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【事業成長期のHRMを考える】vol.5 HRBP勉強会レポート

仲間を誘いたくなる会社とは——組織が拡大しても社員がエンゲージメントし続ける企業の条件

  • 公開日:2020/08/03
  • 更新日:2024/04/10
仲間を誘いたくなる会社とは——組織が拡大しても社員がエンゲージメントし続ける企業の条件

本連載は、事業成長期にある企業組織のHRMのあり方について、ベンチャー企業の経営者やHR責任者の方々と議論した記録をお伝えするものです。
vol.2以降は、全5回にわたってベンチャー企業のHRBP・HR責任者の方々との学びのコミュニティにおける勉強会の内容の一部を、レポート形式でお伝えします。
今回(vol.5)のレポートでは、「仲間を誘いたくなる会社とは」をテーマに、組織が拡大しても社員がエンゲージメントし続ける企業の条件とは何かを話し合う勉強会の内容と様子を簡単にご紹介します。
急激な組織拡大のなか、人材の熱量・才能を最大限に引き出し、事業成長を力強く推し進める人・組織づくりのために何ができるのか。
読者の方々のヒントにつながれば幸いです。
※本セミナーは2020年1月に開催されました

今回のご参加企業(順不同・敬称略)
株式会社 エウレカ/株式会社 ゲームエイト/スタークス 株式会社/株式会社 電通デジタル/株式会社 ドリコム/ナイル 株式会社/株式会社MUGENUP/株式会社 ProVision

話題提供
株式会社働きがいのある会社研究所 今野敦子さん

ナビゲーター
リクルートマネジメントソリューションズ HRテクノロジー事業開発部
野崎日土志・荒井理江・藤江嘉彦・奥野康太郎

高め合う文化を実現したら働きがいのある会社No.1になった
カルチャーで束ねることとマネジメント育成の両方が重要では
全マネジャーが1on1を徹底的に学び 何でも話しやすいチームづくりを進めている

高め合う文化を実現したら働きがいのある会社No.1になった

野崎:事業成長期のHRMを考えるHRBP勉強会の第5回は、「仲間を誘いたくなる会社とは――組織が拡大しても社員がエンゲージメントし続ける企業の条件」です。抽象的な議論に終始するケースが多い「エンゲージメント」をどう捉えればよいのか、どう高めたり維持したりしたらよいのかといったことについて、活発に意見を交わせたらと思っています。

荒井:まずは私から、「エンゲージメントとは何か?」を簡単に説明します。実は、「エンプロイーエンゲージメント」は、学術的にはまだ曖昧な概念です。現状は、ワークエンゲージメントや組織コミットメントなどの類似概念を包含・混同するケースが多く、尺度の精度も安定していません。そのため、ここではすでに研究が進んでいる「ワークエンゲージメント」について説明したいと思います。

ワークエンゲージメントとは、「仕事に関連するポジティブで充実した心理状態」を指し、「活力・熱意・没頭」の3つが揃った状態と定義される概念です。他の概念との位置づけを整理すると、例えばワークエンゲージメントと職務満足感はどちらも仕事への態度・認知が高い状態ですが、ワークエンゲージメントは職務満足感と比べると、より積極的に活動する心理状態とされています(図表1)。

図表1 ワークエンゲージメント概念の位置づけ

また、ワークエンゲージメントを高める上で参考になるモデルの1つに、「仕事の要求度―資源モデル」があります(図表2)。このモデルでは、仕事の資源(給与、成長の機会、上司・同僚の支援、仕事の自律性、裁量など)と個人の資源(自己効力感、楽観性、レジリエンス、意欲など)が、ワークエンゲージメントを高め、心理的ストレスを減らすと論じられています。つまり、仕事の資源や個人の資源を高めることで、ワークエンゲージメントも高めうるというわけです。

仕事の要求度―資源モデル

学術的な説明は以上にして、次に本日はゲストとして、Great Place to Work(R) Institute Japanの今野さんより、「働きがいのある会社を創るヒント」をお話いただきましょう。

今野:はじめまして。私たちGreat Place to Work(R)は、世界約60カ国で7000社以上の働く人の働きがいを世界共通の尺度で調査し、一定水準に達している会社を「働きがいのある会社」として社会に発表している機関です。日本でも、毎年「働きがいのある会社」ランキングを発表しています。

