連載・コラム
シリーズ『人事のチカラ』vol.1
人事こそ現場の行動変容を促す『触媒』となる
- 公開日:2009/11/09
- 更新日:2024/05/16
採用抑制、給与カット、希望退職募集……景気は底を打ったという声もあるものの、人事にとって気の抜けない日々は続きます。しかし逆に、このような時だからこそ新しい採用、配置、育成、評価、処遇のあり方が求められています。低迷期、転換期の先の経営が問われる今、改めて人事とは何か、その役割はどうあるべきか、原点から考えてみませんか。
今回は特別に、トレーナーの経歴を持つ、木下雅也氏に伺いました。
人事こそ現場の行動変容を促す『触媒』となる
先日、ある企業の人材開発責任者の方から、苦しい胸の内をお聞きしました。上からは「ムダ金はない、予算カット、教育体系は一から見直せ」と命じられ、じゃあ何かやろうとすると、現場から「余計なことはするな。どうせ人事は現場からズレている」と暗に揶揄されているのが分かる、というのです。予算削減を念頭に置きながら、経営と現場双方のニーズを満たす体系をどう作るか。言葉では簡単ですが、その実現はやはり難しいものです。
しかし、少し視点を変えると、例えば営業でも研究開発でも、上位方針と顧客ニーズの間で板ばさみになったり、中長期展望と短期業績の板ばさみになったり、はよくあること。いや、よくよく考えてみれば、二律背反、場合によっては三すくみ、四すくみの関係に陥りがちなのは、あらゆる仕事に共通することではないでしょうか。さらに言えば、その難題に挑戦するところに人事担当者としての真贋がかかっていると言えるかもしれません。
人事スペシャリストから人事プロフェッショナルへ
なぜ今、人事が上記のような板ばさみの状況へと変化してしまったのか。どうも、「人事の役割の変化」が透けて見えます。1990年代の終わりから2000年代の初めくらいまでは、人事を経営企画に似た戦略部門と位置づける考え方が支配的でした。企業戦略に基づいて、トップダウンに近い手法で職務体系と組織を大幅に見直し、評価・処遇制度を改変して浸透を促し、それに沿った階層別教育や自学自習機会を従業員に提供してきました。
ところが、数年前から、「どうも違う。評価基準も変えたし、組織も頻繁に見直しているのに、現場が変わらず、動かない、成果も出ない」と、多くの人が感じ始めました。特に経営層は「部長はビジョンを描けないし、課長はリーダーシップを取れない。新人は覇気がなく2年足らずで辞めてしまう。折角の制度改変や教育体系が生きていないじゃないか」という危機感を抱き始めたのです。
そこを襲ったのが昨年秋のリーマン・ショック。経済は沈み、先行きが不透明となる中で、人材開発や組織開発に関する費用も削減を余儀なくされました。その一方で、その施策の『実効性』、つまり本当に企業が再生する、本当に企業の現場が変わる人事施策が、求められるようになったのです。
現場が変わることが実質的に求められる時代ならば、人事の担うべき役割は、企業戦略を前提に理論的に構築した人事戦略を現場に提示し適応を求めることに止まらないはずです。今の人事に求められるのは、現場を誰よりもよく知り、現場が自ら変わっていくための『触媒』になることではないでしょうか。そのために、現場と経営の板ばさみになるのではなく、「現場を誰よりも知り、経営とつなぐ」「企業戦略が求めることを、現場の具体的変革行動へと結び付ける」ような働きかけが求められているように思います。
言葉を換えると、他社に引けを取らない制度や教育体系を整備していればよかった「人事スペシャリスト」から、現場の変革をプロデュースする「人事プロフェッショナル」へと、人事の果たす役割がもう1ステージ、アップしたのではないでしょうか。
人事プロフェッショナルの4つの共通点とは?
