RMS Messageが探索した個と組織の新しい関係 人材マネジメントの10年を振り返る

執筆者情報
経営企画部
シニアスタッフ
荒井 理江

機関誌「RMS Message」は、リクルートマネジメントソリューションズが設立した2004年から発行を開始。2018年5月発行号にて50号を迎えた。そこで人材マネジメントの過去10年の歩みを、「RMS Message」の歴代の特集テーマと共に振り返りたい。

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人事としてのフィロソフィー転換を模索

ちょうど10年前の2008年、ディビッド・ウルリッチ氏の日本語訳書『人事が生み出す会社の価値』(日経BP社)、続いて2010年『人事大変革』(生産性出版)が出版された。バブル崩壊後の守りの人事から、「戦略人事」への変革の重要性が主張され、戦後より受け継いできた日本企業の人材マネジメントにおける三種の神器のリストラクチャリングが行われてきた頃である(図表1)。

しかし、成果主義人事へのシフトが進む一方で、組織の意欲低下やメンタルヘルス不全、コンプライアンスなどの問題も顕在化。改めて人の意欲や人間らしさへの回帰が主張されていた。ちょうど、ダニエル・ピンク氏『モチベーション3.0』(講談社)の訳書が出版され注目を集めたのも2010年である。

本誌「RMS Message」においては、2010年に「人事の役割3.0」(22号)と題し特集を組んだ。人事のあり方について、高橋俊介氏は、いわゆるルーチン・実務人事、火消し人事としての「人事全般」、賃金構造を見直す、年金倒産を防ぐといったインフラ人事を「経営人事」、経営の目線で、中長期的にどのようにして他社との差別化を図り、優位性を作るのかという戦略目線に立って進める人事を「戦略人事」と分け、人事は戦略人事を目指すべきと説いた。一方、野中郁次郎氏は、人事が「戦略企画部門の下部組織」のようになり、「制度を構築し、ツールを開発する制度志向の人事へと変質した」こと、その流れの行き着く先は「非生産的なゲーム」の助長だと指摘。人を「人的資源」として見る資源ベースの人事から、人間の主観や価値観をベースにした知識ベース、「“思い”ベースの人事」への転換(MBB〈Management by Belief〉=「思いのマネジメント」)の重要性を説いた。ダニエル・ピンク氏への取材では、モチベーション2.0に基づく賞罰のマネジメントではなく、人を信じてその自律性をみとめ、目的を共有しながら成長を促す3.0のマネジメントを推奨しつつも、実行は決して簡単なことではなく、その実行のためには管理職や人事が、経営と従業員の間の信頼関係を築いていく役割を担うことが重要と語られた。

グローバル進出による企業の優位性の問い直し

一方、リーマンショック後の2010年初頭以降、企業各社が海外進出を加速したことにより、人事の関心はグローバルHRMへも注がれた向きがある。

グローバル横断でのタレント・マネジメントや次世代リーダーの選抜・育成、マネジメントの現地化、海外拠点間の知識移転のあり方、そしてグローバル横断での理念浸透といったような観点から、グローバルHRMのあり方は活発に議論された。本誌では、24号25号(2011年)と30号(2013年)に、グローバル人材マネジメントに関する特集を企画した。24号では、企業5社、識者2名へのインタビューを通じて、企業はグローバル展開によって自社の競争優位性を問い直されるのであり、人事は、優位性を実現できる人・組織を再考の上で、それを生み出すグローバルHRMを検討すべきとの示唆を得た。続く25号では、進出先の海外市場で自社の優位性を発揮するリーダーたちを紹介。30号では、海外現地拠点の人・組織マネジメントについてアジア3カ国の現地拠点の事例を紹介した。

