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連載・コラム

連続小説 真のリーダーへの道 第7回

「運命の火消し」

  • 公開日:2017/12/04
  • 更新日:2024/03/27
「運命の火消し」

リーダーの成長には、「仕事経験から学ぶこと」が最も重要であるといわれています。
企業は自社のリーダー育成のために、リーダーの成長に必要な経験を明らかにし、そしてその経験を網羅的に積めるよう、ポジションや仕事・役割を、意図的にローテーションさせていくことが有効です。私たちはこれを「成長経験デザイン」と呼んでいます。
リーダーに必要な経験は各社さまざまで、特定するのは至難の業です。そこで弊社では、先行研究やインタビュー、これまでの支援事例などから、リーダーの成長を促す8つの経験を抽出しました(下図参照)。

この連載小説では、架空のリーダー佐々木の成長ストーリーをたどりながら、それぞれが具体的にどのような経験で、それによって何を学び、どのようにリーダーシップを形成していくのか、1つずつ紹介していきます。
第7回は、「経営者・実力者の物の考え方や覚悟に触れる経験」です。

※「成長経験デザイン」について詳しく知りたい方は、>>>特設ページ<<<をご覧ください

社運を賭けたピンチ
自分は、何を成すべきか
メンバーとの信頼関係を取り戻す
リーダーに必要な8つの経験
登場人物プロフィール

社運を賭けたピンチ

「佐々木くん、あのプロジェクトは本当に大丈夫なのか?」
「佐々木さん、このプロジェクトは本当に大丈夫ですか?」
佐々木は、今日一日で両方の言葉をかけられた。前者は社内の幹部の一人から、後者はお客様からだ。正直、自分の方が聞きたいくらいだと佐々木は思った。このプロジェクトは本当に大丈夫なのだろうか。

2016年1月、佐々木はあるプロジェクトに「火消し」役として投入された。火消しとは、うまくいっていないプロジェクトを軌道に乗せ、無事に終わらせることを指す言葉だ。グループ会社で経営を学んだ(第6回参照)後、あらためて現場でもう少し経験を積んでほしいと古巣の金融系システム部門に戻された矢先、アサインされたのがこのプロジェクトだった。佐々木はそれを知ったとき、思わず大きくため息をつき、天を仰いだ。

佐々木が入ったのは、ある金融機関のシステムを、旧式の汎用系システムからクラウドコンピューティングを利用した最新システムに置き換えるプロジェクトだった。3年で終わるはずだったが、始まって1年半が経ち、すでに500人以上のエンジニアが関わっていたにもかかわらず、予定の3分の1も進んでいなかった。このままでは期日通りに終わらないのは明白だった。それどころか、納品そのものが怪しくなっていた。百歩譲って、遅れるのは仕方がないにしても、納品できないとなれば言語道断だ。帝都システム最大のクライアントの1つを失うかもしれず、最悪、会社としての社会的信頼すら失う可能性があった。佐々木の肩に、帝都システムの命運がかかっていた。

就任から1カ月、佐々木はクライアントやメンバーと何度も話し合ってきたが、有効な打開策は見えなかった。とりあえず、プロジェクトのなかであまりパフォーマンスが出ていなかったメンバーやパートナー企業を他のプロジェクトに回し、その代わり、これまで佐々木が積み上げてきた人脈をたどって、状況を乗り越えるに足る能力を持った信頼のおけるメンバーやパートナー企業の協力をなんとか取り付け、増員した。
しかし、根本的に立て直さなければ、彼らの状況もすぐに悪化してしまうのは目に見えていた。

そうした状況のなかで、経営からもクライアントの担当者からもしょっちゅう呼び出されては、「大丈夫なのか」と詰められる日々だった。
佐々木は、思わず心が折れそうになった。こんな心境は初めてだった。都会の真ん中にいるのに、独りで孤島にいるような気分に陥っていた。プロジェクトマネジャーの力がこれほど小さいものだと感じたことは、これまでになかった。

自分は、何を成すべきか

そんなある日の早朝、佐々木は、オフィスのコーヒールームで、金融系システム部門のトップである水越に声をかけられた。
「佐々木君、早いね。例の案件、やはり大変か」
「そうですね……、現状を打開するために、なんとか手を尽くしているのですが……」
佐々木は、連日の寝不足でくぼんだ目を伏せた。水越は、マイカップにコーヒーを注ぐと佐々木に向き直り、穏やかだが太い声で話しはじめた。
「佐々木君。僕がビジネスにおいて何を第一に考えているか、わかるか?」
「……いえ、わかりません」
「僕が第一に考えているのは、自分が仕事で何を成し、誰を幸せにするのかということだ。誰というのは、当然、クライアント、その先にいるシステムを使う人、そのシステムのおかげで便利になる金融サービスを受ける人。更に、このシステムを作る自分たちもそうだ。メンバーたちや、パートナー企業。経営陣や、関連部署。私たちの株主。そして当然、自分自身もだ」