Great Place to Work(R)では、「働きがい=働きやすさ+やりがい」と捉えています。日本では最近、働き方改革によって、多くの企業の働きやすさスコアがどんどん高まっていますが、その一方で、実はここ2年ほど、やりがいスコアは下がっています。働き方改革の代償と考えることができるかもしれません。少し気になる兆候です。

高め合う文化を実現したら働きがいのある会社No.1になった

また、私たちは、働きがいは人それぞれ違うけれど、働きがいのある会社には共通の特徴がある、と考えています。その共通点をまとめたのが、全員型「働きがいのある会社」モデルです(図表3)。私たちが考える働きがいのある会社とは、マネジメントと従業員との間に「信頼」があり、一人ひとりの潜在能力が最大限に生かされている(For All)会社のことです。こうした会社は、優れた価値観(バリュー)やリーダーシップがあり、イノベーションを通じて財務的な成長を果たすことができます。実際、私たちが「ベストカンパニー」に選定した会社は、そうでない会社よりも売上高の前年比成長率が高く、離職率も低い傾向が見られます。

図表3 全員型「働き街のある会社」モデル

では、そうした会社をどうやったら創ることができるのでしょうか。その具体的なヒントとして、2019年版 日本における「働きがいのある会社」ランキング(中規模部門)で第1位、さらに日本における「働きがいのある会社」女性ランキング(中規模部門)でも第1位だったコンカー様の事例を紹介します。

コンカー様は、2010年にConcur Technologiesの日本法人として設立されましたが、当初は離職率の高さに悩んでいたそうです。そこで、2011年に就任した三村真宗社長が、会社を立て直す覚悟で取り組んだのが「ビジョン合宿」でした。2013年の合宿では、「コンカーグローバルのなかで、アメリカに次ぐ事業規模を実現しよう」「国内で最も働きがいのある企業をつくろう」と社員全員で誓ったそうです。そのために、彼らは「高め合う文化」の実現を目指しました。お互いに建設的なフィードバックをし合い、強みを伸ばし合うことが、当たり前のようにできる企業文化を構築していったのです。ジョブグレード制をはじめとして、その文化をつくる上で必要な制度変革も次々に行っています。また、彼らは採用にもこだわっていて、自社カルチャーにフィットする人材を厳選採用することで、文化の維持を目指してきました。その結果、従業員の潜在能力を最大化することができ、日本で最も働きがいのある会社になることができたのです。
(参照:コンカー様事例

カルチャーで束ねることとマネジメント育成の両方が重要では

野崎:以上を踏まえて、「グループ共有」に進みたいと思います。2つのグループに分かれて、各社の事例と課題・悩みをシェアし合いながら、自由に語り合っていただけたらと思います。

~40分ほどグループ共有を行う~

カルチャーで束ねることとマネジメント育成の両方が重要では1

野崎:時間になりましたので、グループ共有を終わります。では、各グループでどのような話が出たのか、「全体共有」をしていただけますか? グループ1からお願いします。

●新規事業組織と既存事業組織は、どのように共存していくか?

奥野:最初に話題に上ったのは、「2つの異なる事業を展開する会社が、2つの事業部を結びつけて社内がバラバラにならないようにするには、いったいどうしたらよいか?」ということでした。実は、このグループには同様の悩みを抱える人事の方が多かったのですが、状況や対応策はさまざまでした。部長会を復活させて互いに連携する仕組みづくりを始めている会社もあれば、まさにどうしようか考えている最中だという会社もありました。また、違う事業の人材が交ざってもメリットが少ないので、積極的に交わらなくてもよいけれど、完全にバラバラになってしまわないように文化の土台だけはしっかりつくっているという方もいました。その方は、いろいろなことに取り組んだけれど、組織内のつながりをつくる上で現状役立っているのは部活だけだ、とおっしゃっていましたね(笑)。
それから、会社との一体感を醸成するには、横よりもむしろ縦のラインが重要だから、上司―部下の関係強化に努めているという声もありました。あと、シャッフルランチはなかなかうまくいかない、という意見が多かったのも印象的でした(笑)。

