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共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’ インタビューvol.3

1つの企業に勤め続ける方も、Jammin’を通して「外」とつながれる社会にしたい

  • 公開日:2020/08/17
  • 更新日:2024/04/10
1つの企業に勤め続ける方も、Jammin’を通して「外」とつながれる社会にしたい

2019年からスタートした共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」。2020年に第2回を実施するにあたって、Jammin’企画責任者の井上功が、始めるにいたった問題意識や経緯、Jammin’のねらいやポイント、今後の展望などについて説明する。

PROFILE
井上 功(いのうえ こう)
HR企画統括部 リサーチ&デザイン部 エグゼクティブプランナー

日本企業はなぜイノベーションを起こせなくなってしまったのか?
イノベーション創出のアジェンダ設定とネットワーク構築を学べる場
「プロジェクト」と捉える受講者が飛躍するプログラム

日本企業はなぜイノベーションを起こせなくなってしまったのか?

――なぜJammin’を始めようと思ったのですか?

井上:最初にあった問題意識は、「日本企業はなぜイノベーションを起こせなくなってしまったのか?」ということでした。1980年代、バブル期までの日本企業は、世界をリードするようなイノベーションをいくつも起こしていました。1980年代後半には、上場企業の時価総額ランキングにおいて日本企業が上位を占めていました(経済産業省 産業技術環境局 令和元年10月16日「令和元年新たなイノベーションエコシステムの構築に向けて」P11より)。
1990年代以降、そうした日本発のイノベーションの数が明らかに減ってしまった。それをもう一度増やすにはどうしたらよいのか。私は以前からそのことが気になっていました。

2009年頃に、それについて国土交通省の河田敦弥さんに相談したところ(河田さんにはJammin’2019インバウンドコースの講師を務めていただきました)、経済産業省の方々を紹介してくださり、共同で「フロンティア人材調査事業」を行うことになったのです。そのとき、自分が一生をかけて取り組みたいことが決まりました。「組織がイノベーションを創出するにはどうしたらよいのか?」というテーマです。経済学者のヨーゼフ・シュンペーターが、1912年に「新結合」というイノベーションの概念を打ち出して以来、さまざまな研究者や企業家がこの問いに取り組んできましたが、いまだに正解は見つかっていません。大変やりがいのあるテーマです。

その後、私は2012年に株式会社リクルートから、株式会社リクルートマネジメントソリューションズに移り、新価値創造を促すイノベーション研修「i-session(R)」を開発しました。世のなかの不満・不都合・不公平・不安などの「不」を基に新規事業を開発する、リクルートグループが培ってきた世のなかの「不」を基に新規事業を開発する手法を応用したプログラムで、受講者一人ひとりに画期的なイノベーションのアイディアを生み出していただくインハウス※ の実践型研修です。私たちは、これまでに約40社・約1500名の方にi-sessionを提供してきました。

※インハウス研修=同一企業内で実施する講師派遣型研修

その結果として分かったことは、この研修では一定レベルのアイディアは数多く出てくるけれど、今までにないような斬新なアイディアは出づらい、ということです。繰り返すうちに、その原因も見えてきました。つまり、良くも悪くも、会社は「常識を育む場所」なのです。ある企業に勤めれば、誰しもその会社の社風や仕事のお作法に染まっていきます。それは、その会社で働く上では欠かせないことですが、一方で、染まってしまうと「慣行の外」に出ていくのは難しくなる。そのため、i-sessionを行っても、その会社の常識から逸脱するようなイノベーションのアイディアはなかなか出しづらいんです。例えば、自社でまったく扱っていない素材を使ったビジネスや、自社と大きく異なるドメインの事業などは、i-sessionのような研修ではまず思いつきません。しかし、本当はそのくらいの飛躍がなければ、優れたイノベーションを創出するのは難しい。ここにジレンマがありました。

――i-sessionからJammin’が生まれたのですか?

