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【特別座談会】SELF SHIFT ideas 〜学びは「自己」の時代へ〜

選択型研修制度にはどのような可能性があるのか?

  • 公開日:2019/11/11
  • 更新日:2024/04/04
選択型研修制度にはどのような可能性があるのか?

最近、「選択型研修制度」を採用する企業が増えてきています。選択型研修制度とは、公開型研修のなかから、希望者が自分の受けたいテーマやレベルの研修を選択し受講できる制度です。自己啓発支援などの福利厚生の一環として導入されるケースが多く、最近では階層別研修と共に人材要件と密に連動を図る戦略推進型の施策検討も進んでいます。しかし、選択型研修制度にどのような可能性があるのか、どのような意味・意義・効果があるのか、疑問を感じている方も少なくないでしょう。そこで今回は、2018年から選択型研修制度を始めたFWD富士生命保険様の事例をご紹介します。CHROオフィスで制度を立ち上げた山下真里子氏(写真左)、その制度を利用して、リクルートマネジメントスクールの「探究型読書術」を受講した今村光一氏(写真中央)、「探究型読書術」講師・橋本英人氏(写真右)の特別座談会です。

対談メンバー
●山下 真里子氏(FWD富士生命保険株式会社 CHROオフィス アシスタントマネジャー)
●今村 光一氏(FWD富士生命保険株式会社 コンプライアンス部 マネジャー)
●橋本 英人氏(リクルートマネジメントスクール 仕事に活かす「探究型読書術」 講師 〈株式会社編集工学研究所 研究員〉)

挑戦する風土を醸成するために選択型研修制度をスタート
「探究型読書術」は周りに話したくなる研修だった
読書が旅行に似ていると知ってから読書がもっと楽しくなった
「自ら問いを立て探求力を磨く」「成果を周囲に還元する」 今回のような事例がいくつも出たら制度導入は成功

挑戦する風土を醸成するために選択型研修制度をスタート

――まず、なぜ選択型研修制度を導入したのでしょうか?

山下:2017年、私たちはアジアで急成長を遂げているFWDグループに加わり、FWD富士生命保険となりました。このタイミングで研修制度を一から立ち上げることになり、その一環として2018年からマネジャー限定で「選択型研修制度」を導入したのです。リクルートマネジメントスクールの「3時間研修コース」のなかから、1コースを自由に選んで受けてもらう仕組みです。

挑戦する風土を醸成するために選択型研修制度をスタート

制度導入の背景には、マネジャーを中心として、社員の主体性やチャレンジする姿勢を高めたいという想いがあります。私たちは、FWD富士生命を、いわゆる「漠然と将来の不安に備える保険」とは一線を画した「『今を思いっきり生きるためのエネルギーとなる保険』を目指す、チャレンジャーブランド」と位置づけています。チャレンジャーブランドである以上、誰よりもまず、自分たち自身が挑戦しつづけなくてはなりません。社員一人ひとりが、今まで以上に主体的にチャレンジする会社になる必要があるのです。その実現に役立つと考え、選択型研修制度を導入しました。

もちろん、それとは別に、必要な能力・スキルを高めてもらうために選択型研修制度を活用してもらいたい、という気持ちもあります。今後、どのようなキャリアを積みたいのか、どのような存在になりたいのかを考えた上で、自分に足りない能力・スキルを自覚して、選択型研修でそれを身につけるきっかけを得てもらえたら、と考えています。

2018年の導入がことのほか好評だったため、2019年は、マネジャー限定ではなく、全社的に選択型研修制度を展開することにしました。希望する社員全員に「3時間研修コース」のチケットを1枚ずつ配布する制度です。チケットを受け取った社員は、3時間研修コースのなかから、好きなものを選んで受講することができます。ただし、受講希望を申請する際には、必ず上司と話し合うこと、という条件を設けています。これにより、マネジャーと社員の対話を増やし、強めたいスキルやキャリアについて話し合う機会の1つにもしています。

今村は、この制度を利用して、今回「探究型読書術」を受講しました。

「探究型読書術」は周りに話したくなる研修だった

――今村様は、なぜ探究型読書術を選んだのでしょうか? 受講していかがでしたか?