次に、似たテーマですが、「新規事業と既存事業が対立しがち」「どうしても社内で自分たちと他のチームを分けたがってしまう」「2階の人たち、〇〇ビルの人たちのように、他チームを場所名などで呼び始めたら危ない」という話になりました。これは、多くの企業が抱える悩みではないでしょうか。これに関しては、「カルチャーで束ねること」と「マネジメント育成」の両方が重要ではないかという結論になりました。会社を1つにまとめるには、根本的には企業文化を根づかせることが大事だけれど、その一方で、結局はマネジャーの実力が組織の実力に直結するから、マネジメント育成も欠かせないという意見が多かったです。

カルチャーで束ねることとマネジメント育成の両方が重要では2

後半は、「エンゲージメントを高めるとはどういうことか?」「高めることに何の意味がある?」という本質的な話題に移りました。このグループでは、「エンゲージメントは直接高めようとするものではない」「数値を高めようとするのはウチの文化に合わない」という声が多かったですね。その代わりに、普段から「こういう人と一緒に働きたい」とメッセージすることで、いざというときに求心力の高い組織をつくっている、あるいは信頼関係の構築・再構築を最も重視している、という話になりました。全員のエンゲージメントが高い必要はないのではないか、キーパーソンのエンゲージメントさえ高ければ十分ではないか、という見方もありました。

全マネジャーが1on1を徹底的に学び 何でも話しやすいチームづくりを進めている

野崎:ありがとうございます。文化の土台をしっかりと構築することが重要なのであり、目的なき交流は、なかなかうまくいかないという事例は、リアリティがあります。グループ2はいかがでしたか?

●組織を物語と人で結びつける

藤江:最初に話し合ったテーマは、「古参社員と新入社員の意識ギャップ」でした。特にスタートアップでは、これが大きな問題の1つとなるケースが多いと思います。ある企業では、創業者が何日もかけて壮大な創業ストーリーとポエムを書き上げ、それを全社員に共有しているそうです。上手な価値観・理念の共有の方法だと思います。

一方、大企業では、そうしたやり方はなかなか難しい。そこで、ある大企業の人事の方は、社員の意識・モチベーションを見える化するため、全社共通の指標を作り、それを使って各部署のコンディションを測定しているそうです。そして、各事業部のトップに、自組織メンバーの意識・モチベーションの状況を把握してもらっているのです。ちなみに、この会社では、社員の意識・モチベーション向上においては、理念・戦略・制度よりも、「仕事内容」と「上司・同僚との関係」を重視しているそうです。恵まれた人間関係のなかで、やりたい仕事ができているかどうかが、やる気を左右するポイントになっているのですね。ただ、そうはいっても、ビジネス方針などを変える場合には、やはり理念・戦略の浸透が必要で、その際には上層部と現場をつなぐ「事務次官的なポジション」が鍵になるということでした。

別の人事の方が悩んでいるのは、「離職率の高さ」でした。社員がさまざまなオフィスに散らばっていてリモートマネジメントしかできない上に、業務内容に変化がなく飽きてしまいやすいことから、従業員の定着率がなかなか上がらないというのです。そこで新たな工夫として、今期から1on1を導入してマネジメントの質を向上したり、キャリアパスを構築して長く働きやすい場づくりをしたりしているそうです。キャリアパスに関しては、社内横断のワーキングチームをつくって、自分たちで新たなキャリアパスを考えてもらっています。そうやって会社への参加感を高めることが、離職率低下に効果があるのではないかと考え、チャレンジされています。

全マネジャーが1on1を徹底的に学び 何でも話しやすいチームづくりを進めている

組織内の「心理的安全性」をとにかく重視している、と話してくださった方もいました。その会社では、全マネジャーが1on1を徹底的に学び、メンバーとのコミュニケーションにこだわることで、何でも話しやすいチームをつくることに腐心しています。例えば、SNS上に独自のハッシュタグを作ったり、かわいいスタンプを使ったりといった細かな工夫も重ねているそうです。その結果、着実に心理的安全性を高めることができているといいます。

野崎:人と組織の結節点ともいえる、一人ひとりのキャリア形成への意識醸成、そしてそれを支えるマネジャー陣の強化、まさに基本原則ともいえる事例ですね。さてあっという間に時間が来てしまいました。次回はいよいよ、人材マネジメントポリシーと人事制度の議論へと展開してみたいと思っています。皆さん、今回もありがとうございました!

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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