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連続小説 真のリーダーへの道 第5回

「13年目、チャンスという名の左遷異動!?」

  • 公開日:2017/10/30
  • 更新日:2024/03/27
「13年目、チャンスという名の左遷異動!?」

リーダーの成長には、「仕事経験から学ぶこと」が最も重要であるといわれています。
企業は自社のリーダー育成のために、リーダーの成長に必要な経験を明らかにし、そしてその経験を網羅的に積めるよう、ポジションや仕事・役割を、意図的にローテーションさせていくことが有効です。私たちはこれを「成長経験デザイン」と呼んでいます。
リーダーに必要な経験は各社さまざまで、特定するのは至難の業です。そこで弊社では、先行研究やインタビュー、これまでの支援事例などから、リーダーの成長を促す8つの経験を抽出しました(下図参照)。

この連載小説では、架空のリーダー佐々木の成長ストーリーをたどりながら、それぞれが具体的にどのような経験で、それによって何を学び、どのようにリーダーシップを形成していくのか、1つずつ紹介していきます。
第5回は、「従来の知識・経験が通用しない状況のなかで成果を出す経験」です。

※「成長経験デザイン」について詳しく知りたい方は、>>>特設ページ<<<をご覧ください

突然、航空系システム部門に異動になった
航空業界のことを何一つ知らなかった
使えないプライドなんて、捨ててしまえばいい
外から来た自分だからこそ、発揮できる価値がある
リーダーに必要な8つの経験
登場人物プロフィール

突然、航空系システム部門に異動になった

「頼む、オレたちを助けてほしい」。「やめてくれよ。分かったから。僕にできることは何でもするからさ」。佐々木がそう言っても、石橋はなかなか頭を上げなかった。仕方がない、やってみるしかないだろう。佐々木は腹をくくった。

2010年4月、佐々木は突然、航空系システム部門に異動になった。周囲ではさまざまな噂が流れた。同僚から「お前、何かやらかしたのか?」と言われたことは、二度三度ではなかった。金融系システムは帝都システムの主流ビジネスで花形だったし、金融系システムエンジニアには専門性が求められるので、少なくとも成果を出しているエンジニアが他部門に異動することはそれほど多くなかったのだ。
当然、一番驚いたのは佐々木自身だった。佐々木は、2008年にシンガポールから帰国して以来、金融系システムのプロジェクトマネジャーとしていくつかのプロジェクトを担当し、いずれも問題なくシステム開発を完了させていた。異動願は出していないし、別に飛行機に興味があるわけでもない。異動させられるようなことをした覚えはなかった。部長には、「今回の話はチャンスだ。お前の成長につながるはずだから、全力で挑戦してこい」というようなことを言われたが、詳しい説明はされなかった。正直、部長から異動の話があった直後は、ただ戸惑うばかりだった。

部長との面談から1週間後、航空系システム部門の人事課長で、同期でもある石橋に話を聞いて、佐々木はようやく自分の置かれた状況が見えてきた。

航空業界のことを何一つ知らなかった

帝都システムの航空系システム部門は、大手航空会社・オレンジエアーの運航システムを長年担当していた。2010年、それを新型のオープン系システムに入れ替えることになったのだが、同時期に、当時スタートを切ろうとしていたLCC(格安航空会社)の各種システム開発などが舞い込んだこともあって、航空系システム部門には大規模開発プロジェクトをマネジメントできる人材が不足していたのだ。そこで佐々木が呼ばれたというわけだった。

「航空系システムの、特に運航システムが、システムダウンが許されない“ミッションクリティカル”なシステムなのは知っているだろう。だから、金融系で経験を積んだ佐々木みたいなプロジェクトマネジャーが必要なんだよ」と、石橋は説明した。その話は筋が通っている、と佐々木は思った。システムダウンがビジネスに直撃する代表的な業種が、銀行と航空会社だ。共通するのは、システムトラブルが大きなニュースになってしまうことだ。銀行の勘定系システムやATMシステムがダウンしてしまい、一定期間お金が引き出せなくなったら、間違いなく新聞やテレビで取り上げられることになる。システムトラブルで飛行機が飛ばなくなったときも、同じようにマスコミに注目される。そして、多くのお客様からの信頼を失ってしまうだろう。だから、どちらのシステムも絶対にトラブルを起こさないような開発・運用手法を取らなくてはならない。確かに、その点では、銀行系システムをいくつも手がけてきた佐々木にはノウハウがあった。

しかし一方で、佐々木は航空業界のことを何一つ知らなかった。これは大きなビハインドだ。ITシステム開発には、システムを開発する業界の「業界知識」が欠かせない。その点は石橋も心得ていて、優秀なコンサルタントやプロジェクトリーダーなどを付けて、最大限バックアップすることを約束してくれた。しかし、佐々木は入社13年目で、初めて金融系システム部門を出たのだ。不安を感じるなという方が無理な話だった。

使えないプライドなんて、捨ててしまえばいい

プロジェクトマネジャー就任から1週間、佐々木はまさしく葛藤の渦中にあった。これまでの成功体験と自信を捨てて、新たな仕事に臨むのは簡単ではなかったのだ。プロジェクトメンバーから、「佐々木さん、それは金融の考え方ですよ」と、苦笑交じりに指摘されるたび、嫌な気持ちになった。

佐々木は、早速オレンジエアーの担当に挨拶に赴いたが、先方は、佐々木に航空業界の業務知識がないことを知ると、みるみる落胆した表情になった。無理もないことだった。事前に「経験豊富で優秀なマネジャーをアサインする」とふれこまれており、必要以上に期待値が高まっていたのだ。

