連載・コラム
人事データ活用入門 第1回
人事ビッグデータとは何モノなのか?
- 公開日:2016/07/25
- 更新日:2024/04/11
企業内では、人や組織に関するデータがさまざまな目的のもと取得され、蓄積されています。私はこれまで10年以上、人事データを活用した研究を行い、その知見を生かして企業の分析サポートを行ってきましたが、年々人事データ活用に関するご要望が増えると共に、その内容が高度化していることを実感しています。一方で、急速に人事データ活用に注目が集まるなか、「何から手をつければよいのかが分からない」という声を聞くことも少なくありません。
そこで、「人事データ活用 はじめの一歩」として何ができるのかを皆さんと一緒に考えていくために、本連載をスタートしました。第1回目は、人事データ分析/解析を体系的に、そしてより身近に感じていただくために、2つのポイントをご紹介します。
ビッグデータ活用への注目の高まり
Webマーケティング、IoT、FinTech等、事業活動のさまざまな面で、ITとビッグデータの活用が急速に進んでいます。この波は人事の世界にも波及し、HR Analytics、People Analytics、人事ビッグデータ解析、HR Techという言葉を頻繁に目にするようになりました。
例えば、『ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』【*1】で紹介されているGoogleのデータ・ドリブンな人事の事例は、「ここまで人事は科学的にできるのか!」と私たちに気付きを与えてくれます。また、『データの見えざる手:ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』【*2】、『職場の人間科学:ビッグデータで考える「理想の働き方」』【*3】で紹介されているウェアラブル・センサーで取得した従業員の日々の行動やコミュニケーションの履歴データの活用事例は、新たな人材マネジメントの可能性を感じさせてくれます。
このような情報に触れ、「我が社も早急に人事データの活用を進めなければ!」と危機感を抱いている方も多いのではないでしょうか? 同時に、「何から手をつければよいのか?」と迷われている方も多いかもしれません。
【*1】ラズロ・ボック(著) 鬼澤 忍・矢羽野 薫(訳)『ワーク・ルールズ!―君の生き方とリーダーシップを変える』(東洋経済新報社、2015年)
【*2】矢野和男(著)『データの見えざる手:ウエアラブルセンサが明かす人間・組織・社会の法則』(草思社、2014年)
【*3】ベン・ウェイバー(著) 千葉敏生(訳)『職場の人間科学:ビッグデータで考える「理想の働き方」』(早川書房、2014年)
「人事データの活用」とは?
1.人事データの質を再考する
先のような先進的な事例は、私たちに人事データ活用の今後の可能性を感じさせてくれる一方、「すぐにできること」を見えづらくしているように思います。そこで、2つのポイントから、改めて「人事データ活用」について体系的に考えてみたいと思います。
1つ目のポイントは、「データの質」です。一口に「人事データ」といわれますが、皆さんがイメージするデータには、つぎのようなものがあるのではないでしょうか。
● 人事評価結果、人事アセスメント結果、勤怠履歴など、データベースに「整理し格納」されているデータ
● 日々のメールでのコミュニケーション、ウェアラブル・センサーで測定した従業員の行動ログなど、さまざまな場所に「整理されずに蓄積」されるデータ
前者は「構造化データ」、後者は「半構造化/非構造化データ」と呼ばれます。
ビッグデータ解析というと、どちらかというと「半構造化/非構造化データ」に焦点が当たるため、「自社の人事でできることが、何かあるのだろうか?」「とても複雑で、難しい取り組みなのではないだろうか?」と思われるかもしれません。一方、そもそも「構造化データ」が十分に活用できていないケースもよく目にします。
2.分析/解析法を再考する
2つ目のポイントは、「分析/解析法」です。皆さんがイメージする「分析/解析」とは、どのようなものでしょうか?
● 「自社にどのような人材がいるか」「一人ひとりの従業員はどのような特性をもっているか」等を「可視化」をする
● 「管理職の選抜のために、人事アセスメントを実施している。この人事アセスメントが、どの程度優秀な選抜の役に立っているのかを確認する」等のように、「仮説検証」をする
● 「満足度調査の結果、勤怠履歴、業績、メールに利用している言葉……。特に仮説があるわけではないが、さまざまな人に関するデータを元に、離職しそうな人材を予測する」等のような、「探索的な予測」をする
ビッグデータ解析のイメージに最も近いのは、「探索的な予測」でしょう。しかし、人事施策の効果検証のための「可視化」や、人事施策のPDCAのための「仮説検証」も、まだ十分にできていないことが少なくありません。
人事データ活用の広がり
ここまでご紹介した「データの質」と「分析/解析法」を組み合わせると、図表3のようになります。
ビッグデータ解析という言葉のイメージに最も近い「半構造化/非構造化データ×探索的な予測」は、「私たちが思いもよらない結果が出てくる」可能性を秘めており、非常に魅力的です。
しかし、人事の役割が、「戦略人事」「ビジネスパートナー」に転換するなかで、それだけではなく、例えば、
● 人事施策の成果を可視化すること
● 人事施策の効果を高めること
● 人事施策の再現性を高めること
も同様に求められています。そう考えると、「人事データ活用」として私たちができることは、実にさまざまあるように思えます。
はじめの一歩を踏み出す
人事データをもっと活用してみたい。人事データを使って、人事にできることはたくさんあるのではないか。そのように考えていたとしても、以下のような理由で現在人事データの活用が進んでいないのも実情です。
● 人事データを活用して、何を明らかにしたいかが曖昧
● 人事データがさまざまな場所に散在している
● そもそも分析に使えるデータが蓄積されていない
したがって、まずは、以下のことを通じて、「人事データ活用の土台作り」をすることが必要だと考えています。
● 人事データ活用の「目的」や「明らかにしたいこと」を具体化する
● その上で、目的に対する共感を得て、人事内、企画部署との間、現場との間で、散在しているデータの統合のための協力を得る
● そして、追加で収集・蓄積が必要なデータを獲得する仕組みを作る
本連載では、「人事データ活用 はじめの一歩」を踏み出せることを目指し、次回からは、テーマを1つずつ取り上げて、具体的な分析方法やアウトプット例等、人事データ活用方法についてご紹介していきます。「人事データでできること」のイメージを膨らませていただき、「明らかにしたいこと」を具体化するきっかけにしていただければ幸いです。
執筆者
技術開発統括部
研究本部
HR Analytics & Technology Lab
所長
入江 崇介
2002年HRR入社。アセスメント、トレーニング、組織開発の商品開発・研究に携わり、現在は人事データ活用や、そのための測定・解析技術の研究に従事する。
日本学術会議協力学術研究団体人材育成学会常任理事。一般社団法人ピープルアナリティクス&HRテクノロジー協会上席研究員。昭和女子大学非常勤講師。新たな公務員人事管理に関する勉強会委員。
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