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インタビュー

昭和大学認定看護師教育センター 三輪建二氏

自己変革的な学びとリフレクション-リフレクションはさせるものではなく思わず自発的にするもの

  • 公開日:2024/10/21
  • 更新日:2024/10/21
自己変革的な学びとリフレクション-リフレクションはさせるものではなく思わず自発的にするもの

学びの鍵の1つが「リフレクション(内省・省察)」だ。どのようなリフレクションが学びにつながるのか。個人のリフレクションをどうやって促せばよいのか。日本における成人教育学の第一人者であり、成人教育や省察的実践に関する多数の書籍翻訳に携わってきた三輪建二氏に伺った。

リフレクション「させる」と学びにつながらない
ABCのリフレクションの際にDEFを「くぐらせる」
社員同士の「語り合いの場」がリフレクションの化学反応を起こす

リフレクション「させる」と学びにつながらない

私は成人学習や省察的実践を長く研究し、看護職・教育職・福祉職などの対人関係専門職の教育にも携わってきました。企業内のリフレクションを専門としているわけではありませんが、企業にも営業をはじめ対人関係が基本となる職種が多くあります。特にマネジャーは対人関係専門職といってもよいくらいです。また、企業で働く以上は、社内の人間関係も無視できないでしょう。私の研究が皆さんの役に立つ可能性は十分にあると思います。

最初に、リフレクションの大原則を1つ紹介します。「学びにつながるリフレクションは、相手にさせるものではなく、相手が思わず自発的にするものだ」という原則です。相手にリフレクションさせようとすると、単なる「反省」になってしまいます。ひどい場合は、「忖度のリフレクション」になってしまうのです。

例えば、上司が部下に「なぜ目標を達成できなかったのか、よく考えなさい」と言えば、査定を気にする部下なら反省か、反省のフリ(忖度のリフレクション)をするはずです。部下がその反省やフリから学ぶことは多くありません。リフレクション「させる」と、学びにつながらないのです。

研修などのフォーマルな学びの場では、参加者が自発的にリフレクションする場を作れないと、反省やフリが起こりがちです。また、リフレクションは職場でのちょっとした出来事から偶発的に生じることも多いのです。OJTや自己啓発など、非公式の学びの機会も有効です。社員のリフレクションを学びにつなげるためには、仕事上の全シーンを機会と考えるとよいでしょう。

また、マネジャーが部下のリフレクションを促したいときは、指導やアドバイスではなく「問いかけ」が効果的です。良い問いかけは、自発的なリフレクションにつながる可能性があります。

ABCのリフレクションの際にDEFを「くぐらせる」

もう1つ、極めて重要なのがリフレクションの「内容」です。結論からいえば、リフレクションの際には、「A:問題解決・課題達成の技能」「B:専門分野の指導・助言の知識/技術」「C:マネジメントの知識・技術」よりも、「D:かかわり合う人びととの対人関係能力」「E:対人関係専門職観の錬磨」「F:対人関係専門職の成長に向けた探究心」を大事にすることが欠かせません(「人の変容を支援する省察の条件とは─人材開発トレーナー養成の現場から」 図表1)。

<図表1>対人関係専門職の資質・能力の層構成 (再掲)

企業の皆さんに合わせて考えてみると、「D:顧客とどのような対人関係を結んでいるのか」「E:どういった価値観で働いているのか、将来どうなりたいのか」「F:なりたい自分に向けて、どのような学びや探究をしているのか」を省察することが、問題解決・課題達成・専門スキル・マネジメントスキル(ABC)の省察よりも大事なのです。

とはいえ、ABCのリフレクションをしないわけにはいきません。そこで私が勧めているのは、「ABCのリフレクションをするときに、ABCの背後にあるDEFをくぐらせる」ことです。

例えば、課題達成について上司・部下が振り返るとき、できた/できなかった要因を考えると同時に、上司が「顧客とどのような関係になれたらよいと思いますか?」「働くときに何を大事にしていますか?」「最近、何か学びを得た経験はありましたか?」などと問いかけるのです。すると、課題達成のリフレクションと同時に、DEFのリフレクションを促すことができます。私はこのような行為を「くぐらせる」と呼んでいます。

ABCのリフレクションだけで済ませると、マニュアル人間ができ上がってしまい、いずれはABCのスキルも落ちてしまうでしょう。暗黙知的な「根底にあるもの(DEF)」をリフレクションすることが、持続的で深い学びにつながるのです。

社員同士の「語り合いの場」がリフレクションの化学反応を起こす

では、3週間にわたって、100名ほどの優秀な社員たちが自らの経験談を話しました。同時に、経験談を語った社員を含めた参加者全員が、ラウンドテーブルで議論し続けたのです。ここまで大規模である必要はありませんが、社員同士が経験談を語り合う場を設けると、リフレクションの化学反応が起きる可能性があります。経験談を語り合うのが難しいときは、ケーススタディを用意するとよいでしょう。話しているうちに自分たちの経験を語り合うようになります。

また、私がよく開催してきたのは「異業種の語り合いの場」です。看護師、ケアマネジャー、幼稚園の先生、大学教員などが一堂に会して、あるテーマのもとで語り合うのです。こうした場では、同業種内で通じる専門用語があまり通じません。例えば、医療現場では「インシデント(重大な医療事故や医療過誤にまではつながらなかったミス)」という用語がよく使われますが、この場では皆に分かりやすく説明しなくてはなりません。そうやって言葉を吟味すること自体が、リフレクションにつながるのです。会社の場合は、さまざまな部署の人たちを集めて、話し合ってもらうとよいでしょう。この種の場は社内の一体感の醸成にもつながるはずです。

最後に、「省察サイクルをらせん的に展開する」ことの大切さに触れます。DEFの省察は決して簡単ではなく、すぐに効果が出るようなものではありません。大事な気づきや学びを得るまでに、ある程度の時間がかかるのが普通です。また、大きな気づきや学びを1つ得ると、自然と次の課題が見えてきて、新たな省察が必要になるものです。私たちはそうやって省察と気づき・学びを繰り返し、学びのレベルをらせん的に高めていく必要があるのです。会社は、そのための場やプロセスを全体的に設計する力が問われていると思います。

【text:米川 青馬 photo:柳川 栄子】

※本稿は、弊社機関誌 RMS Message vol.75 特集2「人の変容を支援する省察の条件とは」より抜粋・一部修正したものです。
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※記事の内容および所属等は取材時点のものとなります。

PROFILE
三輪 建二(みわ けんじ)氏
昭和大学認定看護師教育センター 客員教授

1990年東京大学大学院教育学研究科博士課程修了。お茶の水女子大学教授、星槎大学大学院教授などを経て、2024年7月より現職。専門は成人教育論、省察的学習論。『わかりやすい省察的実践』(単著・医学書院)などの著書がある。

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