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【徹底解説】人材育成を役割転換から考える

トランジション・デザイン・モデル ~Manager前期編~

  • 公開日:2024/09/13
  • 更新日:2024/09/13
トランジション・デザイン・モデル ~Manager前期編~

トランジション・デザイン・モデルとは、組織における人の成長を「役割転換」というテーマから体系化したモデルです。日本の多くのビジネスパーソンは、社会人として組織の一員となり、経験を積むにつれて期待される役割が変化していきます。これらの期待役割の変化を正しく認識し、役割転換(トランジション)をはかることで、ビジネスパーソンとして成長していきます。

リリースした2010年当初から現在に至るまで、弊社トランジション・デザイン・モデルは業界・業種、そして従業員規模を問わず多くのお客様からご支持いただいています。
不確実性の高い昨今においても、人材育成を考える際の普遍的な「ものさし」としてより多くの企業様にお役立ていただきたいと考え、本連載をスタートしました。
第5回の今回はManager前期と呼ばれるステージについて紹介いたします。

Manager前期ステージとは――個人と集団に働きかけて、上位方針に基づいた組織業績を達成していくステージ

いちプレイヤーからマネジャーに昇格し、組織業績における責任者としての結果が求められるステージです。
これまでは一個人として成果を上げることが求められていましたが、このステージからは明確に「組織業績の達成」に向けて、責任者としてメンバーやチームに働きかけるプロセスが必要不可欠となります。

このステージに至った人は、目の前の仕事に忙殺されがちな上、昨今はコンプライアンスやハラスメントにも気をつけなければいけません。
また、自分たちとは異なる価値観を持った若い世代への関わり方など、悩みはつきません。
本コラムでは、そのような多忙なマネジャーについてどうすればトランジション(役割転換)がスムーズに進むのか、解説していきます。

トランジションのプロセスとは
①トランジションの入口のサイン
②-1トランジションの核心となる“伸ばす”意識・行動
②-2トランジションの核心となる“抑える”意識・行動
③このステージで一般的に求められるスキル
④トランジションを促進する経験
⑤トランジションの出口のサイン
まとめ

トランジションのプロセスとは

ビジネスパーソンがトランジション(役割転換)を果たし、新たな役割を担えるようになっていくプロセスを5つの観点から捉えています。

①トランジションの入口のサイン

新たな役割に向けて意識や行動を変える必要性を自覚するきっかけを指します。

②トランジションの核心となる意識・行動

各ステージでパフォーマンスを発揮するために、特に変えなくてはいけない意識や行動を指します。この意識や行動には、それまでの役割ステージのときと比較して“伸ばす”べきものと“押える”べきものの両方があります。

③このステージで一般的に求められるスキル

各ステージで期待される役割を担うために、必要なスキルを身につけることを指します。

④トランジションを促進する経験

各ステージで求められる期待役割を担うために必要な意識・行動・スキルを自分のものにしていくための経験学習を指します。

⑤トランジションの出口のサイン

各ステージでパフォーマンスが出せるようになり、自信が生まれている状態を指します。
ここでは本人の自覚と、周囲からの見られ方の変化との双方が含まれます。

トランジションの概念図

①トランジションの入口のサイン

登用試験などを経て、正式に課長・マネジャー・ディレクターなど自組織の業績における責任者としての肩書がついたとき、Manager前期ステージの入口に立っていると考えることができます。
また部下を持ち、部下の1次評価者となる場合なども、その人はManager前期のステージの入口に立っているといえるでしょう。

入口のサインのイメージ

②-1トランジションの核心となる“伸ばす”意識・行動

Manager前期ステージで積極的に意識し、取り入れるべき行動を7つ紹介します。

“伸ばす”意識・行動のイメージ

②-2トランジションの核心となる“抑える”意識・行動

Manager前期ステージで抑える必要のある、ありがちな意識や行動としては以下が散見されます。

トランジションを乗り越えられないとどうなる……?

