など、予期せぬトラブルにより先々に向けた業務を一旦ストップさせ、当面業績に集中しなければならない、といった状況は実際に起こりがちです。
そのような場面においてSenior Manager自らが、部下であるマネジャーを飛び越して組織全体の当面業績達成のために、直接メンバーや現場に介入してしまうのはご法度です。
なぜなら、部全体ではなく各課レベルで同時多発的に陥った場合、Senior Manager個人が対応するには限界があるからです。またそれだけでなく、各マネジャーが当面業績の達成のみに注力することを甘んじて受け入れてしまうと、結果として先々に向けた変革は頓挫してしまいかねないからです。
このように、Senior Managerが期待されている役割を果たせず、当面業績達成のために躍起となり、中長期的に必要な対応を組織全体として着手できないままでいると、変化の激しいビジネス環境においては、最悪の場合、事業全体が衰退してしまう可能性も考えられるでしょう。
本来実現したい状態からズレた方向に組織が進みそうになったとき、変革主導の責任者として、先々の課題に対してもマネジャーが逃げずに取り組むことを要望できるか。そして、先ほどのような状況下で変革を推進していくために、何をどのように判断し組織を動かすかが、Senior Managerの現実のなかで問われます。
昨今は先々がどうなっていくのか、分からないことの方が当たり前の時代となってきました。そのなかで彼らが先を見据えた適切な判断ができず、「先が見えないから」「正しいかどうかが分からないから」といって判断を先送りにし、当面業績ばかりに意識が偏ってしまうと、変革が進まず、事業としても弱体化してしまいかねません。
そうした状態になるのを防ぐためには、どうすればよいのでしょうか。
③このステージで一般的に求められるスキル
Senior Managerに求められるスキルは、考えるスキル・実行するスキル・人を動かすスキル・自己をコントロールするスキルの4つのカテゴリーに分類することができます。
Senior Managerステージで求められる期待成果を発揮するために、必要なことは主に2つあります。1つ目は自組織が中長期的に達成すべきことと、短期的に達成すべきことの両側面を明らかにし、同時に達成できるようなシナリオを描く力です。
部下であるマネジャーが短期の組織業績目標の達成と、先々を見据えた取り組みの両方に着手するために、組織ごとの計画や方針を立てさせ、実行を促す必要があります。
そのためには部として何を目指し、短期と中長期の課題それぞれに対して、何にどのように取り組むかのシナリオを描き、シナリオに沿って部の方針を明確に発信することが重要です。
例えば、期初のキックオフミーティングなどで、部長からマネジャーやメンバー全員に対して部として今期何に取り組むか、そのための戦略や重要指標として何をKPIに定めて注力するか、などの方針を伝えることなどがイメージしやすいかと思います。
また部としての取り組みが、経営層からの事業への期待にどう応えるものなのかを示すためにも、経営層が事業戦略上、何を大事な指標として捉え、事業に対して何を期待しているのか、その背景や意図を正しく理解することも必要不可欠です。
2つ目は、組織を望ましい動き方に変えていくための打ち手を戦略的に考え、関係者に要望することができる力です。ここでの要望は、単に現場に口を出すだけではなく、関係者を動かすことも含まれます。
前述のとおり、当面業績が厳しい課を担当しているマネジャーが、業績達成のみに注力することを許してしまうと、一向に変革が進まないという状態が起きてしまいます。戦略推進や人材育成など、中長期的に必要となる取り組みについても、シナリオに沿って同時に進めていくことを要望し、実行を促すことが求められます。
また中長期的なアジェンダを進めていくなかで、現場がどのように受け止めているか、実現のためにどのような障壁があるかなど、その実態を適切に把握することも求められます。ただし、ここでもメンバーに直接介入するのではなく、マネジャーとのコミュニケーションのなかで状況を把握し、マネジャーに働きかけて実行を促すことがポイントとなります。
④トランジションを促進する経験
ここまで、Senior Managerステージでの期待役割を担うために必要な意識・行動・スキルについて解説してきました。ここからはSenior Managerステージで必要な意識・行動・スキルを自分のものとして習得するために必須となる経験について、70:20:10のフレームワーク(※)をベースに解説していきます。
(※)70:20:10のフレームワークとは、ビジネスパーソンの成長を促す経験の特性として70%の現実の仕事経験、20%の人間関係における経験、10%の計画された学習経験(研修など)を指し、人材育成施策をデザインするうえで中核となる考え方です。
前の節で記載した2つの力を磨くために必要となる経験として、1つ目に影響のある上位方針の背景の理解に対しては、例えば経営戦略や中期経営計画策定のプロセスに参画するなどの仕事経験が有効です。
また、ゼロからの立ち上げや、経験のない事業や組織の責任者を担うこと、ビジネスモデルの変革や事業再編を行う中心メンバーになるなどは、これまでの経験則や前例が通用しない環境となります。
そのなかで短期・中長期的な事業成長への責任を負う立場として、意思決定を求められる場面を多く経験することで、現場を理解し、動かす力や意思決定をする力、中長期的なビジョン実現のためのシナリオを描く力などが磨かれていきます。
⑤トランジションの出口のサイン
経営が考えていることや見えている世界が分かり、説得できるようになり、自分が打ち出したビジョンに向かって、組織全体を動かせている感覚を持てるようになるとSenior Managerステージはクリア!といってもよさそうです。
まとめ
ニュースなどで度々取り沙汰される企業の不正問題などの諸問題が起きた場合、経営トップの責任である、という見られ方が一般的ではありますが、その根源には「これまでもこのやり方でやってきた」という前例や慣習を疑わずに物事を進めてしまったSenior Managerステージの方の責任もあるといえます。
日本企業に在籍しているSenior Managerステージの方の多くは当面業績を推進する責任者という役割にとどまり、変革を主導する状態に至っている方は決して多くはありません。
「このやり方は今の時代には合っていないんじゃないか。間違っているんじゃないか」「これってやっぱりおかしいんじゃないか」――そんな視点を持ちながら、数年後を見据え、意思を込めて変革を主導していけるかどうかが、事業や組織の命運を握るといっても過言ではありません。
Senior Manager ステージという役割を与えられた皆さんの1人でも多くの方が、当面業績と中長期的に必要な変革を主導できるようなリーダーシップを発揮していただくためにも、
本コラムがお役に立てたら幸いです。
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