井上:そうです。従来のi-sessionでは、非連続の跳んだイノベーションを起こすのは難しいと気づいた私たちは、2016年に「異業種交流型i-session」の試行を行いました。従来のi-sessionは個人で行うものでしたが、それをチーム戦に変えた。しかも、違う会社の方々とチームを組んでいただくことにしたのです。まずヘルスケアをテーマに据えて、5社・15名の方に参加していただきました。その結果、従来のi-sessionよりも良いアイディアがいくつも出てきました。勢いづいた私たちは、2017年、AI・IoT・地方創生・産学連携・ヘルスケア・政策立案の6テーマ・15クラスで、総勢200名超の受講生と異業種交流型i-sessionを実施しました。

この異業種交流型i-sessionを改良して、さまざまな企業から受講者が集まる学校のような仕組みに変えたのが「Jammin’」です。第1回のJammin’2019は、10の社会課題テーマ(AI・ドローン・地方創生・産学連携・VR・インバウンド・ヘルスケア・ブロックチェーン・マッチング・SDGs)で開催しました。参加企業は20社、受講者は約150名でした。なお、i-sessionのねらいはイノベーション創出でしたが、Jammin’では「共創型リーダーシップ開発」を前面に打ち出すことにしました。なぜなら、実際に何度か行ってみたところ、イノベーション創出だけでなく、共創型リーダーシップの開発にもつながるプログラムだと分かってきたからです。また同時に、企業が持続的にイノベーションを起こすには、共創型リーダーを育てることが重要だということが明らかになってきたからです。

日本企業はなぜイノベーションを起こせなくなってしまったのか?

イノベーション創出のアジェンダ設定とネットワーク構築を学べる場

――「共創型リーダーシップ開発」とは、具体的にどのようなことでしょうか?

井上:Jammin’では、異なる会社のメンバー4名前後でチームを組んでいただきます。自分の思いや考えだけでは、決して物事を前に進められません。お互いの話に耳を傾け、お互いの思いや考えを理解しながら、どのようなテーマでアイディアを考えるか、どのアイディアを採用するか、どう役割分担をして進めるかなどを決めて、アイディアをイノベーションの形にしていく必要があります。

その際、誰もが必ず「自分以外の視座・視界」に出会います。メンバーとやり取りするなかで、自社の常識やお作法とは違う視点や考え方を知るのです。これが良い経験となります。例えば、この記事に登場していただいた金井さんは、大手広告代理店から参加していたチームメンバーと出会い、価値観を強く揺さぶられています。他の事例としては、企業人材と若手官僚が組むことでお互いの知恵を組み合わせ、「新ビジネスのために法律を変えるアイディア」が生まれたことがありました。企業人材は政策立案の方法を知りませんし、若手官僚はビジネスのつくり方を知りません。世のなかの見方もかなり違います。その彼らが組むことで、お互いに学び合いながら、ビジネスと政策(社会の仕組み)を同時に動かしていくイノベーションのアイディアが具体的に立ち上がってきたのです。

私たちは、こうした経験を積むことが共創型リーダーシップ開発につながると考えています。少し理論的に説明すると、Jammin’は、「共創型リーダーシップ=イノベーション創出のリーダーシップ(アジェンダ設定とネットワーク構築)」を学ぶ場なのです。

そもそもリーダーシップ理論において、リーダーシップは、アジェンダ設定とネットワーク構築の大きく2つに分けることができます。つまり、解決したい問題を定めて、具体的な戦略を立て、解決の方向性を示す「アジェンダ設定」を行った上うえ で、上司・部下はもちろん、経営幹部・他部門・社外の取引企業・協力企業などと関係を築いて交渉などを行っていく「ネットワーク構築」をするのが、リーダーの主な仕事です。

既存業務のアジェンダ設定やネットワーク構築を学べる場は数多く存在します。例えば、多くのリーダーシップ研修は、既存業務のリーダーシップを学ぶためのものです。しかし、そこではイノベーションを起こすような共創型リーダーシップはほとんど学べません。なぜなら、共創型リーダーシップを学ぶには、異なる視点・考え方・知識を持ったチームメンバーが交わる「カオスの場」に自ら飛び込んで身を置いて 、評価権限も指揮命令系統も一切存在しない環境で、自分以外の視座・視界に刺激を受けながら、みんなで協力して「0→1」のイノベーション創出をやりきる必要があるからです。これは、既存業務のアジェンダ設定・ネットワーク構築の方法とはかなり違います。そのため、既存事業推進のリーダーシップを学ぶ場と共創型リーダーシップを学ぶ場は、まったく別のしつらえになるのです。Jammin’は、共創型リーダーシップに特化した学びの場です。こうした場は、おそらく日本にはほとんどないと思います。