組織業績の達成を成果として求められるのがマネジャーではありますが、業績を上げることだけが期待役割ではありません。その達成の仕方も非常に重要です。

いちプレイヤーとしての意識が抜けず、自分で手を動かした結果による成果は、当然ながら組織としての成果とは呼べず、個人のパフォーマンスによる成果にとどまっています。
たとえ、自分の手だけではないとしても、業績達成を牽引してくれるリーダー層のみに頼っているようでは、やはり期待成果としては不十分だといえるでしょう。

また自分の経験や考え方にこだわりすぎるあまり、その基準に照らして優先順位をつけたり着手しやすいものから手をつけてしまったりすると、組織としての優先順位にそぐわず、納期や組織業績に応えられなくなる可能性が出てきます。

部下との関わりという点においても、細かく指導して自身のやり方を押し付け、部下が指示された仕事を回すことに精一杯となり、自分なりの考えや意思を込めた仕事ができない状態をつくってしまうと、部下は仕事へのやりがいを感じることができず、疲弊してしまいます。

部下を自分の都合の良いように扱うようなマネジャーは、当然部下から信頼されなくなってしまいます。

また、そのような対応を続けていることで、部下は「難しい案件はマネジャーがやるから、指示されたことだけを対応すればいいや」と考えるようになり、次第に組織業績に対する当事者意識すら薄れてしまいます。

そうなると、組織として中途半端な成果しか出すことが出来なくなり、結果として期待成果を果たせないという状態に陥ってしまいます。そのため、「個人と集団に働きかける」というプロセスを踏むことが欠かせないのです。

では、いちプレイヤーからマネジャーへトランジションを促進するためにはどうすればよいのでしょうか。

③このステージで一般的に求められるスキル

Manager前期ステージで求められるスキルについて、考えるスキル・実行するスキル・人を動かすスキル・自己をコントロールするスキルの4つのカテゴリーに分類することができます。

Manager前期で期待される役割の「個人と集団に働きかけて、上位方針にもとづいた組織業績を達成していく」とは、「個人と組織を動かすこと」と「組織業績を達成できる方針や計画をつくり、個人の動きを計画に落とし込むこと」の2つのスキルがキーとなることが読み取れます。

「個人と組織を動かす」ためには、個人にとってもチームにとっても納得のいく計画や方針でなければ、人を動かすことは叶いません。そのため、まずは目標と現状とのギャップを解消するための対策を考える力が求められます。

そして、計画の段階では業績達成と人材育成の両方に寄与するよう、“ついでに”実現できるようなアプローチが出来ないかを考える必要があります。

例えば「戦略を推進するためのリーダーは〇〇さんをアサインしよう」「組織体制を考えるうえでベテランの〇〇さんにも、一緒に立案に参画してチームづくりを行っていこう」などのように、具体的に業績達成と人材育成の両方へのアプローチをマネジメント活動に取り入れることを指します。

自分のマネジメント活動の中に人材育成の観点としてメンバーやチームへのアプローチを計画の段階で取り入れておけると、今後のマネジメント活動が場当たり的でなくなるため、意図して成果につなげる活動を行うことができるようになります。

次に計画を実行に移していく段階においては、方針・計画を立て、目標達成に向けてメンバーを動機づける力が必要となります。

個人と組織を動かして、計画立てたことを実行するためには、「動機づけ」がうまく行えないと、成果には結びつきません。メンバーやチームに対してモチベートするためには、日々のコミュニケーションを通じてお互いを理解し、信頼関係を構築する力が不可欠です。

メンバーの強みや課題を正確に理解するためには、メンバーが自分と異なる存在であるという認識をもち、自分の基準で判断したり、成功体験を押し付けたりしないことが肝要です。
さらに、メンバーが自分の力で成果を出せるよう、成長を促進するためには、個々の特徴を理解した上で、メンバー自身が自分で考え判断する力を養うための問いかけを行うことも求められます。

またチームへの働きかけとして、期初に自分の言葉で目標や方針をチームに伝える際にチームを動機づけることも、その後の組織活動に大きな影響を与えます。そして、日々のマネジメントの中でチームやメンバーの状況を把握し、それに応じて目標や計画を柔軟に変更する能力が重要です。