当然、すでに、人事の方々の中には、こうした役割の変化を先取りし、現場を変える仕掛けに着々と取り組んでいる方々がいらっしゃいます。まさに「人事プロフェッショナル」として現場変革の『触媒』になっているわけですが、彼ら・彼女らの行動にはいくつかの共通点が見られます。
まず1つ目は、現場の課題について語るときに、もって回った言葉を使わず口語で話せるということです。
例えば、職場サーベイで「課題形成力が弱い」という結果が出たとします。この表現だけだと抽象度が高く、具体的にどんな状態を指しているのかわかりません。これを例えば「起きている問題を仕方が無いことと勝手にあきらめ、上に何も言ってこない」「せっかく見つけた新しい商売の芽を、周囲を巻き込んでモノにしようとしない」という言葉に置き換えて話せるわけです。同じように「コミュニケーション力が低下」という言葉は、例えば「部下の目を見て話さない上司が多い」「昼休みもしんとしていて、雑談ひとつしない」と翻訳されます。
そうすると、あるべき理想の状態を具体的に思い描きやすくなるので、具体的な施策を考えやすくなります。「課題形成力の向上」「コミュニケーション活性」といった文語による抽象的な表現から、「部下の目を見て語る上司」「新しいアイデアをわいわいがやがや語り合う職場」という口語による具体的なイメージに思考を切り変えられるか。それは、次の一手を打つ上で非常に重要なことです。
2つ目は、人間への興味・関心が高いことです。
例えば自部署のメンバーとだけ議論をするのではなく、機会を惜しまず現場を訪ね、対話を重ねる。気になる社員がいたら、研修や評価面談の数ヵ月後に訪ねて行き、本人や上司から直接、話を聞いてみる。そのような地道な努力を重ねていくことで現場の社員は本音を話し出し、現場の状況がリアルに想像できるようになります。そうしてひとつの現場が分かることで、他の現場も類推できるインデックスが頭の中にできていくようです。
以上の2点は、現場をよく理解し、現場が自ら変わっていく手助けをするのに必須の条件と思われます。しかし同時に、現場だけではなく当然、経営陣と話ができることも重要。これが3つ目の共通点です。
その時に大切なのは、経営陣の「お話の拝聴」だけで終わらせていないことです。優れた経営者ほど現場を歩き、顧客を訪ね、情報収集を怠っていませんから、ある意味で、人事より現場の問題点を具体的な事実を元に熟知している場合は多々あります。しかし、そうした意見を真摯に受け取りつつも、一方で「自分が経営者だったら、現場にはこうあってほしい」というビジョンを持つ。もしそれが経営陣の考えと異なっていたら、遠慮なく問いかけ、議論する行動を旨としている節が、彼ら・彼女らに共通して感じられます。
最後の4つ目の共通点は、経営の一員としての当事者意識です。人事としての志といってもいいでしょう。
例えば、上記で挙げた行動をとるのは非常に困難なことでもあります。しかし、目の前の仕事をこなすだけではなく、この人事施策を通じて組織を活性化させるという意識、さらには、それを通じて業績を伸ばし、企業の社会的地位を上げるとともに社会貢献・価値創造も果たす仕事をやるのだという視界を持てるか。自分は何のためにこの仕事をやっているのか、と自分自身に常に問いかけられること。彼ら・彼女らのお話を聴いていると、その視点の高さや関心の広さにいつも驚かされます。
人事こそ「突破力のあるリーダー」であれ
経営戦略と現場の実態を両方ともに自分ごととして理解し、あってほしい現場の状態、理想のイメージを具体的に置いて、現場一人ひとりの行動変容につながるような人材開発体系や人事施策をどう設計・実行するか。
私たちは自分の役割をしっかりと自認し、他者を巻き込みながら自分の意思で主体的に動く人を「突破力のあるリーダー」と呼んでいます。配置や評価はもとより、さまざまな人材開発施策を通じて、そういうリーダーをひとりでも多く育てるのが人事の役割ですが、そのためには経営と現場をうまく巻き込みながら、人事担当者・責任者自らが「突破力のあるリーダー」になる必要があるのです。
冒頭、タイトルで掲げた『触媒』の英訳であるcatalystを辞書で引くと、「促進の働きをするもの、相手に刺激を与える人」の意だそうです。規模縮小や経費削減を告げられ、思わずうなだれたくなることもありますが、経営を立て直す、低迷期を抜けた先にある経営を創り出す主役は、現場の一人ひとり、職場そのものであるはず。その変革行動をプロデュースする施策、教育体系を企てることは、まさに人事の腕の振るいどころなのではないでしょうか。
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