それらの事例でも言及されたが、現地法人のマネジメントにおいて欠かせないのが、現地の優秀な人材の獲得である。早稲田大学大学院教授の大滝令嗣氏は、欧米企業と日本企業にはエンプロイヤー・ブランディングに明確な差がついていることを指摘。慶應義塾大学大学院教授浅川和宏氏は、日本本社の中央集権的なあり方が、人材や知見の獲得や還流を妨げ、グローバルでの企業経営を非効率にしてしまうリスクがあるなか、多くの日本企業は分権化・ダイバーシティ化の方向にならざるを得ない、と語った。浅川氏曰く、そうした状況において参考になるのは、例えばネスレのように、積極的なグローバル展開を行いながらも、1つの会社として統合を果たしている企業だという。

グローバル展開により多様化する社員を統合していく楔となるのが自社のビジョンや理念である。本誌では、「経営理念」について「経営理念の実学」(29号)と題し2012年に特集した。堀場製作所、ブリヂストン、デンソーといったグローバル企業における経営理念浸透の事例を紹介しながら、多様化と変化にさらされていく企業組織において、その強さを保ち続けるための長期的投資として、経営理念浸透への不断の努力が重要であることを再確認した。

産業変化とイノベーション組織

また、この10年は新しい産業構造へのシフトも顕著だったといえるだろう。ビッグデータ、AI、ロボットなど技術の急速な発達は、社会や産業に多大な影響を与えた。2012年に実施された経済産業省「フロンティア人材研究会」の調査報告*によれば、企業が今後力点を置くべき事業分野を、既存事業と回答した企業はわずか約25%。企業の多くが新規事業に注力し、その流れはHR領域にも及んだ。イノベーションを創出する人材や組織づくりといったテーマで、組織の構造改革から人材の育成、オープンイノベーションの促進など外部の人材・知識資源の活用にも関心が向けられた。

*「新規事業創造と人材の育成・活用に関するアンケート調査」(経済産業省, 2012)

先進事例としては、GE(ゼネラル・エレクトリック)では、『リーン・スタートアップ』の著者、エリック・リース氏の監修を得て、将来予測が不確実な21世紀において経営や開発のスピードを速める指針として“Fast Works”を掲げ、イノベーションを生み出すための組織づくりを展開。コンピテンシーによる静的・固定的な人材評価も撤廃し、No Ratingというキーワードに代表される、丁寧なコミュニケーションを軸とした即時的かつ柔軟なパフォーマンス・マネジメントへのシフトが注目を浴びた。その他にも、例えば官僚組織化を防ぎ環境変化に迅速に対応できる組織にしたいという観点から、固定的な組織構造を廃した「ホラクラシー」への関心など、イノベーティブな組織への変革は改めて注目されてきたといえる。

本誌では、2015年に「新しい価値を生み出す人・組織づくり―人事は何ができるか―」(40号)という特集を企画。強固な野村イズムをもちながら、オープンイノベーションへと一歩を踏み出した野村證券、1954年から「三新活動」のもとイノベーションを生み出し続けてきた日東電工、新規事業提案制度を軸に新価値創造と経営者育成を同時に実現するソフトバンク(SBイノベンチャー)、「専業禁止」を掲げたエンファクトリーの4社を取材。改めて確認できたことは、新価値創造に向けて、いかに人と組織の自発的な探索活動の芽を摘まずにいられるかが重要ということである。

そのためにとられてきた人・組織マネジメントの方法には、例えば既存事業組織と新規事業組織の切り離し、そして意識・風土の改革が挙げられる。編集部が人事担当者に対して行った「新規事業創造に関する人事の実態調査」では、新規事業の種である新しいアイディアを創出する妨げになるものとして選択率が高かったのが、「社員の関心・力量」次いで「組織の風土・体質」であった。

個人が本来の自発性を保ち、思わず挑戦したくなる組織とは

「社員の関心」「組織の風土」といったものについて、どこからどのように変えていくべきかは難しい問いである。例えば、自律的な新価値創造への内発的動機をどのように高めていけばいいのか。本誌では、特集「大企業病にならない 組織における自律と規律」(41号)において、人を管理で縛らず自律性・自発性を保てる組織づくりに焦点を合わせた。「顧客満足と利益の両立」という目標以外は現場の自主性に任せるマネジメントを行ってきた星野リゾート、20年かけて自律的組織へと風土改革を行ったテルモ、理念の下で自由な商品開発を実現してきたワークスアプリケーションズを取材。また、組織論の第一人者・首都大学東京大学院教授桑田耕太郎氏は、「不要なルール」が自律性を阻害すると指摘。究極は組織の理念が明確に社員の心中に存在していることが重要であり、それ以外の人の自律性を阻害する規律やルールは最小限にすべきであると説いた。チームワークをはじめとした組織心理学の第一人者である九州大学大学院教授山口裕幸氏は、人の主体性を高めたいのであれば「失敗を責めないこと」が重要と語った。

