企業事例
「後継者を選ぶ」から「後継者を支える構造を作る」へ サイバーエージェント
藤田社長の後継者をチームで育てる「社長研修」を実施
- 公開日:2025/02/03
- 更新日:2025/02/03

サイバーエージェントの藤田晋社長は2023年、2026年に社長を退くことを社外に明言した。同時に2022~2024年、藤田社長の後継者候補16名を抜擢し育成する「社長研修」を実施した。どんな研修で、どういった成果があったのか。何がポイントだったのか。CHO曽山哲人氏に伺った。
- 目次
- 4年の年月をかけた後継者育成
- 社長の後継者育成に限っては外部パートナーが必要だった
- 20代・30代を次々に社長にする「抜擢文化」がベースにある
- 後継者を選ぶこと以上に次期経営幹部チーム創りが大事
4年の年月をかけた後継者育成
社外に知らせる1年以上前の2022年の年明け、藤田社長は社内に向けて、社長を交代し会長になる意思を伝えた。「最初に、藤田をはじめ5名の取締役が、経営のサステナビリティという問題を提起しました。藤田・副社長・専務の8名がそれについて役員合宿で合議し、社長交代・後継者選抜・社長研修の一連の流れを意思決定しました。
サイバーエージェントは、『21世紀を代表する会社を創る』というビジョンを掲げています。このビジョンを実現するためには、誰が社長になっても永続的に成長する会社にしなければなりません。万全な準備のもと引き継ぎをするために、4年の年月をかけて後継者育成に取り組むことにしました」と、CHOの曽山哲人氏は話す。
そうして、2022年に16名の後継者候補が選抜され、一連の「社長研修」を受けることになった。「16人の候補者は、社長就任時に40代以下であることを条件に選ばれました。また、自社のカルチャーを伝承できる人材であること、会社を成長させつづけられる人材であることも、選定基準の大きなポイントでした」
社長の後継者育成に限っては外部パートナーが必要だった
社長研修は、主に社内外の3つのプログラムを組み合わせたものだった。実は今回、外部パートナーの力を借りることが重要な意思決定の1つだったという。
「なぜなら、これまで私たちは研修の大半を内製で実施してきたからです。しかし、社長の後継者育成に限っては社内の経験値がゼロでしたから、外部パートナーの力が欠かせませんでした。
私が見る限り、3つの研修のすべてが16人の大きな学びにつながっています。さらに、彼らは後継者候補に選抜されてから、毎年必ず『あした会議』に参加しています。あした会議とは、年に1回、新規事業や課題解決の方法などをチームで提案し、藤田が直接審査する取り組みです。彼らはこうした場を通じて全社視点を磨き、経営課題への理解を継続的に深めています」
20代・30代を次々に社長にする「抜擢文化」がベースにある
このような独自の後継者選抜と社長研修を実施できた背景には、特有の「抜擢文化」がある。
「サイバーエージェントでは、20代・30代を次々に子会社社長に抜擢することが人事の柱になっています。2003年に抜擢人事を始めた頃は批判や嫉妬もありましたが、成功事例が増えるとそうした声は消え、今は当たり前になっています。
もちろん撤退や失敗は山ほどあります。しかし私たちは失敗を前提にしており、むしろ失敗経験を生かして再チャレンジすることを奨励しています。その結果、多くの若手が恐れずに挑戦しつづける文化を醸成できました」
この抜擢文化がベースにあるからこそ、16人もの優れた30代・40代を後継者候補として揃えられたのだ。20代で執行役員に抜擢され、30代前半で後継者候補に選抜された候補者もいた。
「抜擢の際、私が念頭に置いていることの1つが『同年齢大決断』という言葉です。抜擢する人材には、同じ年齢だったときの藤田よりも大きな決断をしてもらいたい、という意味です。例えば、30歳で抜擢した社長には、できれば新しい領域で、藤田が30歳で下した決断よりも大きな決断をしてほしいのです。そうすれば、なかに大化けする人材が出てくるからです」
後継者を選ぶこと以上に次期経営幹部チーム創りが大事
社長研修で最も画期的だったのは、藤田社長が「後継者を選ぶ」から「後継者を支える構造を作る」という発想に変わったことだという。「藤田は最初の頃、自分の後継者を選ぶ視点で社長研修をオブザーブしていました。ところが途中から、藤田は後継者を支えるチームを創る視点をもつようになったのです。社長研修は、こうして藤田がサクセッションの思想を整理できたことにも大きな価値がありました」
この変化のきっかけを作ったのは、社長研修の1つ「自己発見・探索プログラム」だ。これは、まず参加者一人ひとりが、自分史や自らの喜怒哀楽、やりがいの源泉などを探索し、自分が過去に選択を迫られたとき、何をどのように決断したかを思い出す。その上で参加者同士が、お互いの生き様や考え方を見つめ合うプログラムである。
「これによって16人の自己開示と相互理解が一気に加速しました。単なる後継者候補たちから『次期経営幹部チーム』に変わったのです。今では誰が社長になっても、他の15人が力強く支えるような強固な関係性ができ上がっています。
1人を選ぶことだけにこだわれば、社長になれなかった者が次々に離職する可能性もあるでしょう。しかし、今はそのような未来を想像できません。経営のサステナビリティを考えれば、後継者を選ぶこと以上に、経営幹部チームを創ることが大事だったのは明らかです」
また、社長研修の1つ「戦略推進マネジメント・社史プログラム」は、社長の過去の意思決定を追体験するプログラムだ。いくつかのクラスに分かれて話し合いながら、藤田社長のこれまでの「決断経験」の量と質を徹底的に追体験した。「例えば、2004年にアメーバ事業を始める前、ネットバブル崩壊後の最中、私たちは身売りを考えるほどの経営危機にありました。16人には、そうした重大局面で藤田が下した決断を自分にできるのか、自分ならどうするのかを想像してもらい、全員で交わし合ってもらいました。その過程で、全員が『自分はこんな決断をできない』『社長は大変だ』といった言葉を自然と漏らしました。彼らは、社長が普段どれだけ大変な決断をしているのか、どれだけ重い責任を背負っているのかを思い知り、良い意味で自信をなくしたのです。これは社長になる上で必須の体験だったと考えています。また、この経験を経て、16人が会社のストーリーをより深く伝承できるようになったのも、大きな副次的効果です」
誰が次期社長になるかはまだ決まっていない。2026年が今から楽しみである。
【text:米川 青馬 photo:平山 諭】
※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.76 特集2「これからの時代の次世代経営人材育成」より抜粋・一部修正したものである。
本特集の関連記事や、RMS Messageのバックナンバーはこちら。
※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。
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