自分は、何を成すべきか

やつれた顔の佐々木に、水越は続けた。
「佐々木君、このプロジェクトの責任はすべて私が取る。君は、一人ではない。自分を責めるな。それに、君はもう採算のことは考えなくていい。僕がどうにかする。君には、この仕事で誰を、救いたいのか、そのために何をすべきかだけを考えてほしい。お客様、メンバー、そして自分のために。そして、この仕事を通じて帝都と、そこに関わる人々との信頼関係を取り戻してほしい」
そう言って、水越は、ポンと佐々木の肩を叩き、去って行った。2月の朝はまだ寒かったが、佐々木の肩には水越の体温が残った。
佐々木は、自分に問うていた。自分は、誰のためにこの仕事をするのか、そして何を実現したいのかを。

メンバーとの信頼関係を取り戻す

水越と話して以来、佐々木は自分のスタンスを大きく見直した。まず最も気を配ったのは、メンバーの心理状況を把握し、結束を取り戻すことだった。いつの間にか、プロジェクトに関わる人数は、帝都システムのメンバーとパートナー企業を合わせると総勢1000名を超えていた。遅れているプロジェクトだから、日々の残業は避けられず、皆のストレスはどんどん溜まっていった。ここまで大規模になると、中核となる帝都システムのメンバーも、なぜ毎日苦しい思いをしてシステムを開発するのかすら、しばしば見失った。意義や価値が分からないままに多忙な日々を送れば、疲弊するのは当たり前だ。この状況だからこそ、この仕事の意義、それぞれの役割の意味をあらためて思い出し、そして互いを信じ、背中を預け合える強いチームを、絶対につくらねばならない。

佐々木は、どれだけ忙しい状況であっても、毎日のようにメンバーと1on1の面談の時間をつくることにした。特に、プロジェクトを支えるリーダークラスと、彼らが今、プロジェクトに何を感じているのかを話すとともに、本人のこれからのキャリアや、この開発プロジェクトに加わることで、本人にとってどのような価値や意味があるのか、社会に対して何を実現したいのかを語り合った。更に、リーダー全員を集めた場でも、一人ひとりの思いや大切にしていきたいこと、この案件を通じて自分たちが実現したいことについて、あらためて確認し合った。地道な活動だったが、1カ月、2カ月経つと、佐々木自身も驚くほど、プロジェクトリーダーの動きが変化していた。もともと優秀な彼らは、今、何をしなくてはならないかをあらためて自ら考え、行動を起こし、自分たちのメンバーによい影響を与えていくようになったのだ。彼らが頑張るにつれて、周囲のメンバーだけでなく、パートナー企業のモチベーションも上がっていった。そして、皆が積極性を増すほど、状況は好転していった。
5月頃には、かなり、本来のスケジュールに近づいていた。水越常務の言うとおり、一番大事なのはヒトなのだ。そして、人と人との信頼関係によって、人もチームも確実に変わり得るのだ。

しかし、佐々木は、それで満足したわけではなかった。まだ火消しが完了していなかったからだ。

(最終話に続く)

メンバーとの信頼関係を取り戻す

連載第7回目の経験は「経営者・実力者のものの考え方や覚悟に触れる経験」です。
この経験はプロフェッショナルの高い視座・視点・考え方や仕事に対する覚悟・スタンスに触れる経験です。グループ会社への出向から一転、炎上プロジェクトに放り込まれ建て直しを求められる中、佐々木の試行錯誤が始まります。これまでとは異なり佐々木は帝都システムの命運を左右しかねない非常にプレッシャーの大きい仕事に取り組むことになります。
これまでの経験を活かしながら建て直しを図る中、問題対処に追われる佐々木に水越が問いかけます。そして、水越の仕事に対する覚悟に触れることを通じ、佐々木はものの見方を大きく変えていきます。
この経験を通じて学ぶ能力について、弊社が実施した調査結果からみてみましょう。
この経験ともっとも関連が強いものは、「価値観・行動指針の変容・再構築」です。
そして、「戦略を描く力」、「ビジョンを描く力」、「学び続ける意欲」など、優れた経営者が持つ要件が並びます。

メンバーとの信頼関係を取り戻す

日本企業において、「経営者・実力者のものの考え方や覚悟に触れる経験」、つまり“薫陶”経験は多くのリーダーの経験からまず間違いなく抽出されるものであり、その後の経営観や人材・組織観などに大きく影響を及ぼしていることが、インタビュー調査などからも確認できます。特に佐々木のように経営の上層部との関わりを持てる機会はそう多くありませんし、その道の実力者との接点はそう持てるものではありません。実際、経営者との接点は経営企画部や人事部などコーポレート部門でないと頻繁に接点はないでしょう。そのため、ジョブローテーションやアサインメントを工夫することによって、”薫陶“を受けられる機会を創出することが重要となります。

また、アサインメントの代替案としてOff-JTにおいて経営者や実力者との接点を生み出すことも可能です。選抜型の次世代リーダー研修では経営層との接点をプログラムに組み込むことによって薫陶を受ける機会を創出しています。そこから得られる刺激や視野の拡がりは人材育成上、非常に有意義でしょう。実際、人材育成に経営層がコミットしている場合、このような研修機会に足を運び熱心に受講者にFace to Faceで熱く語りかけている場面を目の当たりにします。ほんのひと時であったとしても、受講者の皆さんの中には大きな刺激・気づきがあると思います。

今回は以上です。次回は、ついに最終回。この社運がかかった難題を、佐々木はどのように乗り越えていくのでしょうか。ぜひ、ご期待ください。

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