失敗を承認することが、人の新しい挑戦や学習の背中を押すことは間違いないだろう。この10年、本誌でもそのような企業組織を幾度も紹介してきた。例えば、特集「組織コミットメント〜滅私奉公ではない帰属のあり方〜」(38号)では、エー・ピーカンパニーの、マニュアルのない自走する組織を支えてきた失敗を共有する取り組み、特集「大人の『学ぶ力』は高められるか」(37号)では、リスク回避の文化を、オープン・オフィスや部門横断プロジェクト活動、チャレンジを評価する制度の工夫などを通じて変革したマース ジャパン リミテッドの事例を紹介した。

失敗しても大丈夫だと思えるような、個人と組織・経営の間の信頼関係を生み出す重要な人材マネジメント上の取り組みの1つが、「評価」である。特集「心理学からみる人事評価」(45号)では、評価制度の肝として重要なのは「自分をきちんと見て、理解してくれている」という信頼を土台とした納得感があるかどうか。その感覚が被評価者の意欲を高め、次なる挑戦に前向きになっていくことが確認できた。

また、介入手法としての「組織開発」が注目を浴びたことを受け、26号 特集「マネジメントに生かす『組織開発』」では、誰もが考え自発的に行動する「学習する組織」の作り方なども紹介。自律と協働のなかで、創造性を発揮していく組織づくりの鍵を探索した。

大きな組織目的や理念というフェアウェイを心に抱いてもらいながら、その実現に向けて新たな挑戦や変革への一歩を引き出す組織を作れるか。人材マネジメントの力量が問われる問いである。

働くことの意味の再考 自分らしく幸せに生きる働き方とは

新産業・技術が盛り上がる一方で、国内の労働人口減少による人材確保への危機感がますます高まり、女性のM字カーブ是正、シニア人材の活躍推進なども、議論が現実味を帯びた10年でもあった。

個人の働き方への意識についても、柳川範之氏の『日本成長戦略40歳定年制』(さくら舎、2013年)やリンダ・グラットン氏の『ワーク・シフト』『ライフ・シフト』(プレジデント社、2012年・東洋経済新報社、2016年、共著)が注目を浴びるなど、生き方、働き方を見直す主張も改めて衆目を集めた。

不確実な環境のなかにおいては、特定の専門性を獲得するだけでなく、リカレント教育など「学び直し」や、「アン・ラーニング」によって変化する環境のなかで自分自身を柔軟に変化させていく働き方も注目された。また、不安定な雇用環境のなかで複数の収入源をもつという意味だけでなく、多様な自分を生かす・伸ばすという意味でも、副業・兼業、プロボノなどへの関心が高まった。2018年は「副業元年」とも呼ばれている。バウンダリーレスキャリア、プロティアンキャリアといった言葉が、1990年代後半以降に提唱されてきたが、それらがいよいよ現実味を帯びて再認識されてきた10年だったともいえるかもしれない。

なお、こうした働き方の議論は、人にとっての労働そのものの意味を考えさせるきっかけとなった。世界的な経営学会であるAOM(Academy of Management)の2016年のテーマは「Making Organizations Meaningful」。企業組織が、社会にとって、または人にとって意義深い存在となっていくために、何ができるかを考えるセッションが多数開催された(学会レポート「Academy of Management(米国経営学会)2016参加報告」)。社会、個人にとって働く意味は何か。幸せな働き方とは、ひいては生き方とは何なのかを問い直す世論が、世界的にも高まっていった感がある。