イノベーション創出のアジェンダ設定とネットワーク構築を学べる場

「プロジェクト」と捉える受講者が飛躍するプログラム

――Jammin’を受講する際のポイントや注意点を教えてください。

井上:受講者の方々にお伝えしたいことはただ1つです。このプログラムが盛り上がるかどうかは、良くも悪くも受講者の皆さんにかかっています。2019年度に行った10コースを見る限り、単なる「研修」と捉えて参加している方々は、あまり多くを得られていません。逆に、普段の仕事と同列の「プロジェクト」だと考えて参加している方々は、結果的に割とうまくいくケースが多く、楽しみながら、さまざまな気づきや発見を得ています。例えば、この記事で紹介した染谷さんは、「会社とは異なるポジションで、安全・自由な立場に立って、普段なかなか会えない方々の話を伺いながら新価値創造に取り組めるチャンスというのは、他にそうそうない」とおっしゃっていました。このように前向きに、真剣にコミットする姿勢のある方は、Jammin’を活用してのびのびと飛躍していけると思います。参加される皆さんは、ぜひプロジェクトの1つだと捉えてください。

「プロジェクト」と捉える受講者が飛躍するプログラム1

――今後、Jammin’はどのように展開していく予定ですか?

井上:現在は2つの可能性を追求しています。1つは、「イノベーション創出」です。現在のJammin’の目的は、あくまでも共創型リーダーシップ開発で、イノベーション創出は学びの手段でしかありません。しかし、Jammin’2019で出た40近いアイディアのうち、現在いくつかが事業化に向けての検討に進んでいます。今後、プログラムの完成度がさらに高まれば、実際のイノベーションや新事業をいくつも生み出せるかもしれません。さらに発展させれば、Jammin’の知見をベースにして、組織がイノベーションを起こす方法論を確立できる可能性もあると考えています。

もう1つは大きな話になるのですが、私はJammin’をテコにして、「Open Japan」を実現したいと考えています。Open Japanとは、さまざまな企業の人材同士が横につながり、そのネットワークが自走して、企業横断的なイノベーションを次々に起こしていく「開かれた共同体」のことです。もう少し具体的に言うと、例えば「新卒入社で10年ほど勤めたらJammin’に参加する」という制度を持つ企業を増やしたいと思っています。そうした企業では、30代以降の社員の皆さんは社内のスペシャリストとしても、社外とつながるイノベーターとしても活躍できるようになるでしょう。この共創型リーダー開発基盤であるJammin’でのインタラクションが当たり前になったら、企業の既存の仕組みを劇的に変えることなく、日本独自のシリコンバレー的生態系(Open Japan)をつくることができるのではないかと思っています。これが現在の私の大きな目標です。

「プロジェクト」と捉える受講者が飛躍するプログラム2

【text:米川青馬、illustration:長縄美紀】

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

※共創型リーダーシップ開発プログラム「Jammin’」とは
異業種交流を通じた次世代リーダー育成を望む複数企業が集い、先が見通せない混迷の時代に活躍できる次世代リーダーを、他社の人材との交流を通じて育成するプログラム。プログラムの核となるのは、「地方創生」「AI」「ドローン」などテーマごとにコース(※)に分かれて行う新規事業案の立案。最終的には全コースから選ばれた事業案の中からグランプリを決する。
別途、人材を送り出す側である各社の人事(オーナー)向けのプログラム(オーナーズセッション)も組まれている。(※2019年度)

バックナンバー

vol.1 もし自分を変えたくないのなら、Jammin’に参加しない方がよいと思う
vol.2 Jammin’に参加して、「経営リーダー」の道を一歩踏み出してみようと決めた

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■共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’オーナーズセッションレポート
vol.1 イノベーションとリーダーシップを考える
vol.2 イノベーションと人事の役割を考える
vol.3 続・イノベーションと人事の役割を考える
vol.4 イノベーションにおける人事の役割を共創する

■共創型リーダーシップ開発プログラムJammin’セミナーレポート
vol.5 VUCA時代に求められるリーダーとは

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