今村:数あるコースのなかからこの研修を選んだのは、一言でいえば、タイトルに惹かれたからです。私はもともと読書が好きで、以前の上司が私たち部下に自分の読んだ本を薦める方だったこともあって、社会人となってからも読書に親しんできました。一方で、自分の読書力に強い課題意識を持っていました。情報やスキルを得る上で、読書が極めて効果的だと考えているからです。今読書力を高められるかどうかが、10年後には大きな違いとなって表れる可能性がある。私は、読書をそれほど重要な行為と捉えています。だからこそ、もっと記憶に残る読み方はないだろうか、本から得た情報をもっと生かせる読み方はないだろうか、とよく考えていました。探究型読書術というタイトルが気になった背景には、そうした日頃の想いがありました。

「探究型読書術」は周りに話したくなる研修だった

受講した感想としては、3時間が短く感じるほど、この研修を集中して楽しむことができました。研修では、チームメンバー全員が用意された本のなかからそれぞれ異なる1冊の本を読むのですが、受講後、自分が研修で使った本をあらためて買って読みました。思わず再読したくなるような研修内容だったのです。

また、私は午前に研修を受講したのですが、その日の午後に早速、部下たちに「こういう研修を受けてきました」と報告し、以前から紹介したいと思っていた本を何冊か薦めました。少なくとも部下の1人は私が薦めた本を読んでくれ、探究型読書術にも興味を示しています。会社負担で選択型研修を受けたのですから、その成果を周囲に還元することは当然だと考えたんです。ただ、それ以上に、そうやって周りに話したくなる研修だったことが大きいと思います。

読書が旅行に似ていると知ってから読書がもっと楽しくなった

――研修で学んだことを、現在どのようにビジネスに生かしていますか?

今村:受講後に、研修で習った探究型読書術を何度も活用しています。面白いことに、探究型読書術を使って読むと、本の内容が以前よりも記憶に残るのです。それだけでなく、本の内容を起点にして自分なりに考えたり、アイディアを生み出したりするようにもなりました。ねらいどおり、自分の読書力を高めることができたわけです。もちろん、まだマスターできたとは思っていませんから、今後も読書しながら、探究型読書術の技術を磨いていくつもりです。

読書が旅行に似ていると知ってから読書がもっと楽しくなった1

橋本:今村さんのおっしゃるとおり、探究型読書をすると、読んだ本に愛着が湧くことがよくあります。愛着が湧いた本の内容は、記憶に強く残り、後々その記憶が新たなアイディアにつながったりもします。古代ギリシャの哲学者・プラトンは、「マテーシス(学習)はアナムネーシス(想起)である」と言いました。本に込められた知を自分の頭のなかに移し、何かの機会にその記憶された情報を想起することが、新たな深い学びとなる可能性があるのですね。探究型読書は、そうした学びを誘発するための手法であり装置なのです。

山下:今村さんの読書は、何がどう変わったのですか?

今村:簡単にいうと、読書を旅行と同じように捉えるようになりました。旅行する前、「どこに行くか?」「何泊するか?」「何を食べるか?」「何をするか?」といった計画を立てますよね。その計画を立てること自体も楽しいですし、その計画に沿って旅行を楽しみ、帰ってきたら旅行の思い出を振り返って楽しみます。探究型読書術の「読前・読中・読後」は、このプロセスに近いのです。読書が旅行に似ていると知ってから、読書がこれまで以上に楽しくなりました。

山下:それは分かりやすい例えですね。旅行に行くと新たな発見がたくさんありますが、同じように、読書することで新たな気づきがあるのですね。

今村:まさにそのとおりです。探究型読書をすると、「著者のその意見には賛成できる/賛成できない」という自分なりの見方や、「著者はなぜこう言っているのだろうか?」といった問いがどんどん出てきます。これが、記憶やアイディアにつながっていくのです

橋本:私が受講者の皆さんと接していてよく感じるのは、「自分は何が好きなのか?」「自分はどういったことに心を動かされるのか?」「自分はこれから何がしたいのか?」といったことが分からなくなっている方が本当に多い、ということです。ところが探究型読書を重ねていくと、自分の好みや感動のポイント、自分のやりたいことがだんだん見えてくるようになる。本が、独自の見方や問いを次々に引き出していくからです。