自分が今までやってきたものは何だったのか、自分は果たして価値を発揮できるのか……。佐々木は悔しさと不安が入り交じる気持ちに耐えかね、信頼できる先輩マネジャーたちに相談して回った。彼らのなかには、佐々木と同じような立場に立たされた者が多かった。先輩は口をそろえて言った。「お前が、頭を下げられるかにかかっているよ」

佐々木は、あらためて自分を振り返り、思案した。「確かに、ここで無駄なプライドをかざしても、何一つ好転しないだろう……。今の自分にできることは、現地現物の知識を一分一秒でも早く身に付け、価値を発揮することだ」。佐々木は、腹をくくることにした。まずは、オレンジエアーの担当に頭を下げ、2週間、同社の本社と空港に張りついて、そのシステムと業務を細かく見て回らせてもらうことにした。

更に、佐々木は、プロジェクトメンバーたちにも、あらためて頭を下げた。彼らの「地の利」を生かすことにして、プロジェクト内での権限移譲を積極的に進めたのだ。現状分析やシステム企画に関しては、ITコンサルタントの齊藤を中心にチームを組み、彼らを信頼し、背中を預けると決めた。また、プロジェクトリーダーのなかから、当時気鋭の若手と評判だった関口を副マネジャーに抜擢し、開発実務のマネジメントは関口に任せた。彼は、生意気な口調で突き上げてくるが、優秀だった。こうして、業務知識が必要な部分は、佐々木の方からプロジェクトメンバーにどんどん頼っていったのだった。佐々木は、必死だった。

使えないプライドなんて、捨ててしまえばいい

外から来た自分だからこそ、発揮できる価値がある

やがて、佐々木は石橋から最も期待された部分、つまり絶対にトラブルを起こさないような開発手法、開発マネジメントの面で力を発揮した。開発を進める上での原則や、してはならないことを明確に定め、それらを守ってもらうことに腐心した。その上で、ミッションクリティカル・システムの開発だからこそ、そうした細かなルールにこだわる必要があるのだということを、ことあるごとにメンバーに説明した。佐々木の姿勢は一貫して筋が通っていたから、最初こそお手並み拝見という雰囲気だった現場も、ほどなく一致団結しようという向きへと変わっていった。面倒なルールを嫌がるメンバーはいても、佐々木のマネジメントを疑うメンバーはいなかった。

オレンジエアーの情報システム部の面々も、佐々木が大規模なシステム開発にいくつも携わってきた経験を生かしながら、迅速で的確なプロジェクトチーム体制をつくり進行していく様を見て変化していった。何よりも本気で取り組もうとしている姿に、少しずつ佐々木を信頼し始めていった。

佐々木の積極的な行動やひたむきな姿勢が功を奏して、プロジェクトは無事軌道に乗り、大きなトラブルもないまま成功裏に終わった。
佐々木は、あらためて手応えを感じていた。未知なる案件に対しても、きっと乗り越えていけるという自信が、自分のなかで芽生えているのを感じた。

その後、石橋には会うたびに感謝されたが、佐々木は、自分の方こそ、金融業界に偏らずに力を発揮できるようになるための、貴重な経験をさせてもらった……と感じていた。

HRDコンサルタントの解説

連載第5回の経験は「従来の知識・経験が通用しない状況のなかで成果を出す経験」です。
この経験はこれまで身に付けてきた知識やスキルが通用しない状況に置かれながらも逆境を乗り越え成果につなげていく経験です。
佐々木は海外転勤を経験しながらも、十数年間、一貫して金融系システムでキャリアを積み上げてきました。金融系システムのプロジェクトリーダーとして一人前になったところで畑違いの航空系システム部門に青天の霹靂で異動になります。上司の送り出しの言葉も腹落ちせず、戸惑いながらも新天地での仕事に取り組み始め、逆境を乗り越え成果に結び付けていきます。
さて、この経験におけるポイントは何でしょうか。それは“アンラーニング”です(人事部門で人材育成に携わっていらっしゃる皆さまにはおなじみの用語かと思います)。

外から来た自分だからこそ、発揮できる価値がある

アンラーニングは「学習棄却」「学びほぐし」と和訳され、一度学んだことを意識的に捨て、学び直すことを指します。佐々木の場合は、金融流の仕事のやり方に固執せず、一度ゼロベースで航空システムの仕事を学び、自分が培ってきた力を生かしながら、新たな方法を発想し実行したことです。
アンラーニングは言うは易く行うは難しで慣れ親しんだやり方、持論を捨てることはなかなかできることではないのですが、環境変化を察知し、適応していくことが求められる昨今のリーダーには不可欠な取り組みといえます。
また、興味深いのは、リーダーに必要なコンピテンシーと必要な経験に関する調査を行ったところ“他者の力を引き出す”コンピテンシーとの関係性が強い(経験を通じて獲得されたと認識されている)結果となりました。あくまで推察ですが、本エピソードの佐々木のように、自分ではできないことを素直に認め、いかにメンバーの力を生かして目標を達成するかを考えるきっかけとなっているのかもしれません。リーダーにとって非常に重要な力を開発する貴重な機会になっていると捉えることもできそうです。

最後となりますが、本エピソードで佐々木は上司の説明に戸惑ったまま着任しています。しかしこれは見直さなければならない点です。玉突き人事から脱却し、意図的な経験付与をするのであれば、
・本人への事前の意図・期待を丁寧に説明する
・受け入れ先の上司と佐々木の成長課題を引き継ぎ、育成プランに反映する
ことによって数少ない機会を確度高く生かしていかなければなりません。
今回は以上です。

次回は、「ヒト・モノ・カネをマネジメントする経験」です。遂に佐々木は帝都システムを飛び出します。どんな困難が佐々木を待ち受けているのでしょうか。ご期待ください。

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