さらにチームという観点では、問題が発生したときだけでなく、業績達成やより良いチーム状態を目指すためには、全員が意見を出し合う場を設け、何をどのように意識して取り組むべきかを共有することも有効です。

④トランジションを促進する経験

ここまで、Manager前期ステージでの期待役割を担うために必要な意識・行動・スキルについて解説してきました。ここからはそれらの意識・行動・スキルを自分のものとして習得するために必要となる経験について、解説していきます。(※)

(※)70:20:10のフレームワークとは、ビジネスパーソンの成長を促す経験の特性として70%の現実の仕事経験、20%の人間関係における経験、10%の計画された学習経験(研修など)を指し、人材育成施策をデザインする中核となる考え方です。

まず、Manager前期ステージにおいて期待される役割を正しく認識し、組織業績に対する責任感を養うことが重要です。そのためには、マネジメントとはどのような成果が求められ、どのような活動に注力すべきかを原理原則として理解しておくことが不可欠です。

さらに、個人プレーではなくチームとして組織業績を達成するためには、期初の段階で組織が目指すゴールや、組織体制におけるチームの方針などを立案し、チーム内で共有する場を意図的につくる経験が有効です。

期初だけでなく、定期的にそれぞれの取り組みについて、チーム内で状況を共有する場を持つことで、チーム状況を把握し、組織としての優先順位づけを行うための情報を収集することができます。

また、メンバーの特徴や多様な価値観に対応する幅を広げるためには、メンバーや上司からのフィードバックを受け、適切なコミュニケーションの方法を客観的に理解することが有効な経験となります。

最後に、もう1つ重要な経験をお伝えします。マネジャーとして必要な意思決定力やメンバーへの評価基準を明確に持つためには、一定の経験と時間が必要です。
そのため、他の新任マネジャーとのインフォーマルなコミュニティで交流し、他者の取り組みから学び、マネジャーとしての自身の特徴を理解することも、非常に重要な経験となります。

⑤トランジションの出口のサイン

メンバーの成長を実感することができ、自分なりの目指したい組織像を描くことができる。上司や他部署から成果を認められ、メンバーの良い評判を聞くようになる。そうすると、Manager前期ステージはクリア!といってもよさそうです。

出口のサイン

まとめ

プレイヤーのときと異なる成果の出し方が求められるManager前期ステージにおいては、冒頭で述べたとおり、これまでのステージよりもさらに負荷や難度が高まっているといえます。これまでの時代は、例えば物を大量に作ればその分売上がたつような、ビジネスとしての勝ち筋が分かりやすい時代でした。

しかし、昨今の変化の激しい時代の場合、マネジャーの経験則による意思決定が必ずしも正解とはいえません。むしろ今は、マネジャーは正解を教え管理するだけの立場ではなく、「メンバーと共に、正解を導き出すために思考する」という立場でもある必要があるといえるでしょう。

いかにこれまでの自分のやり方やこだわりに固執せず、事実に基づく意思決定が行えるか。また、メンバーの主体性の芽を摘むことなく引き出せるかが、これからのマネジャーに求められる力なのです。

マネジャーとはとても孤独な仕事です。昇格後に、社内のマネジャー同士で話す機会が特段ない場合、1人で日々重要な意思決定をし、対処していくというのは、いくら優秀な人であったとしても、不安や悩ましさを感じることでしょう。

自分なりの答えが出せないときや、日頃の不安や悩みを解消するために、マネジャー同士で対話する機会を設けることは、社内のマネジメント力を高めるうえでもとても有効です。

人事の皆さんには、マネジャーが社内のネットワークを有効活用できるような環境づくりをぜひ検討していただきたいと思います。

1人でも多くの方が、Manager前期のトランジションをスムーズに行い、マネジャーとしてのやりがいや面白さを実感しながら生き生きと働くことができるよう、本コラムを参考にしていただければ幸いです。

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