読書が旅行に似ていると知ってから読書がもっと楽しくなった2

読書は、単に書かれている内容を読むだけのものではありません。構造を読み取り、著者の思考モデルに学び、自分なりの仮説と問いを立て、異なる知やビジネスとのつながりを見つけるプロセスなのですね。探究型読書術は、そのことを肌で実感していただく3時間です。

今村:ノーベル賞を受賞するような科学者の方々は、どなたも自身のテーマを見つけて探求し、成果を出されてきました。探究型読書を続けていけば、そうした発見力や探求力を磨くことができる、と感じています。自分が何に突き動かされるのか、もっともっと掘り下げていきたいと思います。

橋本:ぜひ自分の内面を探究して、今村さんご自身のテーマを引き出していってください。

今村:それから、もう1つ研修で面白かったのが、一人ひとりが異なる本を読んだ後、チームメンバー同士で、ある1つのテーマについて感想を交わし合ったことです。例えば“働き方改革”というテーマについて、本からの学びを生かしながら問題意識や疑問をぶつけると見方や感じ方が一人ひとり違ったのです。本をもとに感想を交わし合うと、人による考え方の違い、つまり多様性を受け入れる訓練になる。今後、部下たちと一度試してみたいと思っています。

橋本:それもおっしゃるとおりで、本を間に挟むと、議論がしやすくなります。本は対話のためのクッションのようなメディアでもあるのですね。

「自ら問いを立て探求力を磨く」「成果を周囲に還元する」 今回のような事例がいくつも出たら制度導入は成功

――最後に、今後の展望を教えてください。

山下:CHROオフィスの視点でいえば、選択型研修制度を1年半ほど行ってみて、例えば「マインドフルネス入門」や「アンガーマネジメント」などのセルフマネジメント系コースの人気が高い、といった全体的な傾向は見えてきました。もう少し続ければ、効果・成果などもはっきりしてくるはずです。

「自ら問いを立て探求力を磨く」「成果を周囲に還元する」 今回のような事例がいくつも出たら制度導入は成功

今回のように、受講後に内容や感想を周囲のメンバーに共有し、仲間たちの受講を促したり、自分の学びを周囲に広めたりしてくれる社員が増えることも望んでいます。それが、先に触れた「挑戦する風土」の醸成につながるからです。また、自分に足りない能力・スキルを獲得するきっかけとして利用する、という意味でも、今村の事例は理想的です。こうした事例がいくつも出てくるようなら、選択型研修制度の導入は成功といえるでしょう。

今村:3時間研修コースというのは、素晴らしい仕組みだと感じています。午前中(9~12時)、午後~夕方(13~16時)、あるいは帰宅前(17~20時)だけで終わるため、1日コースと比べると格段に受講しやすいからです。今後は、デザインシンキングや、日本人らしい知の生み出し方を学ぶことができたらと思っています。

橋本:現代は「答えのない」時代です。問題解決に適したロジカルシンキングだけでは太刀打ちできないほどに変化が激しい時代ともいえます。誰もが、勇気を持って未知に向かうことが求められています。探究型読書術をマスターすれば、本という未知の情報に向かって、自らの頭で考え、判断し、表現することを楽しめるようになる。それが、世界の未知に立ち向かう力にもなるはずです。この3時間で、受講する皆さんに、その一歩を踏み出していただけたらと思います。

企業紹介

FWD富士生命保険株式会社
「人々が抱く“保険”に対する感じ方・考え方を刷新すること」をブランドビジョンとして掲げるFWD富士生命。複雑な保険をシンプルに。退屈な保険を大胆に。いわゆる「漠然と将来の不安に備える保険」とは一線を画した「今を思いっきり生きるためのエネルギーとなる保険」を目指す、チャレンジャーブランドです。パシフィック・センチュリー・グループの保険事業部門として、アジア全域を代表する保険ブランドになることを目標に成長を遂げてきたFWD。どんな時も前向きに挑戦する生き方を讃え、人々が人生を謳歌するための拠りどころになりたいと考えています。

※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

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新たな未来社会(Society 5.0)に求められるビジネスパーソンの学びとは【後編】

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