そうした流れのなか、多様な人材が活躍できる人材マネジメントのあり方とはどうあるべきかについて、本誌では、2013年に、「『専門』正社員と『自由』正社員」(32号)と題し、新しい正社員のあり方を提唱した。また、多様な人材が活躍するためには、長時間労働を前提とした固定的な働き方を脱する必要がある。労働時間に関する議論の盛り上がりを受け、2017年に「長時間労働―時短議論の、その先へ。」(46号)を特集した。

柔軟に学び続けられる組織と個人の形とは

また、時間的制約から解放されたとして、労働環境が変化する以上は個人が学び変化し続けなければ、働き続けることはできない。44号(2016年)では「『越境』の効能」と題して、人々が意図的または偶発的に「越境」する体験を通じて受ける影響について特集し、NPO支援という社員の越境活動を支援するパナソニック、一度退職しても6年間は戻ってこられる制度を作ったサイボウズの事例などを紹介。企業側の動機はA&Rやイノベーション創出などさまざまだが、個人にとっては、それまでの固定概念や視界・価値観の狭さを取り払い、新たな学びやネットワークの獲得、また現状の仕事機会の捉え直しや腹くくりを促進する効果があるようだ(図表2)。

これらの効果を獲得する上で重要なのは経験からの学びであり、それはメタ認知の能力を必要とする。先にも紹介した「大人の『学ぶ力』は高められるか」(37号)では、大人のメタ認知能力の向上方法にも言及した。いかに己の個性や状態を知り、日々の経験から学び取っていくサイクルを自ら回していけるかについては、探求の余地が大きい。

「人」を中心にしたユニバーサルデザインの人材マネジメントへ

近年は、HR Techといってテクノロジーを用いて人材マネジメントを効率化、または精緻化する手法の探索も促進されつつある。特集「研修効果を高める 実践につながる研修デザイン」(43号)では、人の学習効果を高める要因を、定量データを用いて分析した結果なども紹介してきた。データやテクノロジーが、既存の手法にとらわれず、多様な人材のマネジメントや学習を助ける新しい方法を生み出しつつある。なお、本誌編集部が人事担当者に行った調査「人事の専門知識・スキルに関する意識調査」(2012年)によれば、人事として今後学んでみたいものとして「心理学」が最も多く選ばれるなど、心理学や心理統計データについての関心も高い。一方で、手法が発達するほど、扱う側の軸となる思想が何かを問われるのも確かだろう。

残念ながら、この10年で、個人と組織の新しい関係について明確な解を出せたとまではいえないように思う。神戸大学大学院経営学研究科准教授の服部泰宏氏は、日本的人材マネジメントを手放し成果主義人事へシフトしたものの、その導入が困難を生んだ理由として、「多くの日本企業が、『個人との間にどのような関わり合いを結ぼうとしているのか』という点について、明確なメッセージを提示することができなかった」と論じている(図表3)。

本誌では2017年、ショルダータイトルに改めて「『個と組織を生かす』を探求する」と掲げ、個と組織のあるべき関係性を模索した。個人が自分らしく働くとはどんなことかを考える「職場での『自分らしさ』を考える」(47号)、個人が自分らしくふるまえる組織のあり方としての「組織の成果や学びにつながる 心理的安全性のあり方」(48号)、個性あふれる個人と組織の働く機会やポストをつなぐ接点となる「適材適所 偶発をデザインする」(49号)を、それぞれ特集した。

人とは、元来多様なものである。オーセンティシティなども着目されつつあるなかで、改めて個人があるがままにその個性や能力を開花させ、組織はその土壌を生み出し、そして個性が生きる個人と組織の接点を、発想豊かにデザインすることができるか。多様な人材に活躍してもらわなければ、企業が存続すら難しいとなれば、1つの枠組みで管理をしようという思想をいよいよ手放し、企業の思いに共感して共に働きたいと思う、多様な人々が輝けるユニバーサルデザインの人材マネジメントが必要なときだろう。


※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.50 50号特別企画「個と組織を生かす 人材マネジメントのこれまでとこれから」より抜粋・一部修正したものである。
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