人事データ活用入門 第2回 人事データに潜む2つの罠

執筆者情報
組織行動研究所
マネジャー
主任研究員
兼 HR Analytics & Technology Lab
入江 崇介

最近では、表計算ソフト、統計解析ソフト、BI(ビジネスインテリジェンス)ツール、そして機械学習プラットフォームなどさまざまなツールが普及し、「分かりやすい図表でデータを整理すること」「統計解析を行うこと」が以前よりも手軽に実現できるようになりました。

しかし、人事データ、特に評価データには、さまざまな癖があります。それを理解せずに集計・分析し、その結果に基づいて改善施策などを検討しても、そもそもの前提がずれている可能性があるため、せっかくの結果が無駄になってしまうかもしれません。そこで今回は、評価データを分析する前に、知っておくべきポイントをご紹介します。


実は人事データの質はバラバラ

一口に人事データといっても、さまざまな質のデータがあります(図表01)。

「(1)行動履歴データ」と「(2)個人属性データ」は、客観的な事象を示すデータです。よって、「記録ミス」「申告漏れ」「虚偽申告」などがなく、正しく保管されていれば、実態を忠実に示すデータといえます。

では、「(3)自己回答/自己評価データ」と「(4)他者評価データ」はどうでしょうか。ご自身の経験を振り返ると、本当に実態を表しているのか、疑問や不安を抱かれるかもしれません。今回は、自己評価と他者評価に潜む「甘辛バイアス」と「反応スタイル」の2つの罠をご紹介します。

自己評価と他者評価に潜む、「甘辛バイアス」の罠

まず、「自己評価」について考えてみましょう。
日々、全く同じ行動をしているAさんとBさんがいるとします。その2人が、日頃の自分の行動を振り返って何らかの設問に回答する場合、結果は図表02のようになりました。

ご覧のとおり、Aさんは自己評価が甘く、Bさんは辛い結果になっています。意図的であるかどうかにかかわらず、まず、このような「自己評価の甘辛」というバイアスがあります。

では、仮にこの自己評価の結果が、管理職登用の参考情報に使われるとしたらどうでしょうか。図表02で示された質問項目が、管理職に求められる要件と一致していれば、管理職に昇進したい人はすべてに「あてはまる」と回答することでしょう。このように、「自分を他者に示したいように表現しよう」という、ある種、意図的な印象操作のためのバイアスもあります。

続いて、他者評価の場合はどうでしょうか。例えば、以下のようにさまざまなバイアスがあることが知られています。

・全体的に評価が甘くなる「寛大化傾向」、厳しくなる「厳格化傾向」 
・評価対象に関する一部の印象が全体の評価に影響を及ぼす「ハロー効果」
・評価に自信がないなどの理由で、中心的な評価に偏る「中心化傾向」
・自分に似た相手を高く評価する、あるいは低く評価するなどの「対比誤差」

上記のとおり、自己評価と他者評価の結果は、意図的であるかどうかにかかわらず、さまざまな「バイアス」の影響を受けています。これらには、改めて注意を払う必要があります。

評価結果に影響を与える「反応スタイル」の罠

「反応スタイル」という言葉はあまり耳にしたことがないかもしれません。ここでは、極端な選択肢を選ぶ「C.極端反応傾向(ERS: Extreme Response Style)」、中間の選択肢を選ぶ「D.中間反応傾向(MRS: Midpoint Response Style)」、質問内容に関係なく肯定的な選択肢を選ぶ「E.黙従反応傾向(ARS: Acquiescence Response Style)」という3つの反応スタイルを紹介します(図表03)。

例えば今度は、全く同じ行動をしているCさん、Dさん、Eさんがいたとします。1人の他者が3人の行動に対して客観的に評価する場合、その行動が「どちらかといえばあてはまらない」だったとします。
しかし、「極端反応傾向(ERS)」であるCさんは「あてはまらない」と自己評価し、「中間反応傾向(MRS)」であるDさんは「どちらともいえない」、「黙従反応傾向(ARS)」であるEさんは「あてはまる」と自己評価することになりました。つまり客観的には同じ行動でも、本人回答結果は全く異なったものになる可能性があるのです。
これは1人を対象に、3人が他者評価する場合にも、同じことがいえます。

このように、自己評価と他者評価の結果は、「反応スタイル」の影響も受けていることに、改めて注意を払う必要があります。

2つの罠が分析結果に及ぼす影響とは?

このような「甘辛バイアス」や「反応スタイル」は、評価データそのものの質だけでなく、それを用いた分析結果にも影響を及ぼします。

例えば、「面倒見がよい」ということと「論理的である」ことは、本来はそれほど強い関係性はないかもしれません。しかし、「自己評価が甘い人は、両方に『あてはまる』」と回答し、「自己評価が辛い人は、両方に『あてはまらない』」と回答した場合、統計的に関係性の指標を算出すると「両者は、完全に関係する」という結果になってしまいます。

また、同じような「企画力」をもつ2つの集団を比較した際、「黙従反応傾向の集団Fは、全員が『あてはまる』」と回答し、「中間反応傾向の集団Gは、全員が『どちらともいえない』」と回答した場合、集団Fの方が「企画力が高い」という結果になってしまいます。

以上は極端な例ですが、「甘辛バイアス」「反応スタイル」によって、本来の姿とは異なった結果が得られることは少なくありません。このような結果を元にした解釈は、私たちを誤った意思決定へと導くことになります。

評価データとはどのように付き合えばいいのか?

では、私たちはこのような問題をはらむ「評価データ」を用いることをやめるべきなのでしょうか。
「行動ログなど、より客観的なデータのみを用いる」というのも1つの手段かもしれませんが、私たちが把握したいさまざまな人の特性をつかむためには、自己評価、他者評価とこれからも付き合っていく必要があると思います。そのためには、もちろん、「バイアス/反応傾向の影響を受けにくい測定方法を用いる」ことができればよいのですが、それ以外にも以下のような工夫があります。

(1)率直な回答を促すためのしかけをする
例えば360度評価であれば、「査定」の目的で行うより、「能力開発」の目的で行った方が、個人特性を的確に把握できるといわれています

(2)評価のためのトレーニングをする
一般的に「評価者研修」などがこれに該当します。回答者のバイアスに対する意識を高め、なるべくそれに陥らないようにする方法です。単にバイアスに対する知識をインプットするだけではなく、模擬トレーニングなどをした方が、高い効果が得られるといわれています

(3)複数時点のデータの差分を採る
個人のバイアスや反応傾向の変化があまりない場合は、複数時点のデータの差分を採り、この差分を分析に用いることによって、バイアスや反応傾向の影響を取り除くことができます

このように、「測定の工夫」「収集の工夫」をした上で「分析の工夫」を行い、評価データの癖を頭の片隅に入れておいて注意深く結果を吟味することで、人事データはより豊かな発見ができるものになるでしょう。

今回はせっかくの分析結果が無駄なものにならないように、改めて着目していただきたい人事データの質について紹介しました。
次回は、より実践的な「人事データ分析」についてご紹介したいと思います。

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