国際的な経営学のトレンド Academy of Management(米国経営学会)2016 参加報告<前編>

執筆者情報
組織行動研究所
所長
古野 庸一

AOM(Academy of Management:米国経営学会)の第76回年次大会が、カリフォルニア州アナハイムで5日間(8月5日〜9日)にわたって、開催されました。

<前編>では、大会テーマである、企業組織や個人の仕事における「meaningful(意味のある)」を考える潮流と視点について、<後編>では、「社会」と「会社」、仕事の「意味」と「成果」をつなぐヒントとなる研究発表からのいくつかの示唆を紹介します。


大会概要

今年のテーマは、“Making Organizations Meaningful(組織を意味があるものにする)”で、テーマに沿ったセッションも多く設定されていました。ペーパーセッションといわれる論文発表のセッションを中心に2141のセッションが催され、88カ国1万人を超える参加者が集まりました。発表者の半分は米国からですが、逆に半分は欧州やアジアからの米国外からで、国際的な学会であることが改めて確認されました。

以下、印象に残ったセッションについて述べていきたいと思います。

意味のある組織、意味のある仕事

今大会のキーワードである「meaningful(意味のある)」に関連するセッションは、284にのぼり、関心の高さがうかがえます。どういう組織や仕事も、意味があるといえば意味があります。どちらも解釈次第で、意味がある組織、意味がある仕事ということができます。あえて、「meaningful」という言葉を大会テーマに使うからには理由があります。

ベースには、地球環境問題があります。不必要な成長は限りある資源を枯渇させる可能性がありますし、温暖化や異常気象につながります。また、先進国においては、十分に豊かになったにもかかわらず、人々が必ずしも幸せになっているわけではありません。そういう文脈において、経済的な成長が万能な時代ではないということです。

資本主義社会において、利益をあげ続けなければ、ビジネスは継続できません。それゆえ、学問としての経営学の焦点も、いかに業績をあげ続けるかを扱ってきました。企業が利益をあげることの重要性は変わりありません。しかしながら、企業が限りある資源を利用するという観点で、なぜそのビジネスを行っているのかということを問われるようになりました。

そういう意味で、世界にとって意味があるのかないのかということが、経営学的にも社会的にも、より求められるようになりました。企業が単に利益をあげるだけではなく、社会的責任も果たさなければならない、つまり、CSR(Corporate Social Responsibility:企業の社会的責任)が求められていることと同じ文脈です。特に、リーマンショック以降は、自社だけが利益をあげればいいということに対して、社会的に冷たく見られる傾向が強くなりました。自社だけではなく、社会にとっての視点、あるいは利他的な視点へシフトしていくことが世界的な潮流になってきているといっても過言ではありません。

多くのセッションで、経営学そのものも単に企業が業績をあげるためにどうするのかという視点から、より良い世界を作っていくためにどうするのかという視点に変わる必要があるということを、オットー・シャーマー(Otto Scharmer)やジム・ウォルシュ(James P. Walsh)などの著名な経営学者がまじめに議論していました(Session 711:Making Organizations Meaningful- Rethinking Management around Dignity and Well-beingなど)。より良い世界という場合には、人間にとって良いという話と地球にとって良いという話、どちらも含まれます。人間にとってという意味で使われるときには、人間として威厳が保たれているのか、あるいは幸福(well-being)につながっているのかというような観点です。また、地球にとってという意味で使われるときは、資源の有限性の話だけではなく、自然や動物に悪影響を及ぼしていないだろうかという観点です。

そういう観点で、組織は意味があるのだろうか、あるいは、一人ひとりの仕事は意味があるのだろうか、ということがより問われるようになってきたということを、大会を通して実感しました。

自己実現から自己超越へ

意味がある仕事(meaningful work)ということに関連して、「calling(以下、コーリング)」という概念が再注目されています。キャリア関連のセッションにおいて、しばしばコーリングをめぐって議論されていました。コーリングは、日本語では「天職」「召命」と訳されますが、古くからある概念です。少なくとも16世紀には存在していた概念で、当時、神から与えられた才能を活かして働くことが個人の責務と捉えられていました。しかし、現在においては、神の存在や宗教性は薄れており、職業や仕事を語る際の用語として扱われています。コーリングの定義は諸説ありますが、セッションでよく取り上げられたディックとダフィ(Dik&Duffy,2009)の説によると、コーリングとはある目的や意味のあること(meaningfulness)へ導かれる感覚であり、個人を超越した召命で、また、それは利他心によって動機づけられていると定義されています。

マズローは、欲求5段階説において、「自己実現」という概念を最も高次の欲求と置きました。よく知られた概念ですが、その後、マズローは、さらにもう1つ上の段階があると提唱しました。「自己超越(self-transcendence)」です。自己実現は、自分のなかにあるものを表現したいという欲求ですが、自己超越は、自分のためにではなく、もっと大きな何かのために活動したいという欲求です。他者とつながっており、自分の外にいる誰かのために何かを行うという欲求と言い換えてもいいかもしれません。今回の大会でも、多くのセッションで、「自己超越」という言葉は使われていました(Session 866:Meaningfulness of Workなど)。単に自分だけのために働くのではなく、社会のために働くという概念が世界的に広がりつつあるということを実感しました。

日本において、「その仕事は天職だ」というような文脈で使うように、「天職」とは、単に自分にとってその仕事が合っているという意味合いで使うこともありますが、それに加えて、「天職(コーリング)」には、社会にとって、まさに自分がその役割を与えられており、それを自分のためにというよりも社会のために行いたいという意味合いで、各セッションにおいて使われているとの印象を受けました。自分がやりたいことをやるというよりも、社会から自分に求められているものを感じて、それを行うことがコーリングの意味するところです。

社会のための仕事をしているという感覚、あるいは会社が社会的責任を果たしているという感覚が、有意味感(mindfulness)を促進し、その結果、会社の業績を高めているという調査研究もありました。日本人にとっては、「働く」とは「傍(はた)を楽にする」ということであり、自分のために働くというよりも、まわりの人のために働くという感覚をもっている人が多いことを考えると、他の先進国の仕事観と日本の仕事観が揃ってきたというふうに捉えてもいいのではと感じました。

従業員がコーリングの意識をもっていると、幸福度が高く、仕事満足度が高いという研究もありますが、企業も、そのことでさまざまな恩恵を受けます。例えば、コーリング意識をもっている従業員は、経営に対して、前向きな提言を行う頻度が多くなります。そもそも、コーリングの意識が高い人は、その会社が行っている社会的な意義に共感して入社しており、その目的やビジョンを実現するために、あえて経営に提言していくという構図です。経営にとっては、積極的な従業員の意見は、現場の声を活かした改善につながり、うれしい声です(Session 1156:Proactive Career Behaviors)。

また、コーリング意識を強くもっていると、イノベーションが促進されるという研究発表もありました。コーリング意識は、先述したように、自分のためというよりも、社会のために働くという意識ともいえます。加えて、コーリング意識は、自分の使命を感じながら働いているわけですから、外からの動機づけはあまり必要とせず、内発的動機を促進する要素をもっています。良い社会にするための内発的な動機で行動するということは、社会がよくなるための新しいサービス、商品を生み出すことにつながります。つまり、イノベーションを促進させることになります(Session 1156:Proactive Career Behaviors)。

一方で、コーリング意識が強すぎてしまうと、どうしても献身的になり、自己犠牲を伴い、長時間労働につながるケースも多くなります。そうすると、自らの健康を損ねることも観察されています。滅私奉公して体を壊すということです。そのような難点は、個人にとっても企業にとっても望ましくありませんので、そのようなリスクがあることを個人も組織も知っておいた方がいいでしょう(Session 1961:Prosocial Behavior)。

自分にとって高すぎるキャリア目標をもつと、うつ病になる

テキサス大学のシャードローら(Thomas Shardlow & Peter M. Madsen)の研究において、高いキャリア目標(career aspirations)をもつことは、収入あるいは社会的な地位という観点で、より高い業績をあげていることが分かりました。一方で、高すぎるキャリア目標をもち、それが得られなかったときに、うつ病にかかる確率が高いことが確認されました(Session 2031:Career Ambition and Motivation)。

シャードローらは、ウィスコンシン州の高校を1957年に卒業した10317名の縦断調査を分析しました。具体的には、1957年と1975年に得られたキャリア目標に対して、1992〜1993年に得られたデータを照合し、分析を行いました。1975年のデータは、被験者は36歳前後であり、1992〜1993年は53歳前後です。

この研究から示唆されることは、高いキャリア目標をもつことはリスクが大きいということです。高いキャリア目標をもつことで、高い収入や社会的地位を得られる確率を高めることができます。一方で、目標に達成しなかった場合には、うつ病を発症してしまうリスクがあるということです。自分の能力に合わない、高すぎるキャリア目標をもたないようにするということが処方箋です。しかしながら、若い頃には、自分の可能性や能力に関して、冷静に評価することは難しいことです。それゆえ、メンターになるような人々や信頼できる人材会社のアドバイザーやキャリアカウンセラーから、冷静な評価を得る習慣を身につけ、数年に一度は自分を見つめなおす作業を行った方がいいでしょう。この研究は、キャリア目標とその利点とリスクについて分析した研究で、それまでにあまり手をつけられていなかった観点で膨大な人数を縦断的に分析した研究という点で、画期的な成果といえるでしょう。

ワークライフバランスは世界共通問題

キャリアにカテゴリーされたセッション群のなかで、メインテーマの1つは、「ワークライフバランス」です。日本でも働き方改革が進められ、他の先進国の研究は気になるところです。

ワークライフバランスの研究を長年行ってきたグリーンハウス(Jeffrey H. Greenhaus)のセッションでは、仕事と家族、仕事と生活上の意思決定の話がされていました(Session 1269:Careers Division Plenary:Making and Family Work)。意思決定には、「昇進をすべきなのか」あるいは「転勤をすべきなのか」という大きなものから、「今日、遅くまで働くのか」「週末に仕事を持ち帰るのかどうか」「大事な会議と子どもの病気が重なったときにどうすべきだろうか」という小さなものまであります。

日本でも、女性の社会進出が進むにつれて、同様の問題が起こっていますが、女性の社会進出が日本よりも数十年も早かった欧米でも、同じ問題が起こっており、それがまだ十分に解決されていないということに意外な印象を受けました。

賃金を得る仕事の有償労働と家事、育児、介護あるいは地域活動やボランティア活動などに割り当てる時間を夫婦だけで捻出するのは難しく、祖父母や親戚、勤めている企業、家事や育児の民間サービス、コミュニティや公の機関などで分担するしかありません。そこには魔法の杖が存在しないことが分かります。近年では、技術の発達により、在宅におけるリモートワークが現実的になり、家事ロボットにより家事の負担低減の可能性は広がっています。

しかしながら、経営学の学会ということもあり、勤めている企業の努力が強調されていました。いわゆるファミリーフレンドリーの施策です。ファミリーフレンドリーであればあるほど、社員の採用や引き止めには有利ですし、企業への忠誠心を高めることに成功していることが研究で示唆されています。そこでは、単にファミリーフレンドリー制度があるというよりもそういう組織文化をもっていることが重要となります。短時間勤務やフレックスタイムの制度があったとしても、家の事情で遅く出社することや早く帰社することに対して、消極的な雰囲気がある職場であれば、ワークライフバランスの実現は難しいということでしょう。そのことは、日本だけの話ではなく、欧米でも同じであるということで、ワークライフバランスの問題は、世界共通の問題であることを改めて認識しました。

また、ワークライフバランスを語る際に、「ワークとライフは分離すべきなのか、統合して扱う方がいいのか」あるいは「ワークの充実とライフの充実は、両立できるものなのか、相反するものなのか」という話題も取り上げられていました。学者間での議論では、ワークとライフは分離するものではなく、うまく融合、統合した方が、双方の充実が得られるという考え方が優勢でした(Session 926:Establishing Meaningful Careers)。

次回、<後編>では、「社会」と「会社」、仕事の「意味」と「成果」をつなぐヒントとなる研究発表からのいくつかの示唆